第948話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その15】喜三太陛下の「なんか色々とやべぇぞ、これ。ワシの計算と違う! 計算通り行った記憶ないけど!」 ~陛下。日常回の続きみたいですが、本編ですよ。~

「いやー! もうね、体も心もリフレッシュだわ!! すっげぇコンディション良くなったわー!!」


 喜三太陛下、お久しぶりでございます。

 バルリテロリ皇宮からお送りします。


「陛下。時間の感覚が曖昧になられるのは痴呆の走りだとNHKの今日の健康が言っておられました」

「そうなん? 大変なんだな、お年寄りって」


「陛下。純血の逆神家は転生をする度に肉体も脳も若返り、技術や知識を持ち越せるため強くなっていく。お間違えありませんか?」

「そうだな!! おかげでワシ、めちゃ強くなったし!!」


「陛下。脳も若返るということは、少なくとも退化することはございませんね?」

「どうしたん、オタマ? 何か言いたい事があるなら言ってごらん? 陛下、お抱きください!! とか!!」


 オタマが「こほん」と咳ばらいをしてから言った。



「陛下。十四男ランドと五十鈴ランドが戦端を開いてからわずか30分です。どうして陛下は長く休んだようなお言葉を繰り返されるのでしょうか。オタマは原因を必死に考え、見つけました。あ。陛下は元から頭がお貧しい偉大なる為政者でした、と」


 陛下。1ヶ月ぶりじゃありません。

 「攻め込むぞ」と下知られてからわずか30分しか経っていないのです。



 「なんかすげぇ怒られた……」とガチしょんぼり沈殿丸される喜三太陛下にずっと脇で控えていたテレホマンが「よろしいでしょうか」とお伺いを立てる。


「よろしいよ? 何ならインターセプトして欲しかったよ? オタマにずっとワシが怒られとる間にテレホマンは何考えてたん?」

「はっ。この国の行く末を案じておりました」



「えっ。じゃあ、ごめんなさい」

「滅相もございません。もう慣れましたので」


 バルリテロリ皇宮はアットホームな職場です。



 テレホマンがお許しを得て現状を説明する。

 仕事のできる男はやはり違う。


 観測者にもこれまでのおさらいさせてくれる、電脳総参謀長の鑑。


「まず、現世に転移した十四男ランドですが。先に戦端を開きました」

「うん。シャモジが怖い方ね。もうストウェア奪取した?」


「人間兵器が十四男ランドの側壁を破壊。恐らくこれより敵戦力が突入したのち、白兵戦による防衛が行われるであろうと連絡が来ました」

「ちょっと何言ってんのか分かんねぇな、これ。なに!? 人間兵器!? 日本ってどうなってんの!? マジかよ! 戦争やってた頃と日本変わってねぇの!?」


 日本は変わりましたが、人の業とはたかが100年程度では変わりませんな。

 その兵器水戸くんは最近「人間」のカテゴリーから外れそうなので、現世では誰も気にしていません。



 あと陛下。進行形で戦争やっておられるのはバルリテロリですが。



「何かご指示があればお伝えしますが」

「いや。いらんだろ。だってシャモジいるじゃん。あと十四男はスキル使ってないだろ? 言っとくけど、十四男のスキルは種類クソ少ない代わりにやべぇからな。あの2人いたらどうにかなるわ」


 陛下も絶対的信頼を寄せるシャモジ。

 皇帝弑逆を成し遂げたバルリテロリの女傑である。


 さらに逆神十四男は陛下が師匠としてマジメにスキル使いを育てていた頃の第一世代でも特に秀でた男。

 ちょっと心身に不安はあるものの、そこは周りが介護職なのでどうにかなるであろうというのが陛下のお考え。


「陛下。ここまで悉く御采配が外れておられるのにその自信。さすがでございます」

「……悉くと禿げってなんか字面似てるね!! 痛いっ!! オタマさん! 皇帝殴るのに躊躇がなくなってんね!!」


 母さんがくれたシャモジ。

 母さんが残した熱い想い。


 基本的に母さんがくれてるオタマの家族。

 お父さんもちゃんといます。


「続けて、五十鈴ランドですが」

「探索員協会本部の上空か! あっちは大事よ! なにせ探索員の巣だもんね! タイミングがものを言うから! ワシがいい感じのところで合図出そう! テレホマン? なんで俯くん? こっち向いて? ねぇ、笑って?」



「申し上げにくいのですが。しかし、ここまで申し上げにくい事ばかりでした。ですので、はっきりと申し上げます。逆神五十鈴様より入電がつい数分前に。ティラミスで本部爆撃しちゃった! マンモス爆発してる!! と……」

「マジで誰だったらワシの指示聞いてくれんの? マンモス哀れな皇帝やん、ワシ」


 ティラミスはスイーツ爆発的ブームの始祖とされていますので、爆発します。

 ちなみに次にブームが来たのはナタデココ。

 まだ爆発していません。



 テレホマンが説明してくれた事をさらに整理するとこうなる。


 南極海でのストウェアVS十四男ランドは艦隊戦が終了し、現世サイドが攻め込む形で戦闘継続。

 なお、グレートビッグボインバズーカと十四男キャノンの撃ち合いは引き分け。

 勝敗を決したのは人道的立候補型兵器・水戸ミサイル。


 日本本部はまだ戦局が不明瞭ながら、五十鈴ランドがティラミスで爆撃中。

 雨宮上級監察官にあまり余裕がなかった点から見て、割とピンチの様相を呈している。

 ただし雨宮親衛隊という名のやべぇ戦力が2つも目覚めつつある。


「……よろしいでしょうか」

「よろしいけどさ。露骨にテンション下げるのヤメよ? ここまででガチしょんぼり沈殿丸なのに、まだ酷いヤツ来るん?」



「孫六ランドの緊急装置が作動しました。バルリテロリの宙域B地区に強制転移するシークエンスが既にカウント残り40分ほどまで……。所見を申し上げても?」

「いらない。ワシだったら絶対に孫六ランドに乗って本国に攻め込むもん。だって煌気オーラも何も使わんでさ? 勝手に転移するんだもんね? そりゃ乗るよ。ワシが罠仕掛けてる可能性を考慮しても……うん。まあ、最悪でも爆発させるわな。こっちに転移した直後くらいに。ワシならそうする」


 陛下のご慧眼は宝石のように眩しゅうございますな。

 だいたい合ってございます。



「クソやべぇことは分かった。これ、本土決戦マジであるぞ」

「竹やりでも配りますか?」


「配って堪るか。もう1個、喜三太ランドを急いで創る。テレホマンはワシのギャンドゥムコレクションで使えそうなの改修してくれ。大急ぎで。時間稼ぎくらいはできるだろ。転移して来るのワシが創った孫六ランドだし。兵装のデータもあるし。多分あっちの連中、コントロールまではできんだろうし」

「はっ!」


 黙って聞いていた六宇がオタマに問いかける。


「なんでキサンタはまたバカランド作るん? バカなん?」

「はい。六宇様。陛下はバカであらせられます。ですが、バカなりに臣民を思っておいでです。シェルター用の十四男ランドを失ったため、本土決戦に備え新たなシェルターをお創りになられるかと」


「へー。じゃあさー。十四男ランド転移させなかったら良かったんじゃん? バカだねー!!」

「はい。六宇様。それをご提案されたのは六宇様ですが。スカートが捲れておられますよ。ソファでスマホをいじられる時はせめてブランケットをお使いくださいませ」


 愚かだけど愚帝まではいかない喜三太陛下。

 まずは臣民の命を第一にお考えあそばされた。


 奥座敷から遠隔発現で喜三太ランドを構築開始。

 そこに来客があった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ボケ、こら!! じじい!! 何しとんじゃい!! 現世行けって言うなら転移させろや!! オレら転移スキル使えんのじゃ!! ボケ!! じじい!!」

「兄者。落ち着くと良い。落ち着いて恫喝すると良い。我らも皇族。いや、元皇族。……ん? 兄者、ならば遠慮なく恫喝すると良い」


 バル逆神家の秘密兵器。

 というか、「みんなー!! 集まってー!!」という陛下の勅命を無視していただけの第二世代。


 兄の逆神クイント太郎。

 弟の逆神チンクエ次郎。


 どっちもイタリアで5を表す言葉。


 字面が情けなさ過ぎるので、逆神クイントと逆神チンクエと呼んで差し上げよう。

 出番が来たと思ったら来なかったので、結局皇宮にやって来た。

 転移スキルが使えないので飛んできた。


「クイント様。チンクエ様」

「おおおおおお、オタマか!! 相変わらず可憐だな!! よし、満足した! 帰るぞ、チンクエ!!」

「兄者。満足が速すぎる。幸せの容積が少ないのは良い。たくさん幸せになれるから良い。だが、出番が消えて国も消えたら良くない」


 クイントはオタマガチ勢。

 「自分たち兄弟だけ急に平成ガンダムのキャラみたいな名前にされたからあったまきた」と皇族を抜けたが、実は「オタマがしゅき過ぎて辛い。どっか行く。理性が保てん」という理由でクイントが抜け、チンクエは兄想いなのでそれに続いた。


 その苛烈な劣情に心乱されたのはオタマが13歳で皇宮にやって来た時の事。



 みんなロリが好きなバルリテロリ。

 そんな誤解が生まれるほど、やたらとネームドキャラが幼い容姿に萌え萌えする。



 だが、クイントはちゃんと未だにオタマガチ勢。

 今のオタマは長身でビッグボインバズーカを装填しており、美脚でミニのタイトスカートを穿いてくれる23歳。


 それなら男子の健全なフォーマル癖なのでオッケーです。


「現在、陛下は臣民のためのシェルターをお創りになられています。少しばかりお待ちいただく事は可能でしょうか」

「よし、よぉぉし! 良いだろう! オタマ!! お前の前で待たせてもらうぞ! お前の前だ! 真正面、そして少し角度を付けて下の方の前で待たせてもらおう!!」


 クイントは真っすぐ一直線に目的へと進むタイプ。


「兄者。……そんな兄者は良い。ありのままで良い」


 チンクエは兄者を尊敬しているので基本的に全肯定する。

 仲良し兄弟である。


 なお、どちらもバルリテロリで五指に入るほどの猛者なのだが、陛下には「来たよー」と伝えられていないので早急に戦力が欲しい今、情報が滞っているせいで戦力は届いたのに指示が来ねぇし報告は行ってねぇというアナログ時代にありがちな伝達ミスが発生中。


 テレホマンが2人の来訪に気付くのは、20分ほど未来の事である。

 当然だが、その間にも現世のドンパチが進んでいく。

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