第934話 【時系列の乱れる日常回・その5】塚地小鳩の「わたくしだって! あっくんさんとのラブラブ話くらいありますわよ!!」 ~ドロドロ系ラブコメに疲れた人向けなピュアピュアお姉さん(23)の回~

 塚地小鳩お姉さん。

 23歳。実はもうすぐ24歳。


 乙女の平均より身長が高く、胸部装甲も大変ふっくら。

 それでいて日々鍛錬を欠かさないので出るべきところ以外は引っ込んでいるという理想的な体型の持ち主。


 本人は「スタイルなんて視覚的な情報に過ぎませんわ。探索員としていかに活かせるか。それだけですわよ」と意に介していなかった。

 なにゆえ過去形なのか。


 諸君は違和感を覚えたはずである。

 「小鳩さんそんな事言ってたか?」と。


 言っている。



 2年くらい前に。

 最近は全然言ってない。



 相変わらずストイックに鍛錬を続けており、攻防一体の久坂流を継承した万能タイプのスキル使い。

 前に出て攻めるも良し、退いて守るも良し、盾にもなれる、遠距離から牽制もできる。


 何でもできる小鳩さんだが、初登場時はぼっちでコミュ症拗らせていた。

 しかしこれはストイックが過ぎた点と久坂剣友を師匠に持った結果、監察官室に同年代どころか所属している探索員すらおらず、致命的に外界との接触が不足していた事に起因するため、どら猫みたいに先天的かつ積極的なぼっちとは違う。


 そんな小鳩さんはチーム莉子の良きお姉さんとしてパーティーを支えながら、自身の春もゲットに至る。

 お相手はかつて悪行三昧すしざんまいを極めていた阿久津丈太特務探索員。


 最も漂白された男として呼び声高い、今では日本本部の便利屋と頼れる兄貴分を兼任する、通称あっくん。


 当初こそ「あぁ? 俺につがい作る資格なんかねぇんだよなぁ」と小鳩さんにも冷たくしていたが、ナグモ結婚式辺りでレクリエーション活動に駆り出され過ぎた結果、あっくんがさらに軟化。

 そこからは早かった。


 クリスマスにもあっくんの自宅(ラブホテル)で一夜を過ごしている。


 これはクリスマス翌日から続く、小鳩さんの愛がラブラブで運命的なディスティニーのヒストリーと歴史である。

 日本語が不自由になるくらいには甘い。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔王城で朝ごはんを作ると門の中に消えていく小鳩さん。

 時間は朝の6時頃が最も多く、早朝になれば芽衣ちゃんとノアちゃんくらいしか活動していない。


「申し訳ありませんわ。芽衣さん、うちの猫のお世話をお願いしますわね」

「みっ! クララ先輩にはご飯あげておくです!!」


「ノアさん。うちの猫に運動させておいてくださいまし」

「ふんすっ!! 後でおっぱいにフライングクロスチョップしておきます!」


 描かれていないだけで未だにクララパイセンの飼い主として奮闘中の小鳩さん。

 大学が休みになると1日中部屋から出てこないのは割とよくあるし、調子が良いと3日出てこない事もある。


 魔王城はシミリート技師による超絶改修が絶えず行われているので、個室にはバストイレ完備、冷蔵庫には1週間分の食料が収納可能、洗濯機は狭くなるのでパイセン部屋にはないがそもそも空調も完璧なので着るものがなくなれば服を脱ぐ。

 こんなパイセンがどうにか社会性を失っていないのは、小鳩お姉さんが毎朝しっかりとスケジュールを組んで面倒を見ているから。


 クリスマス直後の時分は既に莉子ちゃんの食事制限が解除されていたので、小鳩さんはチーム莉子のどら猫の飼い主専任になっている。



 今、莉子ちゃんのショートパンツの話はしていません。



「では、しばらく留守にさせて頂きますわ!」

「ややっ! さてはあっくん先輩とイチャイチャですね!! 何するんですか!? ボクはとっても興味があります!!」


「も、もう! そんなイチャイチャなんてしませんわよ! ……す、少しだけですわ!」

「みみっ! みみみみっ!!」


「きょ、今日はですわね……。内緒ですわよ? わたくしとあっくんさん、お揃いのマグカップを使っているんですけれど。そ、その! 悪い事しますわ!! あっくんさんには秘密で!! い、入れ替えますのよ! マグカップ!!」


「おおー」

「みみっ」



「間接キッスですわ!! ……どうしましょう。胸がもうドキドキして。恋を知ると悪い事もできてしまうのですわね。莉子さんのお気持ち、今ならとっても分かりますわ! では!! い、行ってまいりまひゅ!!」


 お友達の佳純さんに良くない触発をされるまであと10日ほどである。



 門の中へと消えていったお姉さんの後姿を見送って、ちびっ子コンビが短く感想を述べあった。


「みっ。小鳩さん、可愛いです」

「分かります。あれは作り物じゃ出せないピュアさです」


 「みー」「ふんすー」と鳴きあった非恋愛系年下コンビはどら猫のお世話に向かうのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 久坂家。あっくんの別宅(ラブホテル)に小鳩さんが入城。

 大晦日までの間、久坂家は「小鳩とジョーちゃんアツアツ期間」と定められており、極力若い2人への接触を避けていた。


 特に五十五くんが旗振り役を買って出た事が大きい。


「すまんのぉ。五十五ばっかりに家事させてのぉ。ハゲがいけんのじゃで? こやつ容疑者のくせに食いまくるんじゃもん」

「かっかっか。剣友はすっかり食が細くなっちまってまあ! じいさんだねえ!」


「おどれの方が年上じゃろが! ほれぇ! リオレイアそっち行ったで! 違うじゃろが、ハゲぇ! まだ飛びよるのに罠置くな!!」

「剣友よ。罠ってえのはな? 仕込みが大事なんだぜ?」


「そんな隅っこに置いてなにドヤっちょるんじゃ! あーあー。乙っちょる。ダメじゃ、このハゲ。ぜーんぜん使えん」

「剣友! はちみつくれ!!」


 まだバルリテロリに侵攻されていないため、辻堂甲陽容疑者は久坂剣友保護観察官とモンハンプレイ中。

 たまに遊びに来る若い衆にスキルを教えり、逆に習ったりしている。


 ノアちゃんが穴の情報を流出させたり、辻堂さんから逆輸入したりしていたのもこの頃。


「辻堂甲陽! すまないが、近距離転移でこのミルフィーユを兄上の城に送ってもらえないだろうか!!」


 容疑者がもうスキル使ってた件。


「剣友の許可がありゃあな! やるぜ?」

「おどれ、ええ加減にせぇよ。ワシに規律違反ばっかさせよってから! 家族範囲じゃからセーフ! ほれ! 枷外したで!!」


 久坂さんが割とガバガバなのは昔から変わっていなかったりする。

 家族ファーストのじい様は規則で縛られない。


「あいよ! 手刀で行くかい!! ぬぅん! 『断絶ブレイク八連貫デリバリー』!!!」


 ゴォン、ゴォンと空間が削り取られ、ミルフィーユの載った皿だけが少しずつ遠ざかっていく。

 「……案外便利なのが腹立つんじゃ。ハゲ、ついでにリモコンもそれで取ってくれぇ。音が小そうてリオレウスがどこおるんか分からん。リオレイアはハゲを襲いよるのぉ」と言った久坂さんはそのままモンハンに勤しんだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そしてラブホテル。

 失礼、あっくん宅。


「あぁ? ……まーた辻堂のおっさんかぁ? 空間貫いて菓子送ってくんじゃねぇよ。なんつースキルの使い方だぁ?」

「あああ、あ、あああ、あああ、あっくくく、あっくんさん!!」


 もうこれだけで全てを察するあっくん。



 「こいつ、なんかやりてぇ事があんだなぁ?」と目を細めて菩薩みたいになる。



 デキる男は行動が速い。

 「まぁ、菓子に罪はねぇからよぉ。この意識高ぇミルフィーユも五十五が作ってくれたもんだしなぁ? 食うとするかぁ」と言って、ひとまず小鳩さんの出方を伺う。


「そそそ、そうですわね!! あああ! あっくんさん、お飲み物のおかわりが必要じゃありませんこと!? ミルフィーユなんて、もう! 口の中が砂漠化しますもの!! 五十五さんも困ったものですわ! まったく困ったものですわ!! こんな水不足を多発させるお菓子をわざわざ6時間かけて作ってくださるなんて!! ほんと、お姉ちゃん困りますわ!!」


 「あぁ。お姉ちゃんが頼みやがってんなぁ?」とさすがの洞察力で2歩ほど進捗。

 まだマグカップにはコーヒーが入っている。


 ついさっき小鳩さんが淹れてくれたアツアツのコーヒーがなみなみと。

 それを無言で一気飲みしたあっくん。


「ぐぅ……。……ちっ。ったくよぉ。喉が渇いて仕方ねぇなぁ!」

「そ、そうですわよね!! もう! 仕方ないですわよ!! 淹れますわ! おコーヒー!! あ、お紅茶の方がよろしいですわね!?」


 小鳩さんがキッチン(ピンクの大理石)に立って、鼻歌まじりで紅茶を淹れる。

 あっくんは無糖派。


 おわかりいただけただろうか。


 小鳩さんの作戦はこうである。


 第一段階。

 あっくんさんのマグカップのお紅茶にお砂糖をぶち込みますわ。


 第二段階。

 あっくんさんが「あぁ? 砂糖入ってんぞぉ? くははっ。抜けてんなぁ」とシニカルな笑顔を見せてくださいますわ。

 ステキなメモリーも胸の格納庫にゲットですわよ。


 第三段階。

 あっくんさんが「……ちっ。小鳩ぉ。おめーのカップ、まだ砂糖入れてねぇならよぉ。取り替えてくれっか?」と言えばミッションコンプリートですわ。


 いざ、実践。いやさ実戦。

 「常に先を読め」とは久坂流の教えである。


 あっくんのマグカップに角砂糖を30個ほどぶち込んだ小鳩さん。

 笑顔でテーブルに戻って来る。


「おおお、お待たせいたしましたわ!! ささっ! お熱いうちにお召し上がりくださいませ!!」

「あぁ。………………」


 あっくんの紅茶は莉子ちゃん専用魔ミルクティーに匹敵する甘さを発揮していた。

 だが、ここで想定外の事態が起きる。


 「小鳩のヤツぁ……。気もそぞろってかぁ? なんか知らねぇけどよぉ、こんなミスするほど夢中になってる事があんなら……指摘すんのも気の毒って話なんだよなぁ」と、不必要なイケメンを発揮。



 普通にくっそ甘い紅茶でミルフィーユをお召し上がりになられた。



 30分ほど経ってから、ふくれっ面の小鳩さんに気付いたあっくん。


「あぁ? どうしたってんだぁ?」

「知りませんわ! あっくんさんなんて知りませんわ!! 糖尿病になったらどうするんですの!! もう! もうもう、もうですわ!!」


 小鳩さんは間接キッスの味もまだ知らない。

 あっくんが「なんかこいつぁ。ちっとよぉ。……可愛いじゃねぇか」と愛を深めた事も小鳩さんは知らない。

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