第950話 【六駆と南雲のワクワク部隊編成・その2】「バランス良くしたいですよね」「バランスブレイカーの君が言わないで欲しいな」 ~召集令状たくさん送るぞ!~

 危機が去ったような気もするが、目下戦争中の現世とバルリテロリ。

 むしろこれから戦うための準備をしなければならない。


「あらあらー。莉子ちゃん、こんなに痩せちゃって。お母さんに任せてくださいねー」


 とりあえず門を通ってアナスタシア母ちゃんが呉へやって来た。

 現在、孫六ランドから六駆くんと莉子ちゃんも一旦撤収。


 撤収の際にはお姫様抱っこをしてあげたので、莉子ちゃんのご機嫌指数がちょっと改善された。

 日本のGDPくらい。


 そうなると孫六ランドに現世の人間が不在になる事実。

 ひっそりと息を潜め続けて1ヶ月。あるいは30分。

 ムシキンに千載一遇の好機が巡ってくる。


 隠匿スキルで完全に気配を殺して、呼吸するのにも気を遣っていた緊張状態から解放。


「あらぁー! ハイカラやねぇ! なんかねぇ、これ! レバーあるよ!」

「ヤメぇさんよ、あんたぁ! 孫のスマホ勝手にいじって怒られたって泣きよったのこの間じゃろうがね!!」


「こねぇなもんがあるんじゃねぇ。異世界っちゅうのは。よし恵さんらは旅行とかによう行きよってんじゃろ? ええねぇー!!」

「それいね! あたしらも次は連れてってもらわんとねぇ!!」


 解放、されず。

 むしろ緊張はパツパツに。


 冷戦時代の世界情勢を思わせるほどの高まり切った緊張にムシキンは微動だにできず。

 ただ、ほんの少しだけ呼吸が荒くなった。



「……なんかおるねぇ? ……今、気配がしたねぇ?」


 オープンワールドのゲームで序盤エリアをウロウロしている隠しボスみたいなよし恵さんも孫六ランドを探索中。

 緊張どころではなくなったムシキンは意識を失った。



「そねぇな事言って脅かさんでよ、よし恵さん!!」

「いっつも厳しいじゃからねぇ!! あたしら半人前にしてもらえるまでに1年もかかったんやから!!」


 1年でお嬢様バージンばあちゃんズはSランク級まで強くなりました。


「……あんたら。……ちぃと煌気オーラを抑えさんや。……気配が分からんようになったじゃろうがね。……ふっ。……まあ、はしゃぐ気持ちも分かるけどねぇ」


 ムシキン、九死に一生を得る。

 この世界では死んでた方がマシまである、取り残された瀬賀家セーガーの遺産。


 それからよし恵さん率いるばあちゃんズ見学隊が孫六ランドを隅々まで闊歩するのであった。

 ばあちゃんズの名誉のために明言しておこう。


 これは警戒や索敵などではない。


 観光である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ぷぇっ。……柔らかいよぉ」

「莉子ちゃんがこんなになるんて、お母さん頑張りますよー」


 アナスタシア母ちゃんの発する異能空間。

 通称アナスタシアゾーンでは、その辺に転がっているだけでも並のスキル使いであれば1時間くらいで煌気オーラが全回復できるチート回復ポイント。


 だが、莉子ちゃんは技術こそ並のスキル使いとそんなに変わらないが、煌気オーラ総量は雷門クソさん2000人分くらいを常に満たしているので、それが空っぽになるとかなり危険。

 煌気オーラ枯渇状態は歴戦の老兵でも命に関わる。よく煌気オーラ供給器官ごとぶっ壊して瀕死になるバニング・ミンガイル氏でお馴染みの現象。


 ゆえに、アナスタシア母ちゃんも本気を出す。


「ぎゅーってしてあげますからねー。おっぱい飲みますかー?」


 『アナスタシア・ハグ』である。

 治療対象をこの世界で最強のおっぱいに埋める事で煌気オーラの回復速度を胸囲的、失礼、驚異的、いやさ狂異的なものにしてしまう絶技。


 一般的に煌気オーラを過剰に膨らませすぎると体内でアレがナニして爆発する。

 こちらは「もうおめーの席ねーからぁ!!」でお馴染み、水戸信介監察官がよくおっぱいキメ過ぎて爆発しているので、そちらを参照されたし。


「ぷぇぇぇ。柔らかくてあったかいよぉ……」


 莉子ちゃんもアナスタシア母ちゃんクラスのおっぱいになると敵意とかそんな次元を飛び越えて母性を拝受するらしく、穏やかな表情でおっぱいに埋まっている。

 なお、ちょっと痩せたのでスペアのショートパンツちゃんも出頭済み。



 先代を追うように死ななければ良いのだが。



 そんなこんなで莉子ちゃんムチリコ問題が片付いたので、六駆くんは南雲さんと楽しい戦支度の時間を迎えていた。


「いやー! どうします!? やっぱりバランス重視でいきたいですよね!!」

「君は昔から、編成の時だけテンション上がるね。私、このポジション本当に久しぶりでお腹痛いんだけど」


 お忘れの方も多いので、絶対に多いので、改めて補足しておく。

 六駆くんは29年ほど異世界で殺戮マシーン多分殺してないしていた都合上、みんなでワイワイパーティーを組むのが結構好きになっており「誰呼びます!?」とドラフト会議するのも大好物。


 もう独りには戻れない。

 群れる事を知ったおじさんは孤独に耐えられないのである。


「とりあえず、ノアに頼んでクララ先輩と瑠香は呼んでもらってますけど。良かったですよね?」

「……逆神くんが事後とはいえ許可を!? 知ってるぞ! 全部責任を私に押し付けるつもりだな!! ホウレンソウの重要性まで覚えて!! 厄介な男だよ、君は!!」


「うふふふふふ! これで遠距離狙撃と遠距離砲撃は問題ないですかねー。あと、うちのじいちゃんとばあちゃんは絶対に行くって言ってるので。良いですか?」



「ヤメてって言ったらヤメてくれるの!?」

「うふふふふふふふふふふふ!!」


 戦力がオーバーキルしている感が溢れ出して震える。



 とはいえ、四郎じいちゃんは「自分の父親の不始末ですじゃ。ワシがケジメを付けにゃなりますまいて」と喜三太陛下とタイマン希望。

 「お父さんのサポートしようね、あたしゃ!!」とみつ子ばあちゃんは支援に徹する構え。


 本当かどうかはわかりません。


 よって、この2人はバルリテロリにぶっこんだ後もよほどの事がない限り戦闘には参加しない。

 ならば人員はまだまだ欲しい。


「バニングさんを呼ぼうか。今回は報告書改ざん余裕な戦場だし、いつも以上に緊急だしね。あの人、私の上位互換みたいなものだから」


 あろうことかバニングさん招集は南雲さんの案。

 この数分後に芽衣ちゃまから赤紙を貰って絶望に暮れて、ミンスティラリアの空ってなんかキモいと辞世のディスをキメる。


「じゃあライアンさんも呼びます?」

「ええ……。ライアン氏は一応さ、ピースの最重要容疑者の1人なんだよ? 逆神くんが勝手に解放してるから黙認してたけど。……それって私の指揮下に加えるって事かい?」


「うふふふふふふふふふふふ!!」

「くそぅ!! この子、初期ロットの無責任さを取り戻しつつある!! しかも知恵つけてるのが極めて厄介だな!! ステルスサーベイランスは来たけど山根くんは応答してくれないし!! 雨宮さんの許可取りたいのに!!」


 本部は既に交戦中なので、支援や援護を期待するのは厳しい。

 それを知っているノアちゃんを伝令に出してしまっているので、情報戦の優位性をちょっと放棄しているおじさんコンビ。


 良い感じに在りし日の詰めの甘さも戻って来つつある。


「小坂くんは置いていくかい?」

「……置いて行ったら僕、戻って来た瞬間に両腕折られると思うんで。戦わせはしないけど連れて行きます。見てくださいよ、この肘。生まれて初めて骨折しました」


 度重なるだいしゅきホールドで傷つき脆くなっていた六駆くんの肘が先ほどの莉子ちゃん煌気暴走オーラランペイジによって完全に負傷。

 莉子ちゃん相手にスキルを使えなかった事が大きいのだが、ステータス「愛ゆえに人は苦しまねばならぬ」を獲得してしまったので仕方がない。


「ただいま戻りました!! クララ先輩と瑠香にゃん先輩の準備できたらしいので、『ゲート』をお願いします! 逆神先輩!!」


 ノアちゃん通信士が帰還。

 莉子ちゃんがアナスタシア母ちゃんのおっぱいに埋まっているのを確認して戻って来たきらいがあるものの、六駆師匠は何も言わない。


 逆神孫六戦で痛感したのである。



 「ノアは絶対に必要だね。判断力もだけど、判断したら躊躇しないとかもう才能だよ。絶対に必要。莉子が怒った時のために!!」と、最も成長しない弟子を頼りにしている自分に気が付いていた。



「ところでこっちの指揮は誰に任せるの? まさか芽衣くんじゃないよね?」

「うふふふふふふふふふふふ!! だって仕方ないじゃないですぁ!!」


「やだなぁ! この子!! 全部私に報告して来る!! 聞かなきゃ知らなかったで通るのに!! この子通してくれないよ!! じゃあもうミンスティラリアは総員芽衣くんを守らせて! ついでにミンス呉リアも守らせて!! どっちか選ぶんだったら芽衣くん選んで!! 異世界は後で君が修復してね!!」


 南雲さんもみみみっ子を「本当によくできた子だよ。16歳なのが信じられない」と評価しているが、芽衣ちゃま信奉者ではない。

 それでもここまで慎重に対策するのは、割と常識がある事は判明したのに姪に関する事だけよくデキてない男、木原久光監察官が念頭に置き配されているため。


 芽衣ちゃんに何かあると木原さんが暴れて、木原さんが暴れると戦局にデカい隙ができて、デカい隙ができると現世サイドに攻め込まれる余地ができて、最終的には桶屋が儲かる。


「それじゃ、僕は『ゲート』を多重発現してきますね!! いやー!! 南雲さんは頼りになるなぁ!!」


 変な方向に曲がった肘で嬉しそうに駆けていく六駆くん。

 残ったノアちゃんが話し相手になって差し上げる。


 デキる後輩は違うんです。ふんすっ。


「南雲先生!!」

「なんだね、ノアくん。君も平山くんって呼んだら返事してくれないから呼び方変わったね」


「京華先輩にお別れしなくて良いんですか!?」

「えっ!? 私、また死ぬの!?」


「いえ! 責任取らされてウォーロストに収監されたりするのかなと思いました! ふんすっ!!」

「……死んでるじゃないか。山根くーん? なんで応答しないのー? やぁぁまぁぁぁねぇぇぇー?」


 やっぱり六駆くんを戦わせるとなれば、南雲さんはセット。

 お寿司食べるのに醤油が無ければ始まらない。


 塩かけるとかいう意識高めなヤツはうちにはございません。

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