第606話 【旅行先はブドウ園・その6】新婚夫婦VS許嫁がミノタウロス♀だった男(ガチギレ)

 飛行中のナグモさん。

 二分の一発現が『古龍化ドラグニティ』の最もバランスが良い状態だと彼は気付き始めている。


「ブドウが減って来たな。察するに、そろそろ本丸が近いか」

「ええ。全域にブドウの粒を展開するほどの余力はないようですね」


 レオポルド・ワチエがガチれば、ワチエブドウ園の全域を『葡萄自動衛星グランドゥレザン』で覆う事も可能なのだが、そうはしなかった。

 さすがに煌気オーラ残量が心許なくなるからである。ナグモさん、正解。


 バンバン・モスロンとレオポルド・ワチエの2人体制での戦闘のため、片方が煌気オーラ枯渇状態になると一気に形勢が変わる。

 背中合わせで戦っていた状態が急に要救助者を抱える事になるので、これはもう致命的。


 そこを理解しているバンバンは、レオポルドに「とにかくレオさんはやれる事を8割の力で頑張りましょウェーイ!!」と指示していた。

 「~をしろ」「~をするな」と断定的な命令でなく「頑張りましょう!!」と言うほとんど励ましに近い指示は、レオポルド・ワチエの性分にコミットしていた。


 メンタルが弱い訳ではなく、時間をかけて心を折ったブドウ園の主。

 ならば、折れた心に寄り添う事で実力が発揮できると考えるバンバンくん。

 パリピの素養を持つ彼は、メンバーのバイブスのアゲ方も心得ていた。


 そんな折、ナグモ夫婦が煌気オーラ感知区間に侵入した。

 バンバンはレオポルドに合図をする。


 飛んでいる半分竜人のナグモと嫁さんも当然気付く。


「あれか。修一。どうする? 仕掛けても構わんか?」

「そうですね。私が反射スキルなどに備えておきますから、京華さんはけん制で一撃お願いします」


「よし。任せろ。しかし、修一」

「はい?」



「お前の今の形態。物足りんな。普段、ベッドの上ではもっと情熱的なのに。姿は大差から理性的な言動がなんだか余計にがっかりする」

「作戦行動中ですよ。……その、戦いが終わった後に。フランス探索員協会が良いホテルを用意してくださるそうなので……。ねっ?」



 この新婚夫婦のイチャイチャ感を、レオポルド・ワチエが感覚的に察知した。

 彼の煌気オーラが一気に膨れ上がる。


「うぇーい!! ん? レオさん!?」

「バンバンくん……!! 限界だ!! これまで、イチャイチャしている敵をどうにか見てみぬふりして来たけども!! なんかエッチな恰好の女子を集中攻撃する事で心を穏やかに保って来たけども!! あ゛あ゛あ゛!! 結婚しかたったよ!! 僕だってぇ!!」


 バンバンくんは考えた。

 「これは下手に押さえつけるより、解放させてあげた方がウェーイですね!」と。


 ゆえに、彼は言った。


「いたじゃないですか! 許嫁が!! ミノタウロスの!!」

「僕はぁぁぁぁ!! 人と結婚したいんだよぉぉぉぉ!! うわあぁおぉぉぉぉぉぉ!!」


 「そのタイミングでそれ言う!?」なぶっ刺さる煽りを味方から受けて、レオポルドの煌気オーラ爆発バーストが起きる。

 彼はまだ煌気オーラコントロールが未熟であるがゆえ、暴走状態になれば安全や限界を考慮せず、際限なく放出してしまう。


 両手にチャージされた煌気オーラは、当然のようにブドウの形へ。

 直径は5メートル近い、すごくデカいブドウ。


 それを勢いよく発射した。


「ちくしょぉぉぉぉぉ!! 『葡萄包囲弾レザン・セック』!!!」


 見えている位置からの砲撃。

 それがどれほどの威力でも、上級監察官は慌てない。


「ほう。撃って来たか。存外、慎重なだけではなく直情的なところもあると見える! だが!! そのようにストレートな攻撃を馬鹿正直に受けるものか!!」


 だが、ナグモさんは異変を察知する。


「あ、あれ? 京華さん!? 細剣は!? 『ソメイヨシノ』で対応した方が!! 斬撃飛ばして切断する方が安全ですよ!!」

「ああ! 剣な! コスプレ衣装の邪魔だったから、置いてきた!! エクスカリバーをケースに入れたくてな!!」



 京華夫人、やってる事が椎名クララどら猫探索員と同じレベルまで低下する。



「え゛っ!? 待ってください! 識別不明の煌気オーラ弾に同じく煌気オーラ弾で対応するのは危険ですよ!?」

「そうだな! まあ、大丈夫だろう!!」


 もうフラグでしかないのである。

 自動車学校でまず習う「~だろう運転は危険だから絶対にヤメましょう」を無視すると、大惨事につながる。


 運転免許保持者も、これから免許を取る予定の諸君も、こちらの危険運転を見て教訓にして頂きたい。


「はぁぁぁ!! 『皇炎暴滅ベエーアディゲン』!!」


 京華さんの極大スキルがデカいブドウに襲い掛かる。

 絵面的には完全に勝利していた。


 が、レオポルドは操作特化のスキル使い。

 相手の煌気オーラに干渉できる。


 ブドウが四方八方に分裂したかと思えば、極大スキルの方向を操作する。

 進路を逆転させられた『皇炎暴滅ベエーアディゲン』は真っ直ぐに空飛ぶナグモへ迫る。


「京華さん! 言ったじゃないですかぁ!!」

「慌てるな! 相殺すれば問題ない!! はぁぁぁぁ!!」


 ここで本来の『葡萄包囲弾レザン・セック』の効果が発現される。

 当然だが、ただのデカいブドウを具現化した煌気弾ではない。


 分裂していたブドウたちがナグモ夫婦を包囲すると、一斉に彼らを覆い尽くした。

 ブドウゼリーのように。


「京華さぁん!?」

「落ち着け、修一。この状態でスキルを放てば、下手をすると反射してとんでもないことになる。冷静さを失うな」


「京華さん? 私も時には怒りますよ?」

「すまん。悪かった。ベッドの上で今晩は無抵抗になろう。それで許してくれ」


 ブドウゼリーに囚われた上級監察官と筆頭監察官。

 だが、このままでは終わらない。


 終わってもらうと困るのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 さすがに煌気オーラを放出し過ぎたレオポルドは肩で息をしながら、フラフラと座り込む。

 しかし、値千金の一撃を放った事実は評価せざるを得ない。


「ナイスでぇーす!! レオさん! はい! 『狂乱元気パリピチャージ』!!」

「ああ、ありがとう! バンバンくんの煌気オーラは纏うだけで気持ちよくなるし、元気は出るし、すごいなぁ!」


 バンバン・モスロン。

 煌気オーラそのものを操る特異属性持ちのため、回復スキルの構築をすっ飛ばし、煌気オーラを直接対象に付与する事で急速な回復を促進させる事が出来る。


 なお、ちゃんと構築術式を経由していないので、体に優しくはない。


「ええと、情報照会! うぇーい!? ちょ、ちょっと、レオさん! あちら、日本の上級監察官と筆頭監察官ですよ!? いや、日本人なのは分かってましたけど!!」

「それってすごいのかい?」


「どっちもピースのブラックリストに登録されてる人です! いやー! すごい! レオさん、これ一気に上位調律人バランサーの登用までありますよ! ウェーイ!!」

「えっ!? そうなのかい!? もしかして、女子の副官がついたり!?」


「ええ! ミノタウロスじゃない! 可愛い女の子が選べますよ!!」



「ウェーイ!! フゥー!! ウェウェイウェーイ!!」

「チョリーッス!!」


 歓喜のあまりパリピが増えました。



 しかし、ブラックリストに載ると言う事は危険度が高いと言う事で、ブドウゼリーに捕獲されたままでは終わらない。

 しょんぼりする妻にナグモさんが言う。


「こうなったら、力任せに行きます!」

「ああ……。どんな強引なプレイも受け入れよう……」


「あ。いえ、今の話なのですが」

「なに!? ここでするのか!?」



「京華さん!? 精神操作されてますか!? ナニをここでする訳ないでしょう!?」

「失礼な! 私は正気だぞ!! 小鳩から衣装返してもらっておくべきだったか!!」


 山根くんの「同一部隊に夫婦は避けるべき」提案書に、この戦いが終わったらナグモ監察官が共同署名する事が決まった瞬間であった。



 ナグモさんの体から古龍の煌気オーラが解放される。

 これはもう、どう考えてもアレの出番。


 その様子を見ていたバンバンは少し驚く。

 自分の煌気オーラ特性にかなり似ているスキルの発現を目にしたからであった。


「レオさん! これは強敵ですよ!! 私も本気を出しウェーイ!! 『狂乱舞踏鎧アゲアゲウェア』!! チョリーッス!! ぶちアゲてくんで! よろしくお願いいたします!!」


 先に煌気オーラを身に纏ったのはバンバン。

 桃色の煌気オーラが鎧のように体を覆うと、身に付けていた装備が変質する。


 キラキラと光を反射するラメ加工。

 頭部からはネコだかキツネだかネズミだかの耳が生える。


「すごい! なんて楽しそうなんだ!!」

「これがパリピの本気でウェーイ!!」


 少し遅れて、ナグモさんからも角が生え、瞳が紅く染まる。

 隈取が顔を化粧すれば、彼も顕現。


 古龍の戦士・ナグモ。フルバーストモード。

 まずは二分の一を理性ガチャを引けたのか否か。


 そろそろ一度くらい、理性的なフルバーストが見てみたい。

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