第565話 【人工島ストウェア・その7】戦いの女神に振られた男たち! ~川端一真監察官、捕虜になったってよ!!~

 川端一真は才能に恵まれた探索員ではなかった。

 煌気オーラ総量が少なく、武器の扱いも上達せず、Cランク探索員で5年、Bランク探索員で4年と足踏みの多い若手時代を過ごしていた。


 ようやくAランク探索員に昇進した時の年齢は28歳。

 探索員全体で言えばそこまで鈍足だったわけでもないが、現在監察官の席についている者の括りで比較すると極めて遅咲き。


 彼は不器用だったため何度も繰り返し鍛錬を積み、何度もダンジョンを探索し、何度も強力なモンスターに挑むことで自身を成長させてきた。

 それが報われたのは、35歳の頃である。


 Sランク探索員の査定を受けなかった川端一真は、Aランク探索員として多くの作戦に従事していた。

 探索員デビューをしてから多くの監察官室に籍を置いてきた若き頃の男爵。

 当時所属していたのは、30代前半で監察官として頭角を現していた雨宮順平監察官室。


 そこでも寡黙に仕事をこなしていた彼が、36歳を目前にして出会う。


 人生を捧げるに足る愛すべき存在。

 ここでは敢えて固有名詞を避けるが、柔らかいアレである。


 2か月ほど仕事を放り出して夢中になったのち、男爵は覚醒した。

 その先は階段を上がるどころか、高速で上昇するエレベーターに乗り込んだが如く。多くの戦功を挙げる事になった。


 彼は前述の通りいくつもの経験を糧に実力を身に着けて来た男であるため、ダンジョン攻略、モンスター討伐、異世界との交渉など、探索員の主要任務は全て平均点以上を弾き出す万能な戦士。

 ゆえに、監察官への推薦が何件も届いた事も不思議ではない。


 と、ここまで川端一真の半生を振り返ろうと色々頑張ったのだが。



 結局、「35歳の頃おっぱいと出会って才能が開花した」で済んでしまう哀しみと向き合ったため、非常に多くのカロリーを消費させられた。



 割とどうでも良くなったので、男爵のリアルタイムにシフトしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「つぁぁぁぁ!! 『巨水豪弾バウ・ウォルタラ』!!」


 のっけからハッスルする川端監察官。

 大きな水の牙がダンク・ポートマンに迫る。


「やはり!! こいつぁ侍!! 良かった! いたんだな!! ジャパンに侍はまだ!!」

「私の静謐な戦いに土足で上がり込んだ罪は重いと知れ! 『乳液ミルク』!!」


 川端男爵、具現化した液体を自分の顔にかける。

 警戒するダンク。


「……な、何をしたんだ!? こいつ!! くそっ! 分からねぇ!!」

「保湿だ!! 私は乳液と言う響きが実に好きだ!! このスキルを作るまでに2年半かかった!! おかげで肌はプルプルだ!! ふふっ。頬っぺたの弾力には自信がある」



「く、クレイジーだぜぇ!! 侍!!」


 本当にただクレイジーなだけである。



 川端監察官がダンクと交戦し始めたため、ライラは雨宮上級監察官を探した。

 2人同時はキツくとも、雨宮か川端単独ならばとずっと考えていたイケイケばばあ。


「あららー! ちょっと男爵! 生態認証のロックかけたでしょー? 私のIDでも司令官室入れなかったんだけど! 困るよー!」

「出たな! 雨宮!! 『生い茂る草グラスオハーブ』!!!」


 ちゃんとストウェアの指揮権を奪還しようとしたのに、味方の男爵に阻まれて戻って来た雨宮上級監察官をライラの植物スキルが襲う。

 この男は非常に強いが、欠点も多い。


 同じ上級監察官の五楼京華は圧倒的な攻撃スキルと盤石の戦略を用いて敵を攻略するが、雨宮順平は再生能力持ちのため相手の初撃を敢えて受ける傾向がある。

 もちろん、後進のために敵の能力を探ると言う面では優れた作戦なのだが、今回は極めて属性の相性が悪かった。


「あらららー! なんか背中に付けられちゃった!! ライラちゃんって言ったね? 私を離したくないんだな!? おじさん、張り切っちゃうゾ!!」

「……日本の監察官、だいたい頭おかしいな。なんで川端も雨宮も、煌気オーラ吸収されながら平然と動くの? 怖ぇよ。今だってバリバリ吸い取ってんのに」


 ライラの放つスキルは一撃必殺の類が少なく、ジワジワと相手の煌気オーラを削る事で継続ダメージを与えるものが多い。

 多人数で作戦行動に挑む時にこそ真価を発揮するのだが、副官のナディアが水戸監察官と因縁の対決をしているためソロ活動ばかりになっている報われない乙女ばばあ。


 急に降って来たダンクとは共闘したくない。

 結果的に、雨宮上級監察官を相手にしてもセオリー通りの煌気オーラ吸収を選ぶしかなかった。


 しかし。

 この植物スキル、雨宮順平の駆使する再生スキルとは混ぜるな危険の間柄にある。


 それはライラも知らないし、雨宮上級監察官も知らない。

 どちらもニッチな属性のため、スキル使いの大半は知らない相性だと思われた。


「あたたたた! なんか背中が痛くなってきた!! ライラちゃんの草に背中噛まれてるぅー!! 再生しまーす!! 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』!! あ゛っ」


 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』は範囲指定スキル。

 今回、雨宮上級監察官は自分の背中の裂傷に対して発現した。

 そこにはライラが放った草が生えている。


 おわかりいただけただろうか。



「うわぁぁぁぁ! 川端さん! 水戸くん!! 見て、これぇ!! 私の背中!! すっごい事になってる!! これぇ!! ああー!! ヤバい!! ライラちゃんの草が暴走してる!! 見てー!! ほらぁ!! 川端さん! ムービー撮って、ムービー!!」

「うぎゃあぁぁぁ!! あたしの植物スキルがキモい事になってるんだけども!! 何してんだ、雨宮!! おい! 止めろ!! ぎゃあぁぁぁ!! すっげぇ規模に効果出てるぅ!!」



 雨宮産の再生スキルを栄養にしたライラの草が過再生状態になり、増殖を続ける。

 この草は煌気オーラを吸収すると言う効果だけがプログラムされた単純なスキル。

 『新緑の眩しい緑モリモリグリーン』を吸収しているが、この再生スキルもずっと発動しているので生命力もモリモリ補填され、それの繰り返しが凄まじい速度で行われた結果、ストウェアの甲板を草が覆い尽くした。


 雨宮上級監察官も煌気オーラを放出を止めたいが、止めた瞬間過再生でヤベー事になった草に食われると言う逆草食系状態。肉食草である。


「川端さん!!」

「水戸くんか。ナディアさんとチュッチュしてきたのか? 許せん!!」


「この状況でもブレないのは流石です。決着を付ける前に横槍を入れられてしまいました。それよりも! 今は雨宮さんをどうにかしなければ!!」


 川端監察官は頷いた。

 それから、端的に見解を述べた。



「無理じゃないか? もののけ姫のクライマックスを思い出すんだ、水戸くん。そして雨宮さんを見ろ。まんま祟り神じゃないか。触れたら死ぬぞ」

「ですが! 見捨てる訳にもいきませんよ!! あれ? そちらのアメフトならラインがよく似合いそうな方はお知合いですか?」



 タックル上手そうな男。ダンク・ポートマン。

 彼の得意とするスキルは転移属性。


「よく分からねぇが任せろ!! 『空間圧縮突撃輸送ビンビンカンガルービン』!!」

「ああああああー。川端さん、水戸くん。どうか死なないで。なんつってー! ああああああああああー」


 雨宮順平、異空間に呑み込まれる。


 だが、まだ増殖を続ける草が残っている。

 見たところ、完全に暴走しているらしく術者のライラも対応できない様子。


 男爵が仕事人の顔になった。


「水戸くん。ここに【稀有転移黒石ブラックストーン】がある。座標は日本本部だ。これを使い、君は飛べ」

「できませんよ! 自分もご一緒します!!」


「水戸くんのバカ、甲斐性なし、もう知らない!!」

「何言ってるんでぐはぁぁぁっ!? えっ!? 川端さん!! 川端さぁぁん!!」


 セリフがアレだったため伝わっていないかと思われますが、川端監察官が水戸監察官を蹴りで吹き飛ばし、ストウェアから落としました。


「ふふっ。水戸くん。しばらくお別れだ。つぁぁぁぁぁぁ!! 『断崖蹴気弾だんがいしゅうきだん極大氷結乳房乱舞フローズンパーリー』!!!」


 川端男爵のアレンジ極大スキル。

 氷結属性を付与した煌気オーラ蹴が増殖する草を全て凍り付かせる。


「くっ!! ……川端さん!! 必ず……必ず助けますから!! すみません!!」


 水戸くんはこのタイミングで転移。

 凶報を本部へと届ける。


 残ったのはピースの上位調律人バランサーたち。

 彼らは自身も氷漬けになった川端男爵の周りに集合した。


「こいつ……! あたしを庇って……!! 川端……!! 結構いいヤツじゃん……!!」

「ジーザスだぜ! 川端!! これが本物の武士道か……!!」


 自己犠牲の精神に感銘を受けるライラとダンク。


「なんでこの人、ポーズだけきっちりキメてるんだろ? それやる暇があれば逃げれば良いのに。ライラさん。とりあえず川端おじさん持って、司令官室行きますよー。生態認証でやっと入れます」


 現実主義のナディア。


「いや! ナディアは鬼かよ!! こんな感動的なシーン見て! 第一声がそれ!?」

「おおん? 姫島がいねぇ。あいつ、また勝手にどっか行きやがったな」


 その後、凍った男爵でもちゃんとロックが解除されたため、ストウェアの指揮権を完全にピースが掌握。

 沖合に向かって人工島が動き始めたのは、それから30分ほど後の事である。


「くくっ。良かったな、ダンク。これで拠点が手に入るぞ」

「おめぇ。イギリスでもその最低な行為してんのかよ。吾輩が海に蹴り落とすぞ」


 姫島はちゃんと戻ってきました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 リザルト画面はこちら。


 雨宮順平上級監察官。

 ダンク・ポートマンの転移スキルでどこかに失踪。

 行方不明者扱い。


 水戸信介監察官。

 日本探索員協会本部へと退避。

 おっぱい見ると戦意高揚状態は継続。


 川端一真監察官。

 ピースに捕縛され、捕虜生活がスタート。

 ただし特盛おっぱいたちと共同生活。

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