第485話 【五楼隊その7】4番の自爆! ターゲットは逆神大吾!! 今度こそ死ぬのか!! 異世界・ゲレ

 敵を羽交い締めにしている間に、もう1人が貫通スキルで倒す。

 どこかの超名作漫画の主人公が初めて死んだシーンを彷彿とさせる方法で、五楼京華上級監察官は4番ロブ・ヘムリッツを討ち取った。


「あぁ。俺も加担したからアレだけどよぉ。もう完全に、悟空とラディッツとピッコロさんじゃねぇかよぉ。オリジナリティの欠片もねぅなぁ。くははっ」



 あっくん。せっかく珍しくボカしたのに。なんで言ってしまうん。



 五楼さんの魔貫光殺砲で貫かれた4番と逆神大吾。

 無事にお亡くなりになったのだろうか。


「う、うぐぐっ。何と言う……何という醜態でしょうか……。これでは、2番様に顔向けができません……」

「諦めろ。急所は外したが、ご自慢の鎧ごと腹を貫いたのだ。無理に動くと死ぬぞ」


 五楼上級監察官はいつの間にか冷静さを取り戻しており、敵の幹部は生け捕りの原則も思い出していたようだった。

 これにはエールを送っていた屋払&青山Aランク探索員コンビも一安心。


「いてぇぇぇぇぇ!! ちょっと、京華ちゅわん!! ひでぇじゃんか!! オレ、心臓をぶち抜かれそうになったんだけどぉ!? マジであぷねぇよ!!」



「……痴れ者。急所を的確に狙ったのに。やはり生きているか……」


 一応味方のはずの大吾の急所を狙った結果が4番生存だった事実が発覚した。



 ちなみに、逆神大吾が心臓ピンポイント刺突をいかにして回避したのかについてだが。

 まず、逆神流には多くの盾スキルが存在する。

 大吾もいくつか使えるが、ブランクと怠惰な生活のせいで、そのどれもが弱体化している。


 それが功を奏してしまう。


 咄嗟に出した『鏡反射盾ミラルシルド』だったが、盾どころかファンデーションについている小さい鏡サイズのものしか発現できなかった。

 そのため、とりあえず露わになっていた両の乳首に展開したのだ。


 結果、心臓への刺突を防ぐに至る。


 「そもそも隠すなら股間だろ!!」と言うツッコミを抱かれた諸君はとても紳士もしくは淑女としての才覚に溢れているので、絶対に逆神大吾に近づかない事をお勧めする。


「……阿久津。すまんがこちらに来てくれ。後始末が必要だ」

「あぁ? 人遣いが荒すぎんだろうがよぉ。こっちも煌気オーラ切れだぜぇ?」


 そう言いながらも、視線の先には和泉正春Sランク探索員。

 和泉は阿久津の気持ちをすぐに察して、弱々しくもハッキリと答えた。


「阿久津さん。小生ならばもう大丈夫でげふっ。どうぞ、その能力を活かせる場所へ向かわれてくださげふっ。あなたには、刑期の短縮と言う大事な目的がげふっ」

「あぁ、分かったよ。しかしよぉ、そんだけ血ぃ吐かれながら言われてもなぁ。『結晶外殻シルヴィスミガリア』はあんたの体に遠隔発現しっぱなしで行くからよぉ。まあ、精々養生するんだなぁ」


「まったく。あなたは優しい人でげふっ」

「くははっ。言ってろぃ。屋払さんと青山さんよぉ。後は任せるぜぇ」


「了解したんでよろしくぅ!! 何かあっても、オレが弾よけくらいにはなれるんで!!」

「私は周囲の警戒を怠りません! 阿久津さんもお気をつけて!!」


 阿久津は「ったくよぉ。こいつら、すっかり俺を仲間扱いじゃねぇか。調子狂うぜぇ」と悪態をつきながら、クレーターになった戦闘地点へと滑り降りて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 五楼は未だ『ソメイヨシノ』を納刀していなかった。

 その様子を見て「あぁ。まだなんか懸念があんのかぁ」と察する阿久津。


「上級監察官様よぉ。ほとんど煌気オーラの残ってねぇ俺を呼んで、どうしろってんだぁ?」

「すまんな。既に部隊の中で貴様が実質的なナンバー2になっているため、作戦行動の中核を担わせてしまっている」


「くははっ。犯罪者を副官扱いかよぉ。上級監察官様の懐はずいぶんとお深いようだなぁ」

「よし。では阿久津。残った煌気オーラを全て使い、あの痴れ者を亡き者にしろ」



「あんたが指さしてんのはよぉ。敵じゃなくて、親父にしか見えねぇんだがなぁ?」

「阿久津! 事態を理解しろ! 貴様の知性ならばできるはずだ!! ……あれはどちらも敵だ!!」



 五楼さんは現在、冷静さこそ取り戻したものの言語力にやや異常が発生しております。

 彼女は「敵の捕縛と煌気オーラの無力化を速やかに行うため、補助を頼む」と言いたかったようなのですが、大吾が視界に入ったことにより重大なエラーが起きた模様です。


「やれやれ。俺ぁ煌気オーラ枯渇までスキル使った記憶は探索員のルーキーだった頃まで遡らねぇと覚えがねぇぜぇ? 最低限の煌気オーラ保持は探索員の基本だろうがよぉ」

「ほう。自分を犯罪者だと言う割には、しっかりと真っ当な道を生きていた時の指導が身に付いているのだな」


「ちっ。あんたと言い合いしてると勝てる気がしねぇんだよなぁ」

「ふふっ。私は存外楽しいぞ。貴様はなかなかに見所がある。……よし! 敵を殺せ!!」



「……あんた。情緒が安定してなさ過ぎんだろうがよぉ。マジかよ。和泉さん完全復活させねぇと、まさか俺がこいつらのツッコミ独りでやらされんのかぁ?」

「大丈夫だ、安心しろ! 貴様の身柄は保証する! さあ、間違った事にして何か強力なスキルでやってしまえ!!」



 五楼さんは「貴様の結晶スキルは強力だ。それで4番を捕縛しろ。私は万一に備える」と言っております。


「まあ、とりあえず仕事はするけどよぉ。おう、親父ぃ。邪魔だからどいてくれぇ」

「あっくん! ちょっと待ってね! このコンピューターおじさんから今、服脱がせてるから!!」


「あぁ。ほら見ろよぉ。もうむちゃくちゃじゃねぇか。なんで敵のぶっ壊れたイドクロア装備を破壊して、中から白衣奪おうとしてんだぁ? 追いはぎのレベル高ぇなぁ、おい」


 その時、ピクリとも動かなかった4番の目が見開かれた。

 彼は最高のタイミングをずっと待っていたのだ。


 この場で最もアトミルカの脅威になり得る存在。

 その者だけは命を賭して道連れにする瞬間を。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 4番の纏っていたイドクロア鎧の破片から、2本の管が伸びる。

 片方は4番自身に。もう片方は逆神大吾の背中に突き刺さった。


「いてぇ!! 何すんだ、この野郎!!」

「ふ、ふふふっ。タダではやられませんよ。わたくしの使命はアトミルカに殉じる事。この場で不確定な存在である、逆神大吾ぉ! あなただけは消しておくのです!!」


「な、なんだと! この野郎!! 自爆する気かよ!! ちょ、なんか管から煌気オーラ入って来てんだけど!? 気持ちわりぃな!!」

「んっふっふ。これはわたくしの作った起爆煌気オーラ……。生物を内部から破裂させるものです。発動対象にわたくしも含めなければならないので、使いたくはありませんでしたけどね」


 大吾は叫ぶ。

 全裸で。極寒の異世界で。全裸で。


「オレには美人の嫁さんが待ってんだ! こんなところで死ねるか!! ってことで、京華ちゅわん! あっくぅぅぅん!! 助けてぇ! 助けてぇぇ!!」


 4番の命がけの決死行。

 それを眺めている五楼と阿久津。



 彼らはとても穏やかな表情をしていた。



「五楼さんよぉ。俺ぁ、捕縛の任務を放棄して後ろにいる3人に防御壁を構築してぇんだが? 許可もらえるかぁ?」

「良かろう。隊員の命が最優先だ。私はこの場で事態を見守る。どの程度の自爆になるかは知らんが、私にはまだ煌気オーラの余力があるからな。それくらい耐えられずして何が上級監察官か」


 阿久津は「あぁ。ご立派なことで」と言って、ついさっき離れた後方支援チームの元へと高速で移動する。


 続けて「あんたらよぉ。衝撃で舌ぁ噛まねぇように気を付けなぁ!」と言って、最後のスキルを発現した。


「おらぁぁぁ!! 『結晶金色膜カタッフィーギオ』!!!」


 キラキラと光る美しい防壁を構築した阿久津。

 時を同じくして、4番と逆神大吾が光に包まれる。


 安心してください。どうせ生きています。

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