第504話 【逆神家その5】国際探索員協会に面と向かって喧嘩を売った一族

 ハーパー理事はさらに怒気を強めた。

 なお、逆神大吾のスキルを喰らっても割と平気なご様子。


 理事が意外とタフなのか。

 親父のスキルが切ない威力なのか。


 多分、両方だろう。


 なお、お忘れの方に説明しておくと、アナスタシアさんの異能は何故か大吾にだけ効果が現れません。


「なんだぁ!? この汚い全裸の男は!! お前、父と言ったな!? さてはそのガキの親か! 逆神の血縁者だな!? ……そうか! なるほどな!! 逆神と言う一族がアトミルカを裏で操り、各国の探索員協会に対して長年被害を!! 点が線になったぞ!!」


 なんだか面倒な勘違いをされ始めた逆神家。

 だが、せっかく話は纏まった。

 バニングとアリナは数十年かけて、ようやく幸せのスタートラインに立った。


 ならば、その邪魔をさせるつもりは一切ないのもまた、逆神家の血筋である。


「水戸くん!」

「だ、ダメですよ、川端さん!! 気持ちは分かります! 自分だって我慢の限界です! だけど、このタイミングで自分たちが出て行ったら面倒が増します!!」



「今、理事は乳と言ったか!?」

「……言ってないです。川端さん、あっちでマンゴーラッシー飲みましょう」



 おっぱい男爵はお疲れのご様子。

 早くイギリスに帰ってもらって、『OPPAI』1週間貸し切りコースの旅へ行かせてあげたい。


「てめぇ! この野郎! なんかよく分かんねぇけど、うちの自慢の息子がやる事に因縁つけるとかよぉ!! 分かってんだろうな!? おおん!?」

「ふ、ふははは!! バカめ!! 今の状況は私の持っているイドクロア通信機で、国協の本部にある私のデータベースへ送られている!! 映像も音声も、煌気オーラデータもな!! お前たちは終わりだ!! ふはははは!!」


「うるせぇ!! 『銀玉大連荘ジャンジャンバリバリ』!!!」

「ぐぇあぁぁぁっ!! き、貴様ぁ! 正気か!? 私の言っている事が分からんのか!?」



「ああ! さっぱり分かんねぇな!! ただなぁ、じじい! てめぇがムカつくって事だけは分かったぜ!!」

「あらあらー。大吾さんったらー。私の故郷を救ってくれた時の事を思い出しますねー」



 逆神大吾は暴走中年。

 逆神アナスタシアは旦那全肯定系の嫁さん。


 この夫婦が放置しておくと逆神家三代の中で一番ヤバそうな事実が判明する。


「おらおらおら!! まだやられたりねぇのかぁ? おおん!?」

「ぐ、こ、こいつ……!! 頭がおかしいのか!?」


 ハーパー理事、珍しく正しい真実にたどり着く。


 だが、逆神家が常識で縛れないのは大吾だけではないのだ。

 両手を組んで煌気をチャージしていた老婆が一歩前に出る。


「あんたぁ! 珍しくうちの息子が真っ当なことを言いよるのにねぇ! なんかね、その態度は!! あんたみたいなのがおるからねぇ、お年寄りが老害とか呼ばれる風潮になるんよ!!」

「なんだ、このクソばばあ!! 引っ込んでいろ!!」



「さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 『積尸気せきしき餓狼砲ウルファング』!!!」

「ひゅっ!? あ、ああ? えっ? 山が……? ……は?」



 逆神みつ子。

 威嚇射撃を試みる。


 なお、その威嚇でヴァルガラの2番目に高い山が粉々になった模様。


「なはははっ! ……次は当てるよ?」

「ひ、ひぃぃっ!? ば、化け物が……!! だがな! たとえ私を殺しても! もはやデータは転送され続けている!! そののち、私の意思を継ぐ者が貴様らの息の根を止めるぞ!! この犯罪者一族めが!!」


 ここで、逆神家の5人が全員集合する。

 試合の大一番でピッチャーマウンドに集まる内野陣だろうか。


「どうする? もう、やっちゃう? 僕は構わないよ」

「やっちまおうぜぇ!! アリナたんの未来を守るんだ!!」


「ほっほっほ。珍しく大吾がまともな事を言うとりますの」

「あたしゃ、構わんけどねぇ? あの年で性根が腐っちょるとねぇ、もう死ぬまであんな感じじゃけぇねぇ。老人会のゆり子さんとこもねぇ。別れた旦那が未だに金の無心に来るんてぇねぇ。嫌じゃねぇ、あの手合いは死なんと治らんけぇねぇ」


「あらあらー。みんな、元気で良いですねー。六駆のやりたいようにして良いんですよー? あなたのお仕事なんですからねー」

「お袋! じゃあ、そうしよっかな!!」


 逆神家の一族会議が終わる。

 アナスタシアを除く、全員が非常に悪い顔をしていたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バニングとアリナと莉子を回収して、久坂による隠匿スキルでその身を隠している監察官&アトミルカチーム。

 その傍らには、雨宮順平上級監察官もいる。


「こりゃあ……。どがいしたらええんじゃ。ただでさえ六駆のには、ワシのせいでとんでもない責任を負わせちょるのに……。こうなりゃあ、ワシが行くか!?」

「久坂さん、落ち着いて。これはねー。もう手遅れだと思うんですよねー。もう、この場は彼らに任せちゃってですよ、我々は事後処理に全力を注ぎましょう。久坂さん、確か国協の理事にお知り合いいましたよね?」


「おお。比較的話が分かるヤツがのぉ。昔、合同任務を何回か一緒にこなしたことがあるんじゃ」

「私もですねー。1人ほど、お話できる人がいるんですよねー。上級監察官に推挙された時に、国協へ報告に行ったんですけど。その人とはウマが合って。おっぱいの話で盛り上がったんですよー」


「なるほどのぉ。ワシらに出来るのは根回しか」

「そうですねー。あとは、南雲くんと京華ちゃんにも動いてもらいましょうか。ゆくゆくは問題になるでしょうけど、すぐに逆神くんが処断されるケースは避けられるんじゃないかなー?」


 監察官たちの話を聞いていたバニングとアリナが表情を暗くする。


「……すまない。我々のせいで、あなた方に迷惑を。恩人の身を危うくさせるなど、なんたる不覚か」

「うむ。妾の身ひとつで場が収まるのならば、投降もやむなしと考えておるが」


 雨宮が「だめよーだめだめ」と2人を制す。


「もうここまでやったら何しても状況の好転はないですからねー。お二方を守りたいと思って、逆神家の皆さんは今、はっちゃけてる訳ですし。彼らの心意気を無駄にしちゃダメですよー。……それに、ダンディとアリナさんにはこれから楽しい事ばかり待ってますからねー。それなのに、うかない顔はなしですよー! 大丈夫! 逆神くんは気持ちのいい男ですから! そんな男を守るのが、上官の務めです! あらー!! 久坂さん、私なんかカッコよくないですか!?」


「おお、おお! そうじゃのぉ。雨宮のは輝いちょるわい!」

「確かにそうかもしれん!! ところで久坂剣友! 逆神六駆が凄まじい煌気オーラを溜めているが!!」



「なんじゃと……。さすがにのぉ。理事を殺されると庇いきれんで……?」

「あらー! 痛快男児! 今度は何を見せてくれるのかなー?」



 六駆がバリバリと煌気オーラを弾けさせていた。

 お忘れだろうか。


 この男、アナスタシアのスキルによって超絶パワーアップしている事実。

 彼は両手を組んで、煌気オーラを放出した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!! 『強制転移フォースブルゲート』!!!」


 いつもの門が生えて来る。

 だが、今回は空中に生えて来た。


 その門は、すぐに対象であるハーパー理事を吸い上げるように扉の中へと呑み込み始める。


「あ、あああっ!? なにをする!? 貴様ぁ! やっている事の意味が分かっているのかぁぁ!!」



「えっ? 分かってますけど? それがなにか?」

「ふわぁぁぁぁ!! 六駆くん、カッコいいよぉー!!」



 莉子さんが興奮のあまり、久坂の発言している隠匿スキルの壁をぶっ壊しそうになるので、アリナと雨宮と55番で必死に止めた。


 そんなことをしていると、ハーパー理事の体は門の中に吸い込まれて消えて行った。

 ヴァルガラの大気が浄化された瞬間である。


「……六駆の? ちなみに、理事をどがいしたんじゃ? ……殺ったんか?」

「やだなぁ! そんな酷い事はしてませんよ? ちょっと、北極海の流氷の上に転送しただけです!」


 雨宮隊がダンジョン攻略をスタートさせた地点の『基点マーキング』を利用したと六駆は言う。


 通信機を持っている以上、8割がたハーパー理事は救出されるだろう。

 だが、その前に何かの間違いでホッキョクグマ辺りに食べられたら良いのにと、その場にいたほとんどの者が願ったと言う。

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