第938話 【時系列の乱れる日常回・その9】南雲修一の「あれ!? 私の出番早くない!? なに!? 再評価!?」 ~スカレグラーナのメンズパーティー~

 ほんのちょっと前のスカレグラーナ。


 具体的には南雲監察官がまだナグモさんしてた頃であり、あと数時間で瑠香にゃんリモートによる召集令状が届く時分であった。

 乙女回が消化され切っていないにも関わらず、ナグモさんのご出陣。


 やはりこの世界には苦労人が必要だという事である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ああ! 良かった! バルナルド様! ナポルジュロ様がお目覚めになられましたよ!!」

「まことか、ナグモ。これにて余の友誼を結んだ者たちは皆、生を取り戻すに至ったか……! 実に安堵した。よくぞ戻ってくれた、ナポルジュロよ」


 トリオ・ザ・ドラゴンが復活。

 1000年若いジェロード親方は2時間前に蘇生完了。


「面目次第もございません。我ら、帝竜の盾となり、時に矛となるべき両翼であればこその存在。よもやバルナルド様にご心配をおかけするとは」



 この後、ナポルジュロ氏はバルナルド様との友誼の期間を1000年間違えます。



「良い。余には無用であるが、ナグモに礼を。彼は我ら竜人よりも煌気オーラの扱いに長けておる。卿らの看護も率先してやってくれた」

「これはナグモ殿。このナポルジュロ、ご恩はすぐにお返ししましょう」


「いえいえ。ご無事で何よりです。安心しました」

「ううむ。些か思考が晴れず、霞がかっているような感覚に襲われますな……」


 太陽の直撃喰らいましたからね。


 バルナルド様が「致し方あるまい」と情状酌量なされる。

 続けて寛大なる御言葉を口にされた。


「卿も加わると良い。ナグモと共に3日3晩続けておった叡智の会話に」

「ほう。それは興味がありまする。是非、我もお加えください。して、ナグモ殿。今は何についてお話になられておったか?」



「はい。自分のCVをどの声優さんに担当してもらおうかという議題で、1時間半ほど議論しているところです」


 クソみたいな話をしていた帝竜と筆頭監察官であった。



 なお、ホマッハ族も家族であり守護神でもあるトリオ・ザ・ドラゴンの介護には協力的であり、定期的に食事や飲料水などを持って数人が会話の輪に入っては消えていく。

 ピクミンを想像して頂けると描写が捗るものの、このホマッハピクミンは何しても死なない。


「やはり若年者の意見から聞くべきであろう」

「えっ。私ですか? 参ったな。少し厚かましくても良いですか? ……緑川光さんが良いなぁと昔から考えていまして。渋めの声がいいなぁ!」



「ナグモ! ホントに厚かましくて草!」

「ナグモ! そこまで逝くと草枯れる!!」

「ナグモ! 闇の炎に抱かれて眠れ!! バカが!!」

「ナグモ! 身の丈弁えろ! ナグモ!!」


 ホマッハ族にぶっ叩かれながらナグモさんはナポルジュロに「これが冥竜化であるぞ」と新形態の修業を超スピードでこなしております。



「ふっ。卿はまだ若い。ちな、余は梅原裕一郎くん」



「ナルド! 玄田哲章定期!!」

「ナルドは小杉十郎太!!」

「その見た目で女子ウケ希望とかクズ過ぎワロタ!!」


 バルナルド様はスカレグラーナを古龍の姿に戻ってまで護ったのになんか叩かれる。

 ナグモさんが「くくくっ!!」とか闇属性の笑い方を習得した。



 こうなるとなにを言っても叩かれる流れを察知する。

 寡黙なジェロード親方は端的に呟く。

 短く、簡潔に消化するのが最もダメージが少ない。


「我は何でも良いが。津田健次郎なる御仁。この男からは魅力を感じる」


「ジェロはあり!」

「ジェロ!!」

「ジェロ! ジェロ!! 家直してくれてありがと、ジェロ!!」


 ジェロード親方は普段からホマッハ族のために家事をこなして鍛冶を師事しているので、彼らから忖度されております。

 ならば乗るしかない、このビッグウェーブに。


 ナポルジュロも勢いのままに発言。


「このナポルジュロ……。中尾隆聖殿……いや、大塚芳忠殿……」


「ナポはチョー! 千葉繁みもある!」

「ナポは三ツ矢雄二!」

「ナポ、界王神様ワロス!」

「とんがり!! 置きに行くな、ナポ!!」


 抗うのが冥竜人ナポルジュロ。


「三ツ矢雄二殿……。光栄の至り。シャカですな」


「界王神様ワロタ!!」

「情報伝達しないとこ似てる!」

「フリーザくらい一撃ワロス!!」


 結局理想のCVをゲットできたのはジェロード親方だけ。

 ナグモさんに至っては「厚かましい」と言われただけで代替案すらもらえず。


 最後にもう一度「緑川光さんが」と言いかけたところ「謎のトレンディ俳優に声当てられて炎上しろ!!」とユニゾン攻撃を受けてこの話題は終わった。

 お気づきだろうか。


 スカレグラーナ回はオタクがファミレスでドリンクバーと山盛りポテトフライでオールしながら駄弁る形が定着しつつある。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません! お待たせしましたー! ナグモさん用のお芋蒸かしたヤツを持って来ましたー!!」


 彼女はホマッハ族の娘。

 ルッキーナちゃん。


 スカレグラーナ編で出て来た少女であり、六駆くんにうっかり殺っちまわれそうになった非戦闘員第一号はこの子。

 ホマッハ族は男が背丈の低いドワーフタイプで女に関しては人間とそう変わらない。


 そんな風に明言されていた事もあったが、ルッキーナちゃん以外の女子が出てこなかった。


 ゆえにトリオ・ザ・ドラゴンの頭脳担当ナポルジュロが仮説を立てた。

 ホマッハ族は知能が低い訳ではないが、語彙が少ない事で知られている。

 これは少ない語彙で意思疎通ができるというむしろ上位生物の証。


 だけど他種族との交流は捗らない。


 そんな中ルッキーナちゃんはしっかりと語彙力があり、下手するとやる気のない時のどら猫よりもたくさん単語を話せる賢い子。

 冥竜人の調査によると、彼女は突然変異種。

 語彙力強者なホマッハ族が誕生する確率はおおよそ100000分の1。


 今のホマッハ族の人口は約30000人。


 現在、ルッキーナちゃんはスカレグラーナのイヴとして保護されている。

 ホマッハ族の寿命はクソ長く、若い頃の姿を維持できる期間もクソ長いのでアダムの登場はのんびり待っていても平気である。


「あの。ナグモさん」

「うん。なにかな?」



「私、思うんですけど。自分のクソみたいなお声があるのに、それを他人の優れた声で上書きしてもらおうって考え方。虚しくないですか? あと卑しいかもです」

「えっ」


 感性はホマッハ族と同じなので、ナグモに対しては辛辣。

 可愛らしい見た目なのに太陽が降り注ぐスカレグラーナで平然と生存しているので、心身ともに逞しい乙女である



 ルッキーナちゃんが芋を置いて去っていった。

 こちらでも把握できていない彼女の母ちゃんの消息をご存じの方がおられましたら、魔王城のみみみお客様相談センターまで出頭願います。


 ナグモ特製ブロマイド(限定チャオバージョン)が進呈されます。

 キラキラしていますので、お急ぎください。

 山根くんがナグモ結婚式に際して作成した限定品で、在庫はあと2500枚しかありません。


 それから「自家用モビルスーツ持つならどれにする?」とおっさんが集まると誰ともなく始める毒にも薬にもならないテーマの雑談が始まった。

 水星の魔女に出てくるモビルスーツってシュッとし過ぎててなんか頼りないよね。

 やっぱりジムかネモだよ。維持費安そう。


 ナグモさんがそう言ったところで、舞台は同時間軸の現世へと移った。

 この異世界ではもうちょっとしたらムリポが蘇生して、ナグモさんが召集令状を受け取るだけなのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とあるマンション。


「よし。正直助かる。芽衣回と旦那回。2度も出ておけば間違っても本編で戦場に呼びつけられる事は無かろう」


 バルリテロリ編をずっと日常サイドで生きている京華さんであった。

 この世界では本編から完全に外れる事が叶うと俯瞰して干渉できるようになるらしく、「妊婦に戦わせる」というあってはならない事態を未然に潰すべく京華さん妊婦本人が立ち上がっていた。


 なにせ人手が足りない。

 さらに乙女が足りない。


 援軍を出す必要に迫られるのは確定的なのに、ガチャ回したら9割おっさんが出てくるという地獄の縛りプレイも確定的。

 妊婦だろうと戦場に駆り出されかねないのである。


「知っているぞ。和泉に無理言って監察官にさせた経緯がまだ生きているな? つまり、雨宮のクソバカ痴れ者が真面目に働いた結果、総司令官が不在になって私にお鉢が回って来る。これが最もあり得る展開だ。冗談ではない。腹に赤ん坊が2人もいるのに、どうしてティラミスが降って来る戦場に戻らねばならん。何のための産休だ」


 京華さんは日常回で安全マージンを確保しておきたい構え。

 ここさえ逃げ切れば、未来編とかが来ない限り完全に子育てママとしてきたねぇ戦場からバイバイできる。


 一部の者は出番を求める傾向にあるが、日本本部の最高指揮官なんて外れポジションに戻るくらいなら日常回でたまに顔を出して芽衣ちゃまに慕われている今の立ち位置の方がずっと良いのは明確である。


「よし。ナレーションも悪くないな。あとは危険の種を握りつぶしておくか。春香が非常にきな臭い。あいつ、妊娠してる可能性があるからな。ピンチに陥って私に連絡して来る……。むっ!? これ、相当あるパターンだな!? 確か旦那に下着を全滅させられなくなったから新しいものが買えないと嘆いていたか。……アマゾンでポチッてシルクのヤツを送っておこう。これで山根が洗濯をミスれば、春香がキレて自分で戦うだろう。私が体術を指導したのだから、最悪の場合でも師匠ポジを堅守して……。うむ。窮地に陥ったら通信で出演して、あの特訓を思い出せとか言ってから私の奥義を1つくれてやればよかろう。……さて。クラシック聴いて胎教しながら寝るか!!」


 京華さんはフェードアウト希望。

 出番を求める者からは出番が奪われ、出番はいらんと唾棄する者には出番が届けられる。


 まったく、世界とは不条理に満ちておりますな。

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