第556話 【日本探索員協会・その9】上位調律人ダンク・ポートマン登場 ~同時上映、報酬に食い違いがあって静かにキレる逆神六駆くん~

 ナグモから戻った、南雲監察官。

 弾き返された自分の煌気オーラはどうにか相殺したものの、姫島の斬撃による煌気オーラを体に浴びて現在炎上中。


「こりゃあいけん!」


 久坂監察官がすぐに対処を試みるも、さすがに疲労の色が見える。


「久坂殿! 私がどうにかしよう!」

「おお! ……誰じゃい?」


 現れたのは虎のマスクを装着した筋肉質な男。

 彼は右の拳で燃え続けるエネルギーに干渉する。


「む。かつての姫島からは想像もできんほど高出力……と言うよりも。これは過再生に似た性質を感じる。雨宮殿のスキルに似ているが。いや、今はそのような分析よりも!! うぉぉぉぉぉ!! 逆神流が教えてくれた煌気オーラ転用!! この滾る煌気オーラを使い! 『魔斧ベルテ』、発現! 出力を続ける!!」


 バニングの操る『魔斧ベルテ』はオリジナルサイズでも2メートルを超える巨大な具現化武器だが、煌気オーラを絶えず与え続ける事でさらにそれを肥大化させていく。

 保有煌気オーラ量の増強が続き、約1分で8メートルを超える張り切ったサイズに成長。


「本当にとんでもない出力だったな。理屈は分からんが、恐ろしいほどの脅威である事はよく分かった。非道なようだが、許せよ姫島。私にも恩に対する奉公という大義がある。私や多くの部下、何よりアリナ様を救うために尽力してくれた者には、無条件で手を貸す。勝手な言い分なのは分かっているが、それこそ私が残された人生の時を使い、果たすべき使命!! ぬぅおぉおおぉぉぉ!!」


 巨大な『魔斧ベルテ』を浮かせたバニングは、それを姫島に向けた。

 姫島の生存は明らかであり、現在はナグモの放った古龍の煌気オーラを中和している最中。


 ならば、後顧の憂いを断つ好機。

 是非もない。


「加減はせんぞ! それがお前への義理だろう!! 『魔斧ベルテ隕石メテオ』!!!」


 これまでも斧を投げつける攻撃は行っていたバニングだが、今回のものは規模が違う。

 速度は遅いものの、着実に姫島目掛けて迫る膨大な煌気オーラ


「ふっ。できれば私がお前と戦いたかったものだ。一時とは言え、同じ組織で生きた仲。せめて、安らかに逝くと良い」


 と、ここで久坂監察官が確信を持つ。

 老兵は初老の兵の肩を掴んだ。


「おおい! お主、やっぱりバニングのか!! いや、確かに助かったで!? タイミング的に間に合わんかったしのぉ!? けど、まずいんよ! お主の存在が!!」

「……いえ。何の事でしょうか。私はマスクド・タイガーですが?」



「いくらなんでも無理があるんじゃわ!! お主、見た目誤魔化してものぉ!! 煌気オーラは嘘つかんけぇ!! バニングっちゅうて名札付けちょるようなもんじゃろ!!」

「……いえ。私はマスクド・タイガーですが?」


 この人はマスクド・タイガーさんです。

 地の文の記憶は消してください。バニングなんて人はここに来ませんでした。



 迫りくる『煉煌気パーガトリー』で極大強化した自分のスキルを転用された、極大スキル。

 何と分かりづらいものだろう。

 とにかく、姫島がヤベー煌気オーラを放ったら、ナグモが意外と頑張ってそれを押し留めたところに偶然居合わせたバニ……タイガーがヤベー逆神家を模倣した術式で撃ったヤベー斧が発信者の姫島にトドメを刺そうとしているのだ。



 諸君。まずいことになった。

 こちらも何を言っているのかがまったく分からない。



 そこにやって来る、新しい煌気オーラ反応。

 これ以上現場を荒らさないで欲しい。処理できるキャパを超えてしまう。


 出て来るならとりあえずそのデカい斧隕石をどうにかして欲しい。

 そんな期待を一身に背負うのは、初出の敵であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「何をしてやがるんだ、姫島。お前、『煉煌気パーガトリー』使ってその醜態はまずいぞ。サービスに消されかねん。吾輩に協力するのならば手助けをしてもいいが? おおん? ダメだな。聞こえてねぇ。まあ、事後承諾も認めるか。吾輩が転移スキルを得意としていた幸運を喜びやがれよ! 『大々的な大脱走グレイトエスケープ』!!」


 やって来たスキンヘッドの男はダンク・ポートマン。

 アメリカ出身の46歳。

 見た目年齢は20代後半だが、既に腹部が結構だらしないザ・アメリカンスタイル。


 好物はステーキの脂身とハンバーガーとバターを油で揚げたヤツ。


 国際探索員協会で行われる予定だった次回の理事選挙に出馬を表明していた、国協の上級監察官。

 なお、サービスがピースを蜂起させたため理事選はなくなり、そもそも国協の理事というポストの魅力も消されるに至った気の毒な男。


 そのためサービスに対して忠誠心はなく、代わりに憎悪の感情は標準装備している。


 当然だが、彼も利益と権力を欲するタイプ。

 分かりやすい目的で「吾輩、敵だから!!」と主張してくれる親切な悪人。

 階級は上位調律人。そこそこ偉いし、結構強い。

 姫島幽星とは同じ階級であるため、2人の間に優劣は存在しない。


「無茶苦茶な『煉煌気パーガトリー』の運用しやがって。おい、意識をしっかり保て。吾輩が助けてやった事をまずは理解しろ。面倒くせぇ。気付まで必要なのか。貸しが増えるだけだぞ。うらぁ!! しっかりしやがれ!!」


 姫島に煌気を叩き込むポートマン。

 それに反応して、瞳に光を取り戻した変態侍。


「……く。くくっ。ダンクか。これは……助かった」

「気安く名前で呼ぶんじゃねぇ。このド腐れジャパニーズが!! 吾輩の敬愛する国のイメージ最悪にしやがって!! そのまま死んでも吾輩は全然構わなかったんだぞ!?」


 ポートマンは大の親日家。

 いわゆるアニメなどのサブカルチャーに惹かれて日本ラブになっており、わざわざ自称を吾輩で統一するほどのこだわりよう。



 なお、姫島幽星によって侍への憧れはへし折られている。

 けれどもまだ、忍者があるのでポートマンは立ち上がれる。



「分かった。お前に借りを返すことを約束しよう。ここは一時撤退でどうだ。さすがに消耗が激しく某もまともに戦えそうにない」

「だろうな! 退くぞ! あと、おめぇ!! 貴殿って言えよ、吾輩のこと!! 辛うじて残ってる侍要素を吾輩に出し惜しみするな!! 置いてくぞ!?」


「委細承知。貴殿、貴殿」

「意外と悪くねぇのが腹立つぜ!! おら! 転移すんぞ!! おおん? ハーパーがいるな。しかも無傷で。ありゃどうする?」


「サービス殿の監視下で暗躍するつもりなら、拾っておいて損はない。あれは実に良いカムフラージュになるぞ」

「なるほどな。じゃあ、廃物利用するか。あとてめぇ!! カムフラージュとか言うな!! 変わり身の術とか言え!! 本当に置いてくぞ!?」


「よしよし。ござる、ござる」

「てめぇ……。今度から、語尾にござる付けろよ。吾輩がやっても雰囲気出ねぇんだ。腹立つな姫島、お前。なんでナチュラルに侍感があんだ。ド変態のくせに。くそが!! お集りの猛者ども!! 今日のショーはここまでだ!! 反省会でもしてろ!! 『カルーアミルク』!!」


 飲み会で女子ウケしそうなスキルにより白煙を巻き起こすポートマン。

 彼は乱暴にハーパーの襟首を掴むと、転移石ではなく自前の転移スキルで日本本部の上空から退却した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 予想外に強かった姫島幽星のおかげで、結構な被害が出た協会本部。

 特に消耗の激しい南雲監察官と逆神大吾はベンチで座り込んでいる。



 逆神大吾が一体どこで消耗したのかは考えるだけ無駄なのであまりお勧めできない。



「えっ!? 久坂さん? 1億ですよね? 1億!」

「おお。あののぉ。今、京華ちゃんからメールが来てのぉ。1億は払うけどもじゃ。これ見てくれるかいのぉ? 請求額の詳細なんじゃが。人間のクズ。ああ、いや、すまん。書いてあるまんま読んでしもうた。逆神大吾が原因で結界の破損が2層以上。あと、襲撃を招いた責任もあるみたいじゃの。それを差し引くとの? あ。ちぃと待ってくれ。データを六駆ののスマホに送るけぇ。よし、届いたの? では、ワシは離れる。……ほいでの? 諸々の経費差し引くとの。報酬は1100万とちぃとになるみたいなんよ。あ。こりゃいけん。55の!!」


「了解した! 久坂剣友!! 『ローゼンシルト・梅花プラム』!!」

「おお。助かるのぉ。お主の防御スキル、一級品になったのぉ。梅の花と薔薇の花びらのコラボも悪うないわい。ひょっひょっひょっ」


 安全地帯に退避した久坂親子。


 逆神六駆がこれから煌気オーラ爆発を起こすため、正しい判断であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る