第652話 【反逆のストウェア・その12】さようなら、おっぱい男爵!! ~後に引けない第三勢力、爆誕~

 どうにか全員が命を落とさずに2名の最上位調律人バランサーを退けたストウェア。

 バンバン・モスロンから煌気オーラを付与された雨宮順平上級監察官が、先ほどから再生スキルで順番に負傷者の治療を始めていた。


「ところで雨宮さん」

「水戸くん? なんだい? あ、私が最近ジョニー・デップって名乗ってるけど、実は福山雅治にも似てるって気付いた!?」


「そんなもの気にした事ないですよ!!」

「この弟子は可愛くないなぁ。はー。次の休暇でまたエヴァちゃんとこに行こー! で、なんだっけ?」


「いえ。雷門さんモドキは結局どこに転移して行ったのか気になりまして」

「あー。そうだねぇー。まあ、大吾さんが何もない異世界って言ってたから、人的被害は出てないと思うけど。本部に戻ったら確認してみよっかー」


 諸君には先にどこへ爆弾を送りつけたのかをご紹介しておきます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは15分前のスカレグラーナ。

 ホマッハ族と3人の竜人が暮らす、のどかな異世界である。


 幻竜人ジェロードは今日も趣味の鍛冶に精を出し、冥竜人ナポルジュロと帝竜人バルナルドは人口が増えて来たホマッハ族のために、新しい街を建設していた。

 そこに突如開いた転移空間。


 バルナルド様がデジャヴを感じる。

 「あれ? このパターン、余は経験した事があるような?」と。


 続けて転がり出て来たのは、爆発寸前の号泣アァァァΛ型が2機。

 その泣き声だけで、これが不吉で縁起の悪いものだと瞬時に理解できたらしい。


「ナポルジュロよ」

「バルナルド様。あのパターンでございます。凄まじい暴走をしている煌気オーラ。あと2分ほどで爆発いたしますな。規模は……。まあ、王都ヘモリコンまで焦土と化すレベルでしょう」


「卿のその、分析はするけど絶対に手は出さない姿勢、余は嫌いだな。ジェロードなど、ちらっとこっち見たらもう無視して、ホマッハ族と刀鍛えてるし」

「では、我が『冥竜閃めいりゅうせん』を放ちましょうか? たちまち爆発を起こしますが? 良いのですな?」


 バルナルド様は思った。



「卿さ。もう余の事を帝竜だと思ってないであろう? 対応が酷い。リスペクトを感じない。凍結属性のブレス吐けるのは貴方様だけとか、また言うんでしょ」

「さすがはバルナルド様。我が差し出口を挟むまでもありませんでしたか。お昼のプリンを1つ多く差し上げますので、お願いいたします」



 バルナルド様の『ゴルドブレス』はいかなる物をも凍り付かせる、絶対零度と理屈を超えた究極の凍結ブレス。

 その出力は逆神六駆の『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ』を凌ぐ。


 さすが数千年生きて来た帝竜がベースになった竜人。

 アトミルカ殲滅戦に続いて、2度目の爆発物処理もきっちりと果たした。


 お昼ご飯の際、ホマッハ族が「帝竜! お疲れ! プリンやる!」「いつも頑張る帝竜! 結構尊敬!」「ナグモ、また来なくなった。あいつはクソ!!」と、自分たちのプリンを差し出してきて、なんだか心が満たされたバルナルド様であった。


 また自爆しそうな敵が出てきたらそっちに送りますので、よろしくお願いします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再度ストウェア。

 雨宮さんによって全員の治療が済んでおり、問題はここから始まる。


「ねー。どうしましょうか。皆さん、がっつりピースの調律人バランサーですよね?」

「そうですねー」


「ナディアぁ!! 誤魔化せよ! 自慢のおっぱいで!! 吾輩たち、捕まるぞ!!」

「ダンクさんはバカですねー。今さら何を隠しても意味ないですよ。川端さんがいるんですからー。むしろ素直に投降して、司法取引に応じて減刑狙いが上策ですよー」


 ナディアさんはリアリスト。

 リアリストなのに出社拒否し続けた結果、フランス探索員協会の次期上級監察官をふいにした乙女。


 彼女の中のリアルを我々が理解できる日は訪れるのだろうか。


「待って! ちょ、待てよ!! ナディアはそれで良いかもだけど!! あたしら若返ってんだよ!? デトモルト行かないと、やべぇじゃん!」

「わたしは天然ものの34歳ですからー。知らないですよー」


「うぇーい! 私とレオさんも若返ってないので、収監されても平気でうぇーい!!」

「え゛っ!? 僕も収監されるんですか!? バンバンくん……! 話がどこまでも違うじゃないか……!!」


 ここで立ち上がるのは、義に生きる男。

 寡黙なおっぱい仕事人。川端一真。


「少し待ってください、雨宮さあ゛あ゛あ゛!!」

「あ、ごめんねー。川端さん。言ってなかったよ。あなたの両足、ズタズタだからねー。向こう1か月は安静にしとかないと。煌気オーラで再生力活性化させときますから。急に立ったら折れちゃいますよー」


 ただいま、折れちゃった川端男爵の治療をしております。

 しばらくお待ちください。


 再びできる限りの治療を受けた男爵。

 もう立ち上がらない。座ったまま、気持ちだけ立ち上がった。


「彼らのやって来た事は無論、裁かれるべきです。……が、捕虜として彼らと過ごした私には分かる! ストウェアの調律人バランサーは判断力がゴミみたいに低いだけで、ピースの上層部に踊らされているだけです!! どうか、寛大な対応を願います!!」


 この瞬間、ストウェア調律人バランサーたちが川端男爵にトゥンクと胸を高鳴らせた。


 腕を組む雨宮上級監察官。

 いくつか質問をする事にした。


「皆さんは同階級なのでリーダーはいないんでしたね?」

「ですねー。ダンクさんがよく吾輩のポートマン部隊!! とか言ってますけどー」


「ヤーメーろーよぉ! ナディア!! 今それ言わなくてもいいだろ!? 言ってませんからぁー! 吾輩たちはストウェアのゆかいな仲間たちですぅー!!」

「おめーはプライドないのかよ。ハゲ。あたしの隣のワチエを見ろってんだ。もう、ガラス玉みたいな瞳で遠くを見つめてるんだぞ。これは覚悟のあるヤツの目だね」


 雨宮さんは続ける。


「それで、皆さんはピースの本隊とは袂を分かち、独自路線で勢力拡大を目指していると。仮にピースの代わりに覇権を取れたら、何します?」


「えっ? ……世界征服?」

「あたしは若さを保ちたい!!」

「働きたくないだけでーす」

「私、そもそも成り行きでこうなったので! 特に希望はノーウェーイ!!」

「あ。カモメだ。ふふっ。良いなぁ、鳥は。僕と違って自由に飛んでいけて……」


 ラッキー・サービスの掲げるピースの理念も大概に酷いが、ストウェアはそもそも理念が掲げられる前の段階であった。

 雨宮さんは「なるほどねぇ」と頷く。


「じゃあ! 皆さんは引き続きピースを出し抜いて世界の覇権を狙ってください!!」

「何言ってんですか、雨宮さん!!」


「いや、だって現状それがベストじゃない? 今の戦いのデータあるし。ここまで詳細に能力が割れた状態で、まさか探索員協会にちょっかいは出さないでしょ」



「えっ!? 普通に襲うけど? なぁ? あれ? みんな?」

「黙ってろ! このハゲぇぇぇ!! バンバン! 口塞いどけ! あたし触りたくない!!」



 ダンク・ポートマンがどんどん知能を低下させていく件。

 君、初登場時は謎の新勢力みたいな空気を漂わせていたのに。


「そもそもさー。ピースの最上位に噛みついたわけだよ、この人たち。それを捕縛して日本本部とかに連れて帰ったらどうなると思う? 絶対に奪還しに来るでしょ? 少なからず内情知ってるんだから。嫌だよ、私は。あんなのに本部襲われるの。カルケルやウォーロストに収監しても同じことだよねー。結局、酷い攻撃されて、奪還されて、ストウェアの人たちは拷問されて殺されて、探索員協会側も被害受けて。ついでに私は責任取らされそうだし? 誰も得してなくない?」


 雨宮順平上級監察官。

 世界中で最も強いとされる日本本部の最高意思決定機関の1人。

 知性的なおじさんでもある。


「ってことで、今後も皆さんはしばらくストウェアでピースと小競り合いしといてくださいな。仮にクーデター成功したら、その時は私たちと戦うって事で。ね! つまり、今回私たちは何も見てない!! 良いかな? 青山さん」

「はい。上級監察官のご判断を支持します。他言しないと誓います」


「なんで自分をスルーするんですか、雨宮さん」

「えっ? 水戸くんは青山さんの事好きだから、青山さんの意思に従うでしょ!?」


「ちょ、や、ヤメてくださいよー! 別に、自分ね、そういうアレは! もう、ホント! ねぇ、青山さん! ねぇー!? そりゃ、一緒にいると楽しいですけど、まだ自分たちは、ねぇ!! 青山さんも楽しそうですけど、ねぇ!!!」

「水戸さん。黙って。私、頭が外れるくらい思い切り叩きますよ?」


「あ。はい。すみません」


 全ては丸く収まった。

 ならば長居は無用。


 雨宮上級監察官は【稀有転移黒石ブラックストーン】を取り出す。


 川端さんが少し寂しそうに言った。


「では、さらばだ。ストウェアの諸君。君たちと過ごした日々もなかなか楽しかった。できれば敵として再会したくないものだな」

「男爵はストウェア残留ですよ? 何言ってんのー」



「……なぜ!? 雨宮さん!!」

「えっ? 川端さぁん! あなた!! 私が軽く計算しただけでも、探索員憲章違反が7個ですよ? 余裕で裁判確定。多分、カルケルに直行で、国協が機能停止してるから留置期間は分からないし。下手したらそのまま死ぬまで留置されるかもですけど。それでも一緒に戻ります?」



 男、川端一真。

 美しい敬礼をキメる。


「この川端一真監察官! 引き続き、ストウェア潜入任務に従事いたします!!」

「川端さん。多分それ、もう無理ですよ? 元をただせば自分の責任も大きいので、カルケル暮らしになったら週に1度は面会に行きますね!」


 こうして、ストウェアは明確にピースへの反逆を表明。

 独立勢力として今後も寄る辺なき航行を続ける事になった。


 川端監察官の終わりなき旅に引き続きご期待ください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、制御室では。

 『おっぱいサンドバッグ』を破壊する姫島幽星の姿があった。


「くくっ。探索員どもに好き放題されるは、まだ尚早よ」


 足元にはなんかバチバチしてる号泣Λ型リーダー機・ライモン。

 変態が最後に意味深な暗躍をして、ストウェアの長い1日は終わるのだった。

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