第533話 【新シリーズ突入!!】新学期は新しい悪意と共に

 この世界の季節は9月に突入。

 逆神六駆が異世界転生周回者リピーターを終えてから、2度目の季節が巡り始める。


 1年前の六駆くんは、電車に乗れず、マクドナルドでは注文ができず、高校に通いたくないと言ってむせび泣き、莉子ちゃんの『苺光閃いちごこうせん』を喰らっても布団に籠城していた。

 何という社会不適合者だろうか。


 しかし、それもこれも、逆神家で受け継がれていた崇高な使命(笑)によるところが大であり、六駆くんもいわば被害者。

 1年の間に彼は探索員として多くのダンジョンを攻略し、数多の作戦に参加して来た。


 その結果、失われた社会性は知らないうちに帰巣本能を発揮し、強敵との戦いの中で以前よりも綺麗になり、気付けばずっと洗練された男になった。

 逆神六駆。18歳。中身は47歳。


 彼は新学期を前に、清々しい表情で朝を迎えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神家の朝は彼女の声と共に始まる。


「おっはようございまーす!! 六駆くん! 来たよ!! おはよー!!」

「おはよう! 莉子!! 久しぶりに制服姿だね! いやー! 可愛い!!」


 ご覧いただきたい。

 この息を吐くように甘い言葉を紡ぐのが、逆神六駆最新バージョン。


「ふぇぇぇっ。そんなに見られると恥ずかしいよぉー。……スカートの丈、20センチ詰めた成果かなぁ? えへへへへへへへへへっ」


 ご覧いただきたい。

 旦那が綺麗になった途端に恋愛の地獄沼にハマった乙女。


 小坂莉子最新バージョン。強制アップデートから戻れなくなった。

 以前の清らかな健康乙女のバージョンは破棄されたらしく、この世界にはもういない。


「莉子? 僕はさ、莉子が可愛い事を知ってるけどね? 莉子の可愛さを学校中に知ってほしくはないんだよね」

「ほえ? どーゆうことかなぁ?」


「莉子は魅力的だからさ! そんなにスカート短くしたら、僕の莉子がみんなの莉子になっちゃうんだよ。それってちょっと嫉妬しちゃうなって!!」

「ふっ、ふぇぇぇっ!! そ、そうなんだ!? へ、へぇー!! 六駆くん、結構独占欲強いもんねっ!! そっかぁ!! 待ってて! 家に帰って、お母さんが昔穿いてたすっごい丈の長いスカートに着替えて来る!!」


 六駆くんはおっさん特有のダメな部分はまだ持っているが、おっさんのレア固有スキル「大人の余裕」を獲得するに至り、莉子ちゃんの暴走を実にスマートな方法で解決するようになっていた。


 その後、「莉子! 普通にスカート丈直してくれたら、僕は満足だな!!」と言う、弾けるおっさんスマイルで女子高生を完堕ちさせた六駆くん。

 家族4人で朝ごはんを食べて、いざ学校へ。


「親父!! 今月の小遣いくれよ!! なあ! 早く!! もう仕事パチ屋行かねぇとだから!!」

「ほっほっほ。どこで何を間違ったのじゃろか。大吾? 六駆は立派に自立しつつあるぞい?」


「オレ、知ってんだ!! 親父!! 親は無くとも子は育つってな!! げへへっ! いやぁ! マジで自慢の息子だよ!! 恒久的な小遣い! オレがいつボケても平気な面倒見の良い息子の嫁さん!! 一生一緒にいてくれやってな!!」

「……みつ子に電話するかの。大吾。3万円やるから。六駆の新学期に暗い影落とすのはヤメるんじゃ。ワシ、六駆には周回者を強いたのに、今では家計を支えてもらっとる現状を考えるとの。申し訳ない気持ちでいっぱいなのじゃわい」



「へへっ! この3万を3倍にすりゃいいんだな!! よっしゃあ!! 『ゲート聖なる扉パチヤノジドウドア』!!」

「ワシは間違えてばかりじゃったわい。せめて、六駆の行く末を少しでも長く見守りたいですの。今晩はちらし寿司でも作ろうかの」



 漂白剤に何度漬け込んでもすぐに黒くなるダメ親父と、時の経過と共にどんどん白くなったじいちゃんも健在。

 逆神家は今日も平和である。


 そのはずだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 学校生活もそつなく過ごし始めた六駆くん。

 以前のように「ねぇ! 莉子! 助けて! 僕と話してよ!! ずっと声かけていてくれる!? あ、もう無理だ!! 帰るよ!!」と聞いているだけで頭が痛くなるような発言はなくなり、残り約半年となった高校生活をエンジョイしていた。


「むぅぅぅぅっ! 六駆くんがまたカッコよくなってる!! どこのイモか分からない女子が寄って来るよぉ!! ……わたし、いざという時は躊躇しないもんっ!!」


 躊躇しないで熱線を撃つようになった莉子ちゃんも、ジェラシーをブリブリ発散しながら六駆くんとの高校生活を楽しんでいた。

 この2人は高校生活が終わっても離れる事はないため、特に惜しむことはない。


 と言う考えをする者は「もぉ! 素人だよぉ!! そんなんだから童貞なんだよぉ?」と、莉子ちゃんに罵られるのである。

 「莉子ちゃんが童貞とか言ってる……」と落胆した方は、右手の出口へ向かってください。


 そのままバックナンバーと言う名の歴史の回顧境へと向かわれると、運が良ければ、かつての清廉潔白、清らか清純乙女な莉子ちゃんと出会えます。


 「お、おうふ。これはこれで興奮するでゅふ……」と言う、なんだか病んだ方は下の出口へ向かわれるとよろしい。

 たまに表示される、そこはかとなく肌色の多い広告を潜ると、多分桃源郷に着きます。


 こうして、始業式も順調に終えた逆神カップル。

 ホームルームが終わると、直帰する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんの腕にくっ付いたまま歩く莉子ちゃんは幸せな表情。

 これから、マクドナルドに行ってご飯にするらしい。


「……ん? 莉子。ちょっと離れてくれる?」

「ふぇ!? ……わたしに飽きたの!? 六駆くん……!?」


 彼らの数メートル先の空間が歪み始めると、大きな穴が出現した。

 中からは煌気弾が放たれる。


「ふぅぅぅぅぅんっ!! 『多面鏡反射盾デュアルミラルシルド』!!!」

「ふぇっ!? な、なに!?」


「なんだろうね? ただ、普通の高校生にいきなりスキル攻撃仕掛けてくるんだから、まともな人じゃないかな?」


 穴から出てきたのは、黒い髭を蓄えたオールバックの外国人。

 彼は六駆くんを見ると、卑しい表情で笑った。


「はーっはははは!! 見つけたぞ!! 逆神六駆!!」

「この不愉快な煌気オーラは覚えがあるなぁ。あれだ。国協のフナムシさん」


「よく分かったなぁ!? いや、誰がフナムシだ!! 私はフェルナンド・ハーパー!! ふはははっ!! 驚いただろう!! この姿!!」

「いえ。特には。なんかのスキルですか? それとも、どこかの異世界ですか? 無理やり若返るとか、発想が古いんですよ。ピッコロ大魔王がそれやったの、平成1桁年ですからね?」


「ふははははっ!! 我らはこの世界に均衡をもたらす者!! 『調律人バランサー』だ!! 貴様ら逆神家は均衡を乱す、最たる存在!! よって、私たちの手で最初に消すこととした!!」

「この人、若返っても会話が噛み合わないなぁ。脳細胞は死んだままなのかな?」


「余裕の表情はいつまで続くかな!? 今頃、貴様の家族は全員が私の同志によってこの世から消される寸前だと言うのに!! ……ん!? お、おい! 小娘!! このガキ!! 何をしている!!」



 ハーパー理事。莉子ちゃんの逆鱗にタッチダウン。



 バチバチと煌気オーラを放出させて、お怒りの恋する乙女。

 既に煌気オーラ総量と瞬間煌気オーラ放出量は六駆くんを超える領域に到達している。


 体は成長しなくても、スキル使いとしてはまだまだ伸びしろ満点。

 可能性無限大な乙女。


「もぉぉぉぉ!! またわたしと六駆くんの愛に溢れた性活を邪魔するんですかぁ!?」


 莉子さん。文字。文字。誤変換だと思われるから。文字に気を付けて。


 ハーパー理事。

 彼は同志たちによってハズレを引かされた事実に、ちょっとだけ気付いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時を同じくして。

 御滝市のパチンコ店『ドロ沼』では。


「てめぇぇぇぇ!! せっかく出てたのに!! 台ぶっ壊すとか頭おかしいんじゃねぇのか!? オレ出禁にされたんだけど!? 2万発出てたのによぉぉぉ!! 許さねぇ!!」


 逆神大吾はガッツリ襲われていた。

 そうなると、当然。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日本探索員協会本部の近くにある、うなぎ料理屋。


「申し訳ありませんですじゃ。どうやら、ワシのお客のようですの」

「なぁに! 四郎さんと飯ぃ食うちょって良かったですけぇ!! 報告書作るのが楽でええのぉ!! 55の! 店の大将に被害の弁償をするっちゅう念書用意して、渡してくれるかいのぉ!?」


「安心して欲しい! 久坂剣友!! もう済ませた!!」

「相変わらず、手際がええのぉ! さすがはワシの息子じゃわい!! ひょっひょっひょ!!」


 逆神四郎も場所を把握されていた。

 もしかすると。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちら。呉の公民館。


「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ちぃと待ちいさんや! みつ子さん!! あたしに任せぇね!!」

「いんやぁ! あたしがやろうかいね!!」

「みんなでやるのはどうかいね? 老人会の敵はみんなのご馳走じゃろね?」


 最強、最凶のばあちゃん集団。既に戦闘モードへ移行済み。


「アナちゃん!! 下がっちょきぃさんや!! ちぃとお仕置きするけぇね!!」

「あらあらー。お母さん、ほどほどにしないとですよー? 公民館が壊れちゃいますからー」


 これは意外であった。

 存在が公になっていない逆神みつ子と逆神アナスタシアも、何者かの襲撃を受けていた。



 こうして始まる、新たな悪意との戦い。

 標的は逆神家。


 喧嘩を売る相手を間違えていなければ良いのだが。

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