第605話 【旅行先はブドウ園・その5】二手に分かれる南雲隊! 日引春香Aランク探索員、戦います!!

 襲い掛かるブドウの粒を消し飛ばす南雲隊。

 3分ほどその対処を続けていたが、日本が誇る監察官の中でも精鋭がここに2人もいる。


 彼らはすぐに方針を変更した。


「これは埒が明かんな」

「仕方がありませんね。術者を叩きましょう」


 普段から部隊の指揮官を務め、本部の司令官もよく任される南雲修一。

 日本本部の最高意思決定機関を長らく1人で担当して来た南雲京華。


 この夫婦の判断力は極めて高く、同じタイミングで同じ戦場に立つとなれば相当にレアケース。

 元から連携する相性も良く、今では夜の相性もバツグンの2人。


「じゃ、南雲さん。敵さんの始末をお願いしまーす。こっちは自分たちがどうにかしのぐんで、5分くらいで頼みますよ」

「山根くん。どうしたんだ、本当に。今日の君、まるでAランク探索員みたいじゃないの」


「自分もね、結婚して学んだんすよ。ふざける事にも責任が付いて回るようになると、TPOミスると大惨事になるって。南雲さん。自分、あなたの偉大さがよーく理解できたんす。いつでもふざけられる職場って、最高っすね」

「うん。君はあれだな。意外とマジメなタイプだから、新婚生活で色々と戸惑ってるんだね? いつもはガンガン刺さるディスが、全然痛くないもん。分かった、こっちは山根くん。君を臨時指揮官とする。ところで、武器は?」


「心配ご無用っす。南雲さんの『双銃リョウマ』パクッて来てます!」

「だろうと思ったよ。ねぇ、一応私さ。武器庫にロックかけてるのに、なんで普通に開けるの? この間、解除コード変えたばっかりじゃん」


 山根くんは親指を立てた。

 続けて、「簡単な推理っすよ!」と言う。



「前が京華さんの誕生日だったすからね! で、南雲さんはちょっと捻ると思ったんで、京華さんのスリーサイズ入れたら余裕でした!!」

「ほう? 修一。お前、先日言っていたよな? 私は京華さんが痩せようが太ろうが! どんな姿だって愛します!! とかなんとか。スリーサイズ? お前、私の下着やらスカートやらを盗み見して、数値を覚えたな? そして山根と共有しているな? おい」



 南雲修一、全身から緑色の煌気オーラを放出させる。

 これはまごう事なき古龍の煌気オーラ


「はぁぁぁ!! 『古龍化ドラグニティ二分の一ハーフ』!! さあ、京華さん! 私に乗ってください!!」

「おま、お前!! こんな部下が多いところで! 上に乗れとか……!! 自分の性癖をバラすな!!」


 全開放でなければ、妻よりも理性的なナグモさん。

 ブドウの対処を搭乗している妻に任せて、一直線に農場の庭を目掛けて飛び去った。


 だが、葡萄衛星たちはナグモ夫婦を追おうとせず、数の減った山根隊を取り囲む。


「あちゃー。敵さんがクレバーなパターンっすよ、これ。確実に弱体化した集団を先に潰すとか、よーく戦い方を熟知してるっすねー。塚地さん、行けそうっすか?」

「この姿が戦えそうに見えるんですの!? ずーっと羞恥心と激戦中ですわよ!! 下からブドウが襲って来るんですのよ!! 『銀華ぎんか』なかったら、もう大惨事ですわ!!」


 いつもはチーム莉子の中でも頼りになるお姉さんが、常に両手でスカートを抑えているせいで戦力にならない。

 続けて山根くんはチラッとだけあの男を見た。


「おぎゃあぁぁぁっ!! あっ! このブドウ、食べると意外と美味しい!! げああぁぁぁぁあ!! 腹ん中で爆発したんですけどぉ!? いてぇぇぇぇぇ!!」


 安定の逆神大吾。


 と言うよりも、普段より酷い。

 あのお排泄物、いつもは「逆神大吾いきまーす!!」と言って何かしらやってから叩き落されるのがパターンなのに、今回は初手からずっと地面に這いつくばっている。


 京華さんに対するメンタル攻撃と言う役割も果たさずに、一体何をしているのか。


「うへぇー。これはヘビーっすよ。自分だけっすか……」

「何言ってるんですか、健斗さん! 私がいます!! ふふっ! 実戦なんて久しぶりです!! とっくに装備、換装済みですよ!! ふんっ! ふんっ!! ふふんっ!!」


 日引(旧姓)春香Aランク探索員。


 彼女はかつて、現場でバリバリ戦う系の乙女だった。

 解析能力に目を付けた京華さんに「お前、オペレーター専任でやってみないか?」と提案されるまでは、五楼上級監察官室の部隊に混じってダンジョン攻略をしていた経歴を持つ。


 オペレーター専任になってから3年。

 実はトレーニングを欠かしていなかった春香さん。


 黄色のピッチリしたボディスーツの上に膝、肘にはプレート。

 拳には手甲が光る。


「やりますよ! 健斗さん!! 私が近距離で葡萄狩りしますから! 健斗さんは後ろからガンガン攻めてください! 夜は得意ですもんね!!」

「……うちの奥さん連中、作戦行動中にぶっこみ過ぎじゃないっすか? これも公式の戦闘データに残るんすよ? うわぁ。塚地さんがすごく悪い顔してる!!」


「わたくしばかり恥ずかしい目に遭うのは不公平ですもの!! そうなのですわね! 山根さん、お尻に敷かれながら夜は……!! 後背からの攻撃ですのね!! ふふっ!!」


 新婚夫婦が同じ部隊に配属されると、話題が下世話になる。

 山根くんは「夫婦は分けた方が良い」と意見書を出そうかと思ったが、「あ。受理するの、京華さんか雨宮さんじゃないっすか……」と気付き、虚しくなって『双銃リョウマ』を抜いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春香さんの戦闘スタイルはシンプル。

 煌気オーラを纏わせた超近接特化の体術である。


 探索員は一般的に近距離特化で戦うタイプが最も少ないとされている。

 いくつか理由はあるが、1番は「モンスターおよびスキル使いは煌気オーラ弾などで距離を取る場合が多い」が挙げられる。


 その場合、パーティーメンバーに援護を求めるか、自分で防御しながら接近を試みる必要があるため、普通に効率が悪い。

 近距離戦闘が得意な者でもせめて中距離に対応したスキルなり、効果範囲の広い武器なりの扱いを学ぶのがベター。


「行きますよぉぉ!! たぁぁぁぁ!! 京華さん直伝の必殺スキル!! 『春一番はるいちばん』!!」


 だが、春香さんは近距離特化を貫いた。

 「ミドルレンジ以上の攻撃が苦手だったんですよね」との事だが、なにより近距離攻撃に光るものがあったからである。


 それほど多くない煌気オーラ総量を器用に両の拳へと集約させて、風属性のカマイタチを展開しながら敵に向かって突進する。

 五楼京華考案の数少ないオリジナルスキルである。


 お気づきの通り術者から名前も採用されており、昔から続く京華・春香コンビの仲良し度合がよく分かる。


「ええ……。春香さん、なんでオペレーターやってるんですの……? ちょっと引くくらい強力なスキルじゃありませんの。攻防一体で機動力もあるとか……あっ。しかも身体強化されてますわね!? パンチするたびに煌気オーラが放出されてますわよ!!」

「塚地さんが解説役に……。なんてもったいない布陣なんすか、これ。ああ、ちなみに春香さん、ガチってた頃の模擬対人戦のスコアヤバいっすよ。雷門さんギャン泣きさせた事もあるんすから」


 山根くんは楽しそうにブドウを破壊していく妻を見ながら、的確な援護射撃で彼女の周囲の安全と視界の確保に動く。

 順調にブドウの数は減っているように見えたが、ここでフェーズが3に移行した。


 ブドウの粒が1か所に集まり、巨大なブドウになる。

 ちょっと何言ってるかよく分からない表現だが、ブドウが集まってデカいブドウになったのだから仕方がない。


「うはー。マジっすか。遠隔操作から自律起動に切り替わったっすねー。南雲さんたちの接近に気付いての対応っすかね。自分の煌気オーラ弾は通らないっす。春香さん! 距離とりましょ!! 危ないっすから!」

「了解です!!」


 だが、後退した瞬間に巨大ブドウは葡萄衛星を放出して追撃を始める。

 近づけば耐久値の高いブドウの塊が、離れれば厄介な葡萄衛星が襲って来ると言う2段構え。


 明らかに手数が足りない。

 山根くんの判断は早かった。


「大吾さん! 10万円でどうっすか!! とりあえず、手付けで!!」


 ずっと地面にひれ伏してビクンビクンしていたお排泄物が空中で回転しながら、体勢を立て直す。

 両手からは煌気オーラ刀。


「おらぁぁぁぁ!! 二刀流!! 『断罪十字剣だんざいじゅうじけん』!! へへっ! 山根さん! お世話になりやーす!! おっとぉ! 小鳩ちゃん! ナイスセクスィー!!」


 お排泄物、ついに起動。

 乙女たちが顔をしかめた。


「……健斗さん? それって経費ですよね? まさか、うちの家計から出しませんよね? 私、怒りますよ?」

「落ち着くのですわよ、小鳩……! 気を抜くと、『銀華ぎんか』がお排泄……大吾さんに襲い掛かってしまいますわ……!! あれでも一応、人間! うちのエースのお父様! うちのリーダーの義理のお父様!!」


「自分、指揮官に向いてないっすねー。これ、得た戦力より失った信頼の方が絶対デカいじゃないっすかー。いたっ! ちょ、春香さん!? 手甲が刺さっ! 痛いっ!!」


 南雲夫婦に早くキメてもらわないと、山根くんがストレスでヤバい。

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