第542話 【日本探索員協会・その2】待機命令が出る前に行ってきます! チーム莉子!!

 逆神家がミンスティラリアへと疎開した。

 ほぼ同じタイミングで、逆神六駆と小坂莉子。

 彼らの得難きパーティーメンバーも事情を把握するに至ろうとしていた。


 日須美市のファミリーレストランでは。


「にゃはー。芽衣ちゃんがおじ様呼ぶとか、相当なピンチだったんだにゃー」

「みみみっ。酷い目に遭いそうになったです。みみっ。六駆師匠のお父さん見てから口寄せ余裕でしたです。みみみっ」


 最近はチーム莉子のお姉さんである小鳩が私用でなかなか構ってくれないため、クララパイセンと芽衣ちゃんはよく一緒に過ごしている。

 クララは大学に友達などおらず、また自由気ままな一人暮らしサイコー勢なので、長期休暇でも帰省などはしない。


 すると、暇なのである。


 一方、芽衣ちゃんはちょっと窮屈なお嬢様学校生活が再開しており、クラスメイトたちとの時間も嫌いではないのだが、実はあまり話題が合わない。

 そんな時はクララと一緒にご飯を食べるに限る。


 学校で流されがちな自分を敬愛するパイセンを見つめることで「みみっ。芽衣は大丈夫だったです。みみっ」と肯定する事ができるらしい。


「おー! 来たぞなー! やっぱりファミレスと言えば! ハンバーグだにゃー!!」

「みみぃっ! 芽衣はパスタなのです! 美味しいパスタ作ったお前なのです!!」


 クララは先ほど起床したため、このハンバーグプレートが朝ごはん。

 ライス大盛り。スープバーでがぶがぶコンポタを飲むどら猫さん。


 一向に太る事もなく、細いウエストを維持したまま胸部装甲だけが成長するチート性能。


「にゃはー! 美味いぞなー! 芽衣ちゃん、芽衣ちゃん。ハンバーグ一口いかがかにゃ?」

「みみっ! いただくのです!! クララ先輩の食生活を真似して、芽衣も色々立派にしたいのです!! みみみっ!!」


 おっぱい警察がいない状況だと、最近の芽衣ちゃんは大人の大人なスタイルに憧れている旨の発言をよくする。

 彼女も高校一年生が既に折り返し地点間近。


 すっかり年頃の女の子である。

 ロリっ子枠からの脱却を図る、みんなの妹。


「ふぃー。ちょっと足りないぞなー。デザート何にするにゃー? 芽衣ちゃん!」

「みみぃ! クララ先輩のマネっ子するです!!」


「ほう、たいしたものですにゃー。じゃあ、あたしはこっちのデカ盛りパフェ頼むから、芽衣ちゃんはイチゴかチョコのパフェはどうだにゃー? で、シェアするぞなー!!」

「みみみっ! 女子っぽいのです!! じゃあ、チョコが良いのです! イチゴは……みみっ。パーソナルカラーの人がいるのです!! みみみっ!!」


 ちなみに、チーム莉子のメンバーはプライベートでも選択肢がある場合、極力「苺」および「イチゴ」を避ける傾向がある。

 理由はよく分からないが、クララいわく「なんかイチゴ見てると痛そうなのにゃー」とのことらしく、他2名の乙女たちも「分かりみです」「分かってしまいますわ……」と同意していた。


 ちょっと引くくらいのサイズ感があるパフェをガツガツ食べているクララのスマホが鳴った。

 小鳩お姉さんからの電話である。


「はいですにゃー。小鳩さん。あっくんさんとどこまでしたんですかにゃー?」

『ふがっ! し、失礼しましたわ。と言うか、クララさん! あなた、いきなり何をおっしゃるのですか!! わ、わたくし、まだ手を繋いだだけですのよ!! えっ、将来のビジョンを含めてですの!? だったら、20年ローンで家を建てて、子供は3人おりますけれど!?』



「小鳩さんから、最近はちょいちょい莉子ちゃんみを感じるのにゃー。でも、幸せならオッケーですにゃー」

「みみみっ! 莉子さんと小鳩さんの結婚チキンレースが始まってしまうのです!! みみみっ!!」



 ひとしきり文句を言ったあと、小鳩は「そうじゃありませんのよ! ちょっとお二人とも!! 大変ですのよ!!」と、師匠の久坂剣友が気を利かせて教えてくれた、逆神家追放作戦について情報を共有したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 クララと芽衣の行動は速かった。

 ご飯を食べ終えると、すぐに協会本部へと向かう。


 六駆くん不在のため、日須美市役所の探索課から転移する。



 市役所の探索課とか懐かしすぎワロタ。と言う方は、是非ともチーム莉子が結成された頃のエピソードを回顧して頂きたい。あの頃は結構な頻度で登場していた。



 協会本部の転移座標の前では、今日もマジメに出勤していた小鳩が2人を出迎える。


 これは余談だが、基本的に協会本部の事務職員やオペレーターは支給される制服を着ている。

 逆に探索員は本部では私服で過ごしている事が多く、任務に就く際以外は各々が好きな恰好で過ごして良いと決められているのだが、最近小鳩お姉さんはかつて頻出していたロングスカートの出番が減って、スカート丈が少しずつ短くなっている。


 某特務探索員は任務に出ていない場合、五楼上級監察官室に待機するのが契約上の縛りなので本部にいる際は結構な頻度でエンカウントする事実。

 つまり、小鳩お姉さんは現在オフィスラブの真っ最中なのだった。


「にゃっはー! 小鳩さんが莉子ちゃんに怒られそうな服着てるぞなー!」

「芽衣知ってるです! それ、童貞殺すヤツです!! みみみっ!!」



「えっ!? 童貞って、服で死ぬんですの!?」

「無自覚に着てるとこが小鳩さんの怖いとこだにゃー。あっくんさんは多分殺されないから、そこは安心して良いと思うにゃー」



 「芽衣ちゃんの口から童貞とか出て来た……!!」と何やら息を荒くしている方は、右手の出口がお勧めである。

 意味は分からないが、在りし日の芽衣ちゃんが見られるのは「2章から」と、神の啓示が下ったのでお伝えしておく。


「うにゃー。どっちに行くぞなー?」

「そうですわねぇ。京華さん、いえ五楼さんのところは誰もおられませんでしたわよ? あっ! 違いますわよ!? 緊急事態なので! 最上位権力者のところに行っただけで!! 別にプライベートな理由はありませんから!!」


「みみっ。小鳩さんがちょっと可愛いです。恋愛脳はこーゆうのでいいのです。みみっ」

「にゃはー。じゃあ、南雲さんのとこも忙しいにゃー。……久坂さんとこ行くぞなー!!」


 迷わず「最も話が通じて、かつ無茶を言っても聞いてくれそう」な上官をチョイスするクララ。

 彼女は現世からダンジョン。ダンジョンから異世界へと舞台を移動させるにつれて有能になる乙女。


 既に心は異世界なので、有能がお漏らししている。


 3人で久坂監察官室のドアを叩くと「開いているので入ってきて欲しい!!」と、元気よく礼儀正しい老兵の息子が返事をしてくれた。

 「おじゃまします」と言って、3人娘が突入して行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おお。小鳩。クララと芽衣の嬢ちゃんらも来たか。ひょっひょっひょ! ワシを選ぶとは、なかなかお目が高いのぉ! 55の! こないだ貰うた、ほれ。何とか言う果物屋の意識高いジュースあったじゃろ。出してくれるか?」

「了解した! 氷は1つで良いだろうか!!」


「ほうじゃの。薄うなったらいけんからのぉ。お菓子もあるけぇ、食べてくれぇ」

「にゃっふっふー。久坂さんのとこはおじいちゃんちみたいな安心感があるにゃー。お菓子美味しいぞなー」


「クララさん。あなた、さっきまでファミレスでご飯食べてたのですわよね?」

「みみっ。クララ先輩のボディも結構な勢いでチートなのです。みみみっ」


 久坂監察官はそれから、3人の要件を聞いた。

 概ね想像通りだったため、その後の話は実にスムーズだった。


「機密事項じゃからのぉ。ワシの立場じゃと、教えてやれんのよのぉ」


「うにゃにゃー」

「みみみみっ」


 目をキラキラさせる2人。


「お師匠様。そういうお建前、わたくしたちには結構ですわ」

「小鳩がなんか冷めとうなったのぉ。……独り言じゃぞ? あー。六駆のたち逆神家が、ミンスティラリアに行ってしもうたからのぉ。ワシ、手ぇ出せんのぉ。いやー。修一に言うたら絶対止められるじゃろうけどのぉ。ここに、何故か座標が入った【稀有転移黒石ブラックストーン】があるのぉ。おー。そうじゃった。四郎さんがくれたんじゃったわい。あー。しもうた。目にゴミ入ったでー」


 久坂剣友監察官。名俳優への道はまだ遠そうである。

 2分ほど目を閉じていた老兵が再度目を開いた時には、3人娘の姿はなかった。


 代わりに「ありがとうございますにゃー!」「頼りになるですっ!!」「行ってきますわ!!」と書置きが残っていた。


「55の。始末書を3枚ほど用意するけぇ。紙、くれ。紙」

「既に雛形を印刷したものがこちらにある!! 使って欲しい、久坂剣友!!」


 チーム莉子の3人娘は「厳戒態勢を知る前に、なんかたまたま懇意にしちょる異世界に行ったみたいじゃわ。いやー。ワシ、気付かんかったのぉ。すまんすまん」と言う報告により、命令無視には問われない。


 彼女たちはただ、友人の助けになるべく現世を発っただけなのだ。

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