第988話 【毎度おなじみ逆神六駆が参りました・その2】お金は本部北側と本部上空 ~どっちを急いでゲットするか豆大福食べながら考える逆神六駆~

 豆大福をモグモグしながら山根くんによる「こんなにヤバいぞ! 日本本部!!」のレクチャーを受けている六駆くん。


 目下のところ急ぎ来援を乞うているのは雨宮さんがカプセルにインしている五十鈴ランド。

 煌気オーラを再生させている状況で五十鈴にそれをチューチュー吸われているので、放置時間が長くなればなるほどバブルが大きく膨れ上がる。


 ついでにエヴァンジェリン姫がほとんど人質みたいになっているため、よし恵さんと福田さんをもってしても軽々に動けないという、どうしてこんな事になったのか分からないが、元をただせば雨宮さんが亡命しようとして敵の拠点の鹵獲を提案したせいであるような気もしている。


 ただ、地上も無視できない。


 久坂家が頑張って防衛中の南野家。

 驚くことに被害は南野カタパッドが定期的に死んでいる以外は実質ゼロ。


 こちらは地上が戦場のため援軍が期待できる。

 反面、同じく場所が地上、つまり1号館と地続きなので久坂家がやられてなおかつ援軍もやられる、あるいはそもそも援軍が間に合わない場合は本部が占拠される可能性が高い。


 オペレーター室を制圧された際の被害は甚大。

 本部の騒動を鎮圧できれば、これからバルリテロリの本国にぶっこむ哀しみナグモ隊の情報支援も可能になるので「喜三太陛下をぬっ殺すか無力化する」という条件を満たせば停戦が成されそうな現状、敵国侵攻のバックアップは万全にしておきたい。


 忘れられがちだが南極海のストウェアもバルリテロリに接収されると移動型の自給自足可能な要塞拠点を奪取されてしまうため、本部を真っ先に片付ける事ができれば既に起きている危機とこれから表面化されるであろう危機の両方に対する大きな抑止力として本部の戦力を動かせる。


『そんな訳なんすよ。逆神くんとしてはどっちから先に手を付けるべきだと思うっすか?』

「あの、良いですか?」


 深刻な顔で最強の男が挙手した。

 続けて彼は胸を押さえて言った。


「3つ目の豆大福まで一気にキメたらですね。喉が渇いて……。というか、喉に詰まりそうなんです。僕、もうダメかもしれません」


 現在、1分が各地の戦局を大きく変貌させてしまうほどの差し迫った状況下。

 山根くんに『後ろの引き出しにクソみたいなコーヒーのインスタントがあるっすよ』と教えてもらって、それにお湯を入れてズズッと啜ったところで六駆くんが決断した。


「じゃあ、僕はとりあえずあっくんさんたちの救援に行きますよ! 場所のナビってお願いできます?」

『もちろんっすよ。自分が責任もってサーベイランスで誘導するっす。ところで、なんで地上からなんすか? データにあったと思うんすけど、敵の拠点は爆撃機タイプなんすよ? 雨宮さんたちがやられたら再度空襲される可能性があるんすけど』



「えっ!? あれって僕が撃ち落しちゃダメなヤツですか!? ぽっと出の僕がやったら変な空気になりますかね!? じゃあヤメますけど!!」

『あ。そっすね! そんじゃ、ご案内するっすよー』


 雨宮チームごと五十鈴ランドを撃ち落とす気満々の六駆くん。

 戦争としては正しい判断かもしれないが、人の心がちょっとずつ薄くなっているのは気のせいか。



 豆大福をもう2つほど摘まんで、水筒にコーヒーを淹れてから六駆くんは南雲監察官室の窓を叩き割って空へと飛び出した。

 ガラスを叩き割る必要性については議論の余地もないほどであるが、お正月休みにダイ・ハードをクララパイセンに誘われて一気試聴してしまったのが原因かと思われた。


 ガラスは割るもの。

 あとは頭上から降って来るもの。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南野トラボルタが風スキルでほとんど全ての『銀華ぎんか』と『結晶衛星シルヴィスサテライト』を押し戻しつつある、本部北側。


「皆さん。準備はよろしいですか?」


 両手でスキル発現中につき、南野ジュリアナと南野DCには口頭で指示を出す。

 上空から撃墜する事も可能だが、敢えて久坂家をその場に押し留めている。


 トラボルタが狙ってやっているのは言うまでもない。


「私の風には慣れておられるはず。このままスキルは止めませんので、上手く乗って空へ。まず落とすべきは宝石のようなものをコントロールしている男性です。次いで後詰で控えている青年。理想としては同時に仕留めたいですが、ヤレますか?」


 ジュリアナがヌンチャクをひゅんひゅんやりながら答える。


「任せといてよ、トラ兄! こんなのディスコから大学、大学からディスコの連荘に比べりゃ楽勝のチョベリグ!!」


 どら猫に聞かせてあげたいが、ジュリアナもディスコ通いをヤメればより健全で充実したキャンパスライフを送れるのは間違いないため、どっちが優れているかと問われると判断に悩む。


「DCの『札束棍棒デストラーデ』が火ぃ噴くよ! このDCがフルスイングでスタンドインさせてやるさ!! こんなちっぽけな場所、藤井寺球場みたいなもんだろ!!」


 一人称がDCになって「デカコップ」という昔の名を消し去りたい女傑。

 煌気オーラ球をバットで打つ『AKD砲』と脚力強化『弐桁盗塁三度イガイトアシハヤイ』を駆使した中距離、短距離の移動を繰り返しつつ敵を翻弄する戦法が得意。


「カタパッドくん」

「えっ。あ、はい」


「囮を頼めますか?」

「えっ」


「私は身内を馬鹿にする言い様は好きではありません。君はモヒカンくんを見下していましたね?」

「えっ」


「南野家には輪を乱す者を置いておく場所はありませんよ。参考までにカタパッドくん。今の君は牛小屋の手前から数えて4番目です」

「な、なにがっすか!?」



「寝床ですが」

「ヒャッハー!! 煌気オーラ爆殺バババンじゃあ! ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 大きい煌気オーラに反応するオートマチックモードの『銀華ぎんか』がカタパッドに集まり、彼の身を切り刻んだ。



 ただでさえ数が減っていた『銀華ぎんか』がカタパッドに群がったため、上空への道筋は大変風通しが良くなったという。

 風通しの良い場所を走る風に乗って駆けあがるのがジュリアナとDC。


 五十五くんが展開してた『ローゼン・ラブラブドーム』にDCのフルスイングでひびが走った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こうなる事は想定内だが、予想しているからと言って対応できるかといえば話は別。

 だが、人は最悪の想定をすることで魂を奮い立たせ、窮地にも動じない心を得る事はできる。


 異性に告白する時はフラれた後の事を考え、自宅には好きな飲み物と高いコンビニスイーツを山ほど用意。

 友人がいれば「今日この後の予定空けといて」とカラオケオールの構えも見せる。


 十重二十重の用意をしても、フラれるとやっぱり辛い。

 そんな時は冷静に自暴自棄をキメるのが良い。


 これを冷静と情熱のあいだと呼ぶ。



 なお、全部嘘である。



「ちっ。……小鳩ぉ。下がってろぃ。『結晶極細剣シルヴィスツマヨウジ』!!」

「兄上!! どう見ても出力が足りていない!!」


「あぁ? んなもん分かり切ってんだろうがよぉ。俺ぁとっくに煌気オーラ枯渇寸前だぜぇ? つってもよぉ。煌気オーラ枯渇になって失神して楽すんのは俺の主義じゃねぇんだよなぁ。クソみてぇに細い剣でも振り回して、みっともなく家族守ってこその兄でよぉ。旦那だろうがぁ!!」


 あっくん、死亡フラグを建築完了。


「わたくしだってお供いたしますわ!!」

「下がってろって言ってんだけどよぉ。おめぇは体を労われってなぁ!!」


 DCの棍棒と極細剣ツマヨウジが交差。火花散る。



「えっ!? あっくんさん……!? まさか、わたくし……!! 赤ちゃんを身籠ってますの!?」

「姉上!! 間接キッスでは妊娠しない!! 確かにそうかもしれんと言ってあげられない! そんな不甲斐ない愚弟を許して欲しい!!」


 「疲れてんだろぃ」と言う意味で口にした言葉が「おめぇは次世代を育てるんだよなぁ」というなんかエモい感じで受け取られたあっくん。

 特に死ぬつもりはなかったのだが「あぁ? 俺ぁ死ぬのか?」とフラグを察知。



「色男捕まえてんじゃないか! 塚地小鳩!! 令和の男ってのも悪くないね!!」

「ちっ。近接ゴリゴリタイプじゃねぇか……。うちの小鳩は可愛いもんだぜぇ? 槍と白い鎧は清楚だしよぉ。おめぇ、ヌンチャクをよぉ、せめて使えよなぁ……!!」


 ジュリアナがヌンチャクを後ろに投げて、拳に煌気オーラを溜めた。


「あ゛!? 痛い!!」


 特に打ち合わせしていなかったので、イドクロア製のヌンチャクはDCの顔面に直撃。

 一晩の相手をダンスフロアで決める女、南野ジュリアナ。


 戦い方もその場のノリでキメる。


「ちょいさー!! 『BOOM拳カゼニナリタイ』!!」

「あぁ? マジかよ、こいつ……。きっちり極大スキル使って来るじゃねぇかよ……。じゃあヌンチャク何のために持ってたんだぁ? おらぁぁぁ!! 『結晶極細剣大閃光シルヴィスツマヨウジ・アナラビ』!!」


 あっくんも戦術巧者。

 ほっそい剣では戦わず、具現化に使用した煌気オーラを光に変換。


 太陽拳である。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! ふぁふふぁふふぁぁぁぁぁ!!」


 その光に紛れて、もっと強烈に輝きを放つ光がより高い位置で『大竜砲ドラグーン』を発現。

 あっくんとジュリアナの距離を取らせる目的のため威力はかなり抑えられていた。



「ふぁっふんふぁん!! ふぁいふぁいふふぇふぅふぁ!?」

「てめぇ……逆神ぃ……。何食ってんだぁ? くははっ。まあ勘弁してやらぁ! これでおめぇが俺の『YAWARA!』の2巻でよぉ、猪熊柔が出て来るシーンの全部に『谷亮子!!』って書きこんだ件はチャラにしてやらぁ!!」


 六駆くん、大罪を犯していた模様。



「あー! この豆大福が美味しくって!! どうしよう! あと3つしかないや!! あっくんさん、豆大福の美味しいお店って教えてもらえます?」

「……ちっ。久坂のじい様の贔屓にしてる店を教えてやらぁ」


 最強の男、莉子ちゃんの豆大福をほぼ食い尽くしての現着。

 ちゃんと「あ。やばいな!!」という自覚があるだけ成長はしている。

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