第951話 【六駆と南雲のワクワク部隊編成・その3】ドラフト指名された人たち ~逃げ場なんてなかった。逃げたら苦しむだけだもん。みんな知ってる、分かってる。~

 鹵獲してろくに調べてもない拠点とかいう片道切符で敵の本陣にぶっこむという危険が危ない任務に選出されてしまったメンバーが続々と呉の地に集結し始めていた。

 孫六ランドはあと30分そこらで強制転移する。


 都会の電車は乗り損ねても数分待てば次が来る。

 だが、田舎の電車を舐めてはいけない。


 下手すると2時間くらい次が来ない。


 バルリテロリクソ田舎行きの直通便は間違いなくこれっきり。

 乗り遅れると大損害。

 急ぎ集まってブリーフィングする必要に迫られている。


 門がポコポコポコとわんさか呉に生えて、そのどれもが煌気オーラを注ぎ込まれて効果発現中。

 最初にやって来たのは意外にも彼女たち。


「うにゃー。なんでこんな事になっちゃったんだぞなー。装備はキラキラしてるしー。ラメ付ける意味を問いたいぞなー。あたしスナイパーだぞなー? なんで目立つ必要性があるんだにゃー。出番求めてたあたしは過去の女なのにだにゃー?」


 にゃーにゃー鳴きながらやって来た、椎名クララAランク探索員。

 ここのところやたら見慣れている気もするが、ルベルバック防衛戦以来しばらく休憩していたので体力、煌気オーラともに充填完了。

 元気と気力は最初から実装されていないので、パーフェクトどら猫である。


「ぽこ。早く出てください。入口で立ち止まるのはビジネスシーンにおいてギルティとされています。端的モードに移行。ステータス『こいつ絶対就活で入室と同時に落とされるな』を獲得。ぽこ、このステータスあげる」


 同じく長距離砲担当の跡見瑠香にゃん特務探索員。

 パイセンは狙撃と牽制、瑠香にゃんは狙撃も牽制も一撃必中+殺もできる。


 パイセンいらない説すら出てくる万能なメカ猫。


「よかった! やっぱりクララ先輩がいないと! ねっ! 莉子もいるし!!」

「……帰るぞなー」


「瑠香も今のバージョンになって実戦は初めてなのに連戦させてごめんね!」

「グランドマスター。瑠香にゃんは瑠香にゃんにされてしまいました。残念ですが、瑠香と呼ばれた場合、相手がグランドマスターでも反応に1秒ほどのラグが発生します」


「そうなんだ! じゃあ瑠香にゃん! またクララ先輩とコンビ組んでもらうからさ。クララ先輩の言う事聞いてね! 探索員としてのキャリアは僕より長いし!」

「うにゃー。……うにゃー? ……にゃはー!!」


 どら猫の目が光り、メカ猫の目が曇った。


「ぐ、グランドマスター! ぽこに指揮権を委譲するのは一考の余地があると瑠香にゃんは進言します!! 端的モード。落ち着け、ばか創造主グランドマスター!!」

「仲良くなってる! じゃあ連携もバッチリだ! スナイパーってさ、息が合ってないと複数いるのにむしろ邪魔になったりするからねー。クララ先輩、指導してあげてくださいね! じゃ、僕は他の人を回収するんで!!」


 六駆くんが別の門に駆けて行く。

 しばしの沈黙ののち、どら猫とメカ猫の視線が交差した。


「瑠香にゃーん!!」

「……なんですか。ぽこ」


「違うぞなー?」

「瑠香にゃんはステータス『くっ、殺せ』を獲得しました。1度解放されてからの再度行われる魂の拘束。端的モード。こんなもん屈するやろ。マスターがすごく見て来る。誰か、助けてください」


「やる気が出て来たぞなー!! パイセン頑張るにゃー!!」

「おうち、かえりたい。瑠香にゃん、おうち、かえる」


 チーム猫改め、猫コンビ再結成。

 クララパイセンがまたしてもマスター権限を獲得して、瑠香にゃんの人工知能が退化した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こっちの門からは暗い顔をした老兵と「全日本暴猫連合・なめんなよ」とかつて一世を風靡したなめ猫の鉢巻きを締めた精悍な顔をした男が現れる。


「バニング・ミンガイル。馳せ参じた」

「元気ないですね? バニングさん。どこか具合悪いんですか?」


「いや、なに。私も数多の戦を潜り抜けて来た自負はある。……分かるのだ。死期がな」

「ああ、大丈夫です! 自分が死ぬかもって危機意識持ってる人って大概死にませんから! 油断してないって事ですからね!」


「……六駆! お前にそう言われると不思議とそんな気分になる。やはりお前は私よりもはるかに……。おい、その腕はどうした? 変な方向に曲がってないか?」

「あ、これですか? ちょっと油断しちゃって!!」



「……お前が油断して腕を折るのか? 此度の戦場は。……神よ。私があなたに祈れた義理ではない事は承知している。……せめて、遺された者には安息を」


 無神論者だったバニングさんがどっかの神様を信仰し始めました。



 続いて、老兵の中の老兵。

 中身は後期高齢者で強制若返りとか言う苦行を乗り越えてなおワンコとにゃんこを愛してやまない、わんにゃん正道を往く孤高の執行猶予人。


「師範。よもや私を最前線にお連れ頂けるとはな。光栄だ。サービス殿ではないが、高みに立つ好機と捉えよう。なにせ、みつ子様よりお言葉を賜っている。あんたぁ、ライアンさん! 頑張ったらねぇ、呉におる地域猫ちゃんを何匹かミンスティラリアに連れて来ちゃげようね!! とな。私は頑張らぬ理由を知りたい」


 収監されながら猫が飼えるかもしれない。

 ならばこの命を賭ける価値は充分にあると判断。


 ほんの数か月前までは腐敗した探索員協会の抜本的な改革のために全ての旗に背いてピースに与したライアン・ゲイブラム。

 今はもう未来のにゃんこしか見えない。世界は勝手に腐ってろ。


「みみみっ! なんか呼ばれて来たです!! ノアさんが一生のお願いって言ってたです! 芽衣にできる事があるです?」


 そしてノアちゃんは六駆くんから「莉子を落ち着かせてあげてね。お願い。一生のお願い。ホントのヤツ。僕、色々とやる事があるから!」と押し付けられた任務を、さらに芽衣ちゃんに押し付ける事に成功。

 部長から面倒な案件投げられたら、それをレシーブして同僚にスパイク。


 ひとつの正しい組織の形。

 悲しいけどこれが社畜なのよね。


「芽衣……。本当にありがとう……」

「み゛っ!? 六駆師匠がガチ泣きしてるです!? 芽衣、よく分かんないけど頑張るです!!」


 芽衣ちゃんはぶっこみ隊に含まれていないが、恐らく最高の援軍を得た六駆くん。

 スキップしながら最後の門へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらの門はもう光を放ち終えていた。

 同じく『ゲート』の使い手が転移して来たからである。


「お父さん! そねぇに気負わんのよ!! 肩に力入り過ぎちょるんじゃから!!」

「そうは言うがの。今回は本当に身内の不祥事。六駆が頑張って仕事をしとるのに、ワシら老人が足を引っ張るとは。生活費稼がせとるのもワシらじゃて。ならばケジメは命に代えてもこのワシが……!」



「カッコいい事言わんで! あたしゃ惚れ直しそうじゃけぇ!!」


 ギュオンと風が抉られて、四郎じいちゃんの左腕が変な方向に曲がった。



「みつ子や、ありがとう。冷静さを取り戻せましたぞい」

「あらぁ! ごめんねぇ、お父さん! 照れ隠しが出てしもうちょるねぇ!!」


 逆神四郎。

 逆神みつ子。


 逆神老夫婦が仕上がってから見参。


 そして四郎じいちゃんが負傷。

 同じく肘が変な方向に曲がってる孫がやって来た。


「待ってたよ! じいちゃん、気合入ってるね!」

「六駆もじゃの。まさか孫が腕折るところを目撃するとは。長生きするものですじゃわい」


「アナちゃんのとこに行こうかねぇ! 2人じゃったら15分くらいで治るやろうから! あたしゃ今回は内助の功っちゅうもんを見せるけぇね! 三歩下がってお父さんについて行くよ!!」


 女の嘘と裏切りはアクセサリーです。

 それを許すのが男です。


 ルパンとサンジが言ってた。


「逆神先輩! 本部の福田先輩からサーベイランスで連絡が来たのでお伝えに来ました! メッセンジャーノアちゃんです!! ふんすっ!!」


 ステルスサーベイランスの管理権限者は山根くん。

 山根くんは生きているのか。


「へー? 何かあったって?」

「ややっ! そのお顔は責任から解放されて他人事のように聞き流す構えの時のヤツ!! 逆神六駆ガチ勢のボクは熟知しています!! 本部が襲撃されてるそうです! 非戦闘員を退避させて、残った人員総出で対応するからそっちのサポートは厳しいとの事です!!」



「そうなんだ! 大変だね!!」

「さすが逆神先輩! ボクの期待を裏切らない!! そこに痺れて憧れてついでに興奮します!! ふんすっす!! そうなんだって穴通信で伝えときます!!」


 恐らく決死の思いで行われた通信に対してわざわざ「そうなんだ!」と返信、本部に受信の手間まで取らせる逆神流の師範と門弟。

 この高度な煽りは本家本元にしか出せない味である。



 こうしてバルリテロリぶっこみ隊の人員が揃った。

 ひとまず莉子ちゃん回復地点へと全員が向かう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あらあらー。六駆とお義父さん。こっちに来てくださいねー」


 アナスタシアゾーンに早速入る六駆くんと四郎じいちゃん。

 周囲は特にざわつかない。


「莉子とみつ子殿か。納得。いや、さすがと評するべきか」

「いかに隙を突いても傑出した猛者をもってしてダメージを与える事すら難しいでしょうからな。逆神流とは実に奥深く学ぶべきものが多い」


 バニングさんとライアンさん。

 逆神流被害者の会の役員であり、今は逆神流傘下に所属している2人の言葉には重みがあった。


「ええ……。山根くん? 私、君のサポートもなしでこのメンバーを指揮するの? ワンオペで? ねぇ、ノアくん? 私コーヒー飲んでいいかな? あと何分ある?」

「ええと、25分です! つまり7噴くらいは余裕です!! ふんすっ!!」


「私は心を落ち着けたいんだよ? コーヒー噴きたいんじゃないの。良かったよ。ミンスティラリアから芽衣くんがコーヒーセット持って来てくれて。本当にあの子は日本本部の未来だなぁ……。下宿先の遠藤邸を改築してあげよう。生きて戻れたら」


 当たり判定低めのフラグを立ててコーヒーも点て始めた南雲さん。

 彼の視線の先には、おっぱいに埋まった莉子ちゃんのメンタルサルベージを試みる芽衣ちゃまがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る