第612話 【旅行先はブドウ園・その12】ブドウだけは残ったブドウ園 ~作戦の後は夜戦だ!!~

 激戦の後始末を始めた南雲隊。


 消耗が激しい南雲修一監察官。

 特に消耗していないのに、今回は本当に良いところが何もなかった南雲京華上級監察官。


 この2名は芝生の上で膝まくら中。


「こっちのデータ取得終わったっすよー。サーベイランス2つ持って来といて正解だったっすねー。引き続き、反対側に行くっす。あの、春香さん?」

「はい! なんですか!? あー! 分かった! 私が装備の換装解いたのが残念なんですね? もー。男の人ってピタッとした服、好きですよねー!!」


 山根春香Aランク探索員も元気に事後処理で活躍中。

 旦那は改めて妻の名を呼ぶ。


「いや、春香さん! 休んでてくださいっす! あれだけ大暴れしたんすから! 自分では気づかないだけで、疲労してるはずなんすよ!!」

「平気ですよ! あのくらい!! 健斗さんが心配するから言ってませんでしたけど、私、阿久津さんに『結晶外殻シルヴィスミガリア』使ってもらった状態で模擬対人戦してますから!! 月に3回!!」


 上級監察官室は一味違う。

 オペレーターも普通に強い。


「あぁ。山根さんよぉ。それ、ガチなんだよなぁ。日引さ……いや、春香さんよぉ。昇進査定受けたら多分、Sランク余裕だぜぇ? 体術メインの探索員とか、そもそもの数が少ねぇし。木原さんとかよぉ。逆神んとこの芽衣と同じカテゴリーだからな」

「……阿久津さん。自分、子供好きなんです。3人くらい欲しいんす。……もしかして、子供たち全員が自分よりも強くなるパターン、あるっすか?」


 あっくんは敢えて何も答えず、事後処理を手伝う。

 ちなみに、左腕には小鳩さんがドッキング中。


「おおい、小鳩ぉ!! おめぇ、もう戦闘終わったんだからよぉ! ちっと離れてろぃ!! あぁ……? なーにしてんだぁ?」

「え゛っ!? あ゛っ!! ち、違うんですわよ!? これは! すごくいい匂いがするものですから、あ、あの! お味も良いかと思って!! ちょ、ちょっとだけ、テイスティングを!!」



 小鳩さんは彼ジャージの楽しみ方の上級者コースへ到達していた。

 袖がよだれでびちゃびちゃである。



「いやー! ホント酷い目に遭いましたよー!! 南雲さん、これ、貸しにしときますからね? 最近ね、実は僕、治癒スキルの修行してるんですよ! ふぅぅぅぅんっ! 『気功癒風メディゼフィロス二重ダブル』!!」


 今回も最後まで綺麗な六駆くん。

 求められる前に治癒スキルで南雲監察官のダメージを軽減する。


「まったく面目ない。ちょっと近頃、私は『古龍化ドラグニティ』に頼り過ぎていたよ。1度修行をし直そう。久坂さんに頼んで。地力を上げないと足手まといになってしまう」

「あー! それはとてもいい考えですね! 『古龍化ドラグニティ』はナグモさんの体と煌気オーラがベースなので、基礎能力が上がると勝手に『古龍化ドラグニティ』も強化されますよ!」


「そうなの? 『全開放フルバースト』より上があったりしないよね?」

「ありますけど? 『極黒プルート』って形態が。ほら、竜人さんは無属性使えるでしょ? 僕、たまにスカレグラーナ行って次の変身段階をみんなで考えてるんですよ! 無属性を発現すれば、今回みたいな変態属性に煌気オーラ干渉されなくなります! だって、こっちは無なんですから!」


 明かされる古龍の戦士のさらなる奥。

 南雲監察官は「ええ……。やだ、怖い」とうな垂れたが、嫁は違う。



「おい! 逆神! 修一はその形態に進化すれば、さらにパリピになるのか!? どうなんだ!?」

「南雲さんは理性的ですからねー。煌気オーラで強引に変身してるんで、性格はまた変わるかもですねー。やってみなきゃ分かりませんけど!」


 この日1番の笑顔を見せた京華さん。向こう2か月くらい給料返納してください。



 それから2時間ほどかけて全てのデータを収集した南雲隊。

 南雲監察官もどうにか動けるレベルに回復したので、みんなでフランス探索員協会本部へと転移して行った。


 ブドウ園のブドウたちは、主がいなくなった来年もきっと実をつけるだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 クレルドー上級監察官に謁見した京華さん。


「ご苦労様でした。改めて、我が国を代表してお礼を申し上げます。感謝の言葉では足りない程に多大なご恩を受けてしまいましたね」

「とんでもありません。私は大した事をしておりませんので」


 京華さん。本当にそれです。


煌気オーラ感知器の推移を見ておりました。激しい戦いであった事は承知しております。ホテルを用意しておりますので、数日の療養を。足りないものがあれば何なりと。ご用意いたします」

「お気遣いに感謝いたします。では、ご厚意に甘えさせて頂きます。負傷者もおりますので、取り急ぎの報告は以上とさせてください。後日、改めて今後の対策を話し合いましょう」


 クレルドー上級監察官は目を細めて「ええ。日本の皆様への感謝をフランス探索員協会は忘れません」と言ったのち、美しい敬礼をした。

 京華さんもそれに応じる。


 噴水の前には他のメンバーが待機していた。


「あっくんさん! そろそろ帰って天ぷら食べましょうよ! お腹空いたなぁ!」

「あぁ。うぜぇ約束しちまったぜ。んじゃ、俺らは先にとんずらするか。……あぁ? 小鳩、おめぇはホテルで休んで帰って来い」


 小鳩お姉さん、潤んだ瞳で上目遣いと言う必殺スキルを繰り出した。


「あっくんさん……! 帰ってしまわれるのですね……。そう、ですわよね。わたくし、ホテルで一緒に過ごしたいだなんて……。ワガママですものね。申し訳ありませんわ!! また、お料理を作りに伺いますので! ふふっ、今日はありがとうございました!!」

「……ちっ」


 おや。あっくんの様子が。


「逆神ぃ。俺ぁ野暮用ができちまった。ここはよぉ。カタツムリ食うらしいじゃねぇか。ちっと興味が湧いちまってなぁ。2日ほど、調査してから帰らぁ。天ぷら屋は久坂さんが付き合ってくれるとよ」

「あっくんさん……!! 良いんですの!? 良いんですのね!? 海外旅行でお泊りですのね!?」


「あぁ? 俺ぁカタツムリ食うだけだぜぇ? 小鳩はホテルで寝てなぁ。くははっ」

「も、もぅ! 意地悪ですわ!! わたくしもエスカルゴ、ご一緒しますわよ!!」


「そうかよ。……まぁ、歩き疲れたらホテルで休憩すんのも悪かねぇなぁ」

「うふふっ! あっくんさんのそういうころ、お慕い申し上げておりますわよ!!」


 六駆くんは『ゲート』を生やして、「じゃ、僕は天ぷら食べに帰ります!! 帰りは南雲さんたちと一緒に転移石でお願いしますね! 来た時と同じ人数だから、問題ないでしょ! ではではー!!」と言って、さっさと帰って行った。


 噴水のベンチに座るのは山根夫婦。


「健斗さん!」

「うっす。買い物っすね。付き合うっすよ」


「わぁ! ありがとうございます!! その分、夜はたっぷりサービスしちゃいますっ!!」

「春香さん、そのフィジカルはマジでガチっすね。自分も一度、修行するっすかね」


 山根夫婦、夜戦決定。


 報告を終えた南雲夫婦も合流する。

 開口一番、京華さんが小鳩さんに謝罪した。


「すまん! 小鳩!!」

「あ、いえ! もう済んだことですわよ! お気になさらず!!」



「いや! コスプレ衣装を返してくれ!!」

「わたくし、次年度の探索員登録情報。尊敬する上官の欄、京華さんから変更しますわね」



 だが、アフターケアも忘れないのが上級監察官。

 代わりにケースから、とある衣装を取り出した。


「小鳩、これを使え!! 遠坂凛モデルだ! 当然、スカート丈は死ぬほど短い!!」

「い、いりませんわよ!!」



「ほう? 阿久津は意外と絶対領域が好きだぞ? よく女子探索員の装備を眺めている。……仕方がないから、黒セイバーのセクシーなヤツも貸してやろう!! 盛り上がるぞ!! 私とお前は乳サイズがほぼ同じだからな!!」

「えっ!? ……あっくんさん? お好きですの!?」


 再び発動。潤んだ瞳の上目遣い。



「……こいつらはよぉ。やっぱ帰っときゃ良かったぜ」

「この反応! まんざらでもない時のヤツですわ!! さっすが京華さんですわね!! やっぱり尊敬しますわ!!」


 ちなみに、この3カップル。

 それぞれホテルに着くなり疲れを癒すことなく夜戦に突入したとか、しなかったとか。


 ワチエさん。


 あなたが負けた相手は、全員がおたのしみのようです。

 ミノタウロス♀をめとりますか。


 ちなみに、あなたと同い年の水戸くんもチェリーボーイですが、分かりますか。

 このままですと、あなただけがブドウボーイです。


 今後の活躍と婚活をお祈りしております。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 今回のオチ。


 ワチエブドウ園には、まだ1人ほど残存している者がいた。


「おい! みんなぁ! どうやら敵は片付いたらしいぜ!! オレたちが力合わせりゃ、こんなもん余裕なんだよな!! さあ、ワインで祝杯だ!! ……みんな、トイレかな?」


 逆神大吾は自動ドアサイズの『ゲート』が使えるので、3時間後、ブドウを満足するまで食べたのち日本本部へと帰って行きました。

 山根くんから貰った10万円は8時間で溶けたそうです。


 いよいよピースが本格的に始動するのだが、その事実に気付いている者はまだいないのであった。

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