第484話 【呉の老人会その2】完全無欠の逆神みつ子、異次元の無双! 異世界・ヴァルガラのもう何も残っていない砂漠

 異世界・ゴラスペでは、異世界が舞台であることに相応しい異次元の戦いが繰り広げられていた。


「19番さん……」

「申し訳ございませんでした。小官が5番様をたきつけたばかりに……。かくなる上は、地獄までご一緒いたします」


 5番パウロ・オリベイラ。

 ネガティブな彼が追い詰められると。



「何を言っているんですか。ボクはまだ負けていませんよ。中学生の頃に自作のポエムを書いたノートを教室の机の上に置き忘れた時だって、ボクは死ななかった。だったら、こんな状況だって乗り切れる」

「ご、5番様……? この流れで覚醒するのですか? 失礼ですが、既に時を逸しているかと」



 なんか追い詰められてポジティブになった5番。

 彼は想像力をさらに跳ね上げる。


「おばあさん。お年寄りを殺すのはボクの趣味ではないですけど。すみません。輝く未来のために死んでください。『ドラゴン・フォッシル』!! さらに! 『ユニコーン・フォッシル』!!」


 幻獣種の創造をこなし始める5番。

 彼は一度目にしたものしか創造できないが、逆に言えば見たことのあるものならば何だって具現化、再現化が可能。


 異世界来訪歴もある彼には、知識の量も充分に備わっている。

 実にチートな創造スキル。


「……とんでもない事になってきたぞ。せめて私にも煌気オーラが残っていれば! おばあ様の加勢に! ……いや、援護にくらいは回れると言うのに!!」

『南雲さん、すっかりリアクション要員っすね! 自分、昔の南雲さんが戻って来たみたいで嬉しいっす! コーヒー口に含まなくても!?』


「君ぃ! とんでもない大一番だぞ! この5番と言う男、特異なスキル使いという事もあるが、煌気オーラ総量も半場じゃない! 少なくとも、同じシングルの3番よりも強い!! いや、下手をすれば2番よりも……!!」


 南雲の見立ては正しかった。

 ポジティブに目覚めたパウロ・オリベイラは、無限の想像力を活かして力に変換する。


 3番の実力はとうに凌駕し、それは2番に迫る勢い。

 スキルの相性で言えばここまで極端な搦め手を扱う5番と、正統派を極めた2番は対照的であり、勝負の展開によっては本当に2番にすら勝ってしまう可能性を土壇場で発揮していた。


「あらぁー! 竜とか、この角の生えた白い馬はなんて言うんやったかいねぇ? ……オグリキャップ? とにかく、面白い事をする子やねぇ!!」


 みつ子は右手を大きく広げると、「シワだらけの手で恥ずかしいねぇ」と頬を染めながら、ほんの少しの煌気オーラを集める。

 続けて、それを核にすると極大スキルを発現した。


「さぁぁぁぁっ! 『餓狼隠滅ウルスポイル』!! 可愛い動物さんにゃあ悪いけどねぇ! あたしゃ、吸収スキルも得意なんよ!! はいはい! 出力上げるけぇね!! さぁぁぁぁぁっ!!!」


 まずドラゴンがみつ子の右手に吸い込まれていく。

 そこで一旦吸収は止まり、それを好機と見た5番は「こっちも煌気オーラの出力を上げますよ! おばあさん!!」と、具現化しているユニコーンを3倍のサイズに巨大化させた。


 もはや全長は15メートルを超えており、5番と19番が乗って来た戦闘機とほとんど同じサイズ。

 それを全て煌気オーラで維持しているのだから、もはや次元が違う。


「うにゃー!! ものっすごい風だにゃー!! 油断するとあたしたちまで吸い込まれるぞなー!!」

「芽衣さん! わたくしの体にくっ付いてよろしくてよ!!」

「みみみっ! 久しぶりの安全地帯! お尻に張り付くです!!」


 煌気オーラ切れの乙女たちは、近くの岩場に手をかけてどうにかみつ子の吸引スキルによって副次的に発生している強風を耐え忍ぶ。

 なお、クララと芽衣の探索員装備はスカートのため、それはもうとんでもない事になっていた。


 莉子さんがこの場にいなくて本当に良かったと言わざるを得ない。


「うにゃにゃー!! ちょっとこれ、ヤバいぞなー!!」

「わたくしは槍を地面に刺して耐えてますわ! クララさんも弓を支柱に!!」


「あたしの弓はとっくに飛んでったにゃー。ああ、これはもうダメかもしれんにゃー」

「みみみみっ!! 芽衣は死んでもお尻を離さないです!! 死ぬときはお尻と一緒です!!」


 さらに続く強風で、クララと小鳩の胸部もえらい事になっている。

 一応繰り返しておこう。大切な事である。



 莉子さんがこの場にいなくて心から良かったと思わざるを得ない。



「ぐぅぅぅ!! これはちょっとアレだ!! インフレとか言うレベルじゃないぞ!!」

『あ。南雲さん。サーベイランスが逝きそうです。短い間でしたが、お世話になりました』


「させるかぁぁぁぁ!! サーベイランス、一機作るのに何百万かかると思ってんだ!! 絶対に手を離さないぞ!! だって、これアレじゃん!! みつ子さんにも報酬をお支払いするの確定じゃん!! 私の監察官室の予算、絶対に全額なくなるよ!!」


 既にメンバー全員が一騎当千の猛者であり、日本探索員協会が誇る精鋭部隊となった南雲隊。

 そんな彼らが全員でリアクションしかしていない緊急事態。


 みつ子は「こりゃあいけんねぇ! せっかく助けに来たのに、六駆のお友達に体力使わせちょるよ、あたしゃ!!」と反省したのち、「一気に決着といこうかいね!!」と空いていた左手も5番に向けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 5番も同じく、この攻防で決着をつけなければ勝機はないと悟っていた。

 ゆえに、彼は煌気オーラをふり絞る。


「がぁぁっ!! 『ナイト・フォッシル・グランデ』!! これを融合させる!! 『ユニコーンナイト・フォッシル』!!」


 騎士を馬に乗せたら超強い。

 全世界共通の認識である。


 ユニコーンに跨る巨大な騎士は、みつ子目掛けて天を駆ける。


「白馬に乗った王子様かね! 意外とロンマチストじゃねぇ、あんたぁ!! じゃけど、まだまだ煌気オーラの練り方が緩いねぇ!! せっかく面白い構築術式なのに、惜しいよ!!」

「……!? ボクのスキルが……動かない!?」


 みつ子の左手からは斥力が発生していた。

 右手で吸引を。

 左手で反発を。


 常にその場にある煌気を変化させ続ける事で使用者から指揮系統ごと奪い取る。

 これが逆神みつ子の戦闘スタイル。


 『万物流転ばんぶつるてん』の構えである。


「なかなか見所がある子じゃったねぇ! やから、死ぬんじゃないよ!! 手加減はせんのがスキル使いのマナーじゃからね!! さぁぁぁぁぁっ!!」


 みつ子の右手で吸収し尽くしていた5番の煌気オーラが、巨大な球体となって老婆の前で渦を巻く。

 それを左手の斥力でみつ子は弾いた。


「喰らいんさい!! 逆神流亜種奥義!! 『反転餓狼咆哮アンチウルファング』!!!」

「がっ、ぐあぁぁっ!! ダメだ、ボクの力じゃどう足掻いても……!! せめて、19番さん……!! あなただけでもどうにか……!!」


 みつ子の極大スキルが迫る中、5番パウロ・オリベイラが選択したのは自衛ではなく、ずっと信頼を寄せてくれていた副官への感謝であった。


 轟音と共に、全てが塗りつぶされていく。

 光が走り終えたのち、粉塵が晴れた場所には何も残っていなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲はまず、隊員の安否確認を優先する。

 現場の情報収集や保存は二の次三の次。

 何を置いても若く将来のある乙女たちを第一に考える彼は、やはり優れた人格者である。


「みんな、無事か!!」


「うにゃー。ここが天国じゃなかったら、生きてますぞなー」

「クララさん……。あなた、天国に行く気だったんですのね……」

「みみみっ! この世で一番安全な場所はお尻です!!」


 南雲は安堵した。

 大きな怪我もなく、乙女たちの体は守られた。


「みつ子さん、ありがとうござました。老人会の皆さんも。あなた方が来て下さらなければ、間違いなく我々は命を落としておりまし……あの、みつ子さん?」


 みつ子は南雲に「ちぃと待ってね」と言ってから、砂漠の砂に埋もれた5番と19番を引っ張り出した。

 続けて、手のひらに煌気オーラを込める。


 「え゛っ? トドメ刺すんですか!?」と、南雲は戦慄したと言う。

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