第8章

第511話 【チーム莉子の夏・その1】逆神六駆、誕生日を迎えて18歳(中身47歳)になる!!

 長きにわたるアトミルカとの因縁を終わらせた戦いから、約2月が経った。

 7月。今年の梅雨明けは早く、既に夏本番を迎えている。


 国際探索員協会に堂々と喧嘩を売った逆神六駆の身は多くの関係者から案じられていたが、意外な事に彼の毎日は穏やかに過ぎていた。

 監察官たちの根回しが利いていたのか、それとも新しい悪意が胎動のための準備期間を求めていたのか。


 その点に現段階で言及するのは無粋であり、これからしばらくは平穏を取り戻した探索員たちの日常にフォーカスを当てていこう。

 戦士たちもつかの間の休息は必要であり、その過ごし方も千差万別。


 諸君におかれましては、温かい目で見守って頂けると幸いである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神六駆。

 6つの異世界を渡り歩き、その全てを平定して見せた最強の男。


 本日。7月11日は彼の誕生日。

 つまり、18歳になる。


 だが、彼の中身は47歳になるため、肉体と精神のどちらを正しい年齢とするべきかは議論の余地があるだろう。


 六駆くんのスマホが鳴った。

 相手は言うまでもない。


「はい。もしもし。こちら逆神です」

『うにゃー! 六駆くん! ハピバだぞなー!!』



 失礼。想定外の相手から最初のハッピーバースデーが届いていた。



「クララ先輩! 僕の誕生日って教えてましたっけ? あ、とりあえず、ありがとうございます! 18歳と47歳になりました!!」

『……お、おう。たまに忘れそうになるけど、六駆くんは大変な人生を歩んでるにゃー』


「誕生日が休みの日なんて、もうその時点で最高のプレゼントですよ! いやー!! ゴロゴロして過ごす誕生日って最高だなぁ!! 聞いてくれます? 去年の誕生日はスキルの修行ばっかりやらされてて! その1か月後に親父の運転するトラックに轢かれたんですよ! 6回も!! それに比べたら、今年はもう平和そのもの!!」

『パイセン、何て声かけたら良いのか分からんぞなー。ところで六駆くん! これからあたしの家に来てくれないかにゃー?』



 パイセン、ご乱心か。自分で寿命を縮めに行くとは。



「構いませんよ! 予定ないですし!! 日須美市でしたよね? ちょっと煌気オーラ放出してもらえます?」

『うにゃー? ……あ。これから何するか分かったぞなー。あんまり協力したくないにゃー』


 六駆くん、服を着替えて庭へ。

 そして「あ、大丈夫です。煌気オーラを捕捉ました!!」と言うと、地面から門を生やした。


 そのまま門の中に入ると、そこはクララのアパートの駐車場。

 今さら隠す気などまったくない、逆神六駆の移動方法であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 すぐにクララが慌てて走って来た。


「ちょちょちょー!! 困るにゃー! 六駆くん!! 早く『ゲート』をしまってにゃー!!」

「大丈夫ですよ!」


「あっ。もしかして、ステルス仕様かにゃ?」

「いえ! 誰も気にしないかなって!!」


 クララは頭を下げて「お願いだからしまってくださいにゃー」と鳴いた。

 アパートを追い出されると困るのである。

 どら猫がノラ猫になってしまう。


 特に反対する理由もないので、六駆は門を抹消した。

 クララは六駆の手を引いて、「ささっ! こっちだぞなー!! パイセンについて来るにゃー!!」と言うなり、自分の部屋へと案内し始めた。



 最強の乙女にガチられるカウントダウンに入ったか。



 だが、その心配は杞憂に終わる。

 クララの部屋に着いたのち、「さあ! 六駆くん! どうぞどうぞー!! 女子大生のお部屋に入ってにゃー」と言って、何故か彼を先に部屋に上げようとした。


 お気づきになられただろうか。

 そう。これはサプライズイベント。


 チーム莉子総出の六駆おじさんがまた1つおっさんになった記念日を祝おうの会。


「では。おじゃましまーす!!」


 待ち構えていた莉子さんが、「せーのっ!!」と合図をした。

 続けて、芽衣と小鳩がクラッカーを鳴らす。


「六駆くん! お誕生日おめでとー!! 六駆くんが無事に年を重ねた事実は、世界の何を置いてもお祝いしなきゃだよぉ!! こんなにおめでたい日はないんだよぉ!!」



 莉子さん、重たい愛で混迷する世界の全てを足蹴にする。それはいけない。



 嫁に抱きつかれながら、六駆は「いやー! 参ったなぁ!!」と頭をかいた。

 かつて自分も莉子さんの誕生日にサプライズを計画したのだから、逆のパターンの想定は容易のはず。


 と、思われた諸君はまだおっさんの基礎教養が足りていない。


 おっさんになると自分の誕生日に無頓着になり、それが進行すると自分の年齢にすら無頓着になる。

 たまに市役所などに言って、書類の記入欄に「年齢」と書かれていると「……僕は何歳だったっけ?」とガチで悩み、最終的に免許証や保険証を取り出して確認するのは基本仕様。


 さらに悪化すると、自分の生年月日の「年」を忘れる。

 そこに昭和とか平成とかの元号が加わるともうアウト。

 おっさんは何も思い出せなくなり、再び免許証辺りを取り出すのだ。


「わたくしと莉子さんで、お料理も作りましたのよ! 六駆さんのお好きなものばかりですわ!! 莉子さんがご指示くださったので間違いないかと!!」

「みみみっ! 芽衣はプレゼントを用意したのです!! どうぞです、師匠!!」


「おおー! 美味しそうなご飯がこんなに!! お腹空いてたんですよ!! 芽衣もありがとう! 何かな? これは、水着かな? 嬉しいなぁ! けど、なんで?」

「みみみみっ! それはまだ言えないのです!! 言ったら芽衣の命が危険でピンチなのです!! みみっ!!」



 既に黒幕の正体は割れているが、それを指摘した場合諸君の命の保証もできない。



「まあまあ! そんな事より、六駆くん! ケーキのロウソク消そうよぉ!! これはね、南雲さんが買ってくれたんだよ!!」

「そうなんだ! 南雲さんは優しいなぁ!!」


 ちなみに、莉子さんの意向でケーキにはロウソクがまず18本。

 次いで、47本突き刺されており、もう大変な絵面になっていた。


 そこに火が付けられるのだから、もはや小火である。

 早く吹き消さないと、クララの部屋が燃え始めるだろう。


「スキル使っていい?」

「絶対にヤメてにゃー。あたしの部屋がなくなるぞなー」


「では、ふぅー!! げっほげほっ!! ちょっとこれ、息じゃ消せないよ!!」

「もぉー! 仕方ないんだからぁ!! わたしが一緒に吹いてあげるねっ!! えへへへへへっ!!」


 莉子さんの計画は完璧である。

 かつてはその知略で六駆くんのダンジョン攻略を助けていたが、今はその知略が全て六駆くんとの恋愛に注がれているのだ。


 莉子さんは六駆くんにぴったりとくっ付いて「せーのっ!」と言って息を吐いた。

 ものの見事にロウソクの炎は消える。


「えへへへっ! やっぱり2人だと何でもできちゃうねっ!!」

「そうだね! 莉子は頼もしいなぁ!!」


 3人の空気の読める乙女たちは「今、莉子ちゃんがほぼ消したにゃー」「ええ。六駆さんの息が出る前に全部消えてましたわ」「……みみっ」とアイコンタクトで意思疎通を済ませ、ちょっとだけ引きつった笑顔で「わぁー!」と拍手した。


 それから、料理を堪能した六駆くん。

 肉料理と揚げ物が大半なのに、普通にパクパク食べる辺りはさすが18歳。


 デザートのケーキまできっちりと美味しく頂いた、胃袋も最強の男。

 彼の胃を攻撃するならば、メタルゲルの外皮を用意するしかないのである。


 サプライズパーティーの最後に、六駆は目に涙を浮かべて言った。


「本当に、何というか、僕みたいなおっさんのために今日はありがとう……!! 僕、みんなと出会えてよかったよ!!」


 アトミルカ殲滅作戦でちょっと綺麗になった六駆くんの言葉に、莉子さんを除く3人の乙女は感動した。

 なお、莉子さんは六駆くんが何を言っても感動するので、カウントされない旨を付言しておく。



「あれぇ? ……今、誰か胸の話しましたぁ?」


 しておりません。旨です。



 何はともあれ、逆神六駆。18歳の夏が始まる。


 ちなみに次は濃厚な莉子ちゃんのターン。

 諸君。お覚悟を。

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