第541話 【逆神家追放編・その7】逆神家! とりあえず異世界に疎開する!! ~いつもお世話になります! ミンスティラリア!!~

 南雲監察官はアナゴ飯と牡蠣、エビスビールを堪能した。

 みつ子が「奥さんにも持って帰りぃさんや!! こっちのタッパーにたんまり詰めちょいたからねぇ!!」とテイクアウトも完全にカバー。


「ああ、これはすみません。妻も喜びます。うちの妻も料理を頑張ってくれているのですが、なかなかお母さまのようにはいかず。勉強になると思います」

「やだよぉ! 南雲さん! あたしゃもう70半ばなのに! お姉さんとか言うなんてねぇ!! ちょっと待っちょき!! 確かね、上等の鯛のあらがあったけぇ!! アナちゃん! 南雲さんとこにレシピ書いてあげぇさんや!!」


「はーい。お任せください、お母さんー」

「きょ、恐縮です」


 南雲監察官は「私、お姉さんとは言ってないよね?」と思ったが、訂正するほどの勇気を持ち合わせていなかったので笑顔の代わりに言葉を引っ込めた


 そんな監察官のスマホが鳴った。

 彼は「失礼します」と言って、ボタンをタップ。


『修一か。どうだ、話はついたか?』

「京華さん。はい。こちらはだいたい済みました」


『……料理が下手ですまんな』

「え゛っ!?」


 サーベイランスは音声を拾う事もできる。

 南雲監察官の周りには不意の襲撃に備えて一機ほどステルスモードで旋回中。


「ち、違うんですよ!! やだなぁ、京華さん! け、今朝のスクランブルエッグ!! あれは絶品でしたよ!! もう、今でも鮮明に」

『……オムレツだ』


「はい?」

『今朝作ったのは。……オムレツだ』


「オムレツ!! もう、最高の味で!! 形に囚われないのが京華さんのすごいとこ」

『かかったな。修一。……今朝作ったのは、だし巻き卵だ』



 かかってしまった南雲修一監察官。

 言葉を失う。



 その後、五楼上級監察官になってしまった妻から今後の方針を指示された監察官は「あ。はい。了解しました」と言って、電話を切った。


「南雲さん! ダメですよ!! 食べてて何か分からない時は何ですかこれって聞かないと! あと、美味しくない時はちゃんと不味いって言った方がお互いのためですよ!!」

「そうだね。逆神くんもそういうことがあったんだ?」



「いえ! 莉子は料理が上手なので! 不味いもの出された記憶はありませんけど!!」

「えへへへへへへっ。もぉー。六駆くんってばぁー」

「くそぅ! やっぱり腹が立つなぁ!! このカップル!!」



 お土産のアナゴ飯と牡蠣と鯛のあら。

 それから、アナスタシア特製レシピをゲットした南雲修一氏。

 ちなみに今晩の夜は大いに鬱憤を晴らされるご予定。主に妻が。旦那に対して。


「ご馳走になってしまい、すみません」

「あー! いいのいいの! 南雲さんは親戚みてぇなもんだからよ!! 気にすんなって!!」


「じいちゃん。なんか新スキル覚えたんだよね? 『鹿角巨砲ディアルーン』だっけ? 親父に使ってみた?」

「いや。そう言えば、まだじゃの」


「おい! なんでオレに試してみるのが普通みてぇな話になってんの!? おかしいだろ!! あ、ちょっと? ねぇ、なんで六駆さんは防御壁張るん? 待てって、親父ぃ! 今から世界のためにオレたちさ! 結束してね、おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「すみませんでした! ところで、今後の指示って今聞いても平気ですか?」


「しまった。あまりにも色々あったせいで、失念していた!! これは申し訳ない。ええと、本部からの決定でね。逆神くんたちご一家には、適当な異世界にでも行ってもらって、現世から一時的に少し避難しておいてもらえると助かるなって。ほら、呉のおばあ様宅まで割れてる訳じゃない? 確実にこの家も敵の監視下にあるからさ」


「あっ! そうですよね! ここが襲われたら、ご近所に迷惑かけちゃうもん!!」

「小坂くん……!! 君、ちょっと心が綺麗になった!? 絶対に、わたしの将来住む愛の巣が壊れちゃうもん!! とか言うと思ったのに!!」


 おっさんに裏声で自分のモノマネをされて、ジト目になった莉子さん。

 慌てて咳払いをする南雲監察官。

 3秒以内だったので、セーフ判定。今回は唸らない莉子さん。


「どうするかいねぇ? 呉に来てもええよ?」

「おばあ様。呉もできればご遠慮いただけると。先ほどの戦闘で、ちょっとだけ煌気オーラがお漏らししています。もう一度あの規模の戦闘をすると、多分ですが各国に呉の狂戦士……あ、いえ、失礼。呉の皆様の存在が露見するかと」


「あらあらー。それはいけませんよー。お母さん。静かな生活が奪われてしまいますー。私たちのせいでそうなるのは、心が痛いですー」

「そうやねぇ。じゃあ、呉の防衛はよし恵さんに任せようかいねぇ。トマトの水やりはパウロちゃんに頼んどこう! あたしゃ、ちぃと電話してくるからね!!」


 自然と出て来る「呉の防衛」と言うワード。

 いつから呉は軍事拠点になったのか。

 戦時中かな?


「んー。じゃあ、いつもお世話になってるとこにしようかな。今さら別の異世界に押しかけていくのも悪いし」

「わぁ! みんな元気かなぁ? 2週間ぶりくらい!!」


「うん。どこに行くのかはよく分かったよ。あそこなら、私も通信回線を常時開いておけるし。現状を監視されている可能性を踏まえて、ちゃんと名前を伏せる辺りはさすがだなぁ。逆神くんも小坂くんも。すっかりプロだなぁ」


 2人して「えへへへ」と照れて見せる逆神カップル。


 それから30分で身支度を整えると、庭に門を生やす六駆くん。

 先頭を新妻として莉子が務め、続いて四郎、みつ子、アナスタシアの順番に入っていく。


「じゃ、南雲さん! とりあえず僕らミンスティラリア行きますから! 動ける感じになったら教えてください!!」

「あ、結局言うんだ。まあ、名前聞いても転移なんてできないだろうけどね。分かった。逐次報告するよ。行ってらっしゃい。シミリートさんによろしくね」


 六駆くんが手を振ると、門は消滅した。


「いやー! 悪い、悪い! なんか小便のキレが悪くてさ!! さあ! 行こうぜ!!」

「……まあ、こちらも把握していましたから。特にツッコミはしませんが。大吾さん。皆さん、もう行かれましたよ? 煌気オーラ追えますか? 『ゲート』使えますもんね? ……どうして黙るのですか」


「へへっ! 南雲さん!!」

「あっ」



「すんません! お世話になりやす!!」

「これ。京華さんがガチギレするぞ……。アナゴ飯じゃ相殺できないお土産ゲットしちゃったよ。とは言え、放置していく事も出来ないし。ううむ。怒ってる京華さんはなかなか寝かせてくれないからなぁ……。明日の朝が辛いぞ……」



 逆神家。ミンスティラリアへ疎開する。

 なお、大吾が取り残されたため、南雲修一氏が拾ってしまいました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリア。魔王城では。


「何事ですかぁぁ!! ファニコラ様ぁぁぁ!! かつてないほどの煌気オーラ反応がぁぁぁ!!」

「やかましいのじゃ、ダズモンガー!! 『石牙ドルファング』!!」


「ぐあぁああぁぁぁぁぁぁっ!! すっごい久しぶりでございますなぁ、これぇ!!」

「妾も久しぶり過ぎて、どのタイミングでお主を鳴かせるのかが合っとるか気が気じゃないのじゃ」


 現世最強格の六駆くん、莉子ちゃん、みつ子ばあちゃんが同時に現れる。

 それはもう、煌気オーラ感知のできる者は「あれ? あたい体調悪いのかしら?」と首をかしげるのも致し方ない。


 ちなみに、ヴァルガラで全員との面識があるため、懐かしい煌気オーラの気配を察知してあの男がすぐに駆けつけて来た。


「失礼する。ファニコラ様。おお。やはり六駆か。莉子も。それに、おじじ殿。おばば殿も。お母上もおられるではないか! その節は大変なご恩を……!!」


 バニング・ミンガイル。61歳。

 未だに外側19歳の乙女との同居生活に慣れず、何かと理由をつけては家から脱出している。


 今回は「むっ! この煌気オーラは!! しばしお待ちを! 確認して参ります!」と、ちょっと白々しい演技で家から飛び出してきた。

 当然だが、アリナも確認するまでもなくどれが誰の煌気オーラかは把握している。


 バニングが抱える最近の悩みは、アリナさんがやたらと薄着をするようになり家の居心地が悪化した事と、急に増えて来た抜け毛である。


 多分、正解はストレスだろう。


「して、どうしたのだ、六駆。確かお前たちは新学期が始まると言っていたが?」

「いやー! 聞いてくださいよ、バニングさん!! 実はですねー!!」


 この瞬間。

 ミンスティラリアがどこの異世界よりも戦力の充実した魔窟となったのだが、その事実に原因となっている者たちがあまり気付いていない。


 世界の均衡を叩いて壊す逆神家(マイナス1)と、元アトミルカの主席と次席。

 加えて、シングルナンバーだったバッツと次席の弟子であるザール。


 攻め込んだ瞬間負ける。

 そんな籠城スポットを獲得した逆神家であった。


 なお、戦力はまだ増えます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る