第610話 【旅行先はブドウ園・その10】大乱戦!! 三つ巴の衝突!! ~毎度おなじみ、ダンク・ポートマンの乱入でございます~

 時計の針が少しだけ巻き戻る。

 南米の辺りをウロウロと航行中の人工島ストウェアで動きがあった。


「くくっ。ダンク。朗報だ。上位調律人バランサーのバンバン・モスロンが苦戦している」

「それのどこが朗報なんだよ。あいつ、いいヤツだぞ。苦戦を喜ぶなよ、クソ侍。おめー、そういうとこが吾輩の侍像を穢すんだ。あっちで干してある女どものブラジャーでも眺めてろ!!」


 姫島幽星、相変わらず謎の暗躍中。

 ダンク・ポートマンに悪知恵を授けるらしい。


「そのいいヤツに恩を売る好機ではないか? モスロンは義理堅い。手を差し伸べれば、お前の力になってくれると思うが」

「……マジか!! 変態は嫌いだけどよ、お前のそのクレバーなとこは結構好きだぜ! あと!! お主って言えや!! 侍要素を少しは出せ!!」


「承知した。お主、お主」

「おっしゃ! 乱入して来るか! 誰連れて行くかな!!」


 ダンクはウキウキで甲板へと走って行った。


 今日はナディア・ルクレールさんとライラ・メイフィールドさんが2人して水着で日光浴中。

 となれば、当然その真ん中には。


「ライラかナディア! いや、両方! ちょっと戦場行くから吾輩について来いよ!!」


 水着の乙女たちが答える前に、立ち上がる男がいた。


「ダンクくん。君は根っからの悪人ではない。だから、私は君とできる限り争いたくないと思っている」

「おお! 川端ぁ! もしかして、あんたも来てくれるのか!?」


 川端一真監察官は静かに首を横に振って、穏やかに答えた。



「私の癒しの時を邪魔するのならば。たとえ煌気オーラが封じられていようとも。君を海に叩き落すくらいはできるつもりだ。おっぱいの安息を邪魔するな」

「な、なんて冷てぇ瞳だ……!! これが武士道……!! クールだぜ!!」


 川端さん、なんだか日焼けしましたね。



「いや、でもよ! チャンスなんだよ! フランス行くから、せめて誰かついて来てくれよ!! ナディア! お前の故郷だろ!?」

「あのですねー。わたし、合計で8か月も出勤拒否してクビになったんですよー? 気まずいじゃないですかー。バカなんですかー、ハゲさん」


「ナディアさん、新しい紫のビキニもステキだ!! こぼれそうだ!!」

「あははー。ありがとうですー。アルゼンチンで買っちゃいましたー。川端さん、何気にわたしと水着の色がお揃いになりましたねー」


 おっぱい男爵は今日も不動のおっぱい男爵。

 対して、ちょっとおっぱいが揺らいでいるのはライラさん。


「なぁ。ダンク? フランス行ったら、ワイン買ってくれたりする?」

「おお! 買う、買う! 樽で買ってやる!! そうか、お前酒が好きだもんなぁ!!」


 ストウェアは自前のプラントで農作物を栽培し、肉や魚などは定期的に寄港しその都度補給している。

 だが、酒類はなかなか手に入らない。


「じゃあ、あたし行く!! ちょっと行って、サッと帰るだけでしょ!」

「おう! ちょっと行って、敵をサッと消し飛ばして、新しい仲間ゲットすんだ!!」

「早くせよ。某、待ちくたびれたぞ」


 こうして、ストウェアからダンク・ポートマンのスキルでワチエブドウ園へと転移した3人。

 ダンクの転移スキルは知っている煌気オーラを座標代わりにして飛ぶため、ピース関係者がいればだいたい瞬間移動が可能。


 便利な代償として発現までの時間がかかり、煌気オーラ力場も必要となるが、使い勝手は『ゲート』よりも良いまである。


 ちなみに、3人が行く先には最強の男がおりますが、ご存じないようですね。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして時計の針は重なり、再びリアルタイムへ。


「ちぇぇぇい! そぃぃぃぃ!! 『狂乱乱舞蛇拳アゲアゲスネークパンチ』!!」


 バンバンは『狂乱舞踏鎧アゲアゲウェア』で変身状態を保ちながら、体術で六駆くんに応戦していた。

 『古龍化ドラグニティ』発現時のナグモさん同様、変身状態は身体能力を大きく上昇させる。

 六駆くんも手数で押してくるバンバンの拳に防戦が続いていた。


「まずいぞ。逆神が押されてないか?」

「いや、京華さん。彼の顔を見てください」


「……ものすごく嫌そうな顔をしているが」

「敵の攻撃、蛇を具現化してミドルレンジの体術と言うトリッキーな戦法を取っているでしょう?」


 京華さんに膝枕されている南雲監察官。

 ワチエ氏が煌気オーラ爆発バースト起こすので、いい加減にしてください。


「逆神は正道の猛者であるがゆえ、変則的な攻撃に苦戦しているのか?」

「いえ。逆神くん、蛇が嫌いなんですよ。しばらく見てたら吐くくらいに」


 そうなのである。

 逆神六駆はニョロニョロした生き物が大嫌い。


 ムカデや蛇、触手の類は見ているだけで元気が奪われ、ちょっとやつれる。


「スネェェェェク!! ふふふ! どうやら私の攻撃も通用するみたいですね!!」

「もう最悪だなぁ!! 来るんじゃなかった!! あの! 南雲さん! 旦那でも嫁でも良いので! この蛇どうにかしてください! さもないと、僕、お食事中の方に注意喚起する暇もなく大惨事を起こしますよ!!」



 それはいけない。



「修一。何か、投げるものはあるか?」

「なるほど。煌気オーラ攻撃は受けられますもんね。ええと。逆神くんお手製の資料なら」


「お前……。それ投げたら、半殺しくらいは覚悟する必要があるぞ?」

「それは私も分かってます。資料を束ねてあるクリップがここに。伸ばして針状にしてみました。これでイケますか?」


「ふふっ。充分だ。逆神! 避けろよ!! はぁぁぁぁ!! 『桜花一投おうかいっとうしん』!!」


 ついに京華さんが仕事をした。

 使用したのは逆神流剣術の無刀流『柄流つかながれ』であるが、断固としてそれを認めない京華さんのオリジナルスキルと言う事にしておきたい。


 煌気オーラ纏わせた得物を敵に向かってぶん投げる、パワープレイ。

 今回は得物が凝視しなければ分からない程の小さなクリップだった事が功を奏す。


「うぇぇぇぇい!! ぅぇ!? あだだ!! これは、針!?」

「あっ! 蛇が引っ込んだ!! ふぅぅぅぅぅぅぅんっ!! 『剛腕ごうわん三重トリプル』!! 僕ね、あなたのスキル嫌いだな!! 『大竜砲ドラグーンバゼル』!!!」


「うぎぃぃぃ!? えべぁあぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

「んー。本当にタフですねぇ。その変身をぶっ壊さないと、煌気オーラは丸々ダメージから引き算されちゃうのか! よし! 引っぺがそう!!」


 バンバン・モスロン、大ピンチ。

 レオポルド・ワチエ氏は南雲夫妻の膝枕を見て煌気オーラを乱しており、スキル使用不可能。

 ついに経験不足のスキル使いがダメなところを出してしまう。


 空間の歪みがさらに広がり、ストウェアから上位調律人バランサー3人が転移して来たのはそんなタイミングであった。


「また増えた! なんですか! 知らない人ばかり増えて!! 南雲さん! どれをぶっ飛ばして良いのか、指示お願いします!!」

「ぶっ飛ばせるか否かの判断をすっ飛ばしてる辺り、改めて君は頼りになるなぁ」


 南雲監察官が膝枕状態だった事が、転移して来たストウェアチーム最大の幸運であった。

 姫島がすぐに気付く。


「……これはいかん。上級監察官までなら予測の範囲だが。逆神六駆がいる。おい、ダンク。非常にまずい」

「はぁ? なにがだよ! 倒れてるおっさんと介護してる姉ちゃん! あとはガキじゃねぇか!!」


「お主、資料を読んでないのか!?」

「吾輩、取説読まないでゲーム始めるタイプだが?」


 姫島は『血霧霞ちぎりがすみ』と言う隠匿スキルを発現させながら、取説読まないメタボハゲに忠告した。



「あれは逆神六駆だ。下手すると、サービス殿よりも強い」

「え゛っ? マジで?」

「あたし帰るわ。良かったー。まだ転移穴に引っ掛かってて!!」


 ライラさん、閉じようとしている空間の歪みを煌気オーラで無理やりこじ開けてログアウト。



 姫島も迅速な隠匿スキルによって、存在を気取られる前に潜伏完了。

 ちなみに、下着泥棒の際にもたまに使うのがこのスキル。


「あなたが転移スキル使いですかね? 鬱陶しいので、ここで片付けましょうか!!」

「ジーザス! なんて殺気だ!! さては忍者か!?」


 六駆くんが普通にダンク、バンバンと順番に料理していく流れであった。

 だが、この戦場には3つの勢力がいる。


 日本探索員協会。

 ピース。


 リア充死ね死ね団。


「うわぁおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 『煉煌気パーガトリー』!! なんかチラッと水着のお姉さんが見えたぁぁぁ!! 僕の農場でぇ! これ以上の性の乱れは許さないぃ!! かぁぁぁぁ!! 『葡萄大噴火ヴィニョーブル』!!!」


 『煉煌気パーガトリー』を用いたワチエ氏(34歳・魔法使い)は、完全に暴走状態へ。

 彼のスキルは「嫌いなもの」に依存すると強くなる。

 ブドウの粒が何千、何万と具現化され、それは形を成していった。


 巨大な紫色のミノタウロス♀が誕生する。

 ブドウで構築された斧が六駆くん目掛けて降り降ろされた。


「あだだだだ!! なんですか、これ!! 普通、ブドウで怪物具現化します!?」


 綺麗になった六駆くんはツッコミをしながら戦える。

 あー。もうめちゃくちゃだよ。

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