第598話 【ちょっとラブコメ・その5】雨宮順平上級監察官とエヴァンジェリンの修行デート(エヴァちゃん的にはデート)

 日本探索員協会は数年ぶりの上級監察官2人体制に。

 最高意思決定機関が分散する事は組織にとってデメリットもあるが、五楼(旧姓)京華と雨宮順平に関してはメリットの方がはるかに大きい。


「おい。雨宮。貴様、急に3日も休暇申請を出しおって。何のつもりだ」

「あららー。京華ちゃん! そろそろ赤ちゃんできそう?」


「だ、黙れぇ!! 貴様はいつもそうやって人のプライベートに踏み込んできおって……!! ……最近、少しマンネリ気味なのだが、何か知恵があれば聞いてやらんこともない」

「あらやだぁー! 京華ちゃんって昔からそう言うとこあるよねぇー!! ちなみに、どっちが不満抱えてる感じかな?」


「……私だ」

「あららー!!」



 この2人、実は仲良しなのである。



 年齢こそ雨宮上級監察官の方が少し上だが、探索員になった年が同じのいわゆる同期。

 さらに上級監察官に推挙されたのも同時という、結構な腐れ縁。


 性格も戦闘スタイルも得意としている業務も全て違うが、若い頃からよく同じ部隊に招集され、監察官に昇進してからも交流は続いていた。

 そんな2人を上級監察官に推挙したのは、ご意見番の久坂剣友監察官。


 上級監察官を正式にやらされそうになった際に「ワシ、そーゆうのちぃと柄じゃなかったんよのぉ?」と、半ば無理やり若者を捕まえて就任させている。

 そのため久坂御大は雨宮、五楼の協会運営に対して協力的。


 彼らは日本探索員協会の2代目上級監察官。

 初代は圧倒的な戦闘力を誇ったが、まだ発展途上だった協会に訪れた危機を払うための犠牲となり、殉職している。


 そののち2年ほど久坂老人が代理を務めていたが、「こがいな激務、じじいが1人でやっちょれるかい! 若いヤツ2人の体制にしちゃろ!!」と判断したのが始まり。


「京華ちゃん! コスプレはいいよー!」

「なっ!? わ、私にハレンチな恰好をしろと言うのか!?」


「いやいや。普段からハレンチでしょうに。下着の面積どんどん減ってるらしいじゃない! 1度試してごらんって! 燃えるよー! あっ! いっけね! 南雲くんに内緒だって言われてたんだった! じゃ、私行くとこあるから! アデュー!!」


 そう言うと、雨宮氏は【稀有転移黒石ブラックストーン】を握り飛び去って行った。

 残された京華夫人は呟いた。


「コスプレ……だと……。…………。結構種類があるな。ん? この店、近いぞ。い、良いだろう! この南雲京華! コスチュームプレイなど恐れたりはせん! 覚悟しておけよ、修一!!」


 翌日、南雲さんは体調不良で仕事を休みました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界ピュグリバー。

 雨宮さんが構築した転移座標の周りには、この国で「敬愛の象徴」となったオレンジ色の花が植えられている。


「よいしょっとー! おお! 煌気オーラが空気中に満ちてるねー!! 2週間しか経ってないのに! エヴァちゃん頑張ってるなー!」


 すると、草むらから野生の美少女お姫様が飛び出してきた。


「はい! エヴァンジェリンは頑張っています!! 雨宮様!! 待ちわびていました!!」

「あららー! もしかして、私の煌気オーラを感知したのかな?」


「もちろんです! 私、雨宮様の煌気オーラ以外は全部無視していますから! おばあ様の煌気オーラが邪魔なので、最近はお部屋に防壁を張っています!」

「あははー! おばあちゃんがかわいそうだなぁ! それにしても、私が汚い字で書いた教本のスキル、もしかして全部覚えたのかい?」


「いえ……。まだ7つしか……。エヴァンジェリンはダメな子です……」

「7つ! すごいじゃないのー!! 私の中では1年かけて覚えてもらう予定だったのに! もう半分以上習得しちゃったのかぁー! エヴァちゃん、煌気オーラコントロールが上手だねー!!」



 お知らせ。

 ミンスティラリアでは、今日も莉子ちゃんがクレーターを作っております。



 エヴァンジェリンは王族の末端とは言えアナスタシアさんと同じ遺伝子を受け継いでおり、彼女のように強力な異能には恵まれなかったが、スキル使いとしての類まれなるセンスを潜在的に持っていた。

 雨宮氏が作った教本には、Bランク探索員までが習得するスキルをメインに書き記してある。


 が、「ちょっと難しいのも入れちゃおうねー」といくつか高難易度のスキルも記しており、その1つが『金剛防壁こんごうぼうへき』と言う。

 物理、煌気オーラの双方を防ぎ、また複数発現させて対象を囲えば封印もできる久坂流スキル。


 おばあ様も封印できるスキル。


 雨宮順平は知っているスキルをフィーリングで発現できると言うチートおじさんのため、このように他流のスキルを勝手にパクる事も日常茶飯事。


「おばあちゃんの具合を診に行こうか!」

「はい! では、こちらの道を! ふふっ! 雨宮様の専用通路を国の皆で作りました!」


 大理石に似た鉱石で舗装された、絢爛豪華な歩道がそこにはあった。


「すごいねー! でも、この石って貴重なんだよねー? いいのかなぁ、私のために」

「ご安心ください! 原材料は逆神・ブリリアント・ミラクル・ロマンティック・大吾様の像を7割ほど破壊して調達しました!!」



 ダメな中年が作った若い頃の武勇伝は、こうして消えていくのである。



 王宮に着いた雨宮氏。

 女性近衛兵に「いやいやー! どうもー!」と手を振りながらバーバラの寝室を目指す。


 が、『橙色が新鮮な橙グングンオレンジ』の効果で一気に大人の体になったエヴァンジェリンがおじさんの腕を引っ張る。

 当然だが、小鳩さんに匹敵するEランクの立派な装備がおじさんの腕を刺激した。


「もぉ! 雨宮様! 今は私がお隣を歩いております! エヴァンジェリンの時間ですよ!!」

「あららー! ここに来るたびに私ね、本気で退職しようか迷うんだよねー!!」


 そのままお姫様を腕にくっ付けて、雨宮おじさんはバーバラの寝室へ。

 丁寧に挨拶をしたのち、煌気オーラ感知で供給器官の回復具合を精査する。


「おばあ様、お若いですねー! 治りが早いもん! これは20代のそれですよー! とりあえず、『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』を使いますけど、自然回復でも充分に完治しちゃうなー! すごい!」

「そうなのですか!? さすが雨宮様です! では、もうおばあ様にかまける事はなくなるのですね!! エヴァンジェリンとの修行に没頭できますね!!」


 笑顔弾ける18歳の乙女。

 バーバラおばあ様が悲し気に呟いた。


「この子はもう、1日の6割が雨宮様の話題ばかりで。残りは修行、食事、睡眠です。苦労を強いてきたので夢中になれる事を持つのは嬉しいのですが、アナスタシア様の件もありますので……」


 バーバラの懸念は実に共感できるものだった。

 油断すると、3日間滞在予定の雨宮おじさんが現世に帰るタイミングでくっ付いて行きかねない。


 そうなると、再びピュグリバーの煌気オーラが脆弱になり、バーバラおばあ様が老骨に鞭打つことになる。

 雨宮氏は少し大げさに言った。


「ピュグリバーは良いところだよねー! 煌気オーラが大気に混ざると、滞留する期間が長いのよ! 実際、1週間ちょっと滞在しただけの私も煌気オーラ総量が増えたからねー!! 修行するにはここが1番だなー! こりゃ、私はちょくちょく来ちゃうかもだねー! いや、おばあ様! すみませんねぇ!!」



 バーバラおばあ様、雨宮順平の紳士っぷりに咽び泣く。

 同時に、かつて王女と駆け落ちしやがった元英雄の事がちょっと嫌いになった。

 この国には善人しかいないのに。



「そうなのですか!? 雨宮様! 頻繁に私に会いに来てくださるのですか!?」

「来る来るー! エヴァちゃんとお喋りするの楽しいからねー!!」


「わぁぁ! 光栄です!! ご案内したいところ、たくさんあるんです!! ええと、その、雨宮様? ご提案があるのですが……」

「なんだい? おじさんに言ってみなさい! 可愛い子のお願いは何だって聞いちゃう!」


「ほ、本当ですか!?」

「おじさん嘘ついた事ないのが自慢なの!」



「あの! 私、雨宮様をお慕い申し上げております! ピュグリバーの初代国王になられるのは、雨宮様が相応しいと思うのです!!」


 適当な事ばっかり言っていると、弟子にプロポーズされていたおじさん。



「あ、あららー! 参ったねー!! まあ、でもね? エヴァちゃんがもう少し大人になってから考えようねー!」

「むすーっ! 私は大人です! 体のどこでも、お好きなところを触ってください! 以前とは比べ物にならない程に成長しましたので!! 証拠をお見せします!!」


 エヴァンジェリンちゃんは女性だらけのピュグリバーで姫として暮らしていたので、アレがナニする関係についての知識にかなり疎いです。

 雨宮順平は、この半年で1番のイケボを発した。



「……それは本当のことかい? 合法的に? 同意の上で? 本当のことかい?」



 2人の上級監察官が、産休と退役で同時にいなくなりそうな予感を覚える、日本探索員協会なのであった。

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