第607話 【旅行先はブドウ園・その7】龍を喰らう! バンバン・モスロンの『狂乱舞踏鎧』!!

 古龍の戦士・ナグモ。

 フランスのブドウ園に顕現する。


 彼は右手に煌気オーラを溜めて、それを放った。


「はぁぁぁぁっ!! 『古龍斬滅波ドラグスラスター』!! これで問題ない!!」


 適切に斬撃属性を持つ煌気オーラ波でブドウゼリーを解体し、妻と一緒に脱出完了。

 しかも、いつになく言動が安定している。


 やったか。


「京華さん! 私に任せてください!! あなたを傷つけさせはしない!!」

「ああっ! 修一様!! お待ちしておりました!! そのお姿!! お慕い申し上げております!!」


 ちなみに、夜のナグモ家はフルバーストする事により嫁と旦那のパワーバランスが1:9になります。

 通常モードだと9:1です。もうリクエスト受けっぱなしです。


「お、落ち着いてください! 京華さん!! 安心して!!」

「頼りになるそのお体! 私を強く抱きしめてください!!」


「…………あああ!! れ、冷静に、私! 深呼吸を! あああああ!!」


 ナグモさん、小刻みに震え始める。

 さらに煌気オーラ放出量は上がり、限りなく煌気オーラ爆発バーストに近い状態へと移行。

 そうすると、もはやこれまで。



「チャオ!!」

「修一様! キタコレ!!」


 ダメでした。新婚1か月の新妻に抱きつかれたら、それはもうチャオるのだ。



 ナグモは【黄箱きばこ】を解放して、大太刀『ジキラント』を帯刀する。

 続けて、腕にしがみつく妻に向かって挨拶代わりのウインク。


「さがっていたまえ! 子猫ちゃん!! あなたの柔肌に触れるには、私の体は少し乱暴すぎる。ふっ。哀しいな。力があると言うだけで、愛する者を抱きしめることもできないなんて」


 京華さんは山根隊の現場に留めておいたサーベイランスとの通信を開く。


「山根! 私だ!!」

『京華さんっすか!? やったんすね!? じゃ、こっちの援護お願いします!! 自律起動型に移行したっぽいので、術者倒してもこっちのブドウは生きてるんすよ!!』


「いや! 違う! 修一がセクシーになった!! 映像を残したいから、どうにかしろ!!」

『あー。やってんなー。これ。……なんか通信状況悪いんで、一旦切りまーす』


 通信途絶。

 京華さんは悔しそうに舌打ちをした。



 多分、山根くんにこそ許されるリアクションである。



 パリピ解放状態のバンバン・モスロンは、古龍の戦士を見て頷いた。

 彼は生まれついての特異煌気オーラ持ち。

 ナグモさんは『古龍化ドラグニティ』をマスターしてからまだ数ヶ月。


 精神の安定度合いは比べるまでもない。


「これは強敵ですウェーイ!! しかも、あちら様もパリピ状態!! これはアガる!! 激闘になりそうですよ、レオさん!!」

「……僕はね。なんだか、あっちのカップルを見ていると急速に煌気オーラが回復してくる思いだよ。すぐに援護するね。バンバンくん。こっぴどく叩き潰してやりなよ」


 理性的なパリピと闇落ちブドウ園の主。

 それらを1人で相手にするナグモ。


 激闘が幕を開ける。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「相当な手練れである事は分かっている! ゆえに、全力でいく!! 一気に決めるが、悪く思わないでくれ! 刀で愛は語れないのだ! ふっ! 『古龍一刀閃ドラグスラッシュ』!!」


 強力な煌気オーラの斬撃が放たれる。

 フルバーストナグモは、出る度にはっちゃけている印象ばかり目立つが、しかしその実、顕現する度に古龍煌気オーラと南雲修一の肉体は適合率を上げていた。


 ジキラントから放たれる一振りはまだ辺りを漂っていた『葡萄包囲弾レザン・セック』の余韻を全て切り裂き、一瞬でバンバン・モスロンの鼻先に到達する。


「僕のブドウが……!! 全然悲しくない代わりに、ものすごく腹立たしいな!!」

「ウェイウェーイ!! バイブス高めの攻撃ウェーイ!! ですが! あなた! 私と極めて相性が良いですね!! これも巡り合わせウェーイ!!」


 バンバンの右手が桃色に光り、迫る一閃を握った。

 それをそのまま削り取る。


「ウェーイ!! 煌気オーラによる攻撃はウェーイ!! 『狂気舞踏鎧アゲアゲウェア』を発現した私には効かないウェーイ!! 煌気オーラは友達! パリピ仲間!!」


 緑色の古龍煌気オーラをガッチリキャッチしたバンバン。

 煌気オーラ吸収でもなければ、煌気オーラ反射でもなく、ただキャッチしたのである。


「ふっ! 面白い事をする男だ!! そこに愛はあるのかい!?」

「バイブス上がればだいたい愛!! 一期一会のパーリーナイッ!!」

「僕、この人たちの戦い、嫌いだな。そんなノリで一夜の過ちなんか起きないよ」


 ナグモはジキラントを左手に持ち、右手から渦巻く煌気オーラを放つ。


「私とて! 愛を語りながら負けるわけにはいかないのさ!! 愛しい人の涙の落ちる音は、さながら哀しみの奏でるセレナーデ!! オーケストラに演奏させやしない!! 喰らいたまえ!! 『古龍螺旋撃ドラグスパイラル』!!」

「ウェーイ! 人の話を聞かないで我を通す!! 紛れもなくパリピウェーイ!!」


 斬撃だろうと煌気オーラ波だろうと、今の状態のバンバンにとっては強烈なライナーが飛んでくるサード守備のようなもの。

 ちなみにバンバン・モスロンの守備能力はS判定。


 今度の螺旋型煌気オーラ波も難なくキャッチした。


 が、次の瞬間には高速移動していたナグモがジキラントを振るう。

 理性がなくても元は監察官随一の知恵者。南雲修一。

 戦いの遺伝子はしっかりと脈を打つ。


「いかに煌気オーラを捕らえる事が出来ても!! このように煌気オーラを纏った物理攻撃ならどうだい!?」

「チョリーッス! クールですねぇー!! それは正解ウェーイ!! それをされると、私も受けるだけではいられなくなりますウェーイ!!」


 ジキラントによる連続攻撃。

 大半の方が忘れている気もするが、南雲修一の得意とする攻撃は剣術。


 多くの武器を扱う多芸に秀でた男だが、剣を使って戦っていた時期が最も長く、師である久坂剣友からも「やっぱり修一は剣じゃのぉ! 器用じゃから応用も利くし、こりゃ鍛えがいがあるで!!」と評価されていた。


 なお「しっかし、女子の扱いはどがいしても上手くならんのぉ。まーた合コンで独り残されたんじゃろ? お主、すぐ追加の注文と空いたグラスの整理の担当始めよるもんのぉ……」と、パリピの素養については師匠にも諦められていた事を付言しておく。


「丸腰の男を相手に斬りつけるたびに私のハートが哀愁のリズムを刻んでしまう!! 君も武器を持ちたまえ!! そして、愛を語り、哀を知るのだ!!」

「意外と紳士でウェーイ!! だがし! ご心配にも及びません!! もう準備できてるんです!! レオさん、下がって!!」


 バンバンが煌気オーラ力場を展開した。

 通常、戦闘中に煌気オーラ力場を展開するケースは滅多にない。

 まず手間がかかるし、力場を用いるような大技は回避された時のリスクも大きい。


 しかしバンバンくんの特異煌気オーラはその枠にとらわれない。


「失礼ウェーイ!!」

「うっ!? なんだい!? 私の胸に手を当てても、そこには熱いハートしかないよ!」


 バンバンはスキルを発現する。


「チョリーッス!! 大変申し訳ありません。この手のスキルは現世にないので、本当に反則ですよね。『狂乱煌気全回収パリピサン・オカエリデス』!!」

「ん? ああああああああ!? あ、あれ!? 私の変身が!?」


 バンバン・モスロンは煌気オーラそのものを操る。

 相手が身に纏っている煌気オーラもその対象に含まれるのである。


 古龍の戦士・ナグモの古龍煌気オーラがガッチリキャッチされ、引き剝がされた。

 一瞬で変身は解除され、南雲修一へと戻る。


 古龍の戦士の天敵は、異世界産のパリピであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方。

 山根隊も相当な苦境に立たされていた。


「健斗さん! これ! キリがないですよ!! ジリ貧です!!」

「まずいっすね。春香さんの煌気オーラが切れたら、マジで終わるっすよ!」


 デカいブドウが猛威を振るう。

 現状、辛うじて春香さんが体術で対応しているが、遠近両用の攻撃に少しずつ押されて始めていた。


 山根くんも支援を続けるものの、今回は『双銃リョウマ』にスキルを封入していないため煌気オーラ弾だけでは打開策に及ばず。

 頼みの綱の新規戦力は。


「おぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!! ちょ! そこはお尻だよぉぉぉぉ!!」



 もう解説するのも嫌になるような、凄惨な状態で地面とドッキングしていた。



「こ、こうなったら……!! わたくし、やりますわ!! 仲間のピンチ……恥ずかしがってなどいられません!! 探索員になった時から、女は捨てておりますもの!!」


 ついに小鳩さんがスカートから手を離し、槍を構えた。

 が、すぐにブドウたちが「よっしゃ! 可愛い女の子が隙だらけや!!」と小鳩さんの主にヒラヒラするスカート目掛けて一斉攻撃。


 邪な自律起動をしおってからに。


「ひゃああ!! ちょ、やっぱり無理ですわ!! スカートなくなるじゃありませんの!? スカートなくなったら、次は下着がなくなりますわよ!! それは無理ですわぁぁ!!」


 悲鳴を上げる小鳩お姉さん。

 その声が聞こえたのか。


 当事者にしか分からないが、彼は寡黙なので答えないだろう。


 フランスの大地に、門が生えて来た。

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