第539話 【逆神家追放編・その6】逆神六駆の口座凍結!! ピースは本気!! 最強の男の逆鱗に触れる禁忌を犯す!!

 御滝駅前のマクドナルドに到着した逆神六駆と小坂莉子。

 「僕が注文して来るよ!」と言って、レディーファーストを見せる六駆くん。


「ふぇぇぇっ!! 六駆くんがなんだか普通の彼氏みたいになってきたよぉ!! ……幸せだなぁ。えへへへへへへへっ」


 本当に六駆くんがただのイケメンみたいになってきた。

 「莉子! マックシェイクおかわり!! 買って来て!!」とか言っていた頃の彼はもういない。


 そして「図々しいよぉ。だからおじさんって嫌い!!」と言っていた頃の莉子ちゃんももういない。


 是非とも店内のBGMは中島みゆきのナンバーで『時代』をお願いできませんか、御滝駅前のマクドナルドさん。


「はい! お待たせ!! 莉子、ホットアップルパイ好きだから一緒に注文しといたよ! あと、サラダセットね! ポテト欲しくなったら僕の摘まんでいいよ! Lサイズにしてきたから!! さあ! お腹空いたね!! 食べよう!!」

「はぅぅぅっ!! 六駆くんの気配りにキュンキュンするよぉ……!! わたし、嫌なこと全部忘れちゃった!! えへへへへっ」


 遅めのお昼にありついた2人。

 ビッグマックにかじりつく六駆くん。

 彼のスマホが震えた。


「おっ。南雲さんだ。あー。やっぱり」

「どうしたの? あっ! もしかして! 南雲さん、子供作ったのかなぁ!?」


 莉子ちゃん。


「いや! 協会本部の近くでじいちゃんもピースの人たちに襲われてるみたいだね。久坂さんが報告したんだってさ。やっぱり、うちの家族全員やられてるねぇ」

「むーっ!! あのおじさんたち、何なの!? ってことは、お義母さんとおばあちゃんも!?」


「そうだね。ちょっと電話してみよう。……出るかな? おっ。もしもし? ばあちゃん? 僕、僕! そっちさ、もしかして変な人行かなかった? そうそう! 本当に? へー! そうなんだ! うん。分かった。そうなの!? それは嬉しいなぁ! オッケー! あとで『ゲート』出しとくよ!! 莉子も喜ぶ! うん! じゃあ、後でね!!」


 流れるように通話を終えた六駆くん。

 アップルパイを頬張って幸せそうな莉子ちゃんが尋ねた。


「おばあちゃん、平気だった?」

「なんか8人くらいに襲われたんだってさ! まあ、普通に追い返したらしいけど! で、老人会でアナゴのお裾分けもらったんだって! 食べきれないから持って来てくれるらしいよ!! 莉子ってまだうちのお袋が作るアナゴとカキの丼食べたことなかったよね?」


 襲撃された事実よりも、アナゴ飯の話の方が長い件。


「あ、うん! えー!! なにそれ!? 美味しそう!!」

「そうそう! 美味しいんだよ!! 晩御飯に作ってくれるって!」


「わぁぁぁ! 楽しみっ!! じゃ、早く帰ってお泊りの準備しなくちゃ!! えへへ! アナゴってあれだよね!? ウナギと一緒で、男の子の精力増強効果あるもんねっ!! えへへへっ!! 夜が楽しみだなぁー!! えへへへへへっ」

「そうなの? それは知らなかったなー! 莉子はやっぱり物知りだね!!」


 ちなみに、隣のテーブルで食事をしていた幼稚園児とその母親は「この子たち、昼間のマックで何の話してるの……?」とちょっとだけ高校生カップルに引いていたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 夕方になると、地面から生えた門をくぐって逆神みつ子とアナスタシアが逆神家にやって来た。


「お袋ぉ! なんかアナゴ飯食えるらしいじゃんか!! なに!? もしかして、オレとアナスタシアに頑張らせて! 2人目の孫をご所望!? おいおいおい! そんじゃ頑張るか! 今晩!! なっ! アナスタシア!!」


 のっけから莉子ちゃんと思考をシンクロさせる親父。

 既にブルドッグの付いたジャージに着替えているため、サービスシーンはありません。


 楽しみにされていた諸君には大変申し訳ない。


「あらあらー。大吾さんったらー。六駆ー? 弟と妹、どっちが欲しいですかー?」

「ヤメて、お袋。僕、外側は高校生なんだよ? そういう親の生々しい話聞くと、なんか悲しい。せめてデキてから教えてくれる? 僕の子供の遊び相手ができるのか!!」


 高校生っぽい反抗期ムーブからおっさんムーブへと華麗なステップをキメる六駆くん。


 これが逆神家の日常である。


「お父さん! ビール冷やしいさんや!! ご馳走の時はええお酒飲まんと!!」

「ほっほっほ。こりゃあ嬉しいですの。では、エビスビールを冷やしますかの」


「あ。じいちゃん。僕が冷やそうか?」

「ええんかの? じゃあお願いしようかの。六駆は全ての属性を使えて凄いのぉ」


「まあ、周回者リピーターの時間が長かったからね。よいしょー!! 『虚無の豪雪フィンブル・ゼロ飲み物冷やすヤツアウトドア』!!」

「六駆よぉ。極大スキルでビール冷やすとか。……天才だな!! さすがオレの息子!」


 繰り返すが、これこそ逆神家の日常である。

 確かに世界の均衡をぶち壊している。


「六駆くん、六駆くん! スマホ鳴ってるよー!!」

「ホント? ちょっと莉子、確認してくれる?」


「ほぇ? いいの?」

「全然平気だけど! 莉子に隠すようなとこから連絡来ないし!!」


「ふぇぇぇぇ!! 今の!! 今のって新婚さんっぽい!! えへへへへへっ! 誰からかなぁー! あっ! 南雲さんだ!!」

「しまったなぁ。煌気オーラ余っちゃった。今日暑いし、上空に打ち上げとこ!! ふぅぅぅぅぅんっ!!」


 異世界の吹雪を召喚して、上空から残暑の気温を下げる六駆くん。

 ピースの言っていた事が正しいようにも思えて来る、逆神家の日常。


「……あっ」

「どうしたの? なんかいやらしい画像とか添付されてた?」


「う、ううん? ただね、あの、えと。六駆くんが気分を悪くするかもだよぉ」

「珍しいね! 莉子がそんなこと言うなんて! 大丈夫! 莉子の声で聴けば、どんな嫌な事でも中和されるから!!」


 莉子さん、珍しく「そ、そうかなぁ」と自信なさげ。

 だが、旦那の言うことは絶対な良妻は彼の言いつけを守り、メールを読み始める。


「んと。——こちらは南雲。逆神くん。単刀直入に今起きている問題を伝えておく。き……。ふぇぇぇ。君の預金口座が3つ、全て凍結された。どうやら件のピースなる組織の差し金らしい。現状、我々はどうする事もできないのが正直なところだ。下手をすると、財産が没収されるかもしれ……ふぇっ! しれない。逆神くん。どうか落ち着いて、冷静な行動を取って欲しい。お願いだから。どうか。お願い。ホントに。なにか動きがあれば連絡するから。小坂くん。どうにかしてね。お願いします。……だって。ふぇぇっ」


 六駆くんは無言で庭に立つと、両手で拳を握る。

 続けて、相変わらずの無言を貫きながら、静かに煌気オーラを爆発させた。



 雲が割れ。大地が揺れる。続けて、空が鳴き始めると大粒の雨が降り始めた。



 その天変地異に対して「少し黙ってくれる?」と言わんばかりに煌気オーラ弾を打ち上げる六駆くん。

 天が鳴くのを止めた。


「親父。じいちゃん。僕、今からピースとか言う組織を壊滅させてくるよ。久しぶりにね。頭に来たなぁ。僕の財産を没収? ふ、ははははっ!! こんなに愉快な冗談を聞いたのは、いつ振りだろう!! ははははははっ!!」


「……やべぇ。うちの息子がガチだわ。これ、大陸が1つ吹っ飛ぶぞ」

「ワシは久坂殿に謝っておくかの。もう働けそうにありませんと」



 逆神六駆。ガチギレバージョンに緊急アップデート。

 この瞬間、小坂莉子やアリナ・クロイツェルに明け渡していた最強の玉座に帰還する。



「ふぇぇぇぇっ!! ど、どどど、どうしよー!? お義母さん! おばあちゃん!!」


「あらあらー。六駆ったら、また強くなりましたねー」

「あたしゃ、男の戦いにゃ口挟まん事にしよるからねぇ。六駆も立派な大人やけぇね。莉子ちゃん、こういう時に嫁の資質が試されるんよ!!」


 莉子ちゃん、「そ、そうだよねっ!!」と良くない理解を深める。


 彼女は旦那に寄りそうと、短く言葉を紡いだ。


「六駆くん! わたし、いつも一緒だよ!! 一緒に世界を亡ぼそう! おー!!」

「莉子……!! ありがとう!! よし! ピースが出てくるまで、国協の支部を1つずつ潰して回ろう!!」


 魔王カップル、爆誕する。


 だが、そこに転移して来たのは白衣の似合う我らが監察官殿。


「ちょまぁぁぁぁ!! 待ったぁぁぁ!! どうも、皆様!! ご無沙汰しております!! 南雲修一です!! こちら、つまらないものですが!! 懇意にしている和菓子屋の水ようかんです!! まだ暑いですので、是非ご堪能下さい!! そして逆神くん!! 待って!! メール送った瞬間に本部の煌気オーラ感知器が全部壊れたよ!! これはもうね、私の対応が悪かった!! 話を聞いて!! お願い! ちょっとで良いから!! ちゃんと対応策整えて来たの!! ね、お願い!! ごめんね、私が刺激したせいだから!! 荒ぶる魂を鎮めてちょうだい!! ほら、最中も買って来たから!!」


 南雲監察官。

 命がけの緊急参戦。


 世界の均衡が保たれるか否かは、現状ピースではなくこの男の双肩にかかっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る