第512話 【チーム莉子の夏・その2】小坂莉子は夏が来たから旦那と海でイチャイチャしたい!! ~禁断の魔道具に手を出した乙女~

 アトミルカ殲滅作戦における、バニング・ミンガイルとの闘い、そしてアリナ・クロイツェルの救出、国際探索員協会への憤慨。

 さらには、日本探索員協会が総力を結集して挑んだ逆神六駆の救済。


 それらを通して、我らが主人公の六駆くんはちょっと綺麗になった。


 対して、アリナ・クロイツェルとの激闘で六駆くんへの愛が暴走した莉子さん。

 彼女はこれまで、やりたい放題する六駆くんのブレーキ役として活躍しており、チーム莉子の良心として清らかな心と慎ましい体の乙女の姿は、どこに行っても称賛と尊敬を集めていたが、それも今は昔。


 暴走したまま帰って来なくなった莉子さんはアップデートが完了。

 恋愛脳乙女として最新のバージョンになっていた。


 彼女の言う事には、好きなものは六駆くん。

 好きな人は六駆くん。

 好きな食べ物は六駆くんの食べ残し。

 好きな飲み物は六駆くんの飲み残し。

 好きな異性のタイプは六駆くん。

 好きな芸能人は六駆くん。

 好きなおじさんは六駆くん。

 趣味は六駆くんの事を考えること。

 特技は六駆くんに尽くすこと。


 おわかりいただけただろうか。


 それでは、そんな狂気の恋愛乙女の日常へご案内します。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねねねっ! 六駆くん、六駆くん!!」

「うん。どうしたの?」


 既に六駆くんの部屋で寄り添って座った状態からスタート。

 かつてはここに到達するまでで1話使っていたのに、今では1行かからない。


「あの、ね? 今年って暑いよね?」

「そうだねぇ。僕にとっては記憶にある夏って今回で2度目だけど。でも、去年よりは確実に暑いね。梅雨もあんまり雨降らなかったし」


「ねっ! それでさ、暑いとさ? 何て言うか、涼みたくなるよね?」

「冷房の温度下げようか? 莉子がミニスカートだから、寒すぎるとまずいかと思ったんだけど」


「えへへへへっ。六駆くんってば、優しいなぁー! って、そうじゃないの!!」

「分かった。カルピスのおかわりだね? 濃い目の作って来るよ!!」


 莉子さんモジモジする。

 立ち上がる六駆くんの手を掴むと、意を決して言った。


「あのね! わたし、一昨日! みんなで水着買いに行ったの!!」

「ああ、買い物に行くって言ってたね。水着だったんだ」


 ちなみに、その際の模様はまた別の機会にお届けいたします。

 何人かのチーム莉子の乙女が犠牲になりました。


「そう言えば、僕も誕生日の時に水着貰ったなぁ」

「だ、だよねー? 不思議な偶然だよねー? あー! でもでもぉ、これって2人とも、新しい水着をゲットしてることになるよねー? ねー!?」


 繰り返すが、知的で聡明だった頃の莉子さんはもういない。

 諸君。いい加減に諦めて頂きたい。


 このポンコツなお誘いを白々しく繰り出しているのが、今の莉子さん。


「そうだねぇ。じゃあ、海にでも行く?」


 莉子さんの胸が弾んだ。

 もちろん、イメージである。


「行くっ!! じ、実はね! 今日さ、もう準備してあるの!!」

「あ、そうだったの? なら早く言ってくれればいいのに!」


「だってぇー。恥ずかしかったんだもんっ!!」

「恥ずかしがることないのに! じゃあ、着替えてから『ゲート』で出かけようか」


 『ゲート』で出かけると言う謎の日本語を使うのは、このカップルだけである。

 カップルを除けば、パチンコ大好きおじさんと、やたら強いおばあちゃんも。


「ふぇ? 六駆くん、海に『基点マーキング』作ってるの? わたし、さすがに北極海はやだよー?」

「ははっ! 違う、違う! ばあちゃんの家の近くに海水浴場があるんだよ! 先月、じいちゃんと釣りに行ってさ。偶然その近くに『基点マーキング』作ってたんだ!」


「わぁ! すごいっ!! これは運命だよぉ!! じゃあ、行こー!!」

「分かった! じゃ、莉子はここで着替えて良いよ。僕は廊下で適当に着替えて来るから」


「あ、ううん! 平気! 実はね、もう服の下に着てるんだぁー!! 水着!!」


 莉子さん、プールに遊びに行く小学生みたいな事をする。

 明らかにかつての彼女ならやらない手法だが、この議論はするだけ無駄である。


 六駆くんが海パンに着替えると、庭に出て門を生やした。

 2人仲良く、海水浴場へ出発である。


 なお、六駆くんの着替えをドアの隙間から莉子さんがガン見していたのはここだけの話。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 呉にはいくつか海水浴場がある。

 ここは中規模ながらそれなりの賑わいを見せていた。


 今年はまだ7月なのに既に真夏並みの猛暑が続いているため、海に遊びに行こうと言う者は多くいるらしい。


「日差しがすごいなぁ! 僕、海水浴するの30年ぶりだ!」

「わ、わたし、じゃあ! 服、脱ぐね!!」


 「もぉー! あっち向いててよぉ!」ではなく、「お前の前で敢えて服を脱ぐ。あとは分かるな?」と宣言する莉子さん。

 もはや無敵である。


 ミニスカートのホックを外し、ストンと落とすと、ブラウスのボタンも外す。

 すると、探索員装備と同じカラーリングの赤と黒のタンクトップビキニの莉子さんが現れた。


「えと……。その、どうかな? ……やっぱり、子供っぽい?」

「そんなことないよ! 可愛いと思う! って言っても、僕、莉子以外の女の子と海に来た事なんてないからなぁ! 比較対象がいないから、いい加減な意見だけど!」


「そ、そっかぁー! えへへへへへっ! 嬉しい! 一生懸命選んだんだよぉ!」


 ここで綺麗になった六駆くん。

 莉子さんの変化に気付く。


「……あれ? 莉子? ……なんか、胸が大きくなった?」



 事件である。



「そ、そそそそ、そんなこと、ないと思うけどなぁ!? も、元から、元からこのくらいのサイズだったよぉ? も、もぉー! 六駆くんってばぁ! えへ、えへへへへっ!!」


 既にお察しの方も多いと思うが、莉子さん回で莉子さんの変化に言及しない訳にはいかない。

 ここは、命を賭けて説明に挑む所存。


 この乙女、水着を買いに行った際に禁断の魔道具に手を出していた。

 それを使えば、乙女の胸部装甲は飛躍的に威力を増すと言う、まさに人類最大の発明品。


 そう。小坂莉子さん。18歳。



 パッドで乳を盛ると言う悪魔の囁きに屈していた。



 重ねたパッドの数、実に3枚。

 シリコン製の良いヤツである。


 その結果、莉子さんはAAランク探索員から、Dランク探索員へとレベルアップ。

 ちなみに探索員のランクをこんな例えに使ってしまった事に関しては、忸怩たる思いであると付言しておく。


「さ、さぁー! 六駆くん! 水のかけ合いっことかしよー!! 海を楽しむぞー! おー!!」

「んー。まあ、いいか! 莉子は莉子だからね! よし、行こう!!」


 荷物に隔絶スキルをかけて盗難防止対策は完璧。

 2人は海へと駆けだした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから3時間。

 みっちり遊び倒した逆神カップル。


「いやー! 楽しかった! 海水浴って良いものだねぇ! 夏はまだ始まったばかりだし、また来ようか! 莉子の水着も何回だって見たいしさ!!」

「も、もぉぉ! 六駆くんてばぁ! エッチなんだからぁー!! でも、約束だよっ! 六駆くんおばあちゃんがね、言ってたの! 高校生の夏は水着ではしゃいどかんと大人になってから後悔するけぇね! って!! いっぱいスキンシップしときなさいって!!」


 ばあちゃん。


「ははっ! そっか! まあ今日のところは着替えて帰ろうか! タオルは持って来たから、それ使ってね! 今から水属性のスキルでシャワー作るから!」


 もうスキル使いである事を隠さなくなったので、何でもできる六駆くん。

 と、ここで莉子さんの表情が一気に青くなった。


「あ゛っ!!」

「どうしたの? 足でもつった?」


 青くなった顔は、みるみるうちに真っ赤に染まる。

 莉子さんはプルプルしながら消えそうな声で旦那に報告した。


「ふぇぇ。あのね、水着を服の下に着て来たからね……。その、パンツとブラをね……。忘れちゃったよぉ……」

「あらら。莉子にしては珍しいミスだねー! よし、待ってて!! 彼女に下着なしでミニスカートを履かせる訳にはいかないから!!」


 そう言って『ゲート』で転移した六駆くんはそのまま莉子ちゃんの家に行き、莉子ママに「すみません! 莉子の下着を1セットもらえますか!?」と要求した。

 半裸の娘の彼氏の男らしく堂々とした態度は莉子ママの心を掴み「はい! これ! 莉子のお気に入りのヤツよ!!」と直で手渡される。


 それを握りしめて再び転移して来た六駆くん。


 声にならない悲鳴を上げて、莉子さんはしばらくしゃがみ込んだまま動かなかった。

 我々は彼女の痴態を喜ぶべきだろう。


 この乙女にはまだ、羞恥心があったのだと。

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