第528話 【チーム莉子の夏・その8】小坂莉子の「結婚したい。結婚したい。結婚したい。そうだ! 勝負下着を買おう!!」 ~うっかり結婚式に出席したせいで何かがまたしても決壊した乙女~

 その夜。

 チーム莉子の乙女たちは通話アプリで4人同時のガールズトークを楽しんでいた。


「そろそろ8月も中頃だにゃー。今年の夏は6月くらいから暑かったから、なんだか長く感じるぞなー」

「みみみみっ」


「大学生の夏休みは長いですけれど、クララさんは普段から夏休みみたいなものですから、あまり変わりませんわね」

「にゃはー。それを言われると照れるぞなー」


「照れる要素がありまして? と言うか、クララさん? あなた、また脱いだ服を散らかしてましたわね? 今日、お宅に伺ったのですわよ? いらっしゃいませんでしたけれど」

「にゃははー。ミンスティラリアに行ってたぞなー。アリナさんにお勧めの短パン紹介してー。ついでにあたしの体操服1つあげたにゃー」


「みみみみみっ」

「おヤメなさいな。バニングさんがストレスで痩せられますわよ。アリナさん、かなりムチムチなお体ですから。体操服とか多分お似合いまくりですわよ」


「にゃはー。超似合ってたぞなー。ネットの掲示板で見たのですにゃー。ムチッとした女子はブルマなんかよりも半パンの方がエロいって! にゃはー!!」

「みみみみっ。実はバニングさんからライン来てるです! そっちで3日ほど泊めてくれないか? だそうなのです!! 芽衣にそんなこと言ってくるとか、重症なのです!!」


「た、確かにですわね……。バニングさんの性格ですと、一番年下の芽衣さんには絶対、そのような事は言わなさそうですのに」

「にゃっふっふー。2人のラブ模様は見てて楽しいにゃー。そうだ! 明日はこれまた一度も着てない、大学指定の競泳水着持って行ってあげるにゃー」


「みみみぃっ!! バニングさんが死んじゃうです!!」

「本当にそうなりかねませんわよ……。あの方、お若く見えますけど、もう還暦過ぎてますのよ。……あら、莉子さん? お声が聞こえませんけれど。寝落ちですの?」


 莉子さんは悩んでいた。

 色々と悩んでいたところ、それを吐き出すタイミングを求めていた。


「ふぇぇぇ。小鳩さぁん」

「あら。起きていらっしゃいましたのね。どうなさいましたの? そんな可愛らしいお声を出して」


「ふぇぇぇぇ。……結婚したいですよぉー」



 椎名クララがログアウトしました。

 木原芽衣がログアウトしました。

 塚地小鳩が逃げ遅れました。



「あ゛っ!! ちょ、お二人とも!? ちょっ、ああああっ!!」

「小鳩さぁん。わたしですねー。南雲さんの結婚式に出ちゃったせいでー。なんて言うか、もう子供が欲しいまで行っちゃってるんですよぉ。けどぉ、六駆くんってマジメだから、全然手を出してこないじゃないですかぁー。そこがステキなんですけど! えへへへへへへっ!!」


 小鳩さんは沈痛の面持ちで理解した。

 「あ。これ、わたくしが酷い目に遭うヤツですわね?」と。


「ええと。その、何と申しますか。やっぱり莉子さんはまだ高校生ですので。ねっ? 時が来れば自然な形で」

「小鳩さん!! わたし! 14歳の母見たんです!! 14歳で母になれるなら!! わたし、18歳ですし!! イケますよね!?」


「ちょっと何をおっしゃっておられるのか分かりませんわ。どこに逝かれるんですの?」

「もぉー! 分かってるくせにー!! そだ! 小鳩さん! 明日って暇ですか!?」


「え゛っ!?」

「えとえと、そのぉー。前に連れて行ってくれたお店あるじゃないですか? また行きたいなって!!」


 小鳩さんは以前、莉子ちゃんに「大人な下着が欲しいですっ!!」と言われて、ほとんど無理やりランジェリーショップに連れて行かされている。

 ちなみにそれはたった3週間前の話なのだが。


「り、莉子さん? この間、充分過ぎるほど買われましたわよね?」

「それがですね! 勝負下着で1週間ローテーション組んでみたら!! 2セット足りないんですよぉ!! これはピンチです!! だって、えへへへへっ。ほらぁ、いざって時はいつ来るか分かんないですもんっ!!」


 結局押し切られて、翌日の予定を埋められた小鳩お姉さん。

 「はぁーですわ……」とため息をついて、その日は長めのお風呂に浸かったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ランジェリーショップ『OPPAI』は、全世界に展開している人気下着ブランドである。

 どこかで聞いたことがあるような気がする方は、多分気のせいである。

 世界は広いので、似たような店名だってあるのである。


「小鳩さーん!! おーい!! おっはよーございまぁーす!」

「お、おはようございますですわ」


 元気に手を振る、ショートパンツにノースリーブシャツな莉子さん。

 「ああ。傍目から見れば、元気で健康で健全な女子高生ですのに……」と、なんだか既に悲しさに支配されているお姉さん。


 とりあえず、一緒にショッピングモールに入る。


「り、莉子さん!? ほら! ご覧くださいまし!! あそこのクレープ屋さん!! 20パーセントオフですわよ? わたくし、ご馳走いたしますわよ!!」

「あ、はい! そんなことよりも、下着ですよぉ!!」


「……あ。はい。……そんなことよりも?」

「さー! 行くぞー!! おー!!」


 目的地にはすぐ着いた。

 ランジェリーショップ『OPPAI』の良いところは、店員さんがまったく干渉してこない事である。


 小鳩お姉さんは結構恥ずかしがりやさんなので、下着は独りで選びたいタイプ。

 だが、それはつまり常時莉子ちゃんとマンツーマンディフェンスを強いられると言う事。


「ほわわ!! 小鳩さん、小鳩さん!! これどう思います!? すっごくレースでスケスケですよぉ!!」

「え゛っ。あの……。もうこれ、多分お胸のどのパーツも隠れないと思うのですけれど」


 オブラートに包む小鳩さん。

 こちらで足りない言葉を補填しておこう。


 何もかもがガッツリ透けているのである。

 ストリッパーでももう少し隠していると小鳩さんは思った。


「ええと……。それはお泊り用ですの?」

「あ、いえ! 学校に付けて行こっかなって!!」



「おヤメになってくださいまし!! 体育の前とか大惨事ですわよ!! 同級生の女子が卒倒しますわ!! 莉子さん! あなた先月まで、シマシマの下着付けておられたのですわよ!? クラスメイトの皆さんが、この夏ナニがあったの!? ってなりますわよ!!」

「んー。そうですかぁー? けどぉー。体操服からチラって見える時とか、セクシーな方が良いかなってー」


「セクシーどころじゃありませんわよ!! もはやそれ、セクハラですわよ!! チラっと見えたら同級生の乙女のトラウマになりますわ!! 莉子さん、マジメな生徒で通っていましたわよね!?」



 暴走莉子さん、その活動範囲を高校にまで広げる構え。

 早いところアンビリカルケーブルを叩き切らなければと小鳩さんは確信する。


「あっ! じゃあこっちはどうですかぁ? ガーターベルトぉ!! セクシーですねっ!! なんだかスケスケのストッキングもセットですし!!」

「莉子さん? まさか、制服のスカートの下に穿くおつもりじゃ……」


「さすが小鳩さん!! やっぱり大人ですねっ!!」

「お待ちくださいませ!! 女子高生ブランドの大暴落ですわよ!! わたくしが生活指導の先生でしたら、もう!! 一周回って! あ。そういうのもあるのか。とか思ってしまって注意できませんわよ!!」


 小鳩さんは不承不承ながら、黒い紐のアレがナニしている下着を手に取った。

 「これでもわたくしのものより相当センシティブですけれど。先ほどまでよりは全然ましですわ!!」と心を鬼にして、莉子ちゃんに勧める。


「こ、これなんて良いんじゃありません? 程よくセクシーですわ!!」

「んー。でもでもぉ。インパクトがぁー。ふぇっ。すみません。電話が。あっ! 六駆くんだぁ!! もしもーし!! どうしたのー!? あ、そだそだ! 六駆くん! ところでさ! 好きな下着ってなに!?」


 「ええ……。なんて会話ですの……。ところでの後に好きな下着の話、します?」と小鳩さん、全ての者の代弁者になる。


「うん、うん。そっかぁー! ふぇぇっ! そうなの!? あ、うん! 分かったよぉ! 今晩はね、トンカツだって!! うん、待ってるねー!!」


 電話を終えた莉子さんは、小鳩お姉さんに向かって宣言した。


「小鳩さん!! お店変えて良いですか!? なんか六駆くん、莉子のシマシマ、僕好だよ! らしいので!! あっちのお店に行きましょう!!」

「……あ、はい。ええ。かしこまりですわ……」


 それから莉子さんは「これ! 小鳩さんにあげますね!」と言って、大量購入した大人の下着を全て小鳩さんに押し付けた。

 莉子ちゃんの下着戦闘力が一般的高校生と同じか、下手すると下回るレベルになった事は、小鳩お姉さんの心を少しだけ落ち着ける。


 帰宅後。

 小鳩さんは思った。


 「このサイズの下着。わたくしが身に付けたら……。痴女ですわね……。なにも隠れませんわよ……」と。


 捨てるのも忍びなかったため、引き出しに「莉子さん魔道具」と言うスペースが爆誕したのだが、その話はもう必要ないだろう。

 今日も平和なチーム莉子。


 だが、夏の日常はあと数話で終わる事を、現時点で知っている者はいない。

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