第995話 【五の付く親族は嫌いだな・その3】秘奥義! 親父召喚の術!! ~毒を以て毒を制すは戦いの基本だと思い出した逆神六駆~

 六駆くんが「ちょっと皆さんで30秒くらいお願いしまーす」と言い残して五十鈴ランドに門を生やす。


「こいつに関しちゃ頭おかしいかどうかの議論は済んでんだよなぁ……。敵を目の前にして据え置き型の転移スキル出すとかよぉ……。福田さんよぉ。あと雨宮のおっさん。俺ぁ知らねぇからなぁ?」


 あっくんが代弁してくれました。


 『ゲート』は術者の承認制でもなければ認証システムが搭載されている訳でもなく、そこに発現されたら誰でも通って転移する事が可能。

 隙を突いて潜り込まれたらば五十鈴に逃走を許すばかりか、現世に超危険人物、川にブラックバスを放流するようなはっちゃけプレイ。


 責任者の首がいくつあったら足りるかは被害のみぞ知る。


「あらららー」

「雨宮順平上級監察官」


「ほらぁー。もう、福田くんってばすぐそうやって私を査問しようとするんだからー。よいしょー。『弾力感のある弾力のある壁プルプルプリンウォール』!!」

「あ!! 私もお供します!! 『桃色の弾力感のある桃プルプルピーチ』!!」


 五十鈴がなんかプルプルしたものに囲まれた。


「鬱陶しい!! てっぺん空いてるっちゅーの!! 『成田離婚スピードジャンプ』!!」


 四方を囲まれたら上へ飛び出せばいい。

 先ほどエヴァちゃんのパンチで天井が吹っ飛び、大変見晴らしが良くなっている。


「……ふっ。……ようやっと近うで顔見れたねぇ。……あんたぁ。……化粧で誤魔化しちょるけど。……ブスじゃねぇ」

「ば……っ! ババアぁぁぁぁ!!」


「……『死神極無視オムカエキテモ帰宅世夜シカトスルー』!!」

「あ゛あ゛あ゛!! 痛いぃぃぃ!! ……はぁぁ!? ウチのこんだけ強化してる身体を普通に斬って来たんですけどぉ!?」


「……すぐに傷がふさがるんかいね。……あんたもそりゃあ大概よ。……なんちゅうたかいね、名前は。……ブス美?」

「逆神五十鈴だっつってんだろうがぁぁぁ!! ブスと美しいを同居させんなぁぁ!!」


 独立国家・呉では死に瀕した際に死神が降臨するとされている。

 古来よりその鎌を喉笛に突き付けられたらばもはや冥府へ向かうのみと決まっているが、呉では鎌を突き付け返すことで「帰りぃさん」と追い払う事ができる。


 これができるようになるとお嬢様ばあちゃんを卒業。

 熟ばあちゃんへとクラスチェンジできる。


 死神にお帰り願う、よし恵さんの極大スキルである。

 過去に斬った死神の数は30まで数えていたものの、その先は面倒になったとの事。


 続けて「……全部あたしのとこに来た子じゃないけどねぇ。……近所の子のとこに来たのも斬りよったら、最近はあんまり来んようになったねぇ」と不器用な笑顔を見せる。


 死神が避けて通るようになった独立国家。

 ばあちゃんたちはみんな元気です。

 じいちゃんたちもばあちゃんたちの庇護下にあるのでみんな元気です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな楽園、あるいは地獄。


「えー? お前、逆神って言うん? そうなん!? 偶然だなぁ! オレも逆神!! 同姓のヤツ見たの初めてかもしれん!! で? 何してそんなボロボロになったん? 助けてやったんだから何かくれるよな? お金が良いな!!」


 逆神大吾が元気に活動中。

 向かい合うのは作中時間だと2時間くらい前。


 観測者時間だと3ヵ月前くらいにやられた男。


「ははっ。ウケる。こいつぜってぇあのクソガキの親父だろ。……ウケる」


 逆神孫六である。


 さすが皇族逆神家。

 おまけに第三世代。つまり六駆くん世代。


 逆神六駆と相対して数時間で思考力を取り戻し、ちゃんと五感が戻っているのは驚異的な回復力と言って問題ないだろう。


「なあなあ! もしかしてお前、オレの親戚じゃね!? なんつってー!! んな事ぁないってなぁ! ここにワンカップ大関あんだけど! 飲む!?」

「……ははっ。ウケる」


 孫六は「もう本当に現世の逆神と関わりたくないのに、まだ満足に動けません。煌気オーラも上手く練れません。この汚いブルドッグはどこかに行ってくれないのですか」と自身へ手向ける哀悼の意を短い「ウケる」で嘆いていた。

 そこに現れた新しい門。



「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「……ウケるオワタ


 孫六はついさっきボコられた相手の煌気オーラを感知できないほど捨て鉢にはなっておらず、大吾もさすがにちょっとは学習するらしくこの門が生えてきたら自分がどうされるのか理解していた。

 ゆえに同時の絶望。



「よっと! あー。いたいた。親父。ちょっと来て」

「助けてぇぇぇぇ! 助けてくださぁぁぁぁぁい!! 人殺しですぅぅぅぅぅ!! ここに人殺しがいますぅぅぅぅぅぅ!!」


「うるさいな……。でもなぁ。殴っても僕の手が汚れるだけなんだよねー。……あれ?」

「……ウケる助けて


 六を持つ逆神家が再び出会った。


「あなた。生きてたんですか! 僕ね、結構ガチで殺すつもりだったのに!! いやー! さすが! 僕の親戚だなぁ!! まああれだけ痛めつけましたしね! もう追加でボコる予定はないので! でも、このまま放置しとくのもまずいのかな? ……どうしようかな。もう私怨はないけど。んー。時間もないしなー。申し訳ないけど、もう1度」

「……おらぁ! 『暴利貸付眼帯ムカシノ・タモサン』!!」


 孫六は六駆くんの煌気オーラコントロールを一時的に不全に陥れた煌気オーラ封印と吸収、そして霧散を兼ねる構築スキルを全力で発現。

 それをまだおぼつかない右腕で思い切り投げつけた。



 自分の胸に。



「……ウケる。あー。えーっとぉ。ろ、六駆サン? あのぉ。奥さんの事を俺、なんか色々言ったんですけどぉ。アレはなんつーか。可愛い嫁さんいて? 羨ましい的なウケるだったんで。あー。今、自分に煌気オーラの封印施したんでぇ。そのォ。……ウケる」


 敬語を覚えた孫六。

 使い慣れていないので上手く言えないところはあるが、それはこちらで補完しよう。


「その節は大変なご無礼、無作法を働きました事。ここにお詫びいたします。もうわたくしには抵抗する気力も体力も煌気オーラも気概もございません。その証拠に自分の煌気オーラを封じました。今後はもう、心を入れ替えて目上の人を敬って生きて参ります。うちのじじいが勝手に始めた戦争でご迷惑をおかけしますが、どうかご了承くださいますと幸いです。それと、わたくしもよく考えたらロリ、好きでした。良いですよね。合法ロリの奥様。ウケます」


 このように申しています。


「よく分からないですけど! 敬語使おうとしてるのは分かりました! 偉いじゃないですか! あとね、敬語って便利ですよ? これに慣れちゃったら相手に対していちいち言葉遣い変えなくて済むんで! えーと。名前、名前……。あれ? 僕、あなたの名前聞きましたっけ?」

「ウケ太郎っす」


「そうでしたっけ? まあね、ここ、ばあちゃんたちいますし! 悪い事したら殺されるので! 悪い事する時はこっそりやるんですよ!! じゃ! また!!」


 そう言うと「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」と叫ぶ大吾を引きずって六駆くんが門の中へと消えていった。


 孫六は「……ウケる」とだけ呟いた。

 彼が憂う事はもう1つだけ。


「ムシキン。生きてんのかな」


 まだ生きてます。

 多分。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 五十鈴ランドでは全方位から猛者たちのガチスキルを浴びせられる逆神五十鈴が結構な勢いでイライラしていた。


 普通に戦えばよし恵さんと雨宮さんには勝てないであろう五十鈴。

 だが、雨宮おじさんの煌気オーラをチュッチュした結果、現在は防御力に大変なバフがかかっており、「イクならここしかない」という絶好機にも関わらず身動きが取れない。


「五十鈴様。もうおヤメください。私が取りなしましょう」

「はぁぁぁぁぁ!? トラボルタぁぁ!! あんたぁ! 完全に捕虜でしょうがぁ!! なんか取引して今の身柄の安全確保してるっぽいあんたにぃ!! ウチの身柄までどうこうできるとか言うってんならぁ! マンモスワケわかめなんだけどぉぉ!!」



「おや。意外と聡明ですね。逆神五十鈴氏は」

「ええ。ああ見えて知性と武勇の双方でバルリテロリに名を轟かせておいでです」

「……福田さんよぉ。男前と喋んじゃねぇ。どっちがどっちか分かんねぇだろぃ」


 あっくん、未だツッコミの呪縛からは解き放たれず。



 そこに戻って来た六駆くん。

 携えているものを見て、分かってはいたはずなのにあっくんは全身から力が抜けていく感覚に襲われたという。


「あんあんあああんあんあんあっくぅぅぅぅぅぅん!! たーすーけーてぇぇぇぇぇ!! うちの息子がDVDキメてくんのよぉぉぉぉ!! 今ってこういうのさぁ! 法で裁かれるんでしょう!? 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「……ちっ。俺ぁもう飛び降りて良いかぁ? あのクソ親父がよぉ。俺だけ見つめて喋って来んだよなぁ。てめぇの息子に交渉しろぃ」


「無理ぃぃぃ!! だってぇ! オレ、六駆の事トラックで6回撥ねてんだもん!! つーか、2回轢き損なってるから合計8回!! そんなのさぁ!! 法で裁かれるのオレじゃんねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「くははっ。もうとっととそこの女にしがみついて自爆しろぃ」


 六駆くんが「そうですね!!」と笑顔を見せて、そのまま大吾を掴んだ右手をおおきく振りかぶる。


「喰らえ! 必殺!! 『お年始お排泄物ツマラナイモノデスガ』!!」


 そして放たれた、何回も見たような気がする自分の親父を投げつけるだけの暴力。



「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 嫌ぁァァァァァァァァァ!!」

「うるせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 かつてないほどの相性の良さを感じさせるファーストコンタクトであった。



 あっくんが呟く。


「……よぉ。男前」

「はい。なんでしょうか」


「おめぇんとこのよぉ。肩パッドすげぇヤツいたろぃ? あいつ持って来て投げりゃ良かったんじゃねぇかぁ?」

「さすがはあっくん様。ご慧眼です。しかしカタパッドくん程度ですと一瞬で塵にされてしまいます」


 絶叫しながら普通に人っぽい形を保っている大吾を見て、あっくんは「あぁ。そうかよ」とだけ答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る