第989話 【毎度おなじみ逆神六駆が参りました・その3】「ここは僕に任せて!! 豆大福の用意を!! 10分以内に!!」 ~「朝から仕事していて甘い物が止まらなかった」と供述する逆神六駆~

 南野トラボルタが地上から逆神六駆を目視で確認。

 手加減した『大竜砲ドラグーン』を見て、すぐに気付いた。


「これはこれは。逆神流……現世の本流ですね。察するに、陛下の血族とお見受けしました。……実に面倒な事になりましたね」


 トラボルタの理解力、戦局を俯瞰する能力が優れている事はもちろん、彼は勤勉だった。

 バルリテロリには皇立図書館があり、そこには喜三太陛下が筆を持ちお書きあそばされた自叙伝が全45巻ほど収められている。


 その中の17巻から19巻の前半までが「ワシはどうしてこうなった。現世に残っとる子孫が助けに来ない」という内容になっており、主に四郎じいちゃんと大吾の存在を気取っているにもかかわらずこっちは気付いてもらえない哀しみと怒りを書き散らかされておられる。


 ドラゴンボールは全42巻。

 17巻といえばサイヤ人編が始まってラディッツが地球にきた時分。

 19巻の前半ではピッコロさんがお亡くなりになっている。


 なんという内容の密度だろう。


 喜三太陛下の自叙伝は「ちくしょう。今日も行きずりの女抱いたわ。こっちからぜってぇ気付かせてやる。とりあえず行きずりの女抱くわ」とただれた生活に恨みつらみ八つ当たりが散りばめられており、きたねぇ星々のようにニチャアと輝いては読む気を霧散させ、頑張ってページを捲ると同じ攻撃を仕掛けてくる。


 皇宮秘書官と八鬼衆は読了義務が課せられているので、貸出カードに名前は記載されている。

 恐らくちゃんと読んでいるのはオタマとテレホマンと、後はムリポとキシリトールくらいのものかと思われ、それ以外の者に貸し出しが禁止されているという事もなく、何なら借りると好きな駄菓子3つと交換できるオマケまで用意されているくらいには推奨されていたが、貸出カードの名前は特に増える気配がない。


 それを全巻読んだ男。

 南野トラボルタ。


 彼はバルリテロリにおける南野家の存続と地位向上を願っており、そのための研鑽は欠かさない。

 スキル使いとしては元より、知る事を力と為せる不断の努力ができる男。


 下手をするとテレホマンよりも喜三太陛下の歴史には詳しい。


「しかし、陛下のお書きになられた伝記とはいささか乖離がありますね。……情報の200倍は現世の本家はお強いようだ」


 誰しも自分の事はよく見せたい。



 ちょっとカルピスの味がしなくなるまで水をぶっこんだだけ。



「これまでの戦局と私の知り得る情報を全て加味すると。……あれがひ孫様ですか。これは勝てませんね。どう見積もっても」

「えっ!?」


 トラボルタの白旗にも見える発言を聞いて、死んでいたカタパッドが生き返る。


「カタパッドくん」

「は、はい」


「私は勝てないと言いましたが、負けるつもりは毛頭ございません」

「えっ!?」


「カタパッドくん」

「は、はい」



「その、えっ!? というのはヤメて頂けますか。思考が乱れます」

「えっ!?」


 カタパッドに流れる逆神家の血がそうさせるのである。

 六駆くんが「えっ!?」とリアクションを取った回数はもはや計測不能の領域。



 トラボルタがクソデカいため息をついてから、煌気オーラを少しずつ蓄え始めた。

 上空にはジュリアナとDCが既に六駆くんに向けて牙を剥いている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆は最近少しだけ女性に甘い。

 莉子ちゃんの存在がそうさせるのか、拳を振るう際に仲間たちの顔が脳裏をかすめるのか、理由は判然としないがわずかに手加減する傾向にある。


「……2億! ……8千万!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 だが、今はこの先得られるお金を数えると心が修羅に戻れる。

 残虐で冷酷で生物を特に尊びもしなかった周回者リピーター時代の5か6周目の時分の自分に立ち戻れるのだ。


 そしてちょっとずつ期待収支が増えている。


「なんだい! 誰が来たのかと思えばまだまだ小僧じゃないか!! ……ただ、ちょっと心惹かれる感じはあるね! どうだい、坊や! あたしとワンナイトラブをキメないかい? チョベリグな夢見せてやるよ!!」

「えっ!?」


 六駆くんがジュリアナの前に降りて来て、笑顔を見せた。

 続けて放つ。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『こっそり男女平等豪拳ヨメノイヌマニごうけん二重ダブル』!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 邪魔だてする者は切り捨て御免。

 幕末の京都を駆けた人斬りかな。



 ジュリアナがきりもみ回転しながら地上へ落下。

 DCは慌てて距離を取った。


「あぁ? おめぇ、なーにそんなテンション上がってんだぁ? 俺と初めてやり合った時か、それ以上のキマり方してんじゃね……あぁー。全部分かったぜぇ」

「兄上!?」


「こいつぁ……金キメてやがるなぁ……」

「……確かにそうかもしれん!! 父上から何度も聞かされた事がある! 金銭授受の約束を交わした逆神六駆には近づくなと!!」


 界王様にとってのフリーザ様みたいな警告をされていた六駆くん。

 さすが久坂剣友。


 息子との危機意識の共有にも余念はない。


「あれ!? 小鳩さんがものすごく弱ってる!! というか、皆さん弱ってますね!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『光臨大気功嵐風テオ・メディゼフィロス』!!」

「なるほどなぁ。こいつぁキマってやがらぁ。俺たちを無料で治療してやがるぜぇ。おら、小鳩ぉ。しっかりしろぃ。……こいつ。薄目で見てやがる。逆神んとことは関係断たせるかぁ。こいつと莉子からは良くねぇ知恵ばっかり拾って来やがるぜぇ」


 小鳩さんは「あ。六駆さんが来ましたわ。だったらもうこれ、あっくんさんの胸に飛び込むかお姫様抱っこかの二択ですわよ。あ。お姫様抱っこキマシタワー」と戦闘完了の意を心の中で表明し、行動でも示していた。


 六駆くんの回復スキルは風属性に依存する傾向がある。

 以前は自分の煌気オーラを吸い上げて乙女の太ももにぶっ刺していたが、面倒になって広域展開でまとめて回復させるようになった。


 風属性。


 ここにトラボルタが気付いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 地上で煌気オーラ力場を展開しようとしていたタイミングで六駆くんが風スキルを発現。

 それを見た瞬間、涼しい顔をしていたトラボルタが一瞬だけ気色ばむ。


「そうですか。風はまだ私たちの背中から吹いていましたか」

「あだだだだ……。なんつー事すんだよ、あの野郎!! 普通女子をげんこつで殴る!? チョベリバ超えてんだけど!!」


 六駆くんの『二重ダブル』スキルで殴られてまだ「痛い」で済むジュリアナ。

 この次元に来るとみんな頑丈にできている。


「ジュリアナさん。方針を変更します」

「トラ兄が言う事に間違いねえからさ! あたしは指示に従うだけ!!」


「ここに五十鈴様がおられたら勝ち筋もあったのですが。あの方はどこで何をしておられるのか」


 五十鈴ランドで雨宮さんとエヴァちゃんカプセルに閉じ込めてご満悦です。


 トラボルタがやや乱暴に地面を蹴った。

 カタパッドが「やっべ。お怒りだわ。死んだふりしとこ」と決意を固める。


「カタパッドくん」

「………………」


「カタパッドくん」

「………………」


「そうですか。力尽きてしまわれましたか。残念です。では、皇国のために亡骸を利用させて頂きましょう」

「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 生きてまぁす!! ちょっとぉ! 考え事しててぇ!! お返事遅れただけでぇす!!」


 カタパッドの言い訳を聞きながら、その身体を風の籠に乗せて浮き上がらせるトラボルタ。

 ビュンビュン音を立てながらカタパッドの載っている籠が黒く染まっていく。


「トラボルタさぁん!? 乗るが載るになってんすけどぉ!?」

「何を申されているのか少し意味が分かりませんが。乗るは人、載るは物に使われる事が一般的ですね。カタパッドくん。点呼の際にはすぐ返事をしなければ。来世の教訓になさってください」


 溜めていた煌気オーラを放出せずに、ただカタパッドの載った籠を上空へと打ち上げたトラボルタ。

 続けてやっとスキルを発現した。


「はぁ! 即興スキルですので名称が適当です。……『神風特攻隊カタパッド』!!」

「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんん!!」


 南野カタパッド。

 どこか馴染みのある、お排泄物みのある男だった。


 真なるお排泄物ならばこの程度では死なないので、彼の真価が問われる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ゛!! まずい!!」

「……ちっ。五十五! 小鳩を持ってろ!!」


 コウノトリの運ぶ籠の中には穢れなき赤ちゃんが眠るとされる。

 こちら、バルリテロリ産のお排泄物がほどほどな速度で飛んで来る。


 超高速であれば即座に反応できたのだが、警戒と無警戒のちょうど狭間の隙を突く絶妙な緩さで六駆くんの対処がほんの少しだけ遅れた。


 風スキルは煌気オーラの放出を続けるものと遠隔発現できるものの2種類に分けられ、六駆くんは後者を好む。

 『大気功風メディゼフィロス』シリーズも1度彼の手から離れると煌気オーラが循環し続けて風による治癒が継続的に発現される。


 その風が汚染されるとどうなるか。


 他人の車に乗った際エアコンがくせぇ時、それを止めずにいると大半は酔う。

 汚染された風スキルは内部にいる者を治癒することなく、蝕む。


「うわぁ! 知能犯がいる!! これもう僕が引き取るしかないじゃないですか!! 良いですよ! 普段はこれで弱体化されますけどね!! 今の僕には時間がないので!! ハンデ戦でお相手しましょう!! 『吸収スポイル』!!」


 遠隔発現している『光臨大気功嵐風テオ・メディゼフィロス』を回収した六駆くん。

 ひどく顔をしかめる。


 まさか、やったのか。


「おい、逆神ぃ」

「あっくんさん。豆大福を用意してください。10分以内に! 僕、この後で異空間に戻らなきゃいけないので! 豆大福がないとですね! 莉子にバラバラにされるんですよ!! なんで気付かなかったんだ!!」


 デバフ喰らった事よりも豆大福食らった事による深刻な問題を見つけてしまった六駆くん。

 あっくんがサーベイランスを呼んで危急を告げた。

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