第558話 【世界平定協会ピース・その2】ハーパー部隊、無事に失脚! 上位調律人たちの暗躍開始!! ~ここから本番!!~

 こちらは異世界・デトモルト。

 ご存じ、ピースの本拠地である。


 デトモルトの首都で異彩を放つガラス張りのビルにピースの幹部たちは住んでいる。

 ピースの構成員たちも少しずつ拡充されており、彼らも大まかなランク分けがされたのち、上位の階級から順にガラスのビルに近い地点に住まいを構える。


 これから更に増えると思われるが、デトモルトはかなり面積の広い異世界。

 北海道が2つ収まる広大な土地が広がり、勾配もないため家を建てるのは容易。


 デトモルト人たちもピースの存在を認め、快く思っているため障害は特にない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「サービス殿。ご報告してもよろしいでしょうか」


 最上位調律人バランサーのライアン・ゲイブラムがサービスの部屋の扉を叩く。

 調律人バランサーたちはそれぞれが個室を与えられており、その装飾品や部屋の設備などの良し悪しも階級によって差が付けられている。


 徹底的な競争主義を掲げるサービス。

 その割に同階級の者同士には優劣を付けないため、上位調律人バランサー以下のメンバーはこぞって手柄を立てたがる。


 さすがは資本主義の海で泳いできただけの事はある。

 と、褒めておこう。

 もしかすると上位調律人バランサー辺りに推挙してもらえるかもしれないからである。


 贅沢は言わないので10歳若返りたい。


「ライアンか。察するに、ハーパーがやらかしたな?」

「そこまで把握しておいででしたか。おっしゃる通り。やらかしました」


 ライアンはスライム型探知機で拾った情報から解析班が弾き出した最新のデータを手に首領の元を訪れていた。

 彼はデータを共有したのち、その事実を端的に伝える。


「ポートマンか。まあ、あれもそろそろ動くだろうとは思っていた。しかし、姫島を持って行かれるのは予想外だったな」

「姫島に謀反の気配があると?」


 サービスは首を横に振った。


「まずない。あれは損得勘定に光るものを持っている。俺の元へいずれ戻るだろう。まあ、好きにさせておけ。結果が定まっていれば、過程はあれの自由にさせて良い」

「ハーパーも一緒にポートマンの元へと向かいましたが?」



「それは必要な報告か?」

「失礼を。一時の笑い話にもなりませんでした」



 ダンク・ポートマンは「サービスとか吾輩、嫌いだな!!」を臆さず公表している。

 よって、同じくデトモルトに潜伏してはいるものの、ガラスのビルには住んでいない。

 サービスはその上で上位調律人バランサーの権限を与えており、ポートマンの動きも基本的には黙認する構え。


「それから、ハーパーの部下に組み込まれていた元アトミルカの4。ロブ・ヘムリッツがボロボロになって転移石で飛んできておりますが。こちらはどうしますか。個人的な所感を述べさせて頂ければ、有用な男だと思いますが」

「そうだな。姫島め、これでしばらくの逐電を許せと言う事か。かははっ。つまらん機嫌取りをする。とは言え、アトミルカの技術力は欲しい。適当に回復させて、そうだな。若返らせておけ。そこそこ年寄りだっただろう?」


「はい。恐らく、50代半ばくらいかと」

「そうか。急に体にガタが来る頃だな。俺も覚えがある」


「あなたが言われると説得力が溢れてきますな。ご随意に」

「ライアン。それから、上位調律人バランサーども何人か放て。逆神家に執着する時期は終わった。まあ、良いけん制になっただろう。当面はあの一族も足が重くなるはずだ。よって、次の段階へとステップを上げる。探索員協会を潰していくぞ」


「了解しました。では、比較的御しやすいメンバーを選びます」

「そこは任せる。それから、ライアン」


 ライアンはスーツのポケットからチューブ状の物体をいくつか取り出し、サービスのテーブルに並べた。


「補充しておきました。練乳です」

「ご苦労。やはり日本の製品に限る。これを直飲みせねば、気持ちが落ちつかん」



 ヤメろ。いきなりイメージをぶっ壊してくるな。

 35歳の青年フォームで練乳をチュウチュウ吸うな。



「では、私は下のフロアへと参ります」

「任せた。ライアン」


「はい」

「1つやる。吸っておけ。キクぞ」



「結構です」

「ふん。つまらん意地を張る。お前には多少期待している。早く殻を破れ」



 登場2回目でそれは良くない。

 速やかに場面転換をしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 1時間後。

 ライアンの指示により、数人の幹部が彼の部屋に集まっていた。


「マジかよ! あたしが行って良いのか!?」

「いやー。面倒過ぎる。わたしは遠慮しますわー」


 待望の女性幹部のお披露目である。


 先に喋ったオラオラ系のお姉さんはライラ・メイフィールド。

 イギリス探索員協会の元上級監察官である。


 細かい事まで記憶できる諸君は覚えておいでだろうか。


 イギリス探索員協会は、アトミルカによって壊滅させられている。

 その壊滅させられた時のトップがこの人。ライラさん。

 失脚したので国協に逃げていた。


「次の標的を考えると、お前が適役だと結論に至った」

「おいおいおい! じじい! 見所あんじゃねぇの!! このあたしをご指名とはよ!! なんだ? キスしてやろうか?」


「必要ない。年を考えろ」

「はぁ? このライラさんは23歳だけど?」


「よくもまあ、私に対してその情報で押し通すつもりになれるな。それは若返った後の肉体年齢だろう。中身は?」



「あ。はい。52です。はしゃぎ過ぎました。すみません」


 残念でした。ババアである。



「そちらの自称23歳にお任せするわー。わたしは年だから。強行任務とか、きっついですわー」


 こちらの怠惰がにじみ出ているお姉さんはナディア・ルクレール。

 フランスの監察官を務めていたが、「出張行ってきます」と言ったきり4か月ほど留守にしていたら普通にクビになった。

 無職はさすがに嫌だったらしく、国協を訪ねて「事務員で雇ってください」と申し出たところ、これまた普通に能力が高かったためライアン・ゲイブラムに拾われた。


「てっめぇ! ナディア!! 舐めた口利いてんじゃねぇぞ!! 年長者の言う事聞けや!!」

「はー? わたし、今34ですけど? ライラさん、23ですよねー?」


「ぐぁ!! あたしのが年下だった……!! じゃあ、てめぇ!! 年増は黙ってろ!!」

「はー? わたし、若返ってないんですけどー? 中身52に年増呼ばわりされる理由は?」



「こいつ……!! 無敵か!?」

「いや、マジで勘弁してくださいってー。ライラさんと一緒に任務とか、罰ゲームでしょー。それならわたし、単独任務が良いですってー」



 今回野に放たれるのは、この女子コンビ。

 女子の定義について議論すると尺が足りなくなるので、どうぞ有識者同士でお決めください。


「ええやんけ。行きなはれや、姉ちゃん方。光栄なことやで? 必要とされるの」


 この紫色の玉ねぎみたいな頭部をしているのは、デトモルト人。

 突然変異で生まれた戦闘意欲マシマシの原住民である。

 今は最上位調律人としてピースの相談役を務めている。


 御年176歳。若返りも加齢も煌気暴走させて『煉煌気パーガトリー』生成するのもお手の物。

 膨大な知識と儀重を携え生きる、玉ねぎ長老。

 名前はペヒペヒエス。


 この関西弁っぽい何かがデトモルト人訛りである。


「ペヒやん! もっと言ってくれよ!! ナディア泣かせろ!! ひぃひぃ言わせたれ!!」

「ペヒさん。ライラさんぶん殴っても良いですか?」


 なお、人当たりも良く穏やかに会話をする姿勢は親しまれており、ピースの中でも一、二を争う人気者。


「ええやないの。仲良くしぃやー? おばちゃん羨ましいわー」


 なお、デトモルト人にとって性別を変更するのは容易いため、細かく切り替えるものが多い。

 ペヒペヒエスは基本的に女性。


 だが、その前に玉ねぎである。


「そういう訳だ。行ってこい。やり方はお前たちの好きにして構わん。ペヒさんの助力を受けるのも勝手だ。ポートマンも動いているらしいからな。獲物を横取りされる前に結果を出す事を勧めるぞ。ピースでは結果が全てだ。実に平和的だろう」


 ライラとナディアが苦虫を食い潰したように顔をしかめて退室して行った。

 ようやく本格始動するピース。


 次の目的が判明するのはすぐの事である。


「……ペヒさん?」

「ああ、気にせんでええよ? おばちゃん暇やからさ。デトモルト名物、通信スライムをな? この辺に並べようかと思うて。な? ええやろ? 部屋が賑やかになって」


「……出て行って頂けませんか」

「ノリが悪いわー。若い子っていっつもそう。あーあー。おばちゃん敵いません」


 ペヒペヒエスも退室する。

 通信スライムが24匹放たれた部屋を見て、ライアンはため息をつく。


 ピースの苦労人ポジションが確定する瞬間であった。

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