第564話 【人工島ストウェア・その6】上位調律人ダンク・ポートマン、乱入!! ~川端一真監察官の「お前は呼んでない」~

 水戸信介とナディア・ルクレールの戦いが続いている一方で、ライラ・メイフィールド23歳。中身は52歳。

 非常にまずい事になっていた。


「男爵! 下がっておきたまえ!! ここは私が……いや、拙僧が出よう!!」

「雨宮さん! あなた、急にキャラ変えて!! そんなにおっぱいの気を引きたいんですか!? よりにもよって僧侶!? 男爵より高潔なのズルいですよ!!」


「そりゃそうよ!! 男爵もう1回戦ってるんだからさ! ここは若者に譲ってよ!!」

「どこが若者ですか! 不良中年!! 言っておきますが、43歳と46歳なんてもう誤差ですからね!? 若い子からしたら、40代のおっさんの3歳差とか誤差です!! ここぞで若者アピールは汚いです!!」


「じゃあさ。お嬢さんに聞いてみようよ!」

「良いでしょう。私は負ける気がしない」


 2人のおっさんがつぶらな瞳でライラを見つめた。

 見つめられたライラは考える。


 「明らかにチャンスだよ、これぇ!!」と。


 川端監察官は恐らく倒せるだろうという公算がライラにはあった。

 しかし、雨宮順平上級監察官を相手にするとなればいささか話が変わって来る。


 ライラも若返ったことで元から強かった実力がさらに向上した自覚はあるし、日々それを実感している。

 元の階級も彼と同じ上級監察官。


 だが、雨宮順平はピースのブラックリストに載っている男であり、脅威判定は逆神家の1つ下。

 逆神家がアンタッチャブルなため、実質的に最警戒人物に該当する。

 戦闘を楽しむタイプではないおっぱいお姉さんに擬態したおばさん。


 できることなら交戦を避けたい。


「ほらぁ! 見た!? 男爵ぅ! 今お嬢さん、私を見たからね!!」

「見てませんー。よしんば見たとしても、それは確認のためですー。あ! こっちの軽薄そうな人より、こっちの一途なおじ様にしよう!! って思ったんですー」


「川端さん! ジェニファーちゃんへの愛はどうしたの!!」

「くっ!! さすが雨宮さん!! 的確に急所を突いて来る!! だが! ジェニファーちゃんは還るべき場所!! 今は戦闘中!! 別腹なんですよ!!」


 ライラは痛感していた。

 若返った肉体に宿る、2つの大きな膨らみの偉大さをである。


 散歩行くよと言われた柴犬のように尻尾を振り乱している監察官と上級監察官。

 「おっぱいってすげぇ!!」と確信に至り、「水着で来て良かった!!」と心の中でガッツポーズをキメる。


「この隙を逃す手はない……!!」


 ライラは煌気オーラを地面に這わせる。

 彼女の得意とするスキルは植物属性。

 土属性の派生形だが、極めてニッチなため使い手が少ない。


 ライラの煌気オーラから発芽したツルがゆっくりと伸びていき、まず雨宮上級監察官の足元に到達。

 だが、煌気オーラ感知をすれば察するのは難しくない。


「つぁぁ!!」

「あっ! ちょっと! 川端さん! なに煌気オーラ放出してるの!!」


 ここぞで飛び出す男爵サポートをライラさんがゲット。


「私が先に戦闘態勢に移りましたので!! 早い者勝ちです!!」

「ズルいぞ、男爵! 私だって!! ……あっ」



 雨宮上級監察官がツルに巻き付かれました。



 この世界においてダンジョン探索でツルに絡まる事は様式美とされており、過去にはデビューしたての莉子ちゃんが初々しいサービスシーンを担当した事もある。

 なお、直近のツル被害者はアトミルカ殲滅作戦時の逆神大吾。


 メインヒロインの可愛いシーンを親父が塗りつぶすのもこの世界の理。

 それをたった今更新したのが雨宮さん。


 おっさんの連鎖に乙女は勝てないのか。


「何をしているんですか。雨宮さあぁぁぁぁぁっ!? しまったぁぁぁぁ!!」

「よっしゃ! 2人とも釣れたぁ!! あたし、なかなかやるな!!」



 またツタに絡まるおっさんコレクションが増えました。ご高覧ください。



「じゃあ、あたしと一緒に来てもらうよ! 川端!!」

「…………。ふふふっ!!」


「そんな……! 男爵に負けた!! その勝ち誇った顔!! 悔しい!!」

「私に迷わず近づいてきたおっぱい!! そう言う事ですよ、雨宮さん!!」



「あんたたちさ……。毎日楽しそうだね?」

「どうですか! 雨宮さん!」

「くそぅ! すっごく充実してるよ!!」



 戦うことなく捕縛されたダメなおっさんたち。

 若い監察官の芽吹きを見て、お口直しをどうぞ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 鞭とモーニングスターが空中で火花を散らす。

 水戸監察官とナディアは距離を保ちながらミドルレンジの武器を操る。


「おー。やるねー。水戸くんさ、覚えてる? 君が初めて合同監察官訓練に来た時」

「よく覚えていますよ! 班単位でモンスターとの戦闘訓練やらされました!!」


「そーそー。あの時の水戸くんは強かったねー。君の次がわたしでさー。頼もしかったよー。今の君はあの時の感じに似てるねー」

「……そうかもしれません。自分は前時代的と言われるかもしれませんが、女性に血を流して欲しくない! ルクレール監察官! 今だってそうです!!」


「わー。騎士道精神だねー。日本だったら武士道かな? けどねー。わたし、強いよー? とぉー!! 『岩断クーペ』!!」

「力づくでも我を通す構えです!! 『縛り付けるムチムチの緊縛ポゼシヴスネーク』!!」


 ナディアを狙った水戸くんの拘束スキルだが、それはモーニングスターに叩き落される。

 だが、それは彼も想定内。


 モーニングスターの先端、鉄球にムチムチ鞭が絡みついた。


「おわー。煌気オーラ吸収スキルだー。本当にクールだねー。んー。じゃあ、この武器は君にあげちゃう!! 素手でもわたし、結構強いよ? たぁー。『多影拳オンブル』!!」

「そのスキルもよく知っていますよ! 『回転しながら周りを回る鞭ローリングサイクロンウォール』!!」


「わっ!」

「これが新しい自分です!!」


 ナディアの拳は弾かれ、初めて彼女が体勢を崩した。

 好機である。


「申し訳ないですが、身柄を確保します!! ……なっ!?」


 鋭い真っ赤な煌気オーラ弾がストウェアの甲板に降り注ぐ。

 水戸監察官をはじめ、良い感じにツタプレイを楽しんでいた川端監察官と雨宮上級監察官の3人を的確に狙った襲撃。


「くくっ。まったくダンクも人遣いが荒い。サービス殿と言い、国協絡みは働き方改革を知らぬのか。これはナディア殿。久しいな。今日も実に麗しい」

「あー。変態さんだー」


 姫島幽星、イギリスデビュー。

 この男はどこにでも現れる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 水戸VSナディアのカードに乱入したのが姫島と言う事は。

 こちら、お楽しみ中の川端&雨宮のおっさんコンビの元へと飛来するのは。


「吾輩、見参!! ライラ! 下がってろ!! ここからはこの吾輩が助太刀しよう!」

「はぁぁぁ!? ポートマンじゃんか!! しゃしゃり出てくんなよ!! こいつ! 手柄横取りに来やがったな!!」


 上位調律人バランサー。ダンク・ポートマン。

 ライラの言う通り、手柄を横取りに転移して来た。


 この男は転移スキルを得意としているため、各地で一斉に活動を始めたピース調律人バランサーたちの動向をずっと伺っていたのだ。

 ポートマン一派の目的は「全ての裏をかいてサービスも出し抜き、利益を総取りする」ことであり、ストウェアを手中に収める事が出来れば是非もない。


 侍と忍者を愛しているダンクなのに武士道がまったくないのは甚だ残念。


「まあそう喚くな! ストウェアは吾輩が有効活用してやるからよ!! それともライラ! 吾輩の部下になるか?」

「ふっざけんな!! 誰があんたみたいなメタボハゲに従うもんかい!!」


「メタボは認めるが! ハゲてねぇ!! こりゃ剃ってるんだ! スキンヘッドだ!! おおっ!? なんだこいつ!? お、おい! ライラ!! 拘束解くなよ!!」

「えっ。いや、解いてないけど? お、おかしい! 煌気オーラ吸収し続けてたのに!!」


 ポートマンの目の前には、川端一真監察官が立っていた。

 彼の動きを目で追えた者は誰もいない。


「誰だか知らないが。言っておこう」

「こいつ……!! すげぇ気迫だ!! いいぜ! 言いたいことがあるなら言えよ!!」



「つぁぁぁぁぁ!! 『断崖蹴気弾だんがいしゅうきだん極大乳房フェスティバル』!!!」

「いでぇぇぇ!! いや、言えよ!? なんでお前!? 躊躇なく蹴り入れてくんだよ!?」



 挨拶代わりの極大スキルをポートマンにぶちかまして、男爵は言った。


「お前は呼んでない。今すぐ帰れ。私の幸せを邪魔するな」

「この男……やべぇ!! これが噂に聞く、侍の末裔か!? 吾輩ついに出会ったか!?」

「あ。……雨宮もいなくなってる。ヤバくない?」


 楽しい戦場に突如降って来た乱入者。

 おっぱい男爵はその狼藉を許さない。


 ストウェア編。クライマックスである。

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