第492話 【南雲隊その11】最大の苦境を突破した彼らも凱旋! なお、襲い掛かるストレス!! 日本探索員協会本部

 五楼隊が協会本部に帰還してから30分後。

 南雲隊も異世界・ゴラスペから撤収しようとしていた。


 だが、思い出して頂きたい。


 南雲隊は全員が煌気オーラ枯渇状態に陥っているため、【稀有転移黒石ブラックストーン】の使用が不可能。

 さらに、いつもの転移係を務めている逆神六駆はこれからまさに最終決戦に挑もうとしているため、こちらも頼れない。


 本部に通信でその事実を伝えたところ、山根健斗オペレーターが「あー! ちょうどいいところに!! 南雲さん、ついてるっすよ!! すぐにお迎えを送ります!!」と言って、本部建物にいた数少ない転移スキル使いをゴラスペへと向かわせた。


 たった今、その男の出した『ゲート聖なる扉パチヤノジドウドア』で南雲隊が本部の中庭に戻って来たところである。


「……大吾さん。助かりました」

「いやいや! 気にしねぇでくださいよ! 南雲さん!! こんな上等な白衣もらっちゃって!! こっちこそ助かりますわー!! へへっ! もうね、5時間くらいずっと全裸だったんでぇ! あー! 助かるー!!」


 南雲修一監察官。

 激戦を終えて隊員たちと共に無事、現世へと戻って来ることができた。


 実際、命の危機に最も瀕していたのは南雲隊であり、捕まってしまった雨宮隊ですら彼らほどの絶望感は漂っていなかった事実。

 本当に、よくやったものだと拍手をしてあげて欲しい。


 なにせ、逆神六駆と小坂莉子が急にいなくなるという前代未聞のアクシデントを全員で協力して乗り切ったのだ。

 だが、凱旋を果たして全員の表情が暗いのは何故か。


「うにゃー。いきなり裸のおじさんが来た時には、また新しいアトミルカの変態さんが増えたのかと思ったぞなー」

「みみみっ。クララ先輩、それ間違ってない気がするです。みみみみっ」

「……お排泄物。……わたくし、せっかく男の方に慣れて来た自覚がありましたのに。とんでもないお排泄物を見せられましたわ」


 使える者はお排泄物でも使わなければ乗り切れない。

 今回の作戦は、それほどまでにギリギリの連続だったのだ。


「へへっ! 南雲さん! あのぉ、それでですねぇー」

「ああ。はい。山根くんから報酬は5万円で良いと聞いていますが。よろしいんですか?」


「あっ! 欲張り過ぎました!? じゃあ、45000でいいです!! 白衣も貰っちゃいましたし!! へへっ!」

「いえ。では、財布から直で申し訳ありませんが。これ、5万円です」


 大吾は「ひゃっほい! んじゃね、あたくしはちょいと戦場に行ってきますんでね!!」と言って、『ゲート聖なる扉パチヤノジドウドア』を出して再度転移して行った。

 どこに行ったのかとは、口に出すのも無粋である。


 が、一応言っておこう。



 パチンコ屋である。



 全裸の上に白衣を纏った中年のおっさんは、風呂上がりにバスローブ着てる汚れ系のAV男優みたいでなんか嫌だったとは、たまたま通りかかった屋払文哉Aランク探索員の感想。


 ひとまず南雲隊は楠木秀秋後方防衛司令官に報告するため、全員でオペレーター室へ。

 煌気オーラの回復設備は現在全てが稼働中ゆえ、待機していた逆神四郎が「ワシじゃて、気休め程度の治療はできますぞい」と駆けつけて来た。


 息子とどこで差がついたのか。


「南雲隊。先の欠員を除き、全員が無事で帰還しました。既に報告している通り、6番姫島幽星は捕縛。5番パウロ・オリベイラは力が及ばず行方不明となりましたが、ゴラスペの制圧は完了しております」


 楠木が「ご苦労様でした。南雲くんには今回も重責を背負わせてしまい申し訳ない」と苦労人の監察官に頭を下げた。


 オペレーター室には五楼京華上級監察官も戻っており、ちょうどヴァルガラから久坂剣友監察官の報告を受けているところだった。

 五楼は南雲に気付き「久坂殿。モニター通信に切り替えても構わんだろうか」と戦地の老兵に尋ねた。


 久坂が了承したため、オペレーター室のメインモニターとサーベイランスが同期される。


 続けて、久坂は彼にしては珍しく言葉を選んで状況を説明し始めた。

 それを聞いていた一同の表情が一気に青ざめるまで、2分ほどしか必要としなかったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……国協の理事を『大竜砲ドラグーン』で撃ち抜いた? すみません、久坂殿。……正確な情報ですか?」


 モニターの向こうの久坂は沈痛な面持ちだった。


『すまんかったのぉ。ワシがドジを踏んだばっかりにのぉ。六駆のに、とんでもない罪と責任を背負わせてしもうたんじゃ』


 すぐに南雲がフォローした。


「いえ、久坂さん! 逆神くんのした事は正しいですよ! 今後、確かに問題にはなるでしょうけど! まずは久坂さんの無事に感謝するべきかと!」

『おお……。あののぉー、言いづらいんじゃけどのぉ……。なんちゅうかのぉー。六駆の、探索員辞めるってよ』



「え゛っ!?」

「……あの痴れ者が。勝手な事を」



 南雲と五楼が同時に頭を抱えた。

 もはや、逆神六駆の存在は日本探索員協会が活動する上で必要不可欠であり、彼に職を辞されると困るのは既に協会サイドの方なのである。


 さらに久坂は申し訳なさそうに悲報を重ねた。


『それからのぉ。莉子の嬢ちゃんなんじゃがのぉ』

「こ、小坂にも何かあったのですか!? それはいけません!! あれは、私の後継者にもなり得る稀有な存在です!! ま、まさか、負傷したのですか!?」


 五楼京華は小坂莉子を「日本探索協会にとって将来の上級監察官候補」として見ており、折を見て管理職の教育を始めようと内緒で計画書まで作成していた。


『いや、もう、なんちゅうかのぉ。ワシの不徳の致すところなんじゃけどのぉ。あー。言いづらいのぉ。……莉子の嬢ちゃんも、探索員辞めるってよ』



「……モルスァ」

「ご、五楼さぁぁん!! ああ! しっかりしてください!!」



 南雲に抱きかかえられた五楼は、力なくうな垂れた。

 たった今、将来の日本探索員協会を担うべき両翼を失ったのだからその衝撃は計り知れないだろう。


 これにはチーム莉子のメンバーも黙ってはいられない。


「そんなの嫌だにゃー!! どうにかしてくださいにゃー!! 南雲さん!!」

「みみぃ! 師匠と莉子さんを同時に失うなんて嫌です!! みみみみぃ!!」

「わたくしに出来ることがあれば、何でも致しますわ!! お排泄物な事でも……!!」


 狼狽えるチーム莉子。

 南雲は「もちろんだとも!」と答える。


「逆神くんも小坂くんも、これまでどれだけ協会に対して利益をもたらしてくれたことか!! それを、正しい判断を敢行したという理由で追放されるなど、あっていいはずがない!! 久坂さん! 私は何を犠牲にしても彼らの立場を守りますよ!!」


 弟子の奮起を見て、少し萎れていた老兵も活力を取り戻し始める。


『……おお! そうじゃの! ワシとしたことが、ちぃと弱気になり過ぎちょったわい! デモでもストライキでも、なんでもやっちゃろう!! 国協がなんぼのもんじゃ!!』

「さ、さすがは南雲。私の認めた男だ……。私も、余りの衝撃に正体を失くしてしまっていた。日本探索員協会は、逆神と小坂の立場を全力で死守する!! これは、上級監察官としての命令だ!! 異論のある者は後日、全てが片付いたのち私の責任を問うが良い!!」


 オペレーター室は「そうだ、そうだ!!」と盛り上がる。

 いつの間にか、逆神六駆と小坂莉子は日本の探索員の誇りとなっていたようであった。


「それで、逆神くんたちは今どうしているのですか?」

『……おお。いや、あののぉー。退職金代わりにっちゅうて、3番、2番、1番の懸賞金総取りするつもりらしくてのぉ。……さっきから、2番と殴り合いしよるで』


 久坂が55番に指示して、カメラを六駆に向ける。

 そこには、地形を破壊しながら笑顔で元気に戦う最強の男の姿が。


『ちなみにじゃけどのぉ。理事に対する侮辱発言も山ほどしちょるんじゃが。サーベイランスのデータって、もしかすると今、国協に傍受されちょらんか? さすがにのぉー。理事拉致られてなーんもしちょらんとは思えんのよのぉ』


 南雲は叫んだ。


「山根くぅん!!」

「うっす! ……あ! 本当だ! バッチリ全部見られるっす!! うわぁ! 保存されてるデータ、まるっと抜かれてる!!」



「……モルスァ」

「……モルスァ」



 南雲修一と五楼京華。

 2人は戦場から引き揚げて来たばかりなのに、新しい戦いへと誘われる。


 相手は国際探索員協会。

 その前に倒さなければならないのは、ストレス。


 同じ価値観を共有する者同士、彼らはきっと良い夫婦になるだろう。

 ただし、その前に戦う相手はストレス。

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