第566話 【カルケル局地戦・その1】コピーを作るぞ! デトモルト人・ペヒペヒエスの大実験!! ~今回はちゃんと女子が出るシリーズをお送りします~

 人工島・ストウェアがピースの手に渡って約半日。

 水戸信介監察官が日本探索員協会本部に帰還し、監察官たちが事態を把握するに至る。


 ストウェアには通信設備や位置情報把握システムが搭載されているものの、ゲットした上位調律人バランサーたちは元々探索員協会に深くかかわっていた者ばかり。

 そのため真っ先に状況を外部に知られる設備を取り外し、改修していた。


 ストウェアが日本本部のモニターから消えて、そろそろ6時間が経とうとしている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のミンスティラリアは。


「今日はわたしがご飯を作りますっ!!」

「みみみっ。安心安全、信頼の莉子さんブランドが来たです!! エプロン可愛いのです!! みみみみっ!!」

「ですわね! 莉子さんお料理は上手ですもの! あ゛っ。お、お料理も!!」


 晩御飯の準備に忙しかった。


「じいちゃん。どう思う?」

「そうじゃな。六駆の見解が正しいように思えるの。ピースさんはワシらから目標を移したか、あるいは最初から陽動のためにワシらを狙ったか」


 六駆くんと四郎じいちゃんは現在会議中。

 何となく「僕たち、蚊帳の外にされてないかな?」と感づいている最強の男。

 実績の伴う男の「何となく」は極めて高い精度を誇る。


「お父さん!! ちぃと! また、そねぇな事して!! 話するか煌気オーラの鍛錬するか、どっちかにしぃさんや!! 本当に、昔っからそうなんよ!! ご飯の時に新聞読むし!!」

「こりゃあすまんかった。ワシも少しくらいは役に立ちたいと思っての。六駆は当然としてじゃが、みつ子にも実力的にずいぶん遅れを取るようになりましたからの」



「何を言いよるんかいね!! お父さんが元気でおってくれるけぇ、あたしゃ愚痴も言えるんよ!! 無理して体調崩したら大事じゃから!!」

「みつ子……!!」


 逆神家は3世代、どの夫婦も関係が良好に保たれております。



 少し離れたところでポテトチップスを食べながらクララパイセンが鳴いた。

 なお、ミンスティラリアに適応し切っている彼女は集団生活にもコミットしたため、普通にタンクトップと半パンであぐらをかいてビールを飲んでいる。


 おっさん猫になりつつあるどら猫乙女さん。


「バニングさん、バニングさん。今ってどうなってるのかにゃー? あたし、実はもう分からなくなってるにゃー。本部に行った頃からよく分かってないぞなー」

「お前……。相変わらずの大物っぷりだな。よく分からない状態でピースの幹部と戦闘していたのか?」


「あたし特に何もしてないにゃー。弓忘れて行ったしー」

「そうだった。現状、ピースの出方を伺う時期なのは変わっていないが、そろそろこちらも動いて良い頃ではないかと私は思う」


 すっかり逆神家&チーム莉子に肩入れしているバニングさん。

 反対側に座るのはアリナさんとザールくん。


「聞いてくれぬか、ザール」

「はっ。伺います。アリナ様」


「最近な。バニングが家に帰って来ぬ。2日に1度しか戻らぬ。妾は寂しい……」

「それはよくありませんな!!」


 アリナさんはクララパイセンから分けてもらった体操服を着用しており、太もも全開で最近は過ごしておられる。

 これも煮え切らない旦那へのアプローチ。


「にゃはー! バニングさん! ちゃんとおうち帰ってくださいにゃー!!」

「クララ……。お前が日本の運動着を山ほど持ち込むから……」


「にゃるほどー。……大学指定の競泳水着ですかにゃ?」

「そうだ!! アリナ様、普通に着ておられるのだぞ! 泳ぐわけでもないのに!! 暑いと申されて!! そんなに涼しくないだろう、あれ!! 下着より面積多いではないか!! ……あ゛っ」


「ほほう? バニング! そなた! 下着が所望だったのか!! 言えば良かろうに!! よし分かった! 今晩からそのように手配するぞ!!」

「ち、違うのです! アリナ様! ちがっ!! あああああ! どうして私の首に手を回される!? ああああああ! ああああああああ!!」


 バニングさんがログアウトしました。


「ボンバァァァァァァ!! クララさん! 照り焼きができました!! 食べてくだファイアァァァァァァァ!!!」


 バッツ・ホワン・ロイさんがログインしました。


「にゃはー! 来たぞな、来たぞなー!! くぅぅぅー! ビールと合うにゃー!! これは素晴らしいぞなー!! 冷蔵庫からお酒のおかわり持ってくるにゃー!!」

「お気に召されて何よりです!!」


 この後、莉子ちゃんの作った夕飯が全然食べられなかったクララパイセンはむちゃくちゃ怒られました。

 莉子ちゃんと小鳩さんに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ところ変わって、こちらは監獄ダンジョン・カルケル。

 現在ピースの構成員発掘施設になっているスキル使いの収容所である。

 最下層には異世界・ウォーロストに繋がる異界の門もある。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉん!! もう帰ろうぜぇぇぇぇ!! 雷門よぉぉぉぉぉ!!」

「ダメですよ! 私たちは防衛の要です!!」


 木原久光監察官。

 雷門善吉監察官。


 両名はカルケルおよびウォーロストの警備任務に就いていた。

 が、今日でその任務も10日が経過し、木原監察官が飽き始めている。


「全然敵なんか来ねぇじゃんかよぉぉぉぉぉ!! 飯はパサパサしてるしよぉぉぉ!! ラーメンが食いてぇんだよぉぉぉぉ!! 脂っこいヤツぅぅぅぅ!!」

「ベビースターラーメンならありますよ!! バラエティーパックが!!」


「パサパサじゃねぇかよぉぉぉぉ!! やきそば味が意外と美味ぇんだよなぁぁぁ!!」

「もう食べたんですか……。あっ。塩味だけ残ってる」


 なお、雷門さんは泣きません。

 木原監察官のセリフがどうしても長くなるため、雷門さんに泣かれるとこの2人の会話だけでうんざりするからです。


 現在、両監察官は司令官室のすぐ隣にシェルターを作り、そこで生活している。

 雷門監察官は構築スキルのスペシャリスト。

 小さい住居程度ならば数時間で完成させられる。


 「たいした事ねぇじゃん。六駆くんは数時間で移動要塞作ったやん?」と思われるかもしれないが、あれは六駆くんがおかしいのである。

 数時間で家が建てられるだけでも充分に世界基準。


 そんな彼らのいるカルケルに来訪者があった。

 2人の影が監獄ダンジョン・カルケルの隣にあるドノティダンジョンでうごめいていた。


「せやからな? あかんのやで? ポッサム。モンスターむやみに食べたらな? 生態系に変化が出るんやって。な? ええ子やから、ぺってせぇ」

「ヴォエ」


 紫色の玉ねぎヘッドが愛らしい彼女はデトモルト人のペヒペヒエス。

 彼女はピース最上位調律人バランサーであるため、行動に制限がない。

 基本的に放任されている調律人バランサーの中でも、サービスの命令を無視できる権限を持つのは最上位調律人バランサーのみと定められており、ペヒペヒエスもその1人。


 今回、彼女もピースの人員を増強させるべく出張して来ていた。

 デトモルト人は異世界の中でも際立って異質な技術を持つ種族であり、彼らが本気を出せば300年以上生きるため有する知識と技能は人間の比ではない。


「ほれ、ええ子やからな。おばちゃんの言う事を聞いてんか?」

「黙れ! ばばあ!!」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「痛い、痛い!! ごめん、ババア!!」



 同行しているのはポッサム。

 調律人バランサーではないし、人間でもなければ異世界人でもない。


 デカくて喋るドーベルマンである。

 犬である。ワンコでも可。


 ピースの纏め役ライアン・ゲイブラムが無類の犬好きであり、先日一緒に現世で催された世界のワンコ展へと赴いたペヒペヒエス。

 そこで生物情報を取得し、デトモルトでコピーを生成。


 ひと手間加えたところ、全長6メートルほどの狂ドーベルマンが誕生した。

 コピーとは。


 知能補助装置をコピーの段階で付与したため人語を操るようになり、攻撃面では数種類の煌気オーラブレスが吐ける。あと固いし速い。

 名前だけドーベルマンでまったくドーベルマンではない何かをマスコットとして売り出すスタイルのピース。


 喋るたびによだれが飛び散るのはご愛敬。

 好きな食べ物は玉ねぎとチョコレート。やっぱり犬じゃなかったポッサム。


 「これ、いけるやん!」と悟ったペヒやんは、「今度はなんか良い感じの人間コピー戦士作ったろ!!」と動き始め、準備が整ったのでコピー情報をゲットしにやって来た。

 今回の目標は、高め狙い。


 最強の監察官。木原久光である。


 ペヒペヒエスのワクワク実験が始まろうとしていた。

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