第990話 【毎度おなじみ逆神六駆が参りました・その4】南野家VS欲に目がくらんで油断と慢心を携えた最強の男 ~対戦カード表示の反転が発生しました~

 六駆くんにカタパッドが着弾。

 正確には汚染されたカタパッドが特攻隊として遠隔発現されている空間範囲の回復スキルに頭からぶっこんだ結果、要救助者の久坂家3名を取るか自分のコンディションを取るかの決断に迫られ、当然彼は前者を選んだ。


「こちら阿久津ぅ!! 山根さんよぉ! 見えてっかぁ!?」


 サーベイランスが爆風によろけながらも飛んで来る。


『見えてないっす! 煌気オーラのジャミングがかかってて!』

「ちっ。これもあの男前の仕業ってかぁ? 涼しい顔してやる事ぁえげつねぇなぁ! 良いかぁ、端的に要求を伝えるぜぇ! これだけやってくりゃ勝てるってヤツがあるんだよなぁ!」


『そうなんすか!? まったく状況が分かんないもんで、こちらも確実に遂行できると言いきれないのが申し訳ないんすけど! ひとまずご要望は!?』


 あっくんが叫んだ。



「豆大福を用意しろぃ!! 上等のヤツだ! 話の流れは分からねぇけどよぉ! どうも莉子が食う予定のもんを逆神が食っちまってんだよなぁ!! 今、あの爆弾娘がどうなってんのか知らねぇが……。豆大福持って帰るって約束してんならよぉ? 最悪」

『あ。了解っす。爆発するっすね。春香さん、豆大福の注文お願いするっす。いや、ふざけてないんすよ!? 下手すると南雲さんたちが死ぬんすよ!!』


 まったく状況が分からないのに全部分かってしまった山根くん。



 すぐに「サーベイランスをおつかいモードで南雲さんの贔屓にしている和菓子屋さんに向かわせたっす! 久坂さんのご贔屓は距離的に無理っす!! 作戦完了まで11分と34秒! どっすか!?」と応答。

 あっくんが「あぁ。助かるぜぇ。1分と34秒は俺がどうにかもたせて見せらぁ……!!」と歯を食いしばった。


 彼らは豆大福の話をしています。


「逆神ぃ! 豆大福はあと11分とそこらで届くぜぇ!!」

「分かりました! じゃあ、こっちを5分で片付けて、空に浮いてる島を3分で片付けて!! 2分で豆大福を受け取りに行きます!!」


 雨宮チームの救出に割かれる時間が豆大福回収と大差ない件。


 六駆くんは汚染された煌気オーラを体内に引っ込めたので煌気オーラコントロールと練度に支障をきたしている。

 が、今の彼はただでさえ強いのに仕上がっている。


「……3億!! 3億ぅぅ!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 不完全な煌気オーラ爆発バーストだったが、一線級のスキル使いならこの圧に当てられただけで戦意喪失するレベルだとあっくんは悟った。


「五十五ぉ!!」

「確かにそうかもしれん!! 姉上を連れて下へ降りさせて頂く!! 姉上!」


「おうふですわ……!! 弟に大事にされてるお姉ちゃん、はわわわわですわよ! あっくんさん! 嫉妬しないでくださいまし!! お尻を支えて頂いていますけれど、鎧越しなのでノーカンですわ!!」


 はわわわな小鳩さんだったが、去り際に六駆くんが不吉な言葉を贈った。



「あ! 小鳩さん! 後で回復させるんで、僕と一緒に異空間に飛んでもらえます? 莉子が話し相手いないとご飯食べちゃうんで! クララ先輩は珍しく戦う準備するにゃー!! って張り切ってますし、瑠香にゃんが塚地小鳩救世主メシアマスターを召喚する事を提案します。って言ってくれて!!」

「え゛っ」


 猫たちに裏切られていた小鳩お姉さん。

 バルリテロリに出征させられるらしい。



 瞳がちょっとだけくすんだ小鳩さんが「そんなのってないですわよ……」と呟いてから、五十五くんに慰められつつ降下していった。


「あっくんさんはここにいるんですか?」

「あぁ。俺も煌気オーラなんか残っちゃいねぇがよぉ。まぁ……。おめぇだけ残して避難したらなぁ? さすがに南雲さんがストレスで死ぬんじゃねぇかと思ってよぉ。責任をスプーン一杯くれぇは掬っといてやらぁ」


「うわぁ! やっぱり優しいなぁ、あっくんさん! すみません! 今借りてる漫画版の氷菓なんですけど! トリックが理解できなくて表紙の裏にメモ書きしちゃいました!! あ、それからですね! 責任って丼サイズだったらどうします!? スプーン一杯で変わりますかね? うふふふふふふふ!!」


 あっくんはかつてルベルバックで六駆くんと対峙した時の事を思い出していた。

 「あぁ。こいつ、南雲さんに悪魔って呼ばれてやがったなぁ」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 標的を見上げるトラボルタ。

 隣では不安に駆られながらも気丈に付き従うジュリアナ。


「ジュリアナさん。貴女はまだお若い。大学を出てから軍属に就かれる予定もないでしょう。無理に私に付き合う必要はありませんよ」

「チョベリバなんすけど、トラ兄。あたしぃ、ディスコもナンパ待ちも好きだけどさ! 家族との予定をぶっちしたことだけはないから!!」


 トラボルタが控えめに笑ってから「そうでしたね」と答えた。


「では。私が突破口を開きましょう。一族の追い風となるのが私の本懐。上空にいるDCさんも理解しているのでしょう。あの位置であれば拾えます」


 再度煌気オーラ力場の構築に移ったトラボルタ。

 彼の欠点は煌気オーラ総量が少ないためスキル発現までのタイムラグが長い点。


 長いと言っても1秒に満たないほどだが、猛者の戦いではそのわずかな時間の積み重ねが勝敗を決定する。

 それを理解しているからこそ、トラボルタは風スキルを極めた。


 単騎でも戦えるが、支援や防御もこなせる風スキル。

 家族を守るために。



「うふふふふふふふふふふふふ!! そこのイケメンさん!! 見たところ煌気オーラが少ない様子ですね!! 元から少ないのか減ったのか分かりませんけど!! うふふふふふふふふふふふふ!! 僕、これから極大スキル撃っちゃいますけど!! 降伏するなら今ですよ!! まあね! 時間ないのでやっぱり極大スキルは撃ちますけど!! 運が良かったら大怪我で済みますし!! うふふふふふふふふふふふふふふ!!」


 お伝えします。

 逆神六駆はこの物語の主人公です。



「……見誤りましたね。カタパッドくんの穢れた煌気オーラを取り込んでなお、あの出力とは。さすが逆神家。皇帝陛下の血筋を受け継ぐ者。まるで堪えていませんか」

「なに弱気になってんだよ、トラ兄!! 五十鈴様が戻って来てくれるって!! だから時間稼ぎでもなんでも、できる事やろう!! チョベリグだって!! ピンチこそチョベリグ!!」


 五十鈴様は自分の拠点ではっちゃけています。


「それは望み薄と……いえ、無粋な事を申し上げるところでした。参りましょうか。一陣の風が如く」


 トラボルタが極大スキルの用意を整えた。

 当初の予定とは違う、特攻仕様のものを。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うふふふふふふふふふふふふふ!! バルリテロリさんは太陽を兵器にしてるみたいですけどね!! 僕も太陽使ったスキルがあるんですよねー!! あのですね、あっくんさん! ピースさんと戦ってる時に『ゲート』封じられた事がありましてね! それを力任せにこじ開けたのがなんか太陽の名前のついた異世界の古龍のブレスで!!」

「……おい。男前が特攻キメようとしてんだけどよぉ。もうこれ、完全に野郎どもの目標がおめぇの無力化に変わってんぞぉ。逆神ぃ」


 お喋りしながら太陽球を左手にポポポポとちょっと可愛い音を立てながら構築中の六駆くん。

 産み出されるのは全然可愛くない凶悪な代物。


 本気で撃てば本部が跡形もなく消え去り、向こう数十年は草も生えない焦土と化すだろう。


「さて! できた、できた!! これをですね、『大竜砲ドラグーン』の構成術式で撃ち込むから意外と手間がかかるんですけど! 相手がこんな感じの突破力のないスキル使いだと余裕があって困っちゃうんですよねー!! もう1個作ろうかしら!!」


 油断と慢心とお腹いっぱいが3つ揃っていた六駆くん。

 そこに「お金がもらえる!!」という浮足立った感情がトッピングされると、過去にないほど容赦ない強さで同じ規模の隙だらけな男が爆誕する。


「……『一塁取れない牽制球クイックパワースロー』!!!」

「あ゛っ」


 完全に眼中に入っていなかった南野DC。

 彼女は恐怖に耐えながらも上空に留まり続け、何か役に立てないかと考えていた。


 トラボルタが明らかに命を燃やして仕掛けようとしている。

 外様で養子の自分が恩を返す時は今。


 針の穴を通すように奇跡と奇跡が重なった結果、六駆くんがよそ向いて、世に背いて、外道しながらてめぇのスキル自慢するというおっさんムーブをかましているタイミングが「おっす! オラ、慢心!!」とDCの前に現れた。

 急にボールが来ても慌てずキャッチしてぶん投げられるか否か。


 急にボールが来る機会などそうはないが、手元にボールがあって敵にぶつけられる好機はもっとない。

 DCはそれを活かす。


 太陽球がすっ飛んで轟音と共に爆発した。


「逆神よぉ」

「……僕が悪いんですかね? いやー。僕じゃないな、多分。今のって敵さんのすごいスキルじゃないですか!? 太陽武器にしてる国ですもん!! うわぁ! すっごい!! 近くの建物が崩壊しましたよ! あれって何ですっけ?」



「南雲さんが造ってた来年度から使う新人探索員の養成施設だろぃ。おめぇんとこの上官の仕事くらい知っとけぃ」

「へー。そうなんですか。すごいですね!!」


 六駆くんの太陽で被害が拡大した。

 なお、サーベイランスは見ている旨を先にお伝えしておく。



 そのサーベイランスが告げた。


『逆神くん! まずいっす!! 壊れた施設の修復費用を算出してみたんすけど! 4億かかるっすね!!』

「そうなんですか!! 大変ですね!!」


『あの、言いにくいんすけど。逆神くんって特務探索員なんすよ。だから、南雲さんが負債抱えて失脚したらっすね。所属がなくなるんで……その。……探索員じゃなくなるってことなんすよ。端的に言うと……報酬が全部パーになるっす。いや、賠償請求されるかもっす』


 六駆くんが吠えた。



「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! これがあなたたちのやり方ですかぁ! バルリテロリぃぃぃぃ!!」

「いや、おめぇのやり方だろぃ。俺ぁよくこんなもんと戦ってよぉ。くははっとか笑ってたもんだぜぇ。笑えねぇ……」



 油断も慢心もとうに過ぎ去った。

 後ろを振り返るくらいならば前を向く男、逆神六駆。


 全て過去にし、全てをバルリテロリのせいにするため、彼は全てを賭ける。

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