第600話 【川端一真の捕虜日誌・その3】またも暗躍を始めたド変態。巻き込まれるおっぱい。男爵、決断の時。

 上位調律人バランサーの姫島幽星。

 彼はラッキー・サービスの腹心として活動している。

 はずであった。


 だが、この男は昼食を終えた途端にとんでもない提案をぶち上げる。


 最上位調律人バランサーペヒペヒエスの作った、試作型コピー戦士奪取計画。


 親子丼があまりにも美味しくて脳に過剰な栄養が回りオーバーヒートしたのか。

 これもサービスの指示による作戦行動の1つなのか。

 はたまた、姫島自身に何か狙いがあるのか。



 変態の考える事なので、これは推測のしようがない。



 こうなると、不本意ながら変態侍野郎以外の上位調律人バランサーの良識に期待するほかない。

 ストウェアは現状、強固な最新鋭の移動要塞に4人の上位調律人バランサーが搭乗している。

 これだけでも相当な脅威である事は間違いないが、例えば日本本部の監察官が総出で対応すれば、負ける確率はほとんどないだろう。



 雷門善吉監察官辺りはそろそろ不慮の死を遂げそうなので、危険はもちろんある。



 それでも、尊い犠牲の上で日本探索員協会は勝利するだろう。

 人工島ストウェアも奪還。

 上位調律人バランサーを一気に4人捕縛する事もできる。


 が、ストウェアがこれ以上の戦力を補強すると事情も変わって来る。

 試作型コピー戦士の性能、個体数、いずれも不明だが、多く見積もり5体だとして、それらが全員監察官クラスの戦力を有していたとすれば。


 探索員たちはピースと同様の警戒をストウェアにも向ける必要に迫られる。

 こうなると戦力の分散の危機であり、その先の未来でピースとストウェアが結託した場合など、目も当てられない。


 正義を守護する探索員サイドからすれば、ただ敵勢力が増えるだけと言う、あまりにも大きなマイナスが目立ちまくる姫島幽星の提案。

 重ねて不本意だが、そんな事をされるくらいならば「てめぇは下着泥棒でもしてろ」と言うのもやぶさかではない。かもしれない。いや、言いすぎた。



 変態は男爵のトランクスでも頭に被ってクンカクンカしてろ。



「吾輩はこの作戦、クールだと思うぜ! ペヒさんの技術力はガチ! 試作機だって、強力な兵器なのは間違いねぇ! 根こそぎ奪っちまえば、サービスのクソジジイに一泡吹かせられるってもんだ!!」


 元から謀反を企てていたダンクは姫島が自分の計画に賛同するのであれば、歓迎以外のリアクションは投げ捨てる。

 だが、乙女調律人バランサーたちは当然反対意見を出す。


「んな事したら、あたしらまでピースに狙われるじゃん!! 上位調律人バランサーなら負ける気しないけどさ! ペヒやんは最上位じゃん! 他にも最上位は何人いるのかすら分かんないのに! なーんでそんな危険な事しないといけないんだよ! あたしにメリットないじゃん!! この変態が!!」


 ライラさん。

 見た目はイケイケの20代前半だが、中身はババア。

 しかも彼女はババア特有の勢いで波状プレス攻撃を仕掛け、そののちちょっと論理的な事も口にするというハイブリッドババア。


 この手合いにアルバイト店員が絡まれでもしたら、もはや死を覚悟するしかない。


「くくっ。ライラ。お前は今、若返っている。が、それはデトモルトの技術による事を忘れたか?」

「忘れてないし! バカにするなよ! だからこうやって指示に従ってんじゃん!!」



「この作戦で、ダンクがピースの実権を掌握すればどうなる? お主自慢の張りのあるおっぱいは? くくっ。若返らせてもらえるか? 協力もせずに? 言っておくが、それなりに勝算はあるぞ?」

「……マジだ!! それ、やべぇじゃん! このメタボハゲ、性格悪いもん! あたしだけ若返りの仲間外れに絶対するじゃん! えー? マジで!? 協力した方がいいん!?」



 ライラさん、口は立つのに頭が残念。

 だが、男爵曰く「ちょっとアホの子なおっぱいもまた、趣があって良い」との事。


「はー。ライラさんは相変わらずバカですねー。仮にですよ? 甘く採点してあげて、ハゲ・ポートマンさんの反逆の成功率が5割だとしましょ。それって、現状、わたしたちを戦力に加味した計算じゃないですか。つまりですよー。わたしとライラさんが抜けちゃえば、ハゲさんの反逆なんて机上の空論。お昼寝の夢なんですよねー」


 対して、ナディアさんは聡明。

 彼女に足りないのはバイタリティーだけで、それ以外の大半の資質は人並み以上に持ち合わせている。


 なにせ、数ヶ月も出社拒否したのにフランスの監察官をクビにされなかったほど、当時から実力と素質は評価されていたのだ。

 彼女に死角などない。やる気はもっとない。


「くくくっ。ナディア。良い事を教えてやろう」

「変態さんの言う良い事は、価値観の違うわたしにとって雑音でーす」



「ダンクが謀反を成し遂げれば、ナディア。お前は恒久的に自堕落な生活を手に入れられるぞ? このように、無理して任務に出る事もなく。気ままに毎日、ダラダラできる。逆にサービスが首領をしている限り、お前は一生働き続ける運命よ。くくっ」

「……変態さんが! すごく良い事を言ってたー!! まさか、わたしが人生で1度きりの本気を出す時が来てしまったのかー!? なんだってー!!」



 姫島幽星はウォーロスト収監中にコミュニティを築き、アトミルカに参加したのちも2番バニング・ミンガイル、3番クリムト・ウェルスラーと良好な関係を持ち、その根幹ではずっとラッキー・サービスの密命を受けていた。

 忠義のために動いていたようにも見えるが、ひょっとするととんでもない風見鶏なのではないか。


 ところで、川端一真監察官。

 もう7割終わりましたが、一言くらい喋ってください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 川端男爵は考えていた。寡黙な男なのだ。

 当然だが、ピースにもストウェアにも味方するつもりはない。


 腕を落とされ、足をちぎられようとも、仕事人は悲鳴すら上げず日本本部のために殉じるだろう。

 それは疑いようのない事実。


 さらに男爵は考える。

 一見すると、奇襲作戦と最新鋭の移動要塞の有利も加味して考えれば、姫島の策謀にも勝ちの目があるように思える。

 だが、この監察官は「ストウェアに勝算はない」と断定していた。


 姫島幽星が日本本部を襲撃した情報は男爵も知っている。

 「古龍化したナグモ監察官と相打ち」と言う結果は、確かに驚異。

 少なくとも、自分よりははるかに優れた使い手であると男爵は姫島の力を見積もった。


 ストウェアでの生活もそれなりに長くなり、彼は他の3人の実力も見定めている。


 ナディア・ルクレールは姫島幽星と同格か、それ以上の実力。

 本気を出したところを見たことがないので推測だが、本気のおっぱいは毎日見ているので男爵のスカウターは恐らく正しい。

 あと、とにかくおっぱいがすごい。


 ダンク・ポートマンとライラ・メイフィールドはそれよりもやや格が落ちる。

 ダンクは腹の肉がすごい。

 ライラのおっぱいもすごい。


 起動実験に際したピースの警戒度合は不明だが、よほど巧妙に相手の裏をかき、しかも優れた脱出手段がなければ、結局数の力の前に屈するのは明白。

 そこまで考えて、男爵は視線を移す。


 まずはライラ。

 常に水着型の装備を身に纏う彼女。

 そのおっぱい力はジェニファーちゃんに匹敵する。


 フレンドリーなおっぱいは加点対象。


 続けて、ナディア。

 彼女は服を着ていてもやたらと揺れるアクロバティックタイプ。

 しかも、定期的に水着で日光浴をしてくれる。


 さらに「川端さんも一緒に寝よー」と甘い声で誘ってくれる。

 癒し系おっぱいは男爵の中で得点が3倍になる。



「このおっぱいたちを、私はここで見捨てて良いのか。それで私はこの先、おっぱい男爵を名乗れるのか。私のおっぱいへの忠誠は、しかと真っ直ぐ見据えられるのか」


 愚問であった。



 目の前で危機に瀕しているおっぱいがあれば、川端一真は手を差し伸べる。

 その過程でタッチできたら百点満点。


 おっぱいに敵も味方もない。

 男爵にとって、おっぱいは光であり、希望であり、母であり、未来なのだ。


 川端一真は結局何も発言しなかった。

 その様子を見ていた姫島は満足そうに笑う。



「くくっ。思わぬ拾い物をしたな、ダンク。己の中に正義を持つ者は、状況が変われば敵も変わる。正義を裏切れぬのだ。某の下着とサドルへの愛と同様にな」

「黙れ。貴様と一緒にするな。私はおっぱいに酷いことなどしない。おっぱいを優しく包み込むブラジャーを盗む貴様とは絶対に相容れん。今すぐ海に落ちてサメに食われろ。日本人の面汚しめ。乙女たちのバストサイズこっそり言い遺してから死ね」



 結局最後に喋っちゃった寡黙な仕事人。


 ストウェアは現状のピースVS探索員の構図を大きく揺るがす事件を起こすことになるのだが、それはまだ未来の話である。

 我々は男爵の信念を信じております。


 正義の使徒であると同時におっぱいの従僕でもある男。

 人の道とおっぱいとの正しい付き合い方ならば、とうに熟知している。


 男爵はきっと大丈夫。

 そこにおっぱいがある限り。

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