第616話 【チーム莉子に新人が!・その1】平山ノアDランク探索員、登場!!

 ある日の夕方。

 ミンスティラリア謁見の間に生えている門から、チーム莉子のメンバーが帰宅し始めた時分。


「ばあちゃん! マクドナルド行ってきたからお土産! てりやきチキンフィレオセットでポテトはL! マックシェイクのバニラね!!」

「あらぁ! 六駆は優しいねぇ! あたしゃ孫に恵まれちょるわ!!」


 逆神家は全員がマクドナルド大好き族。


「わたし、お義母さんとおじいちゃんに渡してくるねっ!!」

「うん! よろしく!!」


 制服のスカートを翻して元気に走っていく莉子ちゃん。

 なお、スカート丈は奇跡のやや短めに留まる。


 小鳩さんが一晩でやって説得してくれました。


「みみみっ! ただいまなのです!」

「……うにゃー。英会話の講義でペア組まされたぞなー。同い年でも無理なのに、年下とかアウトだにゃー」

「クララさんはお仕事の時のコミュ力、どこに行くんですの? どうして大学に入ったら動物病院に連れて来られたネコみたいになるんですの?」


 みつ子ばあちゃんの負担軽減のため、できるだけ纏まって帰宅して来るチーム莉子の乙女たち。

 ばあちゃんはポテト食べながら『ゲート』を維持しているので、そんな配慮は必要ないのだが「気持ちが嬉しいんよねぇ! みんなええ子じゃねぇ!!」との事。


 晩御飯までは自由時間。

 各々が自室や謁見の間で過ごしていると、ダズモンガーくんが走って来た。


「ど、どなたかぁ!! 戦える方はおられませぬか!? 侵入者ですぞ! 空間転移でやってきましたぞ!! このダズモンガー! やられると思い、報告に参った次第!!」



 君、魔王軍の隊長じゃなかったかな。



 幸運な事に、謁見の間には六駆くんと莉子ちゃん、そして芽衣ちゃんが3人で卓球をしていた。

 どんどん遊興施設が増える魔王城。


 なお、このメンツで負けるはずがない。


「転移スキルで誰かがミンスティラリアに来たってこと?」

「左様ですぞ! 六駆殿!!」


 首をかしげる六駆殿。

 それに見惚れる莉子殿。

 仕方がないので芽衣殿が聞いた。


「みみっ。何か気になる事があるです? 師匠?」

「いや、転移スキルってさ。目印にする座標がないとすっごく面倒なんだよ。僕たちも『基点マーキング』使ってるでしょ? この間、ピースさんとこの転移スキル使いの人を見たんだけど、あの人は煌気オーラを座標にしてたっぽいんだよね」


「みみみっ! ピースが攻めて来たです!?」

「んー。ただ、その人は煌気オーラを大量に使って、強引に空間と空間をショートカットしてたからなぁ。さっきからそんな高出力の煌気オーラは感じないけど。まあ、行ってみようか」


 3人が卓球台を片付けたタイミングで、魔王軍の女傑。

 ニャンコスさんが侵入者を捕らえてやって来た。


「なんで逃げてんのさ、ダズモンガー!! 私だけでも余裕だったよ!!」


 猫っぽい名前だが、ライオンの獣人さんである。

 お久しぶりです。


「……危機管理シミュレーション能力が発動したので。すまぬ」


 侵入者は女の子だった。

 制服を着ており、見たところ日本の女子高生。


「ちょっと! ヤメてください!! ボクが本気出したら、この辺一帯が山になりますよ!!」

「……クレーターとかじゃないのかい? とりあえず、英雄殿と同族っぽいから連れて来たけど。後は頼むよ。逃げトラクソ野郎!!」


 ダズモンガーくんの評価が下がり、謎の少女は置いて行かれた。

 しょんぼりするトラとは対照的に、少女は胸の前で両手を組んで目を輝かせる。


 続けて、彼女は言った。


「逆神先輩!! うわぁ! 本物です!! 感激です! あ、握手してもらってもいいですか!? ボク、手汗がヤバいですけど!! 本物だぁ!!」

「はいはい。良いですよ!」


 もう既に六駆くんと芽衣ちゃんは警戒を解いていた。

 明らかに謎の女子の煌気オーラ総量が少ないのである。


 もちろん「意図的に出力を抑えて油断させている」可能性もあるが、それにしては「どこからでも見てください!!」と隠している気配すらない。


「ほわああああ! 感動です! もう手、洗いません!!」

「やだ! 初めてそんなこと言われた!! 嬉しい!! ところで、君はどこのどなたかな?」


 少女はビシッと敬礼してから答えた。


「ボクは平山ノアと言います! Dランク探索員です!! 逆神先輩推しの16歳! 高校二年生!! よろしくお願いします!!」

「探索員の子なんだ。転移スキルが使えるの? へぇー! すごい! ね、莉子?」



「ガルルルルル」


 六駆くんの手を出現して2分で奪ったノアちゃん。

 まあ、莉子ちゃんがこうなるのは必然である。



 騒ぎを聞いて小鳩さんがどら猫の首根っこを捕まえてやって来た。

 チーム莉子が揃い踏み。


 ノアはさらに瞳をキラキラとさせるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「わっ! わっ!! すごい! チーム莉子の人たち!! はじめまして! ノアです!」


 テンションが上がり続ける平山ノアDランク探索員。

 六駆くんは「若い子にフレンドリーにされるとさ。なんだか満たされるよねぇ」とにっこり。


 隣で猛犬が唸っており、芽衣ちゃんはどら猫のお尻に避難済み。

 必然的に小鳩お姉さんが事情聴取を始めた。


「ええと。平山さん?」

「ノアとお呼びください! 塚地先輩!!」


「あ、はい。では、ノアさん? とりあえず、探索員免許を見せて頂けます?」

「これは失礼しました!! どうぞ!!」


 小鳩さんは慎重に免許を確認した。

 どこからどう見ても本物だった。


「どこの誰だにゃー?」

「ちょっと! 気安くボクの免許を見ないでください! 椎名さん! あなたは尊敬してません!!」



「……なんかあたしに対して当たりが強いにゃー。悲しいのにゃー」


 クララパイセン、何故か嫌われる。



 芽衣ちゃんも控えめに免許を覗き込んだ。

 ノアと目が合って、「み゛み゛っ! ごめんなさいです!!」と謝る。


「とんでもないです! 芽衣先輩はいくらでも見てください!! どうぞどうぞ!!」

「みみみっ? えと、芽衣の方が年下です?」


「実績もランクも芽衣先輩の方が上です!! ボクは年齢よりも何を成したかで先輩と決めます!!」

「みみっ! せん……ぱい……!! みみみみみっ!!」


 初めての感覚にはしゃぐ芽衣ちゃま。

 これは大変可愛らしい。


「う、うにゃー。あたし一応Aランクなのだけどにゃー? もう4年目だぞなー?」

「ボク、協会が勝手に決めたランクで無条件に人を尊敬したりしませんから!!」



「……パイセン。横になるにゃー」


 諸君はそろそろ疑い始めている頃だろう。

 さては、おっぱいですか? と。



 平山Dランク探索員はかなり控え目な胸部装甲であり、これは莉子ちゃんと実に仲良くなれそうな塩梅である。

 体格も莉子ちゃんとそう変わらない。


「本物の探索員なんだね。じゃ、うちのリーダーを紹介しとくよ!」

「はい! 光栄です、逆神先輩!!」


「こちらは小坂莉子! チーム莉子のリーダーで、頼りになるんだよ!」

「えへへへへへっ! そっかなぁ? ノアちゃん! よろしくね! 小坂莉子だよっ!!」



「あ。すみません。握手は無理です。逆神先輩の成分が上書きされるので。と言うか、ボクはあなたを逆神先輩に指示する資格があるとは思ってませんから!!」


 なんということでしょう。

 おっぱいではありませんでした。



 これまで誰かに初対面で嫌われる経験がなかった莉子ちゃん。

 極めて控え目な胸が大ダメージを受ける。


「……ふぇぇ。六駆くん、わたしも横になるね」

「ああ……! うちのリーダーがやられましたわ!! わたくしがしっかりしなければ!! ノアさんは、どのようにしてこちらにいらしたのですか? あ、いえ、方法よりも先に目的を伺いたいですわね」


「はい! ボク、逆神六駆先輩の大ファンなんです!! あ! 実はですね! ボクって一人称も逆神先輩リスペクトで! 月刊探索員の記事、全部切り抜いてます!!」

「……六駆さんって、月刊探索員に連載持ってませんわよね?」



「ああ! 木原さんにね、10万やるから代筆してくれって頼まれて! 4か月前から『今月のオレ様の推しスキル!!』ってコーナー書いてるの、僕です!」

「……ちっ。です。みみっ」


 芽衣ちゃんがやさぐれました。



「そうです! 最高なんです! そこに載っていた『ゲート』の構築術式をですね! ボクなりに2か月ほど研究して! どうにか小さい転移の穴が作れるようになったんです!! それで、来ちゃいました!! ボク、煌気オーラ感知だけは得意なので!!」


 押しかけ女子高生、平山ノア。

 もう絶対に増える事はないと思われていたチーム莉子の新メンバーとなるのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「六駆さん。あなた……。逆神流の構成術式、雑誌に載せたんですの?」

「絶対真似できないと思って! ほら、もう色んな人に『ゲート』の存在はバレてますし? これまで敵さんにも模倣された事なかったですし? いいかなって!! 巻末のコーナーですし!」


 小鳩さんは既に気付いていた。


 「あ。これはアレですわ。うちの南雲さんと、ノアさんの担当監察官の方。ものっすごく大変な目に遭われますわね」と。

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