第611話 【旅行先はブドウ園・その11】逆神六駆VSミノタウロス♀

 ダンク・ポートマンが「あ。これチャンスだろ」と気付く。

 すぐに結構ボロボロになったバンバン・モスロンに声をかけた。


「おい! バンバン! この隙に逃げるぞ!! お前は吾輩の配下に加えてやる!! ここで死ぬよりずっと良いだろ!?」

「ウェーイ! お気遣いは大変嬉しいのですが、あっちで暴走中のレオさんをスキル使いにしたのは私なので。責任を取らずに敗走はできません。申し訳ありません。せっかくのご厚意を無下にするような事を申しまして。私、弱卒の身ですのに、このように過分なご配慮、本当に感謝しております」


 常識的なパリピって、それもうテンション高いだけの人格者なのでは。


「お前、本当にいいヤツだな!! よし、分かった! 吾輩も最後まで見届けよう!! で、やられた瞬間に逃げる!! それで良いな!?」

「やられる前提なのはいささか承服いたしかねますが、レオさんをここで死なせてしまうのは忍びないです。条件、飲ませて頂きます」


 バンバンとレオポルドの避難経路は確立された。

 だが、勝負には万が一と言うものもある。


「うわぁ! すっごい速いや、この牛!! 前にも見たけど、すごいですね! その『煉煌気パーガトリー』ってヤツ!! むちゃくちゃ苦しいでしょう? 解除できないんですか?」

「ぼぉくは! リア充を許さなぁい!! 高校生で恋人いるってなんだよ!! 二駅向こうのレンタルビデオ店まで自転車こいで! そこでドキドキしながら2時間かけてチョイスしたアダルトビデオを家で親が寝静まった頃に見るのがぁ!! 正しい男子高校生でしょうよ!? 女子高生ものはビデオで見るものなんだよぉ!!!」


 フランスにそのような伝統があるのかは、当方では判断できかねます。

 ただ、「確かにそうかもしれん」と思われたそこのあなた。



 おめでとうございます。ワチエブドウ園に就職できます。



 ミノタウロス♀が斧を遮二無二になって振り下ろす。

 どうやら、自律起動型の具現化スキルのようだが、術者の精神状態にも大きく影響される仕様と見える。


 レオポルド・ワチエは操作特化型のスキル使い。

 具現化スキルはまだ習得していない。


 そのため、ブドウが合体したミノタウロス♀は極めて不安定な構築術式で存在しており、意味不明過ぎて六駆くんの対応を遅らせる奇跡を起こしていた。


「修一。私たちも加勢するか?」

「私はちょっと厳しそうです。『古龍化ドラグニティ』は、私の煌気オーラを1度古龍のものに変換してから使うスキルですので、それを根こそぎ奪われたせいでもう煌気オーラが枯渇しています。京華さんだけでも助けに行ってあげてください。逆神くん、今回はただの善意で戦ってくれてますから」



「いや。私は修一に膝枕をしておかねばならん。妻としてこれは譲れん。それとも、お前は私の太ももでは不満か? んん?」

「逆神くん……! すまない……! 頑張ってくれ……!!」


 この2人、減給処分くらいはした方が良いのではないだろうか。



「いや、これどうしよう! 核が見当たらないや!!」

「僕の核は臨界寸前だよ!! 恨みはなかった! けれど、今は君が憎い!! 女子高生と付き合えるなんてさぁ!? そんなの都市伝説じゃんさぁ!?」


 山根隊が相手をした集合体ブドウのように、「こいつ潰せば終わりやで!」な核がこのブドウミノタウロス♀には存在しない。

 数万に及ぶブドウの粒、1つ1つが核の役割を担っているのだ。


 つまり、1粒でも残存していれば自動で復元すると言うチートなブドウ。

 『煉煌気パーガトリー』で極大強化されたスキルはだいたいクソ面倒なものに進化するらしい。


「うーん。とりあえず、あっちのパリピさんは結構ボコったから、しばらく出てこないでしょ! って事は、スキルが使える!! 試してみよう! ふぅぅぅぅぅぅんっ!!」


 六駆くんは右手に煌気オーラを集約させる。

 一点突破型の攻撃スキル。


「いきますよ! 『一陣の大旋風拳ブラスト・ハリケーンブロー』!!」


 バニング・ミンガイルからコツを聞いただけでアレンジスキルとして習得した、物理と煌気オーラの併用スキル。

 バニングさんはあっくんの結晶斧と言い、自前のスキルを教えすぎなのでは。


 振り抜いた拳からは、巨大な竜巻が真横に走る。


「あの規模の乱気流……!! 逆神、相変わらずだな。やったか!?」

「京華さん。せめて、フラグ立てて邪魔するのはよしましょうよ」


 ミノタウロス♀は確かに粉砕された。

 どれだけ硬質化しても、元はブドウの粒。

 六駆くんのスキルには耐えられない。


 だが、前述の通りこのミノタウロス♀はブドウの1粒が全て核なのである。

 飛散したブドウの粒が3つ。それぞれ煌気オーラを放つ。


「ええ……。そうはならないでしょう?」


 ミノタウロス♀が3体に増えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 訳の分からない展開の中、レオポルド・ワチエには限界が訪れていた。

 彼は静かに倒れ伏す。


 『煉煌気パーガトリー』の使用訓練はしていたものの、ハイリターンに応じた超リスクが付きまとうピースの秘密兵器。

 スキル使いになりたてのひよっこに継続使用させるのは酷である。


「レオさん!! あ、まずい!! 『狂乱超元気水パリピエナジードリンク』!!」

「う、うぐぅ……。バンバンくん。僕は、リア充を苦しめられたかな?」


「はい! もちろんでウェーイ!! 充分に頑張りましたよ!!」

「そうか……。僕はハッキリと理解したよ。ブドウとリア充とミノタウロス♀。これが世界で嫌いなものの全てだ」


 ダンクが先んじて構築していた煌気オーラ力場の上に立つ。


「おい! バンバン! 逃げるぞ!! チャンスじゃねぇか! 吾輩の肩に掴まれ!!」

「ウェーイ!! お世話になりウェーイ!! レオさんは私の背中におぶさって!!」

「ご、ごめんね。足手まといになって……」


 そこにやって来る姫島幽星。


「いやいや。あっぱれ。ブドウのお主、鍛えればさらに強くなるぞ」

「てめぇ。姫島。秒で逃げやがって!! 武士道を持てとは言わねぇから、人として最低限の配慮くらいしろよ!!」


「くくっ。ストウェアに戻り次第、秘蔵のブラジャーを1つやる」

「いらんわ!! とりあえず撤退!! 『緊急直帰ヴァル・リターン』!!」


 今回は紛れもなく敗走のピース・ストウェア支部。

 だが、「戦力拡大」と言う戦術目標は果たしていた。


「あっ! まずい!! 南雲さん! どっちでも良いですけど! 敵さん、逃げますよ!!」


「すまない、逆神くん。私は動けそうにない」

「すまん、逆神。私は膝枕で忙しい!!」

「まあ、僕も逃げてくれるならそれはそれで良いんですけど!」


 追跡どころか追撃もしない、穏やかな戦士たちがここにいた。

 転移スキルで4人は飛び去って行った。


「ブオォォォォォォォォ!!」


 自律起動しているミノタウロス♀を3体残して。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんは先ほどの攻撃で、ブドウミノタウロス♀の特性について理解に至る。

 つまり、極大スキルで1粒も残さず同時に消滅させれば良いのだ。


 だが、それをやると周囲に確実な被害が出る。


「南雲さん! この牛たち野放しにして帰るのと、環境破壊に目をつぶって極大スキル撃つの、どっちが良いですか!? そろそろ僕、お腹空いたんで! 天ぷら食べに行かないと!!」

「ええ……。どっちも困るよ。いや、しかし、術者がいなくても動いてるね。その怪物。逆神くん? その子たち、煌気オーラは切れないの?」


「多分ですけど、半永久的に動きますよ! それぞれの核が煌気オーラ使い果たしたら、隣の核が煌気オーラを放出して、ついでに新しい核が生まれてますもん! いやー! すごいスキルですねー!!」


 そうなると、苦渋の決断しかない。

 ワチエ家の許嫁によってフランスが壊滅するのは避けなければ。


「逆神くん。やってちょうだい。クレルドー上級監察官には私が謝罪するから」

「修一。私に任せろ。そのくらいしないと、なんだか私が批判を浴びる気がする」


 京華さん。その程度ではもう今回の名誉回復は不可能です。


 許可を得た六駆くんは両手に煌気をチャージする。

 『煉煌気パーガトリー』など使わなくてもバチバチと爆ぜる煌気オーラ


「ふぅぅぅぅぅぅぅんっ!! 煌気オーラ爆発バースト!! 『黄金エルドラ大竜砲ドラグーン』!!」


 金色の竜のブレスは煌気オーラのみを消し飛ばす。

 やっちまう直前になって「ブドウ、美味しそうだなぁ!」と思った六駆くん、ブドウ園の保護のため自身にとって負担の大きいスキルをチョイスした。


 どこまでも綺麗になっていく最強の男。


 ミノタウロス♀たちは絶命の叫びも上げずに塵となり、空へ舞い上がる。

 潔い引き際は、淑女の嗜みかと思われた。


 こうしてブドウ園の戦いは幕を閉じる。


 出て来る度に手強くなっていくピースの幹部たち。

 妻の柔らかい太ももの感触を味わいながら、南雲監察官は危機感を募らせるのであった。


 ワチエさん。

 リア充ども、全員元気ですよ。


 今、どんな気持ちですか。

 あ。全身の痛みでそれどころじゃないですか。


 リベンジ、お待ちしております。

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