第651話 【反逆のストウェア・その11】タイムリミット

 雨宮順平上級監察官の号令で、一旦全員がストウェアの甲板に集結する。

 この対応は読み間違えると「撤収するふりしたライアンかペヒペヒエスによるストウェアに対する集中攻撃」の危険を孕むが、雨宮さんは当然理解している。


 最近このおじさんはやたらと綺麗になってしまったので、戦場でもただの有能で陽気なおじさんである。


 そんな上級監察官が共闘メンバーの集合を決断したのは、ピース所属姫島幽星による「ライアン・ゲイブラムと言う男は仲間意識が高いため、ペヒペヒエスの提案を無視して単騎行動を取る事はなかろう」と言う情報がベースとなっている。


 変態の言う事を真に受けて大丈夫なのだろうか。


 すると、ナディア・ルクレールもそれに同意した。

 「ライアンさんは効率厨だけどねー。組織の調律を第一に考えてるから平気だよー。あと、ペヒさんは研究のためなら敵とか普通に無視するしー。大丈夫だと思うよー」と彼女が言ったので、雨宮、川端、水戸のおっぱいトリオは「よし! 問題ないな!!」と判断。


 おっぱいは嘘つかない。



 なお、青山仁香さんが嫌悪感を隠すことなく表情に出しておられました。



 という訳で、ストウェアに日本探索員協会の監察官とピースの調律人バランサーが揃う。

 共通の敵を相手にした際に発生する、敵対勢力2組による合同任務。

 これは実に燃える展開。


 失礼。リア充死ね死ね団を忘れておりました。

 3つの勢力です。


「はーい! 煌気オーラ感知できる人ー!! 空を見上げましょうねー!! あそこで元気に号泣しながら飛び回っているのは、うちの雷門さんが元になった子で、今は空飛ぶ超規模爆弾でーす。これが爆発すると、私たち日本もどえらい目に遭いますねー。主に責任的なアレで!!」


 監察官トリオ、青山さん、ナディア、姫島、バンバン、ワチエ氏が空を見上げる。

 ダンク、ライラ両名も煌気オーラ感知はできるが、それよりも気になるものがあるのでそっちを見ていた。


「いや! 雨宮!! あんた、腕ないじゃん!? すっごい血が出てるし!! なんでそんな冷静なんだよ!? 怖いよ、あたし!! サイコパスなんじゃないの!?」

「隻腕の侍ってイカすよな……!! クールだぜぇ、雨宮!!」


 そう言えばペヒやんの奇襲によって、左腕を付け根から吹き飛ばされていた雨宮さん。

 本当に腕を欠損したのがこの人で良かった。


「あららー! 忘れてたよー! 痛覚遮断してたからさー!! じゃ、治しますねー!! よいしょー!! 『新緑の眩しい緑の緑は実に緑モリモリモリグリーングリーン』!!!」


 一瞬で失った左腕が再生された。

 これは膨大な煌気オーラを消費するが、死んでいなければ大半の欠損を瞬時に修復できる、雨宮順平が持つ極大スキルの1つである。


「あー。ごめんねー! 今で私、煌気オーラなくなっちったー!!」


 左腕の代わりに、最強戦力を失ったストウェア。


「なにやってんですか! 雨宮さん!! あなたこの場で一番強いのに!! これが師匠とか、本当に恥ずかしいですよ! ねぇ、青山さん!!」

「あ。はい。そうですね」


 水戸くんは今回かなりの活躍を見せたが、その代償として青山さんの中で好感度が爆下がりしていた。

 これぞ等価交換、諸刃の剣とも言える『おっぱい呪法』である。


「雨宮さん。ここは私が仕切るべきかと」

「あらー! 川端さん! いつからそんな参謀ポジションに!?」


「ストウェアの調律人バランサーと雨宮さんと水戸くんに青山さん。全員の特性を理解しているのは私だけです。ぐっ……」


 そう言うと、川端さんは甲板に崩れ落ちた。

 実は男爵、両足を骨折している。

 自分でも何か所なのか把握できない程の重傷であり、戦いが終わるとさすがに痛みを無視しろと言うのは酷な状況。


 そんな川端男爵の手が、優しく温かく柔らかいものに触れた。


「これは頑張ってくれた川端さんにご褒美ですよー」


 おっぱいである。ナディアさんのおっぱいであった。


「ダンクくん、転移スキルはまだ使えるか!? バンバンくん、煌気オーラ干渉スキルは!? ライラさんは草が出せるか!? ワチエくん、もう少し頑張れ! 姫島は死ね!!」

「川端さん……! ついに人生のバートナーおっぱいと巡り合ったんだね……。私ね、決めた。迷ってたけど。決めたよ。本部に報告しとく!!」



「ヤメてください。カルケルにもウォーロストにもおっぱいはありません。私、副司令官やってたんですから、知っています」

「冗談じゃないのー! さあ! おっぱいで活性化した、川端色の采配を見せてー!!」



 このやり取りを見ていた調律人バランサーたちは「日本ってすげぇ」と畏敬の念を抱いたという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 簡単に状況を整理しよう。


 ダンクの転移スキルはあと1回可能だが、明確な煌気オーラの目印がないと厳しい。

 バンバンはまだ飛べるし煌気オーラを掴める。さすがはパリピ。

 ライラは余力あり。だが、活路を見出す類のスキルは覚えていない。

 ナディアも余力は充分。彼女は捕縛系のスキルも使えるキーパーソン。

 ワチエ氏は意識を取り戻した。

 姫島はどっか行った。


「こんな事を頼むのは気が引ける……。が、猶予もない。青山さん。力を貸してくれるか」

「あ、はい。良いですけど。川端さんもセクハラ監察官だったんですね。ショックです。結構尊敬してたんですけど」



「待ってくれ! 青山さん! 君を邪な目で見てはいない! 残念だが、君では力不足だ! ああ、力と言うのはおっぱい力の事であり、勘違いしないごはぁっ」

「はー。帰ったら、絶対に焼肉食べよ。普段は行かない高いお店に行っちゃう」



 最近あまりにも普通に監察官をぶん殴るので、「青山さん相当強いんじゃないか疑惑」が持ち上がっている。

 彼女の移動速度は相当なもので、消耗しているメンバーの中では確実に一等賞。


 行動開始である。


 青山さんがナディアさんを引っ張って暴走している号泣アァァァΛ型に接近。

 注意を引きつけた状態で、バンバンによる煌気オーラ搾取で動きを止める。

 ライラの草スキルで可能な限り煌気オーラエンジンの出力を下げて、ダンクの転移スキルで現世から異世界へ叩き出す。


 送り先は雨宮さんの持っている転移座標を使用する。


「なんですか。その汚い球体は」

「大吾さんとお酒飲んだらくれたのよ。異世界の座標だってさ。何もないところだから、いざって時に避難場所にしよーぜ!! って言ってたねー!」


 汚い球体を受け取ったダンク、転移スキル発現のために煌気オーラ力場を構築し始める。


「ごめんねー。仁香さん。わたし、シュババって動くの苦手なんだよねー」

「お気になさらず! では、行きます!! 『ソニック・グライダー』!!」


 最近は逆神流の基礎スキルの逆輸入が日本本部で流行っており、これは『滑走グライド』の応用スキル。

 上空まで駆け上がると、煌気オーラで作ったスケボー状の板に乗って器用に旋回しながら号泣アァァァΛ型の周囲を飛び回る。


「おおー! 速いねー!! とおー!! 『磁力針マグネラス』!! かーらーのー!! 『寄添う男たちダブルドッキング』!!」


 まずは号泣アァァァΛ型に磁力を付与。

 それを利用して2機をくっ付けた。


「うわぁいぁいぃぃぃぃぃ! なんでこんな事に! せやかてぇ!」

「イッグブゥゥゥン! 同じ顔が近いからぁ! なんか怖いしぃ!!」


 動きの止まった号泣時限爆弾。

 バンバンがライラを抱えてそこに加わる。


「行きますよ、ライラさん! 私が先に!! 『狂乱大殺界パリピヘルゾーン』!!」

「……あんた、それ範囲攻撃もできんの? ちょー強くない? あとさ、ここでマジメになるなよ。あたし今から草生やしにくいじゃん。『大繁殖おハーブ』!!」


 空間指定をしたのち、その場の煌気オーラを削り取るバンバン・モスロンの極大スキル。

 そののち、ライラ・メイフィールドがお気持ち程度に草を生やした。


「おっしゃあ! こっちゃ準備できたぜ!! 吾輩の転移スキル!! 『着払い送付ダストボックス』!!」


 おわかりいただけただろうか。

 後詰で号泣アァァァΛ型を転移空間に押し込む役割が決まっていない。


「ワチエくん!! こちらの雨宮さんはな! 生涯で1000を超えるおっぱいを楽しんで来た人だ!!」

「あぁぁぁぁぁ!! なんでこの世界はこんなに醜いんだよぉぉぉぉ!!」


「あー。なるほど。精神が乱れると煌気オーラ上がっちゃうタイプの子なのねー。じゃあ、オマケ! おじさんね、最近弟子ができたの! 18歳でおっぱい大きい子!!」

「神も仏もいらねぇぇぇ! もう僕は祈らねぇぇぇぇ!! 滅びろ、世界ぃぃぃ!!」



 ミノタウロス♀、再び出現。



 今回の戦いでワチエ氏は度重なるストレスにより、スキル使いとしてのグレードがかなり上がった。

 その証拠に、ミノタウロス♀を操作できる。


「どこかのナイトプールにでも飛んで行けぇぇぇぇぇぇ!!」


 リア充に八つ当たりしながら、ミノタウロス♀の拳がドッキング中の号泣アァァァΛ型を完全に捉えた。

 そのまま、転移空間の中に号泣しながら消えて行く。


 かつてないほどの辛勝だった。

 勝っていないじゃないかと言われるかもしれないが、「戦場から生きて帰る事はそれだけで勝ちよりも価値がある」との先駆者の教えもあるのだ。(久坂流戦術指南メンタル編・日本探索員協会出版より抜粋)

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