第491話 【最終決戦その1】1番、2番、戦場へ! ついに相対する逆神六駆!!

 1番アリナ・クロイツェルと2番バニング・ミンガイルはハナミズキの屋敷を出て、ヴァルガラの空を飛行していた。

 アリナの体からは絶えず煌気オーラが生み出されているため、煌気オーラ力場を周囲に構築する事で特別なスキルを使用せずとも空を飛ぶ程度の事は可能。


 さらに、彼女の発生させる煌気オーラ力場は範囲が広いため、バニングもその恩恵にあずかることができる。

 ただし、それはもうアリナ・クロイツェルが「今回の人生に見切りをつけた」からこそ実現している芸当であり、それを熟知しているバニングの心を曇らせてもいた。


「そのような顔をするな。バニングよ。妾は既に気持ちの整理をつけておるぞ。それなのに、そなたが悲しそうな顔をすることもあるまい」

「……はっ。申し訳ありません」


 アリナは「ふふっ」と柔らかく笑い、「それよりも! バニング! そなたの言っておった猛者についてだ!!」と年頃の娘のようにはしゃいで見せた。


「これはなかなかだな! 妾の地続きになっている60年ほどの記憶を遡っても、これほど強力で洗練されたスキル使いは覚えがないぞ!! 最期の戯れの相手としては、出来過ぎておるな!! あはははっ!」


 バニングは既に老練と呼ばれる年齢に片足を突っ込んでいる。

 それでも、この少女の笑顔を見ると色々な思いが巡るのは、もはやどうしようもない事だと自覚があった。


 大切な人間との決別は、どれほど年を重ねようとも慣れる類のものではない。


「これは、日本探索員協会の逆神六駆と言う少年の煌気オーラです。あの者は、とても未成年とは思えぬ巧みな煌気オーラ構築術と、極めて特異なスキルを扱う真の猛者。アリナ様を退屈させるようなことはないかと思います」

「ほほう。バニングがそこまで手放しで褒めるか。では、そなたよりも強いのだな?」


 バニングは断言する。


「はっ。私よりもはるかに優れた手練れです。これまで手合わせしたスキル使いの中でも、抜きんでて傑出しておりますれば……。今の時代の世界最高峰と呼んでも過言ではないかもしれません」


 アリナは屈託なく笑う。

 その様子は、例えば推しのアイドルのコンサートに出かける女子大生のようにも見えた。


「そうか! そうか!! それほどか!! 楽しみであるな! 妾はこの体質ゆえ、どうやっても勝ってしまうからな。せめて、勝利までの過程をより充実させたい。終の思い出にできると良いのだが。心が躍れば、転生の際の記憶の反芻も少しは楽になる」

「……はっ。参りましょう」


 バニングは察していた。

 これが、敬愛するアリナ・クロイツェルと交わす最後の会話になるであろうことを。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、ついにやっちまった逆神六駆。

 隣にいる久坂剣友が、珍しく後悔の念に苛まれていた。


「しもうたのぉ……。よもや、ワシが原因で六駆の。お主の立場を壊すことになるっちゃあ。なんちゅうて詫びりゃあええか」

「よしてくださいよ! 久坂さんがたまたま標的になっただけで、莉子や55番さんが狙われてても僕、やっちゃってましたから!! まあね、そろそろ頃合いかなって思ってたんですよ! 貯金もそこそこたまったし!」


「六駆の……。早まらんでくれぇ。ワシがどうにかして見せるけぇ。お主の力は、まだまだ日本探索員協会にとって必要じゃろうが。こんな老いぼれのためにそれを捨てるっちゅうことになると、ワシもやり切れん」

「久坂さんは優しいんだから! ……ところで! 3番さんとうるさいじいさんをぶっ飛ばしましたけど! これって懸賞金出ますよね!?」


「お、おお。アトミルカのシングルナンバー、特に上3つは国協が7万ドルじゃったかいのぉ。多額の懸賞をかけちょるで。ワシが責任持って回収しちゃろう。……あと、理事ぶっ飛ばした事に関しちゃあ、スカッとはしたが。懸賞金は出んで?」

「えっ!? まあでも! 太っ腹だなぁ!! じゃあ、これから2番さんと1番さんも倒すので! ……ええと。……莉子ー!! ちょっと助けてー!!」


 旦那に呼ばれると世界の果てからでも駆けつけるデキた女房の小坂莉子さん。

 小走りでやって来て、そのまま六駆に抱きついた。


「六駆くぅぅん!! 探索員辞めちゃうのぉ!?」

「ああ。うん。そんな流れになっちゃったねー」


「じゃあ、わたしも辞めるからね!! わたしたち、共犯者同盟だよ!? 忘れてないよね!?」

「ははっ。覚えてるって! 南雲さんに報告したら泣かれそうだなぁ! ところで莉子さんや。7万ドルが3人で日本円にするとだいたいいくらになるか分かる?」


「ほえ? んっとね……。2800万円と少しかなぁ?」

「さすが莉子だなぁ! すごい計算能力!! それだけあれば、今の貯金と合わせてたら隠居できそうな気がする!」


「わたしの貯金もあるよ!! あ。でも、お母さんが独りになっちゃう……」

「えっ? 莉子のお母さんも一緒に暮らせばいいじゃない! 僕、全然平気どころか大歓迎だよ?」


「ホント!? わぁー! よかったぁ!! じゃあ、最後にもうひと頑張りだねっ! がんばろー!! おー!!」

「おお……。こりゃあもう、完全にワシの責任じゃわい。ワシも辞表出すか。許してもらえるかいのぉ……」


 着々と作戦終了後の計画を立てていく最強カップルと老兵。

 その頃、六駆くんによってガチ目に攻撃された3番クリムト・ウェルスラーとフェルナンド・ハーパー理事はと言うと。


「お、おのれ……。どうして私はこのような愚物を咄嗟に守るために煌気オーラを使ってしまったのか……。2番様の武人魂が空気感染しましたかね……。何という情けない幕切れでしょうか」

「が、がふっ……! 許さんぞ、あの小僧……!! 絶対に許さん……!!」


 3番があろうことかハーパー理事を庇って戦闘不能に陥っており、その庇われたお排泄物は蔑称に相応しくクソみたいな事を考えていた。

 いずれにしても、両名とも命は拾ったものの当分動けそうにない。


 つまり、最終決戦の舞台が自然な形で整ったことになる。

 これもアリナ・クロイツェルを中心に世界が回り始めている前兆なのか。


「おっ! 来ましたね!」


 六駆が飛んでくる1番と2番のコンビを視認した。

 久坂の動きは早い。


「55の。ワシらは退避じゃ。これ以上この2人の足手まといになっちゃあ、ワシもいよいよ立つ瀬がないけぇのぉ。とりあえず、修一に連絡を取るけぇ! サーベイランス操作してくれぇ!!」

「了解した! 久坂剣友! ……逆神六駆! 私の生きる意味そのものである師を救ってくれたこと、感謝する!! この恩は絶対に忘れない!!」


「まったくもう! 師弟揃って大げさなんですから! 気にしないでいいですよ!!」

「六駆くん! わたしは一緒に戦うからね!! ダメって言われても拒否しますっ!!」


 六駆は「そんなこと言わないよ!」と言って、莉子の頭を撫でる。

 続けて「一緒に戦おう!」と親指を立てて歯を見せた。


 その絶妙にダサい仕草からはそこはかとないおっさん臭が漂い、莉子さんを夢中にさせた。

 もう、何やったってこの子は夢中になるのだから、こんなに説明しがいのない事柄もないと言うもの。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アリナとバニングが上空へ到達。

 まず、アトミルカナンバー2として、彼はアリナに願い出た。


「先んじて私に逆神と戦う機会を与えて頂けませんか。アリナ様の期待に応えるに足る男かどうか、是非品定めをなさるとよろしいかと」

「まったく。そなたは妾の事情を知ってから数十年。ずっと過保護なままであったな。まあ、良いわ。そなたの気の済むようにせよ」


 バニングは「ありがとうございます」と頭を下げて、地上へと降下した。


「どうも! 2番さん!! お久しぶりです!」

「ああ。久しいな。逆神六駆。此度は1番様より、名誉挽回の機会を頂いた。……手合わせ願おう!!」


「もちろんですとも! 2番さん!!」

「バニングだ。私はバニング・ミンガイル。もはやその数字には意味がない」


 六駆は「分かりました! バニングさん!!」と言って、煌気オーラを解放する。

 バニングも「ふっ。来るか、真の強者よ!」とそれに応じて、煌気オーラを最大まで高めた。


 アトミルカ最後の攻防戦が始まろうとしている。

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