第9章

第615話 ちょっとだけ日常を取り戻すチーム莉子!!

 ピースの武装蜂起から約1か月。

 いよいよ彼らは本格的に邪魔者を排除すべく、大規模作戦の準備に入る。


 そんな動きを探索員サイドは察知する事ができるはずもなく、世界各地で起こる調律人バランサーの嫌がらせに逐次対応を続けていた。

 探索員協会の中には、降伏を申し出る国や、人員が足りなくなり解体する国も出現し、ピースの狙いはしっかりと実現されつつある。


 だが、前述の通り、ピースは3週間後に控える大規模作戦のため、上位調律人バランサー以上の幹部を作戦行動に使わなくなっていた。

 その結果、散々世界中に出張させられていた日本本部にも若干のゆとりが生まれる。


 全てを知ることが可能であれば、当然大規模作戦に対する迎撃の用意をしていただろう。

 しかし、判断材料がないものについて仮定すること自体がナンセンス。


 疲弊していた日本本部は「ピースも同様に疲れが見える」と判断し、休息をとる事にした。

 これからしばらく、平穏な日々が続く事となる。


 知らぬが仏。

 何も知らなければ恐怖におびえる事も、悪意に身構える事もなく、ただはっちゃけられるのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリアでは、ついに逆神六駆の立案した計画が実行に移されようとしていた。


「はい! と言う訳でね! みんな、手元の資料を見てね!!」

「わぁぁぁ! 六駆くん、またパソコン使うの上手になったねっ!!」


 煌気とスキルを極めた男は次のステージへ。

 今は、Wordで書類を作る事に夢中であった。

 なんと、画像の挿入まで独りで出来るようになったのである。


「うふふ! まあね、その資料を見てくれたら分かると思うんだけど! 簡単に捕捉するとね! 僕と莉子の御滝高校。芽衣のルルシス学院。クララ先輩の日須美大学。この全てに『基点マーキング』を作ってきました! ミンスティラリアから登校できます! そろそろ1か月になるからね、休学も。学校生活は貴重だから、ちゃんと通わないともったいない!!」


「ふぇぇぇぇ! 小鳩さぁん!! 六駆くんがぁ……ふぐぅぅ……!!」

「ええ……! 立派になられましたわね……!!」


 今日ばかりは小鳩さんの立派な胸に包まれるのもやぶさかではない莉子ちゃん。

 六駆おじさん出現からずっと彼を見ている乙女。小坂莉子。

 まさか「学校生活の重要性」について旦那の口から聞かされるとは思わず、これには誰憚る事なく涙を流した。


「僕も学校に通うので、『ゲート』の管理はばあちゃんに頼みます! ばあちゃんスマホ3台使えるから、連絡したらすぐに転移できるようしてくれるんで!」

「任せぇさん! 未来を支える子供らのサポートは年寄りの仕事じゃからねぇ!!」


 逆神みつ子が『転移門番ゲートキーパー』に着任する。


 チーム莉子は「逆神家と繋がりが深いパーティー」と言う事が既にピースへも露見したと本部の監察官たちは考えていた。

 日本探索員協会に登録されているパーティーの中でチーム莉子だけが、六駆くんは特務探索員に転属したため脱退処理こそされているが、それでもなお良くない目立ち方をしたのだ。


 ハーパー部隊の本部急襲、カルケル局地戦、研究施設ヴァーグル制圧作戦。

 この全てに参加して、だいたいヤベー記録を残してきた爆弾娘。


 小鳩さんのブラウスを涙と鼻水で濡らして、そろそろ透けブラ案件を起こそうとしている莉子ちゃんである。


 どれだけ甘く見積もっても小坂莉子の煌気オーラはピースに観測されているだろうし、現世でも三指に入るそのヤバさをピースの全員が「まあ、ええやろ!」と無視するんじゃね? みたいなお花畑的判断ができる者は、今すぐ協会を退会処分になるだろう。


 よって、日本本部も動くことになった。

 チーム莉子の貢献度と教育を受ける権利について鑑みた結果、当然の判断である。


 南雲監察官が中心となり、バックアップ体制を確立。


 具体的にはサーベイランスを各学校施設に常駐させ、煌気オーラ反応にわずかでも揺らぎがあればすぐに現場にいるメンバーに報告。

 同時に本部で待機している部隊が出動し、さらにはミンスティラリアからみつ子ばあちゃんの『ゲート』による緊急対応と言う三段構えのセキュリティが運用される。


 なお、これも六駆くんの立案書が元となっている。



 「100万円って1万円札何枚ですか!? うひょー!!」から知能が上がり過ぎている件。深刻である。



 チーム莉子の乙女たちは現世とミンスティラリアを行き来する生活へ。

 明日から小鳩さんを除く学生メンバーはスクールライフを満喫しながら任務に当たるのだ。


「いやー! 六駆くんも変わったにゃー!! ……マジで余計な事してくれたにゃー」


 なお、1匹ほど、ダークサイドに堕ちたどら猫が。


 日須美大学の後期日程は9月の3週目から始まっており、既に講義は3度行われている。

 当然だが、どら猫先輩は「くぅー! 任務さえなければにゃー!! くぅぅー!!」と川平慈英のように「くぅー」を消費していたところ、降って湧いた復学話。


 それでは、椎名クララの無駄な抵抗をお楽しみください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ! ああー!! しまったにゃー!! 履修登録してないにゃー!! うにゃー!! これじゃ、講義受けられないぞなー!! くぅぅー!!」

「それでしたら、わたくしが代理で行っておきましたわよ。本来は認められませんけれど、南雲さんのご協力で余裕でしたわ。きっちり、フル単位分、みっちり埋めておきましたわよ。明日は1から5限まで全部講義ですわ」



「にゃん……だと……」


 知らなかったのか。小鳩お姉さんからは逃げられない。



 だが、クララパイセンはこの程度ではめげない。

 彼女の目的は「学生の肩書のまま、自堕落に探索員をするぞなー!!」と言う、ピース並に低俗なものである。


 大学を中退して探索員専任になれば、仕事と責任が増えるためどら猫的にはノーセンキュー。

 現在探索員活動に精力的な姿勢を見せているのは「勉強するのが嫌だから」であり、勉強をする必要がなくなった瞬間「働くのが嫌」になるため、探索員のパフォーマンスが確実に低下する。


「ああああー! 服! 服がないにゃー!! こんなタンクトップで大学なんて行けないにゃー!!」

「クララさん。あなた、体操服でイオンに行った事がありますわよね?」


「だ、大学は神聖なとこだにゃー!! こんな、おっぱい揺らしながら行くのは失礼だにゃー!! そう、服さえあれば!! 服どころか、ブラジャーだって2個しかないもんにゃー!! おっぱいが邪魔するにゃー!!」


 おっぱいに関して発言し過ぎたパイセン。

 集団生活に慣れたと言っても所詮はぼっち。すぐに地雷を踏む。


「ガルルルルル」

「あ゛っ!! そ、そう! 短パンしかないにゃー!! こんな脚出して大学になんか行けないにゃー!!」


 寸でのところで「猛犬注意」の看板に気付いたどら猫さん。

 路線変更が間に合う。


 莉子ちゃんと芽衣ちゃんは冬服の準備に自室へと向かった。


「クララさん? 服があれば大学に行くんですわね?」

「そうだにゃー。けど、服屋さんに行くのは無理だにゃー。服屋さんに着ていく服がないにゃー。うにゃー。残念だぞなー」


「こちらに、わたくしが買っておいた秋物の服がございますわ。はい、どうぞ」

「……うにゃー」


 少しずつ光を失っていくどら猫の瞳。


「さ、サイズ! サイズが合わないにゃー! ……莉子ちゃんは、よし、いない!! 小鳩さんのおっぱいとあたしのおっぱいじゃ、サイズがにゃー!!」

「クララさんのスリーサイズに合わせて、完璧にお買い物して来ましたわよ」


「え゛っ!? な、なんで知ってるのにゃー!?」

「あなた……。お部屋のカギをわたくしに寄越したでしょう? 部屋に入れば脱ぎ散らかした下着が出迎えてくれるんですのよ? タグ見たら一発ですわ。あと、探索員情報を春香さんに照会してもらいましたの。健康診断は義務なので、この2つでサイズなんて余裕ですわよ」


 クララパイセン、完全敗北。

 しょんぼりと自室に引き上げて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。


「いやー! 久しぶりの制服だ! 莉子はやっぱり良く似合うね!!」

「えへへへへへへへっ。そうかなぁ? 芽衣ちゃんも可愛いよ!!」

「みみみっ! 流れるように褒められたです! クララ先輩もなんだか清楚なのです! 慣れないのです!! みみっ!!」


 小鳩さんコーデなので、どら猫には過ぎたガーリーなファッションであった。


「そんじゃ、行ってきなぁ!! 『ゲート』! 『ゲート』!! もう1つ、『ゲート』!!!」


 こんな頭のおかしい転移スキルが使えるのは、逆神家だけ。


「よ、よーし。気合を入れて行くにゃー。……にゃー。……アパートに」

「ええ。行きますわよ」


「え゛っ? にゃ、にゃんで小鳩さんもついて来るぞなー!?」

「100パーセント自宅に引きこもるでしょう? あなたのお世話を何か月してると思うんですの? 仕事がない時は、わたくしが常に同行します!!」


 この日から、どら猫パイセンにだけ厳しい戦いが始まるのだった。

 他の3名は学生生活を楽しむと良い。


 練乳で練乳を洗う血戦までのひと時。

 日常回をお楽しみください。

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