第527話 【特務探索員シリーズ・その2】リコスパイダー、再臨! ~繁殖◎ 粘り強さ〇 打たれ強さ〇 名前が可愛い◎ なお、この評価は莉子さんによるものです~

 リコスパイダーの子蜘蛛たちは単体では増殖しない。

 が、親蜘蛛が精力的に子供を産み散らかしているらしく、数がどんどん増えていた。


 六駆くんたちがいるのは第3層。

 既にそこまで浸食されており、リコスパイダーが世界へ打って出るカウントダウンも結構なクライマックス。


「とりあえずよぉ。このうぜぇ子蜘蛛を全部片づけるぜぇ? ……おおい、逆神い。てめぇはなんでさっきから何もしてねぇんだぁ? 俺の何倍も強ぇだろうがよぉ」

「すみません! 阿久津さん!! 僕が手を出すと、芽衣の実績減らしちゃうので!!」


「あぁぁ? んならよぉ、適当に手加減すりゃあ良いだろうがよぉ」

「阿久津さん! 半端に手を出して、しかも手加減するだなんて! 僕、あなたの口からそんな言葉、聞きたくなかったな!!」


「あぁ。奇遇だなぁ。俺もよぉ。てめぇが屁理屈こねまくるところは見たくなかったぜぇ。っち! 喋ってる間にも増えやがる!! 『結晶大横刃シルヴィスエピセスィ』!!!」

「うにゃー! すごいにゃー!! あっくんさん、相変わらず器用だにゃー!!」


 阿久津特務探索員。

 『結晶シルヴィス』を発現して、横に並べると一斉に煌気の刃を回転させるプログラムを付与して突進させる。


 見事に子蜘蛛の一斉掃除が完了された。


「椎名よぉ。てめぇは何で戦わねぇんだぁ?」

「んー。クララって呼んでくれたら教えてあげますにゃー!!」


「ふざけんな。なんでてめぇの言う通りにする必要があるんだぁ?」

「あーあ! せっかくとっておきの秘密を暴露する予定だったのににゃー」


 阿久津特務探索員。

 彼も他の者同様、昔の悪癖は姿を消している。


 仲間を人と思わずに道具として使っていた頃の面影はなく、その贖罪なのだろうか。

 今では誰よりも人の気持ちを慮る精神をゲットしていた。


「あーあーあー。本当に女ってヤツぁよぉ!! クララ、これで満足かぁ? おら、とっておきとやらをご披露しろぃ」

「にゃははー! 実は、久しぶりに装備に着替えたからですにゃー。……武器、全部忘れてきちゃったんですにゃー!!」


 あっくんはちょっとだけ昔の残忍さを取り戻しそうになったが、気合でどうにか踏みとどまる。


「クララよぉ。お前ぇ、それで給料もらって恥ずかしくねぇのか?」

「全然恥ずかしくないですにゃー!! あ、ちなみに今のあっくんさんのクララ呼びはスマホに保存しておりますぞなー!! 小鳩さんの元へ飛んでけにゃー!!」


「……あぁ。クララよぉ。てめぇ、ハッキリしたぜぇ? 刺激するとやべぇヤツだなぁ? ぶん殴りてぇが、殴った瞬間に爆発する類のヤツなんだよなぁ」

「にゃはー! 照れますぞなー!!」


 ここで六駆くんがあっくんに頭を下げる。


「すみません! 阿久津さん!! 僕の指導が足りないばっかりに!!」

「やっと自覚しやがったかぁ。俺の中でよぉ。チーム莉子の評価がブリブリ下がってんだよなぁ」


 六駆くんは「なるほど!!」と頷いた後で、あっくんに言った。



「フレッシュバナナ&チョコレートクリームフラペチーノ、美味しかったですよね!?」

「てめぇ。スタバの甘ったりぃ飲み物でよぉ。何でも許されると思うんじゃねぇぞ? なんだぁ? そのスタバに対する異常な信頼はよぉ。てめぇは女子かぁ?」



 そして、話をしている間にお客様がご到着。


「キュリィィィィィィィ!!」

「同時に6匹来やがった……。あいつらはリコスパイダー。……なんだかよぉ。唯一俺の邪魔しねぇ塚地と、頑張ってる木原の事を応援したくなる反面、チーム莉子はいてぇ目に遭えばいいと思ってる俺がいるんだよなぁ」


 とは言え、阿久津特務探索員。

 なんだかんだで働く責任感の強い男である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 あっくん、全てを諦めて現状の唯一無二な戦力。

 芽衣に指示を出し始めた。


「木原ぁ! お前のよぉ。ドッペルゲンガー出すスキルがあったろ? あれで4人くらいに増えやがれぃ。その後はよぉ。俺がリコスパイダーの動きを全部同時に封殺すっからよぉ。トドメ刺しちまえ。そうすりゃ、全部てめぇの実績になるだろうがよぉ」

「みみぃっ!! あっくんさん、優しいのです!! 芽衣はあっくんさんとなら、お泊り任務でも一緒に行けるのです!! みみみっ!!」


 あっくんは戦慄した。

 「こいつ……。俺の社会的地位をダイレクトで……。無自覚なところが恐ろしいぜぇ」と、せっかく苦労してゲットした社会的な市民権を殺されそうになっている事実にちょっと怯える。


 あっくんは理解しているのだ。


 芽衣ちゃまの昇進査定の実績と言う事は、確実に今回の戦闘データが保存される。

 戦闘データは探索員の声もガッツリ録音される。

 今の芽衣ちゃまの不用意な発言も当然だが残る。


 芽衣ちゃまは16歳。

 ちょっとでもバッドスメルが漂えば、本当に色々と死んでしまう事実。


「あっくんさん! 莉子ちゃん蜘蛛がなんかチャージしてますにゃー!!」

「その呼び方、ヤメてやれよなぁ。ちぃっ。面倒くせぇな、こりゃあ。こいつら、煌気オーラ弾撃てんのかよ。器用な蜘蛛だなぁ、おい」


 あっくんは『結晶シルヴィス』をコントロールして、防御壁を構築する。

 六駆くんとクララパイセンは「おじゃましまーす」と普通にその中に入り身を守る。


 リコスパイダーが連携しているのかどうかは不明だが、全個体が一斉に煌気オーラ弾を口から発射する。


「おらぁあぁぁ!! 『結晶金色膜カタッフィーギオ』!! 想定とは違っちまったがよぉ! 木原ぁ!! このまま俺が莉子蜘蛛……あぁ、いや、リコスパイダーの注意引いとくからなぁ!! てめぇは全力で一撃をぶちこんじまえ!!」


 こんな時に芽衣のスキルは非常に有効。

 本体は防御スキルの中にいても、本体と限りなく近い強さのドッペルゲンガーを具現化する事で遠隔攻撃が可能。


「みみみぃ!! 新スキルですっ!! 『分体身大宴会アバタミオルフィーバー』!! みみぃ!!」

「あぁぁ? ドッペルゲンガーが8……いや、12……。代わりに全煌気オーラを使い切ってやがんなぁ。おおい、逆神ぃ。てめぇ、まーたニッチでとんでもねぇスキル年端も行かねぇ女子に教えやがってよぉ」


 かつては自分の幻を200や500出して逃げの一手を打っていた木原芽衣。

 今ではドッペルゲンガーを1ダース出して、全員で敵をボコる。

 「スキルはメンタル勝負」とは六駆くんの格言であり、この世界の真理でもある。


 戦いに前向きになるだけで、スキルの方向性はがらりと変わる。

 同じ煌気オーラ量を消費していてもその脅威判定は常に変動するのだ。


「みみみみみぃっ!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド大乱闘スマブラ』!! みみみみみみみぃっ!!」

「キュリィィィィィィィ!! ゲアァァァァァァァッ!!!」


 芽衣ちゃま渾身の一撃は、現存しているリコスパイダーを全て粉砕した。

 粉々になって消える寸前の破片を回収する六駆くん。

 実績として「確かにうちの子が殺りました!!」と言う証拠を残すのだ。


「いやー! 大変な任務だったにゃー!! でも! あたしたちが力を合わせれば余裕だにゃー!!」

「そうですね!! 僕たちの結束の勝利ですよ!! 芽衣、頑張ったね!!」


「みみみぃ!! あっくんさんのおかげなのです!! みみみみっ!!」

「俺ぁよぉ。人の幸せなんか願う柄じゃねぇがよぉ。木原には立派に成長してもらいてぇなぁ……」



「ですね! さすが阿久津さん!!」

「あっくんさんはよく分かってるにゃー!!」

「よーし。役立たずのてめぇらはよぉ。いい加減に黙れぃ」



 今日も協会の日陰で戦う特務探索員たちなのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その日の夕方。

 六駆くん。莉子ちゃん宅で夕飯をご馳走になっていた。


「ふぇっ!? わたしがやられたの!?」

「リコスパイダーだよ! いやー! 久しぶりに見たけどね! 元気そうだった!! 芽衣に粉々にされたけど!!」


「ふぇぇぇ。なんか複雑だよぉ。わたしの名前がついた子が……粉々にぃ……」

「いやー! でもね、莉子! 名前が可愛いからさ! なんか見た目も可愛く見えたよ?」



 嘘である。

 蜘蛛嫌いの者が見れば卒倒し、蜘蛛好きの者が見ても「うわっ、キモっ!!」と思わず叫びたくなるビジュアルのリコスパイダーさん。



「名前……可愛い……。もぉぉぉ! 六駆くんってばぁ!! そっかぁ、えへへへへ! もっと繁殖したら良いな! わたしの蜘蛛さんたち!!」

「そうだね!!」


 なんかとんでもない事を言って、話を落とそうとするデスカップル。


 なお、今回の大繁殖でリコスパイダーの討伐ランクがAからSに引き上げられ、芽衣ちゃまはその莉子蜘蛛を殺しまくった事で査定ポイントを大幅ゲットした。

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