第933話 【時系列の乱れる日常回・その4】木原芽衣ちゃまのお姉さん格付け発表会!! ~全てのお姉さんが固唾を呑むイベント発生。イベントの性質上パラレル空間です。~

 ここは世界で最も大事な情報が秘匿される空間。

 その名も瑠香にゃんリモート。


 時系列とかよく分からないが、第三者機関『RKDNya』によって使用される超絶セキュリティの施された電子時空に彼女が呼ばれていた。


「みっ。なんか連れて来られたです。みみっ」


 木原芽衣ちゃまである。

 彼女のプライバシーは国家機密よりも重く、彼女のプライベートは相手が死海文書でも「そこをどけ」と言って21世紀最大の歴史的事実として扱われる。


「申し訳ありません、ピュアマスター。ワタシは見えない力に逆らえませんでした。もう瑠香にゃんリモートが解放されてしまったので、目的が果たされるまで瑠香にゃんたちは脱出不可能です」

「みみっ。芽衣は慣れっこです! みっ!!」


 暗躍したのはこの2人。


「にゃーっはっはー!! 今日は芽衣ちゃんが誰を、いやさ、あたしを! 1番お姉ちゃんとして慕っているのか! ハッキリさせるための回だぞなー!! ここならぶっちゃけトークも全然イケちゃうにゃー!! 芽衣ちゃんの心の中を覗いてみたい! そんなご要望にお応えするのが我々『RKDNya』ですにゃー!!」


 「恋愛ってクソだにゃー」の成分がまるでない件。


「それでは! 司会進行はボク! 芽衣先輩の後輩にして忠実なる僕!! 平山ノアが担当します!! この世界にはお姉さんが増えています! ならば! お姉さん格付けチェックをしなければなりません!! それが秩序を保つためには大事!! 芽衣先輩はまず、ウェルカム筑前煮をお召し上がりください! ふんすー!!」

「みみぃ! 芽衣、大好物です!! いただきますです!! みーみー!!」


 芽衣ちゃまは煮物が好きな女子高生です。

 しぐれ煮やブリ大根もこよなく愛しています。


「にゃっふっふー。こんな茶番、さっさと終わらせてしまっても構わんのだぞな? 芽衣ちゃん! あたしが1番のお姉さんだと言ってしまうのだにゃー! そして余った尺であたしがヘブバンの魅力を語るぞなー!!」


 芽衣ちゃんが筑前煮を堪能してからお茶をズズッと啜ってにっこり笑った。



「みっ! クララ先輩はお友達です! お姉さんと思ったこと……みー。よく考えたらないです!! みみっ!」

「え゛。にゃん……だと……。あたし、しばらく横になるぞな……」


 1つ前で日常回やってるのにこっちでも主役に躍り出ようとはなんと愚かな。

 どら猫が倒れた。



 どら猫の代わりを引き継ぐのはメカ猫の瑠香にゃん。

 マスター権限を回収してもなんだかんだパイセンには甘いのがこちらのロボ子。


「ピュアマスターの親しくしておられるお姉さんと言えば、やはりファイティング仁香マスターでしょうか。最近のプライベートで一緒にいる率、50パーセントオーバーを算出」


 自分の日常回の出番を控えている仁香さんだが、自宅のマンションで言い知れない不安に駆られたという。

 最近はブースター扱いされている程よいサイズのおっぱいをギュっと押さえる。


「みみっ。仁香さんは芽衣のお姉さんです。とっても頼りになるです!」


 仁香さんが無言でガッツポーズをした。


「はい! 芽衣先輩!! では、佳純先輩とはどちらがお姉さんでしょうか!!」

「みみー? みー。みみみー。難しいです。みみみみみっ」


 描かれていないだけで意外と普段から絡みのある佳純さん。

 最近は「芽衣ちゃんも飲む? スッポンエキス!!」と、芽衣ちゃま党員的にはありなのかなしなのか判断が分かれそうなプレゼンテーションを仕掛けている。


「みー。佳純さんはお姉さんって言うより、お姉ちゃんって感じです! 仁香さんはお姉さんって感じです!! みみっ!」



 仁香さんが無言でベッドにダイブして、枕を抱きしめた後でジタバタした。

 佳純さんは別の事が忙しいので「それでも嬉しいよ!!」と笑顔のご様子。



「暫定王者はファイティングマスターです。残るは……」

「みっ。瑠香にゃんさんも芽衣にとってはお姉ちゃんです! 瑠香にゃんお姉ちゃんです!! みみっ!!」


「は? ……人工知能に乱れが発生。ステータス『それもう1回言って』を獲得。すぐに行使します」

「みみぃ! 瑠香にゃんさんは物知りで、冷静で、とっても頼りになるです! 早く一緒にお出かけとかしたいです!! みみみっ!」


「あ゛。これは堪らんぞな。はっ? ワタシは今、ナニを? 瑠香にゃんの人工知能がフットーしそうです。ステータス『萌え萌えずきゅぅぅぅん』を認識。瑠香にゃんは横になります」


 どら猫の隣にメカ猫が転がった。

 猫がいなくなり、残ったのは後輩だけ。


「うああー。芽衣先輩パワーで大変な事に……!! ですが、ボクもジャーナリストととして! この調査を最後まで完遂して見せます! ふんふんすっ!!」


 ノアちゃんはいつからジャーナリストになったのでしょうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それからリャンちゃんが「みみっ! 仲良しの先輩です!!」と認定され、アリナさんが「みっ! 人生の大先輩です!!」と認定される。

 両人とも大変ほっこりした。


「ここに触れるしかありません。大丈夫、ここは超秘匿空間……! 大丈夫です!!」


 ノアちゃんが緊張した面持ちであまり口に出すと良い事がない彼女の名前を呼んだ。


「り、莉子先輩はどうでしょうか?」

「みっ」



 莉子ちゃんがパーティーメンバーたちにヴォルデモート卿みたいな扱いをされ始める。



「みっ。みみっ……。莉子先輩とは、ずっと一緒に苦楽を共にしてきたです! だから、お姉さんとかそーゆう目では見られないです! みぃ!!」


 そして「とってもいい人だけど恋愛対象としては見られないの」みたいに、なんかフラれる。

 莉子ちゃんは誰よりもそれどころじゃないので、感想は受信されませんでした。


「さすがです、芽衣先輩! もうその受け流しスキルは匠の領域!! では、小鳩先輩はどうですか?」

「みー。小鳩さんはとってもステキなお姉さんです!!」


 最近はちょっと恋愛熱に侵されて、キッスする準備に忙しいせいで霊圧が消えがちな小鳩お姉さん。

 だが、チーム莉子のお姉さんと言えば彼女。


 特にアトミルカ殲滅戦までは彼女がいなければ5回くらい全滅余裕だったと思われるほど縁の下のお姉さんとしてチームを支えて来た。

 それまで当時15歳だった芽衣ちゃんがずっと支えて来たチーム莉子なにやってんねん、君たちの守護者で保護者になってくれた彼女は今、どの位置にいるのか。


 仁香さんが秘匿空間であるはずの瑠香にゃんリモートに耳を澄ませる。

 なんで彼女は色々と察する事ができるのだろうか。


 多分、普段から付き合っている相手の質が悪すぎるせいでこのように静謐な存在の感知を無自覚にしてしまうのだろう。


「みみみっ。小鳩さんは特別お姉さんです! でも、小鳩さんは今、とっても大事な時期です! キッスするんですわ、わたくし!! って言ってたです! 芽衣はご迷惑かけたくないです! がっつりキッスして欲しいです! だから、ヴェルタースオリジナルです!!」



「出ましたぁ! ヴェルタースオリジナル!! 小鳩先輩! オンリーワンだけどナンバーワンにはなれず!! きっと時空がもう少し昔だったら違ったと思います!!」


 芽衣ちゃま、もう全お姉さんに自分の発言を観測されている事にも気付いている節がある。

 その上での言葉選び。大変に良い子。



 これでお姉さんの格付けは完了か。

 仁香さんが枕を抱きしめてベッドの上でコロコロしている。


 かつてないほどの笑顔で喜びを隠しきれない様子。

 生の声をお届けできないのが実に残念。


「では! 芽衣先輩のお姉さんランキングの現王者は仁香先輩ということでよろしいですか!! よろしいですね!! じゃあ帰りましょう!! ボクも感じる殺気みたいな煌気オーラ!! これ莉子先輩のヤツです!! 帰りましょう!!」


 だが、芽衣ちゃんは首を横に振った。

 続けてとある乙女の名前を呼ぶ。


「みみっ! 芽衣、お会いした時からお姉さんって思ってる人がいるです! 優しくて強くて頼りになって、芽衣の事をいつも気にかけてくれるです! みみみっ!!」

「芽衣先輩? 大きいお友達はカウントしたら暴動が起きるのでヤメた方がいいと思います。それ、お姉さんじゃなくて大半がおっさんです」


「みー? 京華さんです! 芽衣、お母さんとお父さん、嫌いじゃないです。けど、今は離れて暮らしてるです」


 芽衣ちゃんママと芽衣ちゃんパパは善人だが押しに弱く、どこぞのおじ様に「うぉぉぉぉぉぉん! 芽衣ちゃまは任せとけよぉぉぉぉぉ!!」と言われて「まあ、芽衣のためになるなら……」と黙認した経緯がある。

 そのため、現在は盆と正月に帰省した際顔を合わせる程度。


 この正月は帰省すらしてねぇ。

 挨拶は電話で済ませた。


 だが芽衣ちゃまは16歳。


 色々と思春期乙女ならではの悩みだって抱えており、それを全て吐き出しても良い相手ともなれば相当な包容力が求められる。


「みー。京華さんがお姉さんだったら良いなってずっと思ってるです!!」


 とあるマンションで煌気オーラ爆発バーストが観測され、とあるマンションで暫定王者お姉さんがベッドから転がり落ちた。


「なんと! ちなみに、1番大きな要因は何でしょうか!!」

「みっ!」


 それはとてもシンプルだが、とても大事なファクターだった。



「みみみみっ! おじ様から守ってくれるからです!! みぃ!!」


 それは確かに京華さんにしかできない。

 京華さんの中で木原監察官の評価が上昇した。


 「ほどほどに迷惑をかけろ。その後で私が斬り伏せる」と叔父・即・斬を心に誓う。



 こうして、芽衣ちゃま党員の知りたい情報がまた1つ世界へと布教された。

 最後に芽衣ちゃんがにっこりとはにかんだ。


「みみみっ。でも、芽衣はみんなみーんな、大好きです! 芽衣は逃げてるばっかりのダメな子だったのに、みんなとっても優しかったです! 今は恩返しをたくさんしていきたいです! みっ!」


 芽衣ちゃまがビシッと敬礼をした。

 こんな訳の分からない空間に召喚されてもなお、彼女の心は清らかだった。


 党員はご起立脱帽の上、党歌をご斉唱ください。

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