第949話 【六駆と南雲のワクワク部隊編成・その1】人類VS莉子ちゃん ~戦いはもう始まっていた。そして佳境だった。~

 前回までの逆神カップル。


 六駆くんが「最近莉子、太ったよね!」というお気持ちをノアちゃんに間接表明された結果、なんやかんやリコリコして孫六ランドが「これはあきまへんわ。緊急装置を作動しまっせ」とバルリテロリ宙域への転移シークエンスに入った。


 これぞ好機と南雲修一筆頭監察官を召喚チャオらせ、1時間以内にバルリテロリ本国ぶっこみ部隊の編制に取り掛かるべしと考える最強の男。

 一方、後輩からブルマを強奪してパンモロだけでも解消しようとしたところ、「ブルマちゃんが死にます!!」と拒否された最強の女子。


 一時的にしょんぼりとしたが、それだけで終わるはずもなく。


 「太ってた事実」と「自分が恥ずかしい恰好してる事実」が挟撃して来た結果、莉子ちゃんは旦那に八つ当たりを始めていた。

 先に断っておきたい。


 ラブラブカップルの痴話喧嘩は可愛いものである。

 いつもニコニコしている乙女がちょっとぷんすかするのは微笑ましいものである。


 これは、独立国家・呉で起きたちょっと前の出来事である。

 ちょっとした人類の存亡を賭けたぷんすかである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんが現着して、秒で孫六ランドから離脱チャオった。

 現場指揮官が殺される訳にはいかないのだ。


「ノアぁぁぁぁぁぁぁあ!! 帰ってきてぇぇぇぇぇぇ!! そしてブルマ貸してぇぇぇぇ!! お願いだからぁぁぁぁ!!」


 孫六ランドからは悲痛な叫びが聞こえてくる。

 逆神六駆は男女平等に拳を振るう男であり、戦いに老いも若きもなければ、メンズとレディースの区分もない。


 自分に牙を剥くという事はそれすなわち「覚悟」のある者という事。

 覚悟を持って挑まれれば手加減などするはずもなく、する必要もない。


 ゆえに逆神六駆は最強。



 ただし、嫁には前述のルールが全て適用されなくなる。

 小坂莉子。逆神六駆を無力化できる特殊カードである。


 大会のレギュレーションでは基本的に禁止されるほどの効果を発揮する。



「いいでしょ!! 六駆くん!! 『時間超越陣オクロック』でわたしが痩せてた頃に戻してよぉ!!」

「ダメだってば!! それやったら記憶も消えちゃうから! 僕のプロポーズがなくなるよ!! あんなに勇気振り絞ったの人生で初めてなのに!!」


「またプロポーズしてくれればいいじゃんかぁ!! どこの時間軸のわたしでも即オッケーするよぉ!! 抱きつくよぉ!! ねぇぇぇ! お願いだからぁ!!」

「ダメだよ!! 莉子、出会った頃は僕の事が嫌いだったじゃない!!」


 莉子ちゃん、気付く。

 すんっと一瞬穏やかになったあとで、無表情をキメる。


 続けて旦那に問う。

 問おう。これは問わずにいられない。



「……わたしってさ。いつから太ってた?」

「誰かぁぁぁぁぁ!! 助けてくださぁぁい!! 助けてくださぁぁぁぁい!!」


 火災現場大好きっ子ノアちゃんが「大分失礼します!」と失礼するはずである。



 莉子ちゃんは脂肪とカロリーを消費して煌気オーラに変換する術をみつ子ばあちゃんに伝授されており、それは大変強力な武器なのだが暴発するとえらいことになる。

 えらいことになった。


「ふぇぇぇぇ!! 違うんだよぉ!! ご飯が美味しいんだもんっ!! いつも自分の体ってお風呂上りに見るでしょお!? 変化に気付けるなんてアハ体験だよぉ! わたし苦手だもんっ!! イラストの空の色が変わるレベルのヤツでも気付けないもんっ!!」


 莉子ちゃんの煌気オーラが上昇中。

 呉の大気が震える。


「ノアくん。君ならどうにかできるんじゃないの?」

「南雲先生。火山が噴火してるところに行って鎮めて来いって言われてデキちゃうのはアベンジャーズ先輩たちだけです。アベンジャーズ先輩の中でも無理っぽい先輩がちらほらいます。平山ノアはみんなの後輩ですが、アベンジャーズじゃないです」


 孫六ランドを呉の大地から眺める南雲さんとノアちゃん。

 どうにかしないと世界が滅びる。


「……ふっ。……まだまだ青いねぇ」


 やったか。


 よし恵さんが木に背中を付けて腕を組み、ひっそりとピースサインをしている。

 この構えはベジータさんが未来へ戻るトランクスを見送る時に繰り出したエモいヤツ。


「……若い子のイチャコラ。……なかなかええねぇ。……しばらく見よこう。……節子さん、久恵さん。……邪魔しちゃあいけんよ」


 やってなかった。

 呉のお嬢様基準だと莉子ちゃんの暴走はちょっとした可愛い八つ当たり。


「あの、よし恵さん?」

「……修一ちゃんかね。……奥さんの加減はどねぇかね?」


「あ、おかげさまで。今回は自宅で静養させて頂いています」

「……そねぇかいね。……お母さんになるんじゃけぇね。……子を産む言うんはねぇ。……どねぇな戦いよりも厳しいけぇねぇ」


「はい。私も協力できる事を自発的に探して夫婦一緒に頑張ろうと思います」

「……ええ心がけじゃねぇ。……ただねぇ、修一ちゃん。……男目線でこりゃええじゃろ思うてもねぇ。……妊婦からしたら邪魔一択な事もあるけぇねぇ。……ちぃとレクチャーしちゃろうかいねぇ」


「ありがとうございます」


 男の育休講義が始まったので、やむを得ずボクっ子が普段はやらない仕事を引き受ける。


「うああー!! あの! よし恵先輩!! 莉子先輩はどうなりますか!!」


 ツッコミさせられるノア隊員。

 よし恵さんは「……ふっ」と優しく笑ってから答えた。



「……ありゃあ大したもんじゃないけぇ安心しぃさん。……呉では煌気暴走オーラランペイジって呼ぶんじゃけどねぇ。……煌気オーラ爆発バーストの進化形態やねぇ」

「よし恵先輩!! それはボクたちの次元ではどうにもならないヤツです! 頼みの逆神先輩も相手が莉子先輩だと一方的にリコられてます!! 助けてください!! 雨宮先輩の隠し撮りを献上します!! ふんすっ!!」


 なんか新形態が出て来て、ノアちゃんがいつものように買収工作に打って出る。

 しかし、よし恵さんは戦いに生きる女。姑息な手段が。



「……近くにおる子!! ……ちぃと集まりぃさんや!! ……莉子ちゃんの出しよる煌気オーラ、削り取って来ぃさん!! ……3人1組、いつも通りやりゃあできるけぇね!! ……ノアちゃん。……順ちゃんのプライベートショットもあるんじゃろうね?」


 むちゃくちゃ効いた。


 ノアちゃんが「うああー。これ、ボクが流れ弾で変な業を背負わされてるパターンでは!? チーム莉子の名物がついにボクにも!! ちょっと興奮します! けど、後悔も大きいですね!!」と思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子ちゃん、煌気暴走オーラランペイジ中。


「ぐわあああああ!! 僕がダズモンガーくんみたいな声出してる!! やだぁ!! でも、莉子を傷つけられない! スキルも使えない!! 煌気オーラの盾をすっぴんで出して抑えきるしか……!!」

「もぉぉぉぉ!! こんな時でもイケメンだよぉ! でもでも! 六駆くんの言葉に傷つけられてるんだからノーカンだよぉ!! ノーカン、ノーカン!!」


 煌気暴走オーラランペイジ煌気オーラ爆発バーストの親戚なので、基本的に自我が保たれる。

 通常ならば3分もたずに煌気オーラ枯渇状態になるため、カップラーメンにお湯を注いで放っておけばタイマーが鳴ってあとはラーメンを美味しく召し上がるだけで任務完了なのだが、再三、幾度にもわたり耳がダンボなほどお伝えしているように、莉子ちゃんは煌気オーラ総量お化け。


 ついに日本本部で横綱になり、異世界含めてもアリナさんは煌気オーラの調整に未だ不慣れなため莉子ちゃんが世界横綱になっている可能性が高い。


「綱取りとか言われたぁぁぁ!! わたし、女の子なのにぃ! 土俵に上げられるぅ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 僕言ってないよ!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 失礼しました。


 孫六ランドの側壁は既に吹き飛んでおり、風通しが大変良い。

 ムシキンが頑張って張り付いて念仏唱えている。


「あらぁ!! ここよ、みんなぁ! ヤングの乳繰り合い現場ぁ!!」

「言うちょる場合かね!! 大久保さん、やるよ!!」

「樋口さん! 石原さん!! ジェットストリームアタックを仕掛けるけぇね!!」


 呉では三位一体ジェットストリームアタックは必修科目なので、戦場に出てくるお嬢様バージンばあちゃんズは全員が使用できます。


「あたしらもやるけぇね! 福島さん! 浜田さん!!」

「任せぇさんよ、須藤さん!!」

煌気オーラに対して攻撃するっちゃあ、違和感モリモリじゃねぇ!!」


 ジェットストリームアタックがジェットストリームアタックする呉の上空。

 総勢12名のお嬢様がよし恵さんに「……仕方ないねぇ」と言って具現化してもらった死狂いデスサイズを掲げて噴き出す煌気オーラに斬りかかる。


 よし恵さんの死狂いデスサイズは物体も斬れるし煌気オーラも斬れるし、1番良く斬れるのは人間という優れもの。

 具現化武器を大量生産できるのは呉老人会の副会長だからこその為せる業。


 わずか5分のばあちゃんズによる超連撃だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぇぇぇぇ……。なんだか力が抜けてぇ……」

「あれ!? 莉子! 痩せてる!!」


「……またそうやって乙女心を弄ぶんだぁ? 抵抗できないわたしを見て!! もぉ! じゃあ好きに弄んでよ!! わたし、ウェルカムだからっ!!」


 莉子ちゃん、カロリーを使い切ってちょっと痩せる。

 初期ロット比較でプラス3キロ。


 まだ太っとるやないか! と言うなかれ。

 ベテラン探索員の諸君にはこれ以上の情報は必要としないだろう。



 クッッッソ痩せてる。



「こちら逆神六駆です。莉子が痩せました。そして煌気オーラ枯渇状態になりました。困りました。至急、ミンスティラリアからお袋と、あと話し相手を招集してください。莉子がいないと僕が困ります。戦う理由も弱くなるし、親戚付き合いって莉子の方が上手いので。ところで、莉子が本当に動かないんですけど。これって抱きしめたりした方が良いですか? 南雲さん?」


 呼ばれてますよ、南雲さん。


「ノアくん」

「ふんすー」


 2人は「私たち(ボクたち)、次の戦場の立ち位置が多分似てる」と意識をシンクロさせたという。

 すごく大きく巨大で弩級の戦いは終わったが、本当の戦いはこれから始まるのだ。

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