第513話 【チーム莉子の夏・その3】椎名クララのもはやいっそ清々しい怠惰な生活、サマーバージョン ~同時上映・莉子さん海水浴編エピソード0~

 椎名クララはアパートの部屋で伸びていた。


 ガンガンに稼働させているエアコン。

 テーブル上には飲みかけのビールとじゃがりこ。


 タンクトップとヨレヨレになったスポーツ用の短パンを身に纏い、今日もダラダラしている。


 なお、クララは大学に入った際「おおー。近くにジムがあるぞなー! よーし、女磨きするぞなー!!」と言って、スポーツウェアを一式揃えた。

 揃えた時点で「うん。やっぱりいいかにゃー」と満足した結果、以来夏になると彼女の部屋着は基本それ一択になる。


 洗濯しないのは不衛生?

 クララは、それってあなたの感想ですよね。と申しております。


 このどら猫は今日も家から出る予定もなければ、出る気もないため、何なら下着すら付けていない。


「うにゃー。暑いぞなー。こんな天気の日に外なんかに出たら死んじゃうにゃー」


 君は冬になると「寒くて外に出たら死んじゃうにゃー」と鳴くだろうが。


「今日はどうするかにゃー。大学の出席は小鳩さんの完璧な管理で除籍ギリギリをキープしてるから自主休講だとしてだにゃー。とりあえず、YouTubeでも見るかにゃー。おー。なんかおっぱい大きいVtuberさんがデビューしてるにゃー」


 「自分の胸は全然気にならないけど、おっぱい大きい女の子見てると幸せになれるぞなー」とは、どら猫パイセンの金言である。

 それを公言したら莉子ちゃんに消される可能性があるため、豊かな胸の内に秘めるだけに留めている意外と賢いパイセン。


「にゃははー。結構トークも面白いにゃー。おー! おっぱい揺れるぞなー!! 3Dモデルのクオリティ高いぞなー。にゃはははー。……あ。ビールなくなったにゃー。冷蔵庫ー。冷蔵庫ー。良かったにゃー! まだ1本あったぞなー!!」


 ちなみに、このビールは南雲監察官室からお中元として贈られたものである。

 莉子にはギフト券を、芽衣には夏のスイーツセットを、今年から一人暮らしの小鳩には洗剤と入浴剤セットを贈っている。


 気配りのデキる男、南雲修一。


 なお、逆神家にはちょっと高い日本酒を贈ったが、それは大吾の手によってメルカリで転売された。

 「これで軍資金が出来たぜ!!」と言って、戦場に出かけて行ったお排泄物。


 結果については言うまでもなく、六駆の手によってダメ親父はウォーロストに転移させられた。

 カルケルのメケメケマル代理司令官が想定できるはずもない不測の事態に頭を抱えたと言う。


「ぷっはー!! やっぱりビール飲んでる瞬間は、生きるって感じがするにゃー!! あっ。タンクトップにこぼしちゃったぞなー。着替えは……ない!! むむー。このまま過ごすべきかにゃー。でもベタベタするにゃー。もういっそ、上は裸でもいいかにゃー?」


 そんなしょうもない二者択一をしていたところ、スマホが鳴った。

 「小鳩さんだったら居留守するにゃー!」と決意してディスプレイを見たところ、小坂莉子と表示されていた。


「莉子ちゃん! どうしたぞなー? やー! 小鳩さんかと思ってビビっちゃったにゃー! 危うく大学サボってるのがバレちゃうとこだったぞなー!! にゃっははー!」



『……クララさん? どうしてあなた、普通に家におられるんですの? 油断しましたわね? 莉子さんに誘われて、今日はお買い物に来ていますのよ。で、クララさん?』

「にゃん……だと……。騙されたぞな……」



 そのあと、むちゃくちゃ怒られたクララパイセン。

 なお、今日出席すべき講義は1限と2限であり、今はお昼過ぎ。


 時すでに遅し。


『はぁ……。もう良いですわ。クララさん。お暇ならあなたもいらっしゃいませ。日須美市のイオンモールで、これから水着を買うんですわ』

「うにゃー。外は暑いしー」


『……お買い物が終わったら、スイーツバイキングに行きますわよ? 仕方がないから、ご馳走して差し上げますわ!』

「うにゃ!? 小鳩さん! 社会人の余裕を感じるぞなー!! すぐ支度するにゃー!!」


 それからクララはギリギリ残っていた洗濯済みのヨレヨレな下着を装備したが、肝心の服がない。

 引き出しを開けて探すと、大学指定で買わされたものの一度も着ていない体操服とエンカウント。


 どら猫に迷いはなかった。


「これでいいかにゃー! よし! いざ、タダで食べられるスイーツ目指して!!」


 体操服を着てショッピングモールへ繰り出す椎名クララ。

 驚くなかれ、そろそろ彼女は21歳になる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 水着売り場に着いたクララ。

 そこは既に地獄であり、「よし! 帰るにゃー!!」と即断即決したと言う。


 だが、久坂一門で鍛え抜いた塚地小鳩からは逃げられない。


「クララさん! なんで逃げようとしてるんですの!? 薄情過ぎませんこと!?」

「だってー!! 莉子ちゃんが悪魔みたいな顔で水着見てるにゃー!! もう絶対にパイセンのパイが被害受けるヤツだにゃー!! さては小鳩さん、自分よりも大きい標的を囮にして、窮地を脱するつもりだったにゃー!?」


「ふふふっ。バレてしまいましたわね。……もう、これ以上莉子さんに胸を揉まれるのは嫌なのですわよ!! 莉子さん、シリコン製のパッドを買うらしいのですけど! リアルな感触を確かめたいんですっ! とか言って、無許可で胸をお揉みになるのですわ!!」


 クララは安易に体操服でやって来た事を後悔した。

 これほど胸を揉まれやすい恰好はない。


「みみっ! クララ先輩です! こんにちはです!!」

「芽衣ちゃん! そだ! 芽衣ちゃんは莉子ちゃんにおっぱい戦闘力が近いから!! 芽衣ちゃんを参考にすればいいぞなー!!」


「みみみっ! 芽衣はもう水着を買ったので、ベンチで皆さんを待っているです!! どうぞ、芽衣に気を遣わず、ごゆっくりなのです!! みみみみっ!!」

「うにゃー! なんて速さだぞなー!! さすが、昔は逃げる事に命かけてた女子だぞなー」


 パイセン。君は大きな声でリアクションを取るから、命を落とすことになるのだ。



「あー! クララ先輩!! 来てくれたんですかぁ!! あのですね、今、わたし! パッドを初めて買おうと思ってるんですけどぉー! その、触れられた時に自然な柔らかさのヤツが欲しくてですねー!! クララ先輩、ちょっとこっち来てください! おっぱい貸してもらえますかぁ?」

「あ。終わったにゃ……」



 そのあと、死ぬほどおっぱい揉まれたクララ先輩。

 ファーストおっぱいどころか、ワンハンドレッドおっぱいくらいまで莉子ちゃんに根こそぎ奪われたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぅ……。酷い目に遭ったにゃー。小鳩さん、あんまりだぞなー」

「ま、まあ! 良いじゃありませんこと! ほら、わたくしがクララさんの水着も買ってさしあげましたし!! よくお似合いでしたわよ?」


 スイーツバイキングでケーキのやけ食いを敢行しているクララ。

 向かいの席にはホクホク顔の莉子さんが、美味しそうにパフェを頬張っている。


 良いパッドが買えたらしい。

 詳しくは莉子さん海水浴回を振り返ってみよう。


「みみみっ! クララ先輩の水着、黒で大人なセクシーさを感じたです! 芽衣は子供っぽいヤツなので、憧れるです!!」

「うにゃー。あたしは正直、水着だったら何でもいいぞなー。誰に見せる訳でもないしにゃー。何なら、スク水でも全然オッケーだにゃー」


「クララさん……。あなたのスタイルでスクール水着はその、何と言いますか。むしろ、いかがわしい感じになると思うのですけれど」

「別にいいにゃー。あたし、人からどう見られても気にしないにゃー」


 お忘れだろうか。

 クララパイセンはぼっちのプロフェッショナル。


 「友達がいないのにゃー」と言う理由で大学に行かなくなったエリート乙女。

 「仲間がいないのにゃー」と言う理由でソロ探索員をしていたエリート乙女。


 孤高のぼっちにまで上り詰めた彼女は、もはや「他人はあたしになんて興味ないぞなー」と言う確固たる意志を豊かな胸に宿しているため、衆目など気にならないのである。


「みみみっ! 莉子さんは六駆師匠と海に行くらしいです! クララ先輩! もうお休みなら、芽衣と一緒に泳ぎに行くです!! 小鳩さんはしばらくお仕事らしいのです!!」

「おおー! 芽衣ちゃんからのお誘いは断れないぞなー! パイセン、お友達から遊びに誘われるのなんて年に2回あれば豊作だからにゃー!! 行く、行く! 行くにゃー!!」


「クララさん? ……お休みではないですわよね? ……まだ講義、ありますわよね?」


 今年も孤独な夏を過ごすかと思われた椎名クララ。

 後輩の献身的な心に救われて、水着で泳ぐと言うリア充行為に手を染める。


 次はもちろん、芽衣ちゃんのターン。

 引き続き、夏っぽい空気でお送りして参ります。

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