第540話 【日本探索員協会・その1】各国から圧力かけられまくりの協会本部! 頑張れ、監察官!!

 六駆くん。

 煌気オーラをバリバリと爆ぜさせながら、振り向く。


「ああ。南雲さん」

「うん。逆神くん。ごめんね。そのさ、シャフト作品特有ね、怖い感じの振り向き方、ヤメてくれない? ただでさえ恐怖を感じる煌気オーラバチバチさせてるのに」


「南雲さん。聞いてもらえますか?」

「うん。聞くよ。聞く、聞く!! そのために私、飛んで来たんだから!!」



「僕ね。これから、とりあえず国際探索員協会に関係のある支部を1つずつ地球上から消して回ろうと思ってるんですよ。……はははっ!!」

「おおい!! 逆神くぅん!! なんで君ぃ! かつてのヤバかった頃の姿を取り戻してるの!? 君が綺麗になったって評判なのに!! 私と初めて会った頃のノリじゃないか!! と言うか、あの頃は明るかったからね!? 今はもう、ガチの雰囲気じゃないか!!」



 六駆くんはもう一度空を眺めて「あははっ!」と笑った。


「いやぁ!! 明るいってそういう事じゃないからね!? 君の笑い方! 今のそれぇ!! もう、世界に見切りをつけた狂人のヤツなんだよ!! 小坂くぅん! どうにかして!!」

「えへへへへっ!! 六駆くんと一緒に世界を旅するの! 楽しそうっ!!」


「楽しかぁないよ!! ダメだ!! 君たちカップルの関係って、どっちかが闇に堕ちるとどっちかが綺麗になるはずなのに!! どっちも堕ちたまま!! そんなのないよ!!」


 南雲修一監察官。

 彼は結婚をして、守るべき者が増えた。


 だが、増えたからと言って、これまで守って来た者に対しての力配分を変えたりはしない。

 事ここに至っては是非もなし。


 南雲監察官が監察官きっての知恵者である証明を果たす時は今。


「逆神くん!! こちらをご覧ください!! うちの奥さんと一緒にね、大至急作ったのよ!! これ!! 見て!! 逆神六駆の財産は日本探索員協会が責任をもって保護し、仮に消失した場合はその全額を補填、保証しますって! ねっ! ほら! 書面にして持って来た!! ここに私と妻の署名と押印もあるから!! 効力バッチリ!! はい!! お納めください!! そして話を聞いて!!」


 南雲監察官。

 必殺ブローが怒り狂う最強の男のハートに届いた。



「えっ!? そんな事してもらえるんですか!?」

「やった、釣れたぁ!! もちろんだよ、君ぃ!! 逆神くんはね、協会の功労者!! 歴代貢献度でも、久坂さんの次くらいに付けてるの!! そんな君の不利益を無視する私たちじゃないよ!!」



 六駆くん。怒りを収納して、綺麗なで穏やかな表情に戻る。

 体内を覆い尽くしていた怒りの煌気オーラは「邪魔だなぁ!」とか言って、上空に投げ捨てた。


 現在の日本探索員協会には機能している煌気オーラ感知器がないため、問題ないのである。


「六駆! 莉子ちゃん! アナゴ飯できたけぇね! 食べぇさん!! 南雲さんも! 精が付くからねぇ!! 新婚さんなら頑張らんといけんやろうがね!!」

「あ。はい。では、お邪魔致します」


 逆神家にやって来た南雲監察官。

 果たして、残りの尺で上手くまとめきれるのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アナゴ飯をモグモグやりながら、逆神家は南雲監察官の話に耳を傾ける。


「つまりですね。ピースなる組織が明確に逆神家の皆さんを標的にしているんです。逆神くんの預金を凍結したりと、やり方もかなり狡猾です。どうやら、皆様を現世から本気で追放しようとしているらしいのです」

「ほーん。南雲さん。オレの牡蠣あげるわ。昔から、どうもこれ苦手でさ」


 雑食の大吾だが牡蠣には人生で2度ほど当たっており、体が受け付けなくなったらしい。

 実にどうでも良い情報で尺を奪っていくクソ親父。


「ありがとうございます。私は好物なので、頂きます。……それでですね。もちろん、我々日本探索員協会もすぐに動くつもりでしたが。敵は国協を既に制圧しておりまして」

「あらあらー。南雲さんー。おビール飲まれませんかー?」


「えっ。あ、はい。仕事中なのですが。では、一杯だけ。すみません」

「いえいえー。おビール入りますー」


 旦那を倣うアナスタシアさん。

 会話の均衡まで乱さないで頂きたい。


「……ええと。国協が制圧されているという事はですね。探索員としての行動にむちゃくちゃ制限がかかっているのです。探索員は国協が世界各国の支援を受けて活動しているのが現状ですので。勝手に動くと、のちのち問題になります。と言うか、既にいくつかの国の探索員協会がですね。日本に圧力をかけてきています。この状況で、例えば私のように監察官の地位にいる者が動くと、下手すれば他の国の探索員協会と戦争になります。これもピースの狙いなのでしょうが、先んじて動いたという公式記録が残ると、ピースを殲滅したのちに協会本部が機能不全に陥って、将来的に多大な被害を……。ああ……」


「ワシは聞いておりますじゃ!」

「はい。四郎さんだけが私を見てくださっています」


「莉子! ばあちゃんに言えばお茶漬け作ってくれるよ! これが美味しいんだ!!」

「ふぇ!? そうなの!? うー。興味あるけどぉー!! でもでも、夏休みに色々食べちゃったせいで、ちょっと体重が……。うぅぅー」


「莉子ちゃん! 高校生くらいの年頃は太りやすいもんやけぇね! あんまり気にしちゃいけんよ!! よう食べて、しっかり運動したら平気よ!!」

「ふぇぇ。んー。じゃ、じゃあ! お茶漬けくださいっ!!」


 南雲監察官。

 挫けぬ心も監察官一である。


「逆神くん。つまりね、今回は私たち監察官が動けないのよ。現状は、だけど。もちろん、どうにか抜け道を探して、君の助力をするつもりだ」

「あ。はい」


「分かってない顔!! ……逆神くん。協会本部は、今回のピース武装蜂起に対して、鎮圧したのちの報酬と言う形にはなるんだけどね。……我々は君に3千万ほどを支払う用意がある!! これ、手付金よ!! 成功報酬は別にあるから!!」



「親父!! じいちゃん!! お袋!! ばあちゃん!! 僕たち逆神家がさ!! 世界のために役に立てるって! それってすごく素晴らしい事じゃないかな!!」

「3千万って!? ねぇ! 六駆ぅ! それって、パチンコで言うと何玉!?」



 逆神家が立ち上がった。

 南雲監察官は説明責任を果たせなかったが、逆神家の戦意維持と言う最大の任務は果たし、「うん。アナゴって美味しいなぁ。京華さんにもお土産もらえるかな?」と、やり遂げた表情で逆神家の食卓を堪能するのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは協会本部。


「楠木殿! 海外の協会の幹部で実際に牙を剥きそうな痴れ者はいますか!?」

「うーむ。中東と北欧のいくつかの国が怪しいですね。特に、アトミルカによって壊滅させられている北欧は、この機会に権益を奪おう考える国があるかもしれません。なにせ、上級監査官にBランクが就いている国もありますので」


「ちぃっ。そちらの調整は、イギリスのストウェア組にさせましょう。雷門! 木原を連れてウォーロストに飛べ! 姫島が確認された以上、ウォーロストの警備は既に機能していない可能性が高い!! これ以上、ピースのバカを増やすな!!」

「了解しました!! 号泣した方が良いですか!?」


「この危機が去ったらな! それまでは泣かんでいい!!」

「うぉぉん!! 京華ちゃんよぉ!! オレ様いなくて、芽衣ちゃま大丈夫かよぉぉ!?」


「私がここにいるから問題ない!! 良いから、さっさと行け!!」

「木原さん! 行きましょう!! ……私、泣きますよ!?」

「うぉぉぉぉん! なんて脅し文句だよぉぉぉ!! 雷門! お前、すげぇなぁぁぁ!!」


 雷門善吉監察官と木原久光監察官が転移して行った。

 久坂剣友監察官は独自ルートで各国の上層部と連絡中。


 職場復帰したばかりの五楼上級監察官はいきなり激務に直面していた。


「来たぜぇ。五楼さんよぉ」

「よし。では、阿久津。貴様には大いに働いてもらうぞ。覚悟しろよ」


「あーあー。面倒な事ばっかり巻き込みやがるぜぇ。つーかよぉ。俺ぁ独りで問題ねぇんだがなぁ?」

「阿久津さん。小生はフリーのSランク。つまり、隠密行動には最適な人選。万が一行動が露見しても、小生の独断であると証言すれば、協会に被害はげふぅっ」


「いや、俺ぁよぉ。和泉さん。協会なんかよりもなぁ。あんたが心配なんだがよぉ。おら。タオル。こっちは着替え。常温のポカリ置いとくから、ゆっくり飲みなぁ。慌てて飲むとまーた血ぃ吐くぜぇ?」

「では、阿久津浄汰特務探索員。和泉正春Sランク探索員。貴様ら2名には、いくつかの特命に就いてもらう。緊急事態だ。働きに期待する」


「拝承いたしげふぅっ」



「あぁ? 五楼さんよぉ? この人、家に帰しちゃダメなんかぁ?」

「私だってそうしたい! だが、現状ではSランクですら満足に動かせんのだ!! そもそも、和泉は基本的に死にかけているから、今のコンディションが分からん! 阿久津! 貴様がしっかりと体調管理をしろ!! 貴様らズッ友だろうが!!」



 「ちっ。相変わらずよぉ。人をこき使うのがうめぇとこだよ。協会ってのは」と愚痴を吐いてから、『結晶シルヴィス』で作ったベッドに和泉を乗せて転移座標に向かうあっくん。


 今回、協会本部は対外交渉と言う面倒な敵を最初から相手にしていた。

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