第557話 【日本探索員協会・その10】マスクド・タイガー(バニング・ミンガイル)、ハーパー部隊シリーズの後始末!

 六駆くん、静かにガチギレ中。

 今回は声も出さずに煌気オーラを爆発させている。


 この手のタイプは無言でキレる時が一番恐ろしいと相場は決まっているのだ。


「逆神くん! 待ってぇ!! お願い!! 気を鎮めておくんなまし!! 今日ね、何が一番辛いってさ! 君と小坂くんが交互にキレるんだもん!! ヤメてよ!! ストレスで私ハゲちゃうよ!! 君たちがキレるだけで、アジア圏の探索員協会から山ほど連絡が来るんだよ!!国を超えた脅威にならんとってぇ!!」


 現在、南雲監察官は大吾と一緒にベンチに力なく腰掛けている。

 つまり、巻き添えを食う。


 その点は苦労人であり人格者でもある南雲さん。

 多くの者から慕われているため、周囲がピンチから救うべく動く。


「うにゃー!! 小鳩さん! 足の方持ってにゃー!!」

「仕方ありませんわね! 芽衣さん!」

「みみっ!! 『分体身アバタミオル二重ダブル』!! こっちにパスです! みみみっ!!」


 南雲さん、乙女たちに運ばれる。


「え、えっ!? 何事!? なんで君たち、私を!? どこに連れて行かれるの!?」

「にゃはー! 安全な所ですにゃー!! 55番さん! いーれてー!!」

「もちろんだ! 入って欲しい!!」


 この場で最も安全な薔薇で作られた防御壁にせっせと避難する一同。

 思えば55番くんもずいぶんとやるようになったものである。


 これで、外に残るのは六駆くんと莉子ちゃんとマスクド・タイガー。

 あとはターゲット。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!」


「これはまずい。莉子。自分で防げるか?」

「バニングさん優しいですねっ! 平気です! 旦那様のスキルから身を守れなくて、お嫁さんにはなれませんっ!! えへへへへへっ」


「そうか。相変わらず、規格外だなお前たちは。……ぬぅん!!」

「やぁぁぁぁぁっ!! 『苺防壁いちごガード』!!」


 2人の最強格も準備完了。

 では、執行のお時間です。


「え? なに? どうした? あっ! 六駆ぅー! なんかお金貰えるらしいやん? お父さんのおかげじやない? ねぇー!! オレの可愛いお尻が狙われた結果の機会収益やん? と言う事でー!! 10万円くらいちょうだいっ!! てへぺろ!!」


 言い遺すことは済んだらしいので、ぶっ放されます。

 六駆くんの組んだ手が吼えた。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!! 『蓋世がいせい大竜砲ドラグーン』!!!」

「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!! おまぁ!! 何すんの!? あっ。なんで笑ってんの?」



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!! 『大竜砲ドラグーン』!! 合わせてぇ!! 『大双竜砲ドラグドラグーン』!!!」

「おぎゃあぁぁぁ!! ああああああっ!! ひょえぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



 逆神大吾と共に舗装された歩道が消し飛んだ。

 スッキリした表情の六駆くんは「はぁー! よし! 今壊したとこも復元しまーす!! サービスで!!」と言って、再び『時間超越陣オクロック』を発現させた。


「私はあれで倒されたのだが。こうして客観的に見ると、よく生きているな、私。いや、一度死んで生き返ったようなものだが。なんとも恐ろしい……。む?」


 六駆くんのストレス解消を見届けたマスクド・タイガーさん。

 何かに気付く。


 そこにはドロドロしたスライムの塊のような物体がいくつか転がっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ピンチが去ったので、避難していたメンバーも薔薇の防御壁から出てきて再び中庭に集結する。

 戦闘になると役に立つはずなのに、今回は武器不携帯のため見せ場がなかったクララパイセンがタイガーさんの様子を見て首をかしげた。


「およよ? バニング・タイガーさん。どうしたにゃー?」

「クララか。私の名前を丸出しにして虎を被せて来るのはヤメてくれ。改名したみたいではないか。だが、ちょうどいい。あの塊に何かスキルを撃ってくれんか?」


 スライムっぽい何かを指さすタイガーさん。

 クララパイセンは理由を聞こうともせず「お任せにゃー!!」と快諾する。


 これにはタイガーさんも「求められた場所で力を振るう事に迷いがないのは戦士としての素養だな」と目を細めた。


「にゃにゃー!! 『グラビティバレット』!!」


 スライムが「ぴゃげぇー!!」と鳴いた。

 そのまま溶けてよりドロドロになる。


「……うにゃー。ちょっとキモいぞなー。バニングさん? あれ何ですかにゃー?」

煌気オーラ感知に徹したかいがあった。やはりこれは通信機。しかも、こちらをモニタリングしていたようだ。クララ。残りの3つにも攻撃を。私が処理をする」


「ガッテンだにゃー!! うにゃにゃー!!」

「1基ほど取っておくか。では、残りを掃除する!! 『一陣の拳ブラストナックル』!!」


 スライムもどきは全て灰に帰した。

 タイガーさんは生け捕りにしたドロドロした物体を六駆くんと莉子ちゃんがいる修復最前線へと持って行く。


「どうしました? バニングさん」

「おい! 待たんか!! 通信機がまだ生きているのに!! 私の名を呼ぶな!!」


「あのぉ? えと、今の一言で、呼ばれた名前が本名ですって肯定してませんか?」

「しまった。何というミスを……。莉子は自分を取り戻したようで何よりだ」


 莉子ちゃんがちょっとだけ昔の賢い乙女に復権しております。

 貴重なので、どうぞご覧ください。


 タイガーは未だ虎の面を頑なに被りつつ、六駆くんに自分の所見を告げた。


「へぇー。確かに、なんか煌気オーラが出てますね。けど、僕もメカには疎いですからねぇ。南雲さーん!! 来てくれますー?」

「はいはい。今行くよ。ありがとう、木原くん。もう大丈夫だから。はい、これあげるよ。私のIDカード。みんなでアイスをもう1つ買っておいで」

「みみみっ!! お安い御用です!! みみっ! アイス買って来るです!!」


 芽衣ちゃんの肩を借りて、監察官一の知恵者が召喚された。

 彼も事情を聞き、早速スライムもどきの外皮に手を突っ込む。


「おおー。さすが南雲さん。僕だったら絶対に触りたくないなぁ!!」

「わたしもだよぉー。ドロドロで気持ち悪いねー」


「むちゃくちゃな構造だけど、確かにこれは通信機だね。と言うよりは、スパイウェアに近いかな。でも生きてるっぽいぞ。謎だ……。煌気オーラデータとかを吸い取って、どこかに送り続けているようだけど。参ったな。ほぼ間違いなくピースの置き土産だよ、これ。どこまで情報取られたのか。敵襲からとずっとだと想定した場合、私や久坂さん、チーム莉子の子たち。……まずいな。逆神くんの煌気オーラも拾われてる可能性が。とりあえず、解析に回そう。山根くん!」


 サーベイランスがやって来て、一言だけ告げる。



『すんません! うち、今日はもう終わってるんで!!』

「おおい! ビジュアルは確かに最悪だけど! 君ぃ! オペレーターだろうが!! そしてうちは日本探索員協会で一番の技術部門だぞ!! 仕事しなさいよ!! 私なんか、ほらぁ!! 直で行ったから手がドロッドロだよ!! なんか臭いし!! ……ちょっと!? あっ! 通信切ったな、あいつぅ!!」



 結局、南雲さんが監察官室に戻って自分で解析する事になったらしい。

 先に言っておくと、朝まで自宅に帰れなかった南雲監察官は、起きて旦那の帰りを待っていた京華さんにむちゃくちゃ怒られました。


 それから2時間。

 本気で出力し続けた極大修復スキルによって一号館は復元され、六駆くんは一先ず1100万の報酬をゲット。


「んああー。すまんけど、ワシは部屋ぁ戻って寝させてもらうで。年寄りにゃキツイわい。55の。お主はまだおってもええで」

「いや! 私も戻ろう!! 卵酒を作るので、飲んで欲しい!!」


 久坂親子も離脱。

 ミンスティラリアチームはひとまず『ゲート』を使って再び疎開へ。


 情報漏洩の規模は気になるものの、ここに留まっていてもできる事もない。

 ならば、もう一度風呂に入り直して早いところ布団にもぐり体力の回復に努めるのが上策。


 長い1日がようやく終わり、日めくりカレンダーが1枚破かれる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぉぉぉぉ!! ヤバかったぁ!! もう、うちの息子が怖いのよ!! いやー! 我ながら、最高の死んだふりだったわ!! さあ! 戻ろうぜ! オレらの家族が待ってるとこによ!! ……あれ? みんな? 恥ずかしがらずに出ておいでよ!! ヘイヘイヘーイ!!」


 諸君。読み飛ばすのは良くない。


 この後、逆神大吾は南雲監察官室を目指したが一号館は広すぎて迷い、先ほど行った経験を生かして五楼上級監察官室にて一夜を過ごしました。

 翌朝出勤してきた京華さんが秒で旦那の元へと涙目で駆け込んできた話は、まあいいか。

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