第947話 【時間を超越せし第三者機関RKDNya・その5】証人喚問・南雲京華さん ~こっちから呼びつけたにゃー。負ける気がせんぞなー。~

「馬鹿な!? 日常回……だと……!? 私の対策は完璧だったはずだ!! どうして今になって私が日常回に出なければならん!?」

「にゃはー。いつから京華さんだけメタ空間に呼ばれないと錯覚してたぞなー?」


 呼ばれてしまった妊婦さん。

 よく考えたら瑠香にゃんリモートであれば体に負担はまったくかからない。


 ただメンタルには負担がかかるかもしれないので、細心の注意を願いたい。


 恋愛ってクソだにゃー回を締めるのは南雲京華さん。

 自分はじっくりと南雲さんとオフィスラブをキメてきたのに「どいつもこいつも爛れた恋愛をし過ぎている」と第三者機関『RKDNya』を発足させた、まさに責任者。


 どら猫による証人喚問が始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うにゃー。京華さん、京華さん。あたし知っとるぞなー。京華さん、結婚した後も結構な勢いで本編時空に恋愛持ち込んでたぞなー?」

「……なんの事か分からんな」


「ノアちゃん!! 出番だにゃー!!」

「ややっ! これは困りました! ボクはどっちに付くべきでしょうか!! 確かにジャーナリストとして権力に屈するのはあってはならない事です!! がっ!! がががっ!! 京華さんは実質日本のトップ!! ここは屈しておいた方が良いような気がします! ノアちゃん脳がそう言ってます!!」


 早速味方の謀反が起きそうな『RKDNya』だが、今回のパイセンはちょっと強い。

 なにせ大学の単位を餌に「にゃはー!!」と喰いついたまでは良かったが、喰いついてみたらこれが結構な面倒くささで辟易していたところに、まさかの恋愛ってクソだにゃー回の常設化。

 2度目がパラレル時空になった事で、どら猫脳だってフル回転。


 「ここで負の連鎖を断ち切っておかなくてはだぞな。絶対に次もやらされるにゃー」というもはや予知に近い予測がネコに走る。


 そこで責任者である京華さんに『RKDNya』の解散を宣言させてしまえば、日常回で1度出れば後は他の乙女たちが致すだの致さないだの、マニアックに激しく致すだの言ってるのを横目にソファでインナーまで脱ぎ捨てて、スマホいじってポテチ食いながらビール飲んで休暇をゲットできる。


 パイセンは知ってるのだ。

 「あたしの毒にも薬にもならん日常回は結構支持されとるぞなー。なぜならばー。みんなが揃って毒になっとるからだにゃー。YouTube見てて、炎上系とか暴露系とかも確かにおもろいぞな? でも最終的には猫動画に行き着くんだにゃー」と。


 猫は時折「こいつ……。自分が愛でられる仕草を知ってるな?」と思わせるような行動を取る事が稀に割とよくある。

 パイセンは「ダラダラしてるのが既にこの世界ではプレミアム感が付与されとるんだにゃー」とネコ科の嗅覚を発揮済み。


 よって、攻撃開始。


「ノアちゃん、ノアちゃん。助けてくれたら、あたしは月刊探索員のグラビアに出る用意があるにゃー」

「なんですと!? クララ先輩が!! ……騙されません! どうせオフショットとか言って! ベッドで丸くなってるところにボクを呼んでからの、好きに撮ってにゃー。パターンです!!」


「にゃっふっふー。水着オッケーですにゃー」


 実は全然水着になる気などない。

 どら猫は自分の利益を得る時だけ極めてクレバーな思考をゲットする事に定評があり、今回はもう勝ちへの道筋が見えている。


 ここは瑠香にゃんリモート。

 超越時空間の瑠香にゃんリモート。


 ここでの出来事は瑠香にゃんリモートを出た後、掌で掬った水がサラサラと指の隙間から零れ落ちていくがごとく忘れ去られる。

 それは果たして、相談者だけに適用されるのか。


 否だにゃー。


 パイセンたちが記憶を保持して本編時空に戻ると色々な不具合が発生する。

 具体的にはメタ過ぎて進行不能になる可能性が高い。



 進行不能バグ。それは困る。



 ゆえにパイセンは「ここでどんな約束したって反故にできまくりまクリスティーだぞなー!! にゃはー!!」と大変姑息な抜け道をもうゲットしている。

 そしていつもはクレバーなノアちゃんが釣られた。


「はい!! 京華先輩!! フランス出張編でコスプレしたまま転移して、そのコスプレ衣装をあろうことか小鳩先輩に着せてましたね!! しかも古龍化チャオした南雲先生とイチャイチャしっぱなしでした!! ボク知ってます!! はい、こちらが映像です!! ボクのスマホには基本何でも入ってます!! ふんすっすー!!」



「……クララ。貴様、そこまで知恵が回ったのか? 雨宮の痴れ者に匹敵するくらい爪を隠していたな? 猫なんだから爪は出せ。あと、ノア。お願いだからその映像は引っ込めてくれ」


 京華さんにダメージが通る。



「にゃーっはっはー!! まだあたしのターン!! 芽衣ちゃん、来てにゃー!!」

「おい、バカ! ふざけるなよ、クララ!! 貴様、この私セイバーを芽衣に見せると言うのか!? 冗談ではない!! ……ここまでか」



 こうかはばつぐんだ。



 芽衣ちゃんがトコトコ駆けて来た。

 現着と同時に一括する。


「みみみっ! クララ先輩! 芽衣、子供だからよく分からないです! でも京華さんをいじめちゃダメです! み゛ー!!」

「……神の御心が私に勝てと囁いている!!」


 日常回の伏線回収が始まる。

 おわかりいただけただろうか。


 芽衣ちゃまお姉さん格付けチェックにおいて、お姉さん筆頭が誰であったか。

 そう。


 京華お姉さんである。

 クララパイセンも芽衣ちゃんにとっては確かにとっても大事。


 大事な「お友達」で「お姉さん」どころか「先輩」とも思われていない。

 友達が慕っているお姉ちゃんをいじめていたら、清らかな芽衣ちゃんは当然守る。


「にゃん……だと……? め、芽衣ちゃん? 京華さんのはっちゃけシーンを見てにゃー?」

「み゛っ!! 恥ずかしいところは誰だってあるです! 芽衣もお正月に買ったキャミソールを着て鏡の前でたくさんポーズしたです! 初めて白以外のヤツ買ったです!! みんな恥ずかしい事の1つや2つあるです!! み゛ー!!」


 形勢が逆転した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふふふふっ。クララ! 策に溺れたな!! 私のターンだ!! 来い! 修一!!」


 ポコっと音がして、南雲さんが瑠香にゃんリモートに特殊召喚される。

 通信ならばいざ知らず、空間に降り立った男子は修一くんが初めて。


 修一くんは39歳ですが、39歳女性を女子と呼ぶことはしばしばあるため、ここは修一くんも男子で通したい。

 真の男女平等はここから始まるのだ。


「……なるほど。事情も状況も把握はできませんが。1つだけ分かる事は、京華さんが私を呼んだ。充分です。最近は家を空けがちでしたし。何かご用ですか?」



 あと修一くんはこの世界の構造に対する造詣が深すぎる。

 もうどの時空だろうと何だろうと、基本的に全部受け入れる。


 咀嚼はとうに諦めた。

 噛まずに呑むのが修一スタイル。


 時々我慢できず噴き出す。



「うにゃー」

「あ。椎名くん。そんな格好して。これから呉に出頭するんだよ? 言っとくけど、小坂くんがえらい事になってるからね? 君の場合、これまでは胸だけが起爆装置だったけどさ。今はその私たち中年の社会的地位を殺す太ももだって起爆装置だよ? だって小坂くんより均整がとれていぐぁっ!?」


 見えないナニかでダメージを受けた南雲さんが胸を押さえた。

 だが、言うべきことは言い切った。


 これが愛妻家のパワー。


「修一……! すまん! しかし、やはり私の夫だ!! 世界に自慢できる!! お前は付き合う前から私の事を助けてくれていたな!! よし、ディープキスでもするか!!」


 息を吹き返した京華さん。

 ここぞとばかりに恋愛風紀を乱しにかかる。



 みんな、一体なにと戦っているんだ。



「瑠香にゃん!! 着替えプリーズだにゃ!! 急いでにゃー!!」

「はい。瑠香にゃんです。着替えはありません」


「なんで!? アレでいいぞな! 最初に着てたヤツ! ルベルバックで貰ったヤツ!!」

「あれはウフフン准将が持ち帰りました。椎名クララ記念館に展示するとの事です」


「おじさんの拗らせた性癖ってほんとクソだにゃー。じゃあ、ナニぞな? あたし、爆発確定の場所に爆発しやすい恰好でこれからぶっこまれるのかにゃー?」

「瑠香にゃんは外見の設定にプリンセスマスター莉子の確認も入っているので、瑠香にゃんおっぱいは極めて平均的なものになっています。具体的にはファイティングマスター仁香よりもやや小さいので、プリンセスマスターのシンデレラバストの逆鱗には触れません」


 修一くんが追撃を仕掛ける。


「さっきも言ったけどね。今、呉では女子探索員に退避勧告が出てるんだよ。小坂くんがその、アレがナニしてだね。とにかく、太もも。お尻。そして胸。全部が爆発する。椎名くん。君には期待しているよ。来年度の学費、監察官室の経費で処理するからね。3度目の三年生、楽しんで!」

「すまんな、クララ。私としても心苦しい限りだ。現場で戦い、日常回では掃除をさせ。まったく、猫の勤勉さには頭が下がる。かつお節を用意しておくから。本編も日常回も引き続き頼むぞ。では、私は帰る。胎教に忙しくてな。いや、助かった。これで確実だ。本編に呼ばれず済む」


 京華さんが自力で瑠香にゃんリモートから昇天していった。


「あ。そうそう。木原くんの登録名が芽衣くんに変更されたから。誰が発令したのかは分からないけど、もう芽衣くんで統一しないと世界が滅ぶんだって。これね、日常回時空で周知徹底しておけって、世界の意志が。では、私も戻るよ。チャオ!!」


 南雲さんもチャオる。


 こうして、日常回がスッキリ綺麗に片付いた。

 『RKDNya』の戦いは終わらない。


 この世界に恋愛の火種がくすぶり続ける限り、彼女たちに安息の時は訪れないのだ。

 では、どら猫に続いてご唱和ください。



「恋愛ってクソだにゃー」


 はい。ありがとうございました。



 探索員の仕事は多岐にわたる。

 この世界がどうにかこうにか形を維持していられるのも、彼らが日夜戦い続けているからなのだ。


 頑張れ、探索員。

 負けるな、探索員。


 ダンジョン探索とか全然しなくなったけど。

 これからも世界を守るために命を燃やすのだ。

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