第609話 【旅行先はブドウ園・その9】久々登場! 逆神六駆の「あっ。なんか変な空気のところに来ちゃった」

 久しぶりの戦場の空気を感じる逆神六駆。

 だが、「うひょー! お金の匂いがするー!!」と不思議な踊りで見る者のMPを減らしていた頃のお金大好きおじさんはもういない。


 彼は今回、「ミンスティラリアに疎開中のチーム莉子。その中の学生組を復学させるための防衛プランと設備の仕様書」を携えて、上官に相談するためにわざわざ異世界から日本本部へ赴き、さらにフランスまでやって来ていた。


 やっている事がもはや、ただの面倒見の良いおじさんなのである。


「なんだかピースさんって妙なスキル使い多いよねー。苦痛に耐えて若返るとか言う時点で既にド変態だもんなぁ。ここも変な煌気オーラがすっごい漂ってるし。周回者リピーターやってた僕たち家族がちょっとまともに見えるとか、すごいなぁー」


 未だに自律起動しているブドウの粒を手でペシンと払いながら、六駆くんは呆れる。

 彼の目的は今も変わらず「隠居してのんびり暮らす」ことである。

 そこはブレない。


 だが「世界征服してまで既得権益って欲しいのかしら? 自分が隠居できるだけで充分じゃない?」と、あろうことか常識的な価値観を身に付けてしまった六駆おじさん。

 「お金あったら、マクドナルド店ごと買えるじゃん!! 注文の重圧から解放される!!」とかアホなこと言っていた六駆おじさんが懐かしいとの声が聞こえて来るのも分かるが、主人公が理性的と言うのはある意味では至極正しい状態。



 諸君。異常が常態化したまま、これ程に長き時を過ごしてきたこの世界を、もっと早く疑うべきだったのではなかろうか。



「南雲さんの煌気オーラが妙に弱ってるのが気になるなぁ。って言うか、煌気オーラ反応が全員おかしいんだよね。微動だにしない人と、乱高下してる人。これが敵さんかな? ってことは、故障した心電図みたいに沈んだままなのは京華さんって事になるけど」


 旦那がやられたら「貴様! 許せん!!」といきり立つのが京華さんのはずなのに、何やら穏やかではない様子。

 六駆くんは飛行速度を上げて、ブドウ園の庭へ急いだ。


「ウェイウェーイ!! ニューカマーが来たじゃないですかぁ! 君は誰ですか!?」

「子供じゃないか。僕が憎むのはリア充だけだ。帰りなさい。ところで、まさか君、恋人いたりしないよね? 高校生くらいだもんね? まさかね? そのくらいの年頃って、インターネットで自分を慰めるのに忙しいもんね?」


 未だ『狂乱舞踏鎧アゲアゲウェア』で変身しているバンバン・モスロン。

 「てめぇがリア充だったらガキでも容赦しねぇ。ブドウが火ぃ噴くぜ?」なレオポルド・ワチエ。


 日本が誇る上級監察官と筆頭監察官を退けたピースの2人が六駆くんを出迎えた。


「さ、逆神か……! すまん。このように無様な姿を晒すことになろうとは……!!」

「京華さん! どうしたんですか!? ……あれ? 怪我してないですね? 煌気オーラも普通にまだ余裕がありますけど? なんで倒れてるんですか?」



「イカした旦那がパリピ対決に負けたのを見たら、腰が抜けた!!」

「うわぁ! 最悪のタイミングで来ちゃったぞ、これ!! 僕が戦う流れだもん!!」



 だいたいの事情はサーベイランスを通して山根くんから聞いていた最強の男。

 だが、割とガチで面倒な戦場を前に「ああ。これタダ働きなのはやっぱり嫌だな」と、綺麗な心を少しだけ曇らせていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とりあえず敵陣のど真ん中で倒れている南雲監察官に向けて『粘着糸ネット』を飛ばす六駆くん。

 良い感じに釣れたので、京華夫人の元へと放り投げる。


「逆神! 恩に着る! ありがとう!! もちろん、この戦功は作戦終了後に評価する!! 期待してくれ!! 貴様の好きなお金だぞ!!」

「えっ!?」



 綺麗になった六駆くんを俗欲で穢すのはご遠慮ください。上級監察官殿。



「南雲さん、何をされたんですか? 見た感じだと、煌気オーラをいきなりぶっこ抜かれてショック状態になったみたいですけど」


 だいたいその通りである。

 血液を大量に失うと貧血になるように、煌気オーラに依存した活動中にその根源をぶっこ抜かれるとショックで意識を失う。


 京華さんが説明をする前に、バンバンくんが煌気オーラを放出した。

 彼は勤勉なパリピなので、ピースのブラックリストを逐一チェックしている。


「君! 逆神六駆くんだね!? 間違いないな!! ブラックリストの特異欄に載ってるじゃないか!! とんでもない大物ですよ、レオさん!!」

「バンバンくん。僕はどんなに危険な相手でも、子供と戦いたくはないな。……で? 逆神くんとやら。君、恋人いたりしないよね?」



「いますね! 可愛い弟子だったのに、気付いたら生活の一部みたいになってて! 最近は朝になると目覚まし代わりに、そろそろ子供が欲しいなっ! って耳元で言うんですよ!! あっ、女子高生です! 僕とは不釣り合いに若いんですよねぇー!! 頑張り屋さんでねー! 放っておけないと言うか! 手のかかる子って可愛いですよね!!」

「うわぁおぉぉぉぉぉぉ!! ひぎぃぃぃぃぃい!! 『葡萄包囲弾レザン・セック』!!」


 レオポルド・ワチエ氏の情緒が不安定過ぎる件。



 ブドウの塊が六駆くんを取り囲み、ゼリーとなって封じにかかる。

 実に珍しい術式のスキルにおじさんは「へぇー!」と感心した。


「面白いこと考えますね! スキル使いそのものを封じちゃおうって発想!! アイデア賞だなぁ!! けど! ふぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」


 六駆くんは両手を竜の口に構えて、煌気オーラを溜めた。

 残念ながら、搦め手が通用するのは力の拮抗状態が大前提。


「久しぶりにやりますか!! 『ディストラ大竜砲ドラグーン』!!」

「ぼ、ぼぉくのブドウがぁぁぁぁぁぁ!? リア充にぃぃぃぃぃ!?」


 逆神六駆の代名詞。

 『大竜砲ドラグーン』が久しぶりに咆哮した。


 ブドウゼリーの元を粉砕し、竜のブレスはそのままレオポルドを襲う。

 その前に立ちはだかるのは、当然バンバン。


「さすがは特異クラス!! とんでもない出力ウェーイ!! だがし! 私に煌気オーラ攻撃は通じなウェーイ!!」


 『大竜砲ドラグーン』すらも受け止めるバンバン・モスロン。

 『狂乱舞踏鎧アゲアゲウェア』は無敵なのだろうか。


「ええ……。なんですか、それ。気持ち悪いなぁ。煌気オーラに干渉してるんですか? しかも、吸収とか反射を敢えてしない分、キャッチ能力に特化させてるんですか? ええ……。ちょっと頭おかしいんじゃないですか?」


 あの六駆くんに「頭は大丈夫ですか?」と言われたバンバン・モスロン。

 あまりの出来事に、南雲監察官が意識を取り戻した。


「さ、逆神くん! 彼のスキルは煌気オーラそのものだ! 我々が煌気オーラに依存する限り、勝機はない! 君は絶対に負けないだろうけど、勝ち筋も見えないんだ!! 一旦退こう!!」

「あ! 南雲さん! 僕ですね、初めてパソコンで資料作ってみたんです! これ読んで欲しくてわざわざ来たんですよ! ほら、これ!! 見てください! フォントとか言うのもいじって! クララ先輩が教えてくれたんですよ!! ほらぁ! 斜めになってるでしょ、ここ!!」


「え。ああ、うん。すごいね。逆神くんがパソコン使ったのもすごいけど、内容がもう恐怖だよ。一般的な常識が詰まってるじゃん。どうしたの、君ぃ」


 ドン引きする南雲監察官。

 その隙に突貫して来るバンバンくん。


 彼は勤勉なパリピ。

 はっちゃけながら、仕事もきちんとこなす。


「申し訳ないけど、君の煌気オーラも剥ぎ取らせてもらうよ。相当な量だけど、何度も繰り返せば無力化できるからね。ウェーイ!!」

「あなたねぇ!! 今、僕の資料が!! 初めて!! 上官に読んでもらえてるんでしょうが!! ちょっとねぇ! うるさいんですよ!! ふぅぅぅぅぅんっ!!! そぉぉぉぉい!!」


「うぇーえべぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 バンバンくんが後方に吹っ飛んで行った。

 レオポルドさんは口を閉じるのも忘れるほどに驚き戸惑う。


「さ、逆神くん? 何したの?」

「普通に殴りましたけど。いや、煌気オーラに干渉してくるなら、物理ですよ。じいちゃんの作ったスキルって単純なヤツが多いんです。これ、『剛腕ごうわん』ってスキルなんですけど。煌気オーラを腕の中で走らせて、腕力を底上げするって言う。その状態で『豪拳ごうけん二重ダブル』を使って、ぶん殴りました。叫んだ方が良かったですか?」


 繰り返すが、最強の男の前には搦め手など通用しない。


「うぇ、ウェーイ……。とんでもない使い手ですね。ですが、私もただ煌気オーラ干渉するだけのパリピと思われては心外です!!」

「あらやだ! タフですねー!! 僕の嫌いなタイプだな!! なんか、ディ〇ニーランドで売ってる付け耳みたいなのも含めて!! 毟り取りたい!!」


 一撃で退場しないのはさすが上位調律人バランサー

 六駆くんが再びバンバンの方へ向き直ったタイミングで、空間が歪み始めた。


 転移スキル使いが増えると、こうなるから困る。

 気軽に戦場へ乱入して来ないで頂きたい。

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