第974話 【肩車でランデブー・その1】和泉正春監察官(新)の「……酔ってきたと言ったら怒られるでしょうかげふっ」 ~佳純さんの上で揺れる(捉え方で心の汚れが分かる日本語)~

 こちらは日本本部の東側エリア。

 駐車場があったり転移座標が設置されていたりする関係上、視界の開けた場所になっている。


 あとヘリポートもあったりする。

 日本本部の職員が全員スキル使いではないため、ヘリコプターくらいはないと困る。


 そんな走りやすい場所を直線一気しているのがこちらのコンビ。


「んー。ティラミスはこの辺りにも散らばってますけど、敵影および敵兵器と思しきものは見当たりませんね。私の視力強化はそれなりだと思うんですが、仁香さんみたいに本職の索敵任務にあたる方たちと比べると全然ですから。これは今後の課題として取り組むべき案件の1つですね。私が1人で索敵もこなせるようにならないと! 愛の巣かんさつかんしつに余剰人員は不要ですので!!」


 土門佳純Aランク探索員。

 フィジカル自慢なのでちょっと身体強化をすれば後は愛の力で爆走できる乙女であり、新装備がレースクイーン仕様になったので「ドライバーを乗せて走って、自分にピットインさせる」というワンオペ副官の究極系へと進化完了しようとしている。



 着任してからまだ3日です。

 辞令が出たのは前日なので、公式記録的にはまだ1日です。


 これが末脚。

 遅れた分、そしてこの世界の残機を加味し「全力疾走すれば間に合う!」と判断した超追込み系乙女の真価である。



「和泉さん! あ、失礼しました! 和泉監察官!! ……良いですね。このプライベート混ざっちゃいましたすみません感なやり取り。……こほん。僭越ながら監察官の煌気オーラ感知にお頼りしたく!! どうですか!? 私の上で何か感じませんか?」

「……佳純副官。こふっ。私の上でと言うのはヤメて頂けごふっ。このやり取りは公式記録として残りますげふっ」


「えっ!? 和泉監察官!! 私の乗り心地はいかがでしょうか!! こちら、佳純ランデブースタイルと名付けました!! 和泉さんが私を余すことなく乗りこなせるように色々と考えまして!! 夜、しっかり寝ながら考えました! 和泉さんの寝顔は大変良い睡眠補助になりまして! お隣で夜をお供できるのも、夜のお世話ができるのも副官冥利に尽きます!!」

「……ごふぁぁぁぁぁぁぁぁっヤメてください本当に!!」


 嘘はついていない。

 体の弱い和泉さんが戦場に出すには強力な盾役を伴った布陣で隅の方に配備されるのが望ましいが、今回は盾もなければ戦場に隅も端も真ん中もない。


 よって、移動式監察官室が発現。


 佳純さんに肩車されることで当人には生涯持ち得ない移動力と加速力が付与され、さらに意思疎通は佳純ナビが勝手に思考を全て拾うので阿吽の呼吸どころが、無呼吸で死んでても支障は出ない。

 人馬一体ってこういう事なんやなと世界に誤った情報を拡散していく、佳純ランデブー。


 先にその他の嘘は言っていない事の証明を済ませよう。


 佳純さんは和泉監察官室に引っ越しており、もうベッドはニトリで2人分買って来て組み立て済みで並べて設置。

 2つのベッドが合わさっている部分だけフレームを引きちぎり地続きに改造されており、和泉さんが胸を押さえて苦しむ気配を見せただけで佳純さんは大陸移動が可能。


 「プロは血を吐く前に抱きしめる。基本です」と彼女は胸を張る。


 これが夜のお供。


 和泉さんがトイレに立とうとするとしゅばばばと動いて腕を胸でホールド。

 戻るとホールドされたまま水分補給がなされ、そのままベッドまで運ばれる。


 「プロは胸も余す事なく使います。体は一番身近な道具です」とやっぱり胸を張る。


 これが夜のお世話。


 全部語弊のある感じの発言になっているのも確定的に意図していると思われるが、断定ができるほど世の男女の関係は強固なものではないため、こちらでは判断できかねる旨をそっと添えておく。


「では! 佳純ランデブーについて説明します!!」


 はい。どうぞ。


「こちら! 久しぶりに纏めたツインテール!! 攻撃、防御にと便利なものですが! 佳純ランデブーではこちらをジョッキー和泉さんに掴んで頂くことで! 手綱としてもご利用可能! 肩車は本来ですと上半身が不安定になりますが!! それをツインテールでカバー!! 伸ばしてて良かった! 私の髪!!」


 装備選定に際してレーシングミクを参考資料に用いたのは「見た目も可愛いですけど。これ、使えますね」と実用的な視点。

 今や世界に羽ばたく電子の歌姫を「こういう事でしたか! 初音さん!! 男性を乗せるためにそんなに長い髪を!!」と見つめていた佳純さん。


 ツインテールに実用性を求めるのは恐らくあなたのオンリーワンなので、どうぞそのままお持ち帰りいただきたい。


「続きまして! これまで特に何も感じなかった私の半端に大きい胸!! これが意外と役に立ちます! 腋で和泉さんの御足を挟む訳ですが。男性だと腋力で固定するしか方法はありませんよね?」


 腋力とは。


「それがなんと! 和泉さんの御足の搬入後、おっぱいで出入り口を塞ぐとですね! こんなに安定感が違うんです! ちなみに煌気オーラでおっぱい強化していますが、和泉さんの御足が怪我しないように柔らかさは残しています! よく伸びるお餅みたいなイメージです!!」



 以上。

 和泉正春専用ドッキングフォーム、『佳純ランデブー』の解説でした。



 途中から「公式記録に残ります」と苦情を言わなくなった和泉さん。

 もしかして敵を発見したのだろうか。


 やはり正義の人。

 監察官室対抗戦という極めて早い時期から「この身は探索員協会に捧げ、世界平和に寄与します。げふげふっ」と高潔な覚悟をキメていた男。


 佳純ランデブーにも適応して見せ、日本本部の危機には微力を尽くすのだ。


「……ゔぁふぅ。……酔ってきました」

「えっ!? 和泉さん? 何かおっしゃいましたか!? くっ!! 声を聞き漏らすなんて!! 聴覚強化まですると煌気オーラリソースが……!! この戦いが終わったら、莉子ちゃんに弟子入りしよう……!!」


 佳純さんが危険なラインを軽々と飛び越えていく一方で、和泉さんは三半規管もちゃんと弱いという設定を自身のピンチを利用して周知徹底してみせる。

 真っ青な顔色で視線が虚ろに揺蕩う。



 佳純酔いをキメておられる和泉正春監察官。

 年貢を納める時ゴールはもういつでも良いので、タイミングが整ったらどうぞ。



 佳純ランデブーは時速50キロほどで走行。


 参考になるかは分からないが、ウサイン・ボルト氏が世界記録を樹立した際のトップスピードが時速44.7キロ。

 トップスピードで常時走っているのではなく最高到達点がそこなので、平均にならすと「ちょっと人類かどうか怪しいレベル」くらいには落ち着くボルト氏。


 佳純さんは平均時速が50キロ。軽く原付バイクを噴かしたスピードで和泉さんを乗せて驀進中。

 乗り物に弱い方には伝わるだろうか。


 これは結構な勢いで酔う。

 だって、馬の背中より佳純さんの肩の方が面積狭いもの。


「か、かす、かかすかす、佳純さ……ごふぁぁっ」


 意を決して「降ります」ボタンを押す構えを見せた和泉さんが急停止した佳純ランデブーによって、前後に激しく揺れた。

 一瞬でロデオマシンにもなるのが佳純ランデブー。


 夜のランデブーを致す時にも実用的だと彼女は後の報告書に記載しております。


「和泉さん! 敵……ですね! はい! 多分ですが、敵っぽい人が!! 私の見間違いでなければという仮定で恐縮なのですが! 転移して来ました!!」

「うゔぉあ……。ゔぉォォ……」


「えっ!? 転移してくるのは妙、ですか? あ、確かに! 転移座標はティラミスによって全て破壊されています! では、何を基点に……」

「ゔゔゔゔゔ……ゔぉ゛お゛……」


「敵のスキルですか? ですが、基点になるものが一切ないのにどうやって? 逆神くんたちの転移スキルだって何かを目印にしないといけないのに。……そんな未知のスキル使いが存在するということですか!?」

「ゔぉえ」


「了解しました! 佳純、距離を取ります!!」


 これが人馬一体です。


 この子らいつも以心伝心。

 2人の0距離繋ぐテレパシー。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ちゃんと戦局進めないといい加減にしろと怒られるので、やって来た敵の紹介をしておこう。


「……焦った。またあの頭おかしい剣士とかいるのかと思ったぞ。陛下も陛下だ。なんで誰もいないところに転移させてくださらない? というか、貴官。お前がこんな開けたところにいるからだろうに。どこだ!? 1号館とか言うのは!!」


 逆神兵伍。

 喜三太陛下の転移スキルにより、日本本部にひょっこり登場。


 基点にされたのはこちらのメンズ。


「ヒャッハー!!」

「ふざけているとお前を囮にして私は逃げるぞ?」


「あ。すみません。五十鈴様の旗下ですと返事はヒャッハーで統一されているので。もう習慣と申しますか。先ほど、皇宮にご連絡した際にもヒャッハってしまいましたし。テレホマン様の御不孝を買っていなければ良いのですが」

「お前はそんな髪型で丁寧に喋るなよ。私の方が頭悪いみたいになるだろうが」


 逆神五十鈴の部下であり、皇宮に「ちょっと一応念のため少しだけお知らせしておきます」と常識的な定時報告をしてクソ怒られた男。

 バル逆神分家の1つ、南野家の養子になったバルリテロリの民。


 南野モヒカンである。


 改名前の名前はキスミント。

 爽快のキシリトールの親戚であり、お口の恋人を自称できるくらいに整った顔と爽やかな所作が道行くバルリテロリの民を老若男女問わず振り向かせていた。


 実家が貧しいため、南野家の養子になったキスミント。

 名はモヒカンに変わり、トランクスみたいに爽やかなセンター分けは緑色のモヒカン刈りへと進化。


 連絡した際にテレホマンの「一応、貴官の煌気オーラを照合させてくれ」という申し出に応じたばっかりにその煌気オーラを「これええやん。誰か知らんけど。この子基点にするわ」と喜三太陛下に利用された、これからも絶対に不遇な立ち位置に数話巻き込まれる男。


「……綺麗でボインな姉ちゃんが顔色の悪い男を肩車してるな。アブノーマルが過ぎて、私にも理解できんが。あれは気持ちいいのか? 死にそうだぞ。上の男」

「ヒャッハー!!」


 兵伍に田吾作を再生されると尺が伸びる。


 和泉監察官室の初陣はここに。

 この場で兵伍を始末するんですよ。佳純さん。和泉さん。

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