第526話 【特務探索員シリーズ・その1】特務探索員・逆神六駆と特務探索員・阿久津浄汰のお仕事 ~お供のパイセンと芽衣ちゃま~

 改めておさらいしよう。

 六駆くんの現在の立場は、南雲監察官室付きの特務探索員。


 かつてのDランク探索員の職は解任され、今の役職に再配置された。

 これは、国際探索員協会、通称国協の理事であるフェルナンド・ハーパー氏を六駆くんが景気よく『蓋世がいせい大竜砲ドラグーン』でぶっ飛ばした事により、これまで雨宮上級監察官や久坂監察官に向けられていたヘイトをがっぽり独り占めしてしまった事に対する緊急措置。


 はた目から見れば「逆神六駆Dランク探索員は除籍、除隊された」と言う記録が残っているだけであり、さらにその辺りの情報を日本が誇る敏腕オペレーターたちがあれやこれやのカムフラージュを仕掛けた事で、現時点では国協にも六駆くんの足取りは追えていないかと思われる。


 特務探索員とは。

 監察官以上の権限を持つ者の責任でAランク相当の待遇を与え活動させる探索員の事であり、その任務は基本的に担当している上官からダイレクトに指示される。


 基本的にリスキーな雇用形態である。

 何か不備が起きた場合に対応するのは担当の上官となり、協会が関与するまでには多くの手続きを踏まねばならない。

 また、単独任務が多くなる傾向もあるため、それなりの実力者でなければソロ活動中に行方不明になってそのままバイバイと言うケースも過去にはいくつか報告されている。


 そのため、現代の探索員システムではこのように特務探索員としての雇用形態は極めてニッチなものとなる。そもそもこの役職が存在すらしていない国も多い。


 なお、現在の日本探索員協会において、特務探索員は2名のみ。

 今回はそんな彼らがお仕事をするお話である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 協会本部建物の前で、腕を組んでいるあっくん。

 彼は日本における特務探索員の1人。


 所属は五楼上級監察官室。

 現在、その五楼京華上級監察官はハネムーン休暇中であり、飛び込んでくる任務は主に阿久津浄汰特務探索員と、日引春香Aランク探索員によって捌かれている。


「阿久津さーん! すみませーん!! 待ちましたー?」


 そこにやって来たのは、もう1人の特務探索員。

 ご存じ逆神六駆おじさん。中身の年齢が1つ増えて、47になった。

 世を忍ぶ仮の姿は18歳。


「あぁ? 逆神ぃ。てめぇ。合同任務に遅れてくんじゃねぇよ。7分遅刻だぜぇ?」

「すみません! スタバでキャラメルフラペチーノ買ってたら遅れちゃいました!!」


 スタバでキャラメルフラペチーノが買えるようになった六駆おじさん。

 もはや彼は社会性を完全に取り戻したどころか、30年前は陰キャ気味だったためかつての自分を超える事に成功していた。


「女子か、てめぇは」

「阿久津さんの分も買ってきましたよ! はい! フレッシュバナナ&チョコレートクリームフラペチーノです!!」


「……てめぇ。よくそんなもん噛まずに言えるなぁ? つーか、なんだぁ? その聞いてるだけで歯ぁベタベタしちまいそうな甘い名前はよぉ」

「阿久津さん、甘いものが好きだって聞いたので!!」


「誰にだぁ? んなこと俺ぁ言った事ぁねぇんだが」

「親父に聞きました!!」


「……。いや、おかしいよなぁ? てめぇの親父とスイーツトークした記憶なんざ、まったくねぇんだがよぉ? ……ちっ。寄越せぃ。ぬるくなっちまうだろうがよぉ」

「今日も暑いですからねぇ! ふぅぅぅぅんっ!! 『連結ガッチムゲート』!!」


 あっくんは意外と気配り上手である。

 出されたものは食べるし、渡されたものは飲む。


 「甘ぇ……」と顔をしかめながらも、もう一度カタカタターンとやるのが面倒なスタバのオシャレドリンクを飲み干した阿久津特務探索員。


「じゃあ行きましょうか!!」

「あぁ。……つーか、てめぇ。なんでベンティサイズ買ってくんだぁ? 腹ぁいっぱいで何なら動くのも億劫なレベルなんだがよぉ? ……ちっ。聞いちゃいねぇ」


 2人は門の中へと消えて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 転移先はアラスカ。

 エモズィダンジョンが本日の戦場。


 先日、木原監察官が討伐任務に当たったモンスターだが、どうやら核を破壊し損ねたらしく、今では数が何倍にも増殖しているとの報告が入っていた。

 モンスターはバオルスパイダー。でかい蜘蛛である。


「うにゃー!! お仕事ぞなー!!」

「みみみっ! 頑張るです!! みみみぃ!!」


 そして、普通にいる椎名クララAランク探索員と木原芽衣Bランク探索員。

 2人とも、久しぶりに水着ではなく探索員装備を身に纏っている。


「あぁぁ? おい、逆神ぃ。こりゃどういうことだぁ?」

「南雲さんがですね! 芽衣をAランクに昇格させたいらしいんですけど、実績が不足してるらしくて! 今日は僕、いない設定なんですよ!! 阿久津さんはクララ先輩と芽衣と3人で任務こなした体でお願いします!!」


「てめぇはよぉ。平然と不正してんじゃねぇよ」

「阿久津さん!!」


「あぁ!?」



「フレッシュバナナ&チョコレートクリームフラペチーノ! 美味しかったですか!?」

「てめぇ……。逆神ぃ……。お前よぉ、知恵つけるとさらにろくでもねぇなぁ……」



 あっくんは不承不承で了承する。

 「道理でクソみてぇにでけぇと思ったんだなぁ」と、若干の胃もたれを感じながら。


 4人でダンジョンの中へゴー。

 件のモンスター生息ポイントは第8層。


「……ちっ。子蜘蛛がわんさかいやがるぜぇ。おらぁぁぁ!! 『拡散熱線アルテミス』!!! んな報告受けてねぇんだがなぁ。おい! 日引さんよぉ!! 通信可能かぁ?」


 サーベイランスから、幸せいっぱいで最近はいつも以上に笑顔の日引春香オペレーターが顔を出す。


『はい! 敵モンスターの情報ですね! こちらに用意しています!! どうぞ!!』

「仕事が早ぇことで。……あぁ? ああ……。おい、逆神ぃ」


「なんですか!? もうないですよ! フレッシュバナナ&チョ」

「うるせぇ。おおい、逆神ぃ。このモンスターの初討伐者、てめぇじゃねぇか。御滝ダンジョンでぶっ殺してんだろうが」


「えっ!? そんなことしましたっけ?」

「バオルスパイダーってのは国協の付けた名前だ。和名は……。なんつーか、気の毒な名前が付いてんなぁ……」


 あっくんは「はぁ」とため息をついて、仕方なく読み上げた。



「リコスパイダーってなんだぁ? お前よぉ、普通てめぇの部隊のリーダーの名前を新発見したモンスターに付けるかぁ? 小坂が気の毒過ぎんだろうがよぉ」

「あー!! はいはい、思い出しましたよ!! あらー! この子、リコスパイダーなんですか!? やだー!! 久しぶりー!! 写真撮って莉子に送ってあげよ!!」



 リコスパイダーさん、おおよそ500話ぶりの再登場を果たす。


 諸君は覚えておいでだろうか。

 まだチーム莉子が莉子ちゃんと六駆くんの2人体制だった頃、彼らが戦ったでかい蜘蛛の事を。


 あの当時は莉子ちゃんが「もぉぉ! おじさんウザい!! 嫌いっ!!」と言っていた。

 どうしてこんな未来にたどり着いたのか、どこで世界線を超えてしまったのか。


 色々と思うところは山盛りである。


「にゃははー! 六駆くん、酷い事するにゃー!!」

「……あのなぁ。椎名ぁ。てめぇの名前も討伐者の欄に記載されてんだがよぉ?」


「……にゃー?」

「あぁ……。もう良い。小坂が不憫でならねぇ」


 ちなみに、クララパイセンがチーム莉子に正式加入したのもリコスパイダー戦。

 なお、六駆くんもクララパイセンもまったく覚えていない。


「みみみみみぃ!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』!! みみぃ!!」

「木原は偉いなぁ……。クソみてぇな先輩連中無視してよぉ。子蜘蛛をマジメに狩ってんだからよぉ。……おおい、飴食うかぁ?」


 サーベイランスから追加の情報が提示される。


『あっくんさん! リコスパイダーの群れが移動を開始しました!! 上層へ向かっています!! 確実に殲滅させてください!! ダンジョンを出るとまずいです! リコスパイダーは核から無限に繁殖するため、その辺りが一面リコスパイダーで埋め尽くされます!!』


「よし、分かった。だからよぉ。日引さん。2つだけ言っときてぇことがある。小坂が気の毒だからよぉ。国協の名称で呼んでやれぃ。……あと、俺をナチュラルにあっくんって呼ぶんじゃねぇ」


 ニコニコしてあっくん特務探索員の声を聞いている日引さん。

 どうやらまだ聞きたいことがあるご様子。


「……ちっ。あーあー。日引さんよぉ。結婚式の日取り決まって良かったなぁ」

『やだぁ! あっくんさんってば!! 恥ずかしいじゃないですか!!』


「女ってのはよぉ。恋愛すると全員が小坂になんのかぁ? とんでもねぇ状態異常じゃねぇか……」


 リコスパイダー討伐作戦。

 後半に続くのだ。

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