第534話 【逆神家追放編・その1】悪意さんたちによる良くないハッスルの始まり ~動き出す『世界安定協会・ピース』~

 こちらは通学路でいきなり襲われた逆神カップル。

 バチバチと激しい音を立てながら、煌気オーラが爆ぜている。


「な、なん、お前!? このクソガキ!! 逆神の妹か何かか!? 小学生のくせに、何と言う煌気オーラ出力……!! やはり、逆神家は最初にこの世界から消さねばならん!!」



「あぁぁ!? 今、何て言いましたぁ? もしかしてー? わたし、小学生だと思われてます!? へぇー。ふぅーん? そうなんだぁー。へぇぇー?」


 莉子ちゃん。あっくんみたいな口調で恫喝を始める。



 こんなしょうもない情報は諸君もお忘れの事だろう。

 ハーパー理事はおっぱい星人。しかも大艦巨砲主義。


 ただでさえ、日本人をはじめ東洋人は西洋人から見ると幼く認識されがちである。

 小坂莉子Aランク(ナニのサイズではなく階級)探索員は平均的な同世代の女子よりもやや小柄。

 胸部装甲については言うに及ばず。


 「なるほど! 妹に自分と同じハイスクールの制服を着せているのだな!! この変態め!! だがプレイの趣旨はよく分かる!!」と結論付けたハーパー理事。

 個人の主義主張、思想については自由なので特に咎めはしないが、その結果身に降りかかる火の粉と呼ぶには余りにも凶悪な大火災についても自己責任。


「六駆くん。このおじさん、わたしがやっつけてもいいかなぁ?」

「んー。ちょっと待ってくれる?」



「ふぇぇ!? 六駆くん!? わたしが小学生扱いされたんだよぉ!?」

「そうだね! それは許せないなぁ!! ただ、中身じいさんのハーパーさんには、頭が無事なうちに色々と聞きたいことがあるからさ。莉子のお仕置きはその後でも良いかなって!!」



 「グルルルル」と唸る莉子ちゃんは一時ステイ。

 六駆くんは質問を開始した。


「それで? あなたは? と言うか、多分組織ですよね? ハーパーさん単独で若返りとか、煌気オーラ強化とかできるとは思えないし」

「ふははははっ! 相変わらず賢しい小僧よ!! 冥途の土産に教えてやろう!!」


「すぐやられるタイプの人って、やたらお土産くれますよねー。何だろう、このどこの世界に行っても絶対に一定数はいる人って。今度南雲さんに聞いてみよう!! お土産はいっぱいください!!」

「その余裕、どこまでもつかな? 今に涙を流して命乞いすることになるだろう!! ふはははははっ!! 私たちは【世界平定協会】!! 名前を」



「ふぁぁぁぁぁぁっ!? ろ、ろろろろろ、六駆くぅん!! あっちからうちの高校の子が来るよぉ!! ふぇっ!! わたし、煌気オーラ出力上げたせいで、スカートがぁ!! ひゃあああ!! 六駆くん、助けてぇぇ!!」


 確かに緊急事態である。慌てて浮き上がるスカートの裾を押さえる莉子さん。

 が、莉子さんの悲鳴で新たな敵の組織名が塗りつぶされた事実は無視できない。



 逆神特務探索員。

 速やかに「ふぅぅぅぅんっ!」と気合を込めると、『完全遮断膜ボイドウォールド』を発現。


 これにて彼らの姿は一般人に認識されなくなる。

 久しぶりに見る、逆神流チートスキルであった。


「ふはははははっ!! 私たちは国際探索員協会と袂を分かった【世界平定協会】!!」

「あっ。続けてくれるんだ。意外とその辺りは敵組織としての筋が通ってますね。ハーパーさん。ちょっと見直したなぁ」



「名前を【ピース】と言う!! 真なる平和の礎を築く! 我ら調律人バランサーの掲げる旗印よ!!」

「あー。良かった。敵の組織聞き損ねると、この後もずっと名称不詳で通さないといけませんからね。はいはい。ピースですね。覚えやすくて助かるー。南雲さんにラインしておこう」



 それから、ハーパー理事はピースの崇高な思想とその設立理念。

 また、ここまでどれほどの苦労をして肉体を若返らせ、煌気オーラの強制強化をこなしてきたのか。


 その経緯を熱く語った。

 が、そこは全てカットされる。


 なんか頭のおかしい悪いヤツが出てきた。

 その認識で結構である。

 それ以上もそれ以下もなく、過不足ない認識がそれなのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんはとても冷めた表情でハーパーとの会話を続ける。


「それで、なんで僕なんですか? ハーパーさんの私怨ですか?」

「ふははははっ! うぬぼれるでないわ!! 私の個人的な感情で動くような組織に、世界の平定などできるはずもなかろう!!」


「あ。意外とトップはまともなのかな? でもハーパーさん? それってあなた、あなたの私怨をいいように扱われてますよ? うちの家族狙った事実をあなたで隠そうとしたみたいですけど。こんなにお喋りで情報お漏らししまくるとか。僕だったらすぐに粛清するなー。それも含み損なのかしら?」

「ふはははははっ!!」


 莉子ちゃん、ちょっと冷静さを取り戻す。

 彼女は最初からずっと冷静な旦那のシャツの裾をちょいちょいと引っ張った。


「ねねねっ、六駆くん? この人、とりあえず笑っとけばマウント取れると思ってるよ? なんだか、かわいそうになってきたよぉ」

「んー。まあ、この人は明らかに組織のトップで腐ってた人材だからねぇ。分不相応な力をゲットして、はっちゃけてるんだよ。って言っても、今のところ実力も相当甘く見積もってAランク探索員くらいかなぁ? 元がGランクくらいだったから、大出世はしてるけどねー」


 なお、探索員の最下級はFランクなので、Gは存在しない。


 綺麗になった六駆くん。

 オマケに彼の中で脈打つ戦いの遺伝子は健在。


 チートに磨きがかかった最強の男。

 既にフェルナンド・ハーパー理事では相手にならない事は誰の目から見ても明らか。


「莉子? 僕が相手してあげてもいいかな?」

「う、うん! あの、わたしね。さっきはちょっと気付かなかったけど……。スカートでスキル使うと!! 捲れるんだもんっ!! 下、普通にパンツだし!! やだよぉ! あんなおじさんにサービスシーン提供するのぉ!」


「ふははははっ! とことん相手を不快にさせるのが得意だな!! 逆神家!! 私を小学生の下着を見て興奮するような下賤な者だと思ってくれるなよ!! ナイスバディになってから物を言え!! このクソガキ!!」



「あぁぁぁぁぁ!? 六駆くぅん。やっぱりわたしが殺ろっかなぁー。体操服持ってた気がするの。スカートの下に穿くから待っててー」

「この人、すごいなぁ。人からヘイト買う才能は一級品だ! 全然話が進まないや!!」



 六駆くんは呆れた表情で右手に煌気を込めた。

 繰り出すのは、逆神流の初等スキル。


「よいしょー。『石牙ドルファング半分ハーフ』!!!」


 これはミンスティラリアの幼女魔王。ファニコラたんでも習得できるスキル。

 だが、六駆くんが発現すると威力はなかなか。


「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!! 何という威力!! ふ、ふははは!! 早速全力を出してきたか! さすがに慧眼だな! 私の脅威がよく分かっている!!」

「あ。やっぱりちょっとかわいそうかもだよぉ。ふぇっ!?」


 その瞬間。

 莉子ちゃんの背後から一陣の風が吹き抜けた。


 その主はハーパーの前に立ちはだかり、『石牙ドルファング』を両断する。

 続けて、なんだか聞き覚えのある声で上官をいさめた。


「くくっ。ハーパー殿。単独行動は困ると言っておいたはずであるが? 某が駆けつけなければ、貴殿。死んでおったぞ」

「遅いではないか!! 姫島!! このグズが!! そう思うなら、さっさと私を守れ!!」


 姫島幽星。再登場を果たす。

 ちなみに、今回の彼は普通にウォーロストから裏ルートで出獄している。


 アトミルカナンバー6として活動していた時期もあるこの男。

 が、その正体は国際探索員協会所属の特務探索員。

 ラッキー・サービス理事の下で多くの機密性が高い任務に就いていた。


 かつてウォーロストに収監されていたのも、実はこのピース立ち上げのメンバー集めのためだったとか言うアレがナニする新事実。

 成り行きでアトミルカに加わったのもまた、同じ理由から。



 諸君。野暮なツッコミはいけない。



「あっ! 下着とサドル大好き侍マンさんじゃないですか!! 久しぶりだなぁ!! えっ!? 下着泥棒の罪を被って、任務に殉じてたんですか!? だとしたらすごいや!!」


 姫島幽星は「ふっふっ」と笑って、シニカルに指を振る。

 ちょっとリアクションが西洋かぶれしているところに腹が立つ。



「勘違いをするな。逆神。某、下着は新鮮なものを現地調達するのがモットーよ!! サドルについては日本製が最高!! ゆえに、某は日本人となった!!」

「うわぁー! すごいや!! 清々しい変態じゃないですか!! そんな理由で日本国籍ゲットしたんですか!? すごい! 人間のクズで社会の敵とか、欲張りパック!!」



 莉子ちゃんはまたしても冷静さを取り戻し、ジト目で2つに増えたお排泄物を見つめていた。

 「やっぱりわたし、おじさんって基本的に嫌いだなぁ」と再認識した莉子さん。


 逆神家追放作戦で戦いののろしを上げるピース。


 ちなみに、この瞬間。

 逆神家の1人が既にこの世から追放されそうになっている事実。

 「それは誰でしょう」とクイズを出しても、絶対に盛り上がらない。


 「あの男は、今回こそ死ぬのか」と問うても、やはり盛り上がらないだろう。

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