第599話 【川端一真の捕虜日誌・その2】アルゼンチン近海にて ~地球とおっぱいは今日も丸く、私は元気です~

 人工島ストウェアは現在、南米のアルゼンチン近海を航行中。

 彼らの目的は「どこかの国の探索員協会を襲撃して、軍備をさらに強化する事」なのだが、未だに方針は定まらず。


 そんな中、姫島幽星によってピースの成果報告が行われた。


「おい! マジかよ!? ペヒさんが動いてんのか!? ていうか、木原監察官のデータ採取して、コピー戦士作るって!? 冗談じゃねぇ! んな事になったら、吾輩が率いるポートマン隊じゃ手に負えねえぞ!!」


 とりあえずダンク・ポートマンの発言に物申す乙女たち。


「誰があんたの部隊なんだよ! このハゲ!! あんた密航者みたいなもんだろ!! 勝手に指揮官気取ってんじゃないっての! ってか、いい加減帰れ! 転移スキルでいつでも直帰できるだろー!!」


 ライラ・メイフィールドさん。

 元々イギリス探索員協会の上級監察官だった彼女。

 そのイギリスで奪い取ったストウェアにはかなりの愛着を持っている。


 ハゲたデブに所有権を主張されるだけでイライラするのだ。


「ハゲじゃねぇ! スキンヘッドだ!! お前は吾輩に毎回この件をやらせるのか!?」

「じゃあ黙ってなよ! このハゲぇぇぇ!」


 醜い争いをチラ見しながら、水着になって日光浴をしているナディア・ルクレールさん。

 大きなため息をついて、一応見解を述べた。


「あのー。わたしたちって、アレですよねー? ライアンさんの指示でストウェア奪取したんですよねー? で、その後に追加の指示で、適当に暴れとけって言われましたよねー? なんでピースに反逆する流れになってるんですかー? わたし嫌ですよー。面倒なのー」


 ナディアさんは穏健派。

 と言えば聞こえはいいが、無気力派。


 何もしなくて済むなら何もしないし、何かしなくちゃいけなくてもギリギリまで何もしないのがモットーである。

 ピースの首領ラッキー・サービスに対して明確な敵対心を持っているのは、ダンク・ポートマンのみ。


 姫島幽星に至っては、我関せずとストウェアの甲板で煌気オーラの練度を高める修行に徹している。

 彼はサービスの腹心。

 だが、ポートマンに救われた借りもあるので、現状どちら側にも付く様子を見せない。


「ねー。川端さんもそう思うよねー? このままさー。のんびり世界一周するのとか良くない? ねー?」


 ここまで存在すら描写されなかった川端一真監察官。

 ひょっとして不慮の死を遂げたのかと心配したおっぱい貴族の諸君。

 安心して欲しい。


「私はナディアさんの意見に賛同する!! もう、このままずっと日光浴をしていたい!! ああ! けれど太陽が眩しくて、どうしてもナディアさんの方を向いてしまう!! そしてそこには2つの惑星が!! ああ! この銀河はなんと素晴らしいのだろう!!」



 おっぱい男爵は元気です。

 なんか楽しそうです。



「あははー。川端さんって日本人っぽくないよねー。ほら、日本人ってシャイって言うかさー? 自分の意見を表明しない風潮あるでしょー? 水戸くんとかまさにそんな感じだったしー」

「そうだな。水戸くんはシャイボーイだ。そしてチェリーボーイだ」


 水戸くんは水戸くんで、おっぱいに囚われて最近はっちゃけています。


「その点、川端さんは自分の好きなものを隠さないからさー。見ててちょっと気持ちいいよねー。わたしもさー? 何もしたくないって気持ちを前面に出して生きてるからさー。仲間だよねー、仲間! ほらー。またおっぱい見てるしー。そんなに面白いかなー?」

「……私は、もしかするとナディアさん! あなたに会うために地球で生まれたのかもしれない!! それほどまでにあなたとあなたのおっぱいは素晴らしい!!」



 おっぱい男爵の精神状態が極めて安定していて逆に危険です。



 そこにやって来るライラ。

 彼女は中身がばばあなので、男爵の中での順位は落ちる。


 などと言う事はない。

 立派なおっぱいであれば、中身が何であろうと男爵は気にも留めぬのだ。


「川端ぁー!! なぁー! どっか落としやすい探索員協会教えてくれよー!! あたしが国協に籍を移したのって、もう5年前だからさ! 情報が古いの! あんたストウェア以外にも、カルケルで勤務したり、情勢に詳しいんだろ? ねー!!」

「私を見くびらないでもらおう! どのような拷問をされても、仲間の情報を売るような真似はしない!!」


 ちなみに、ライラさんの装備は水着を少し改造したものなので、常時おっぱいフルバーストです。


「ケチー! もう話かけてやんないからな!!」

「くっ……!! 何という精神的な拷問……!! 話しかけてくれないのに、2つのおっぱいは雄弁に私の魂へ語りかけて来る!! ジェニファーちゃん!! 私を導いてくれ!!」


 とりあえず、お昼ご飯の時間になった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「お待たせした。今日は親子丼を作ってみたが、お口に合うだろうか。ブラジルで鶏肉を大量に入手したからな。日本ではポピュラーな食べ物だ」


 ついに給仕当番のシフトに組み込まれた川端さん。

 きっと、敵の懐に潜り込んで反撃の機会を狙っているのだろう。

 さすがは寡黙な仕事人の異名を誇る、日本探索員協会で最もブレない心を持つ男。


「うめぇ! すげぇな、川端! 料理もできるとか! 侍ってのはクールだぜ!!」

「君には別に褒めてもらわなくて結構だ」


 おっぱい以外には確固たる捕虜としての対応を取る川端さん。

 信じていました。


「くくっ。確かになかなか美味。川端、褒めてやろう」

「黙れ。この変態。貴様に関してはアトミルカとの交戦の頃から敵なのだぞ。私がカルケルの副指令に着任中に脱獄したクソ野郎も貴様だ。腹立たしい。馴れ馴れしく話しかけて来るな」


「川端。某は共同生活をしておる者の下着には興味がない」

「そうか。見下げ果てた趣味の男だ。聞いているだけで食事がまずくなる」


 姫島はニヤリと笑うと、言葉を続けた。



「だが、情報としては既に把握している。川端。知りたくないか? 女どもの正確なバストサイズを。普段付けているブラジャーの色を。くくくっ」

「ふざけるなぁ!! 私は日本の誇り高き監察官がひとり! 川端一真だ!! 明日は姫島! 貴様の好きな日本料理を作ってやる!! だからサイズだけでも教えてくれ!! いや、ヒントで良い! ヒントから色々推理する方が興奮する!! ……はっ!? これがピースのやり方かぁ!! どこまでも人の道を踏み外した、外道めぇぇぇ!!!」



 川端さん。

 お気を確かに。もう手遅れかもしれませんが、踏みとどまってください。


 姫島は親子丼を食べ終えて席を立つ。

 今日も修行をするのだろう。

 だが、その前に全員に向けてある提案をした。


「目的地が決まらんのなら、某に妙案があるぞ」


「うるせぇ! この変態が! どうせ、国産の下着が盗みたいから日本に行こうとか言うんだろうが! あれ、吾輩も日本に行きたい!? じゃあ行こう!!」

「くくっ。残念だが、違うぞ。ダンク」


 女性陣はさらに姫島に対して冷たい。

 先ほどのブラジャー発言が原因なのは明らか。


「あたしさ、変態の意見聞くくらいならナディアと一緒に世界一周するわ」

「おー。気が合いましたねー。ライラさん。変態さんは海に捨てましょー」


 だが、姫島の提案は一同の予想を超えていく。

 彼は言った。



「デトモルトから近く、コピー戦士の試作機が数体、テストをするため現世に出るとの事。それを転移座標近くの海上にて襲撃し、某どもが奪うのはどうだ?」


 この変態の真意は不明だが、ダンクにとっては魅力的な話だった。



「そりゃ良いな! だが、戦力が心許ないぜ? 吾輩とお前。ライラとナディア。4人で掌握できる戦力なのか」

「勝手にあたしらを数に入れるな、このハゲ!!」

「ハゲてる人って独占欲強いらしいですもんねー」


 さらに姫島は続けた。


「もう1人いるではないか。川端。こいつは監察官の中でもそれなりの使い手。充分な戦力だ」


 これにはおっぱい男爵も真っ向から否定する。


「笑えない冗談だ。返答する気も起きない」

「そうか? 考えてもみろ。ピースの戦力を削れるのだぞ? つまり、日本探索員協会にとっても利点しかないのではないか? さらに、聞いたところによると。くくっ。女型のコピー戦士もいるらしい。……大きいらしいぞ?」


 川端一真は考えた。

 包括的に個別的に、総合的に大局的に。


「……話だけは聞いてやらんでもない」

「くくっ。お主はやはり物の分かる男よ」


 川端一真監査官。

 何やら大きな分岐点に差し掛かったご様子。


「わー。川端さん。信じてたのにー」

「がっかりだよな。あたし、結構好きだったのにさ」


 女性陣の冷たい視線を浴びながら、川端一真は必死に思考を働かせていた。


 監察官の席がさらに1つ空いてしまうのか。

 ストウェアの昼食会議は続く。

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